いってらっしゃい
東部第四支局へ戻ってから、リンはしばらく地上勤務を命じられた。
右脚の固定具は外れたものの、箒へ跨がる許可はまだ下りていない。
受付、仕分け、受領記録の整理。
飛べないあいだにも、郵便局の仕事は幾らでもあった。
その日の夕方、リンは集荷棚に並んだ封筒を、一通ずつ確認していた。
通常書留。
速達。
国際便。
宛先不明のため照会が必要なもの。
管理番号を読み、封印を確かめ、次の輸送袋へ分けていく。
一通の封筒を手に取ったところで、リンの指が止まった。
差出人欄に、見覚えのある名前があった。
オルト・ハルマン。
宛先は、レオン・ハルマン遺産管理公証所。
封筒は新しい。
折れも汚れもなく、受付印も今日の日付だった。
リンは裏面を確認した。
封は閉じられている。
中に何が書かれているのかは分からない。
オルトが兄の手紙を読んだのか。
読まずに返したのか。
遺産を受け取るのか、放棄するのか。
それはリンの知ることではなかった。
ただ、彼は自分で次の手紙を書いた。
リンは封筒へ必要な検印を押し、公証所方面の輸送袋へ収めた。
ほかの郵便物と同じように。
特別扱いはしない。
けれど袋の口を閉じる前に、ほんの一度だけ、封筒の宛名を見た。
「行ってらっしゃい」
小さく呟き、輸送袋の封を締める。
明日の朝、この袋は東部幹線へ乗る。
リンが飛べなくても、別の郵便魔女が運ぶ。
その先では、また別の誰かが受け取り、次の場所へ渡していく。
一通の手紙は、一人だけで届けるものではない。
窓の外では、夕方最後の郵便魔女が発着場を離れていった。
箒の列が風路へ入り、赤い空の向こうへ小さくなっていく。
リンはそれを見送り、次の封筒へ手を伸ばした。




