因果
ゴードンは王城の地下から抜け出し、その抜け出た場所は、ちょうど森の入口に当たる場所だった。
周りを見渡すと夜の闇に紛れるように、森の影からはゴードンを取り囲む人間の気配が立ち並ぶ。
「ゴードン・レイニー……」
一人の男が姿を表した。
「長。お迎えに来てくださったのですか? それにしては大人数ですね」
長も含め影に潜めるワホロの者達が、武器を装備している事にゴードンは気付いていた。
「お前が裏切り者か」
「何の事でしょう?」
「しらばっくれるな! 私を馬鹿にしおって! くそっ! 殺してやる!」
「はは。証拠は無いのに、疑わしきは罰せよ……か」
裏切り者は否定しないが、長の無能ぶりにゴードンはうんざりした。
よくも、まあ、こんな男が長として、よく務まったものだと思ったが、それだけワホロの組織は腐っている証拠。
「でも、まあ丁度良かったです」
影に潜める者達が次々に現れ、装備している武器を手に取りながらゴードンに矛先を向ける。
雲の間から月の光が差し込みゴードンの姿が浮かび上がった。
「僕もね、皆さんを殺そうと思ってたんですよ」
ゴードンは、この状況を楽しむように、歪んだ笑みを浮かべていた。
そんなゴードンを目の当たりにした長は、何故か底知れぬ恐怖を覚えた。
だが、目の前の若造に恐怖心を抱いたなど、認めたくない。
「こ、この、クソッタレがああああ!!」
長が襲いかかるのを皮切りに、他の者達もゴードンに襲いかかった。
「ぐああ!」
「ひいい!」
一人、また一人と倒れていく。
魔術一つで的確に急所を付き、ゴードンは彼等を確実に絶命させた。
その様子を眺めているだけの長は、一撃をゴードンに軽く避けられ、恐怖から全く動けなくなっていた。
長は過去にゴードンと手合わせをした事を思い出していた。
『長には、かないません。さすがです』
そう言いながら、男のくせに毎回勝負に負けても悔しがる事もなくヘラヘラとしているゴードンを内心小馬鹿にしていた。
ゴードンという男は剣はからきしで、戦いには不向きだったはず。
たが目の前で、男達に向けられる剣を全て軽々と避けながら、魔術で急所を確実に突くゴードンの姿は、恐ろしい程、他の誰よりも先頭技術が秀でていた。
ヘラヘラとしながら、人の事を内心小馬鹿にしていたのは、ゴードンのほうだったかと思うと、長は腸が煮えくりかえる程の怒りがこみ上げた。
「クソ! クソ! クソ! クソ! ゴードン!」
戦いの合間、長と目が合うとゴードンは蔑んだ目で笑みを見せる。
「クソがああああ!!」
プライドが高く、人を見下しては優越感に浸る男の怒りを刺激するなど、ゴードンにとっては容易い事。
だこらこそ扱いやすく、いいように操りやすかったが、もう用はない。
怒り任せに己より腕のたつ敵に剣を振り上げ、正面から襲いかかれば、どうなるか。
グサ!
「前が、がら空き」
氷の刃を繰り出したゴードンによって、長は喉を貫かれた。
「おのれーー! 謀反者が!!」
長を殺したことが刺激となり、他の者達の怒りに火がついた。
謀反者はお前達だろうとゴードンは内心毒づいたが、思ったよりも人数が多い。
戦いが、あまり得意ではないのは本当で、この人数を相手にするのは、流石に不味い状況である。
怒りを買って冷静さを失わせようと思ったのだが、あまり良くなかったかもしれない。
一気に襲いかかってきた輩を数人返り討ちにはしたが、数打てば当たる。
ギリギリで剣を交わすにも数人が限度で、数の多い攻撃にゴードンはいくつも攻撃を受けてしまった。
魔力も多いわけではない。更に傷を受けた右手が使い物にならなくなってしまった。だが、敵はまだまだいる。
もう、ここまでかな。
諦めなかばに最後の魔術を唱えようとしたとき
「こそこそ、人の私生活の覗きばかりしてきたから戦い方を知らないのだよ、ゴードン・レイニー。この覗き魔の変態が」
言葉とは裏腹に、まるで舞い降りた天使のように、美しい男の姿が現れた。
「僕は無駄な殺生を、する気はないんだが、刃向かってくるなら容赦はしない」
「ラド、クリフ、様?」
「ラ、ラドクリフだと? あの大魔法士が、な、なぜ?」
伝説の大魔法士の名前に男達の勢いは怯んだ。
「う、うああーーー!」
怯まずに、やけになった数人の男が、勢いに載ってラドクリフに襲いかかったが、
ヒュン!
その男達が剣を降り下ろす前に、ラドクリフの手によって絶命した。
誰もラドクリフが繰り出した魔術に反応できなかった。
月の光に照らされて輝くように美しい蒼白い髪を靡かせながら佇むラドクリフの姿は、この世のものではない美しさだった。
その姿に圧倒され、剣を構えていた男達は見とれるように口を開け呆けている。
「さあ、来るかい?」
圧倒的な英雄の大魔法士という相手に、敵わないと思った恐怖心。
勢いが竦んだ男達は、命惜しさに散り散りに逃げていった。
男達が誰も居なくなるのを見届けた後、ラドクリフは地に膝をついた。
「ラドクリフ様……」
ゴードンがラドクリフの元へ駆け寄ると、息を荒げ苦し気なラドクリフの姿があった。
「いい年して柄にもなく無理するものじゃないな。ちっ!」
ラドクリフはローズの為に、時の流れを止めるという膨大な魔力を必要とする魔術に力を消耗していた為、先程の一撃が限界だった。
「フン、虫けらどもめ。僕の華麗なる大魔法士の経歴に怯んで奴等が逃げて助かったな」
「僕の事など捨て置いてくれれば良かったのに……」
ラドクリフはギロリとゴードンを睨んだ。
「せいぜい苦しんで生きろ」
重い身体を引きずりながら、その場を後にしながらラドクリフはゴードンに、そう言い捨てていった。
かつて自分がラドクリフに放った言葉が、ゴードンの中で強くこだまする。
「は、はははは……」
その場に残されたゴードンは、乾いた笑いしか出なかった。




