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光の祭りの前に

夏が来た。


水路の水かさが増し、街の人々が薄着になった。神殿の花壇は白と黄の花が盛りを迎え、薬草園のソルテは今が一番忙しいと言った。光芒妖精たちも活発で、尖塔の周りを春よりずっと賑やかに飛び交っていた。


光の祭りは、今年は十日後だった。


去年の祭りから、もう一年が経つ。アルテはそのことを、ある朝ふと思った。一年前の自分と今の自分は、何が変わって何が変わっていないだろう。しばらく考えて、変わったことの方がずっと多いと気づいた。


◆ ◆ ◆

祭りの準備は、街全体で少しずつ始まっていた。


水路沿いの商店が灯籠を出し始め、橋に花飾りが結ばれる。神殿では祈祷文の見直しと、尖塔の灯りの点検があった。アルテは今年、見習いではなく正式に祈祷の一端を担うことになっていた。セレーヌから話があったのは、一月前のことだった。


「去年と同じようにわたしの隣に立つのではなく」セレーヌはその時、静かに言った。「今年は、あなた自身の言葉で、光に感謝を伝えてほしい」


「わたし自身の言葉で」


「あなたが一年かけて見てきたこと、出会ってきた人のことを、光に届けるように。それが——今年のあなたにしかできない祈祷だと思うから」


その言葉は、アルテの中で一月間ずっと温かく残っていた。何を言うか、まだ決まっていなかった。けれど、何を伝えたいかは、少しずつ分かってきていた。


◆ ◆ ◆

祭りの五日前、ミラが工房から帰ってくるなり言った。


「師匠が、今年の祭りは工房を休みにするって言った」


「珍しいね」


「そう。一年に一度だって。——師匠も、祭りを見るんだって」ミラは少し嬉しそうに言った。「なんか、師匠にも普通の時間があるんだなって思って」


「師匠も街の人だもんね」


「うん。——今年の祭り、ナヤも来るかな」


「誘ってみようか」アルテは言った。「去年は広場の端にいたから、今年は一緒に見たい」


「賛成」ミラは頷いた。「ソルテにも声かけよう。ソルテって、去年は薬草園にいたって言ってたから」


「そうだったんだ」


「祭りの夜は精霊の気配が乱れるから、落ち着かないって。——でも、今年は慣れてきたから、一緒にいられると思うって、昨日言ってた」


アルテはそれを聞いて、去年と今年の違いをまた少し感じた。ソルテが祭りに来られると言っている。ナヤが街に根を張り始めている。ミラの師匠が祭りを見る。全部が少しずつ、動いていた。


◆ ◆ ◆

祭りの三日前、ロアンが写本室からアルテを呼んだ。


「何ですか」


「返事が来た」ロアンは机の上の封書を示した。「弟から」


アルテは少し驚いた。「早いですね」


「急いで書いたのだろう」ロアンは封書を開け、一枚の紙を取り出した。前回よりも短かった。アルテに差し出す。


そこには一行だけ書いてあった。


——よかった。


アルテはその二文字を見て、しばらく何も言えなかった。


「よかった、だけですか」


「だけだ」ロアンは短く言った。「——十分だ」


その「十分だ」は、これまでアルテが聞いたロアンの言葉の中で、一番柔らかかった。アルテは頷いた。


「先生」アルテはゆっくりと言った。「いつか、弟さんに会いに行きますか」


ロアンはしばらく黙った。窓の外の夏の光を、じっと見ていた。


「……考えている」


「それはいい答えだと思います」


「考えているだけで、いい答えなのか」


「考えていなかった人が、考えるようになったんですから」


ロアンはその言葉を聞いて、少し間を置いた。それから、かすかに目を細めた。アルテにはもうそれが笑いに近い表情だと分かっていた。


◆ ◆ ◆

祭りの前日、ナヤを誘いに難民区へ行った。


ナヤは小屋の前で根守りに話しかけていた——土に手を当てて、何かをぼそぼそと言っている。アルテが近づくと気づいて、手を離した。


「見てた?」


「見てた。上手になったね」


「別に」ナヤは言ったが、手を膝で拭う仕草が少し照れているように見えた。「何の用?」


「明日、祭りを一緒に見ない? 今年はミラとソルテも一緒に」


ナヤはしばらく考えた。「広場に、いっぱい人が来る」


「来る。でも、去年より一緒にいる人が増えた」


「……エランはいない」


「うん。でも夏の終わりに帰ってくる」


ナヤはまた少し黙った。それからぽつりと言った。「光芒妖精、祭りの夜はどうなる?」


「いっぱい集まる。尖塔だけじゃなくて、街全体に」


「……見たい」ナヤは素っ気なく言った。「行く」


アルテは笑った。ナヤは笑わなかったが、その目が少し動いた。


前日の夜、アルテは暖炉の前に座り、明日の祈祷の言葉を考えた。手記を開いて、この一年で書いてきたことをゆっくりとめくった。


根域のこと。セレーヌの告白。ロアンの森。エランのセイ。ナヤの炉端妖精。ミラの師匠。カトの「なった」。シロへの名づけ。——全部が、この一年に起きたことだった。


言葉は、まだ決まっていなかった。でも、伝えたいことは分かっていた。


「明日、初めて自分の言葉で光に祈る。何を言えばいいか、今夜もまだ決まっていない。でも——伝えたいことなら、ある。この一年で出会った人たちのこと。それぞれが、自分の場所を見つけていったこと。光はそのそばにずっとあって、ただ見ていてくれたということ。それを、ちゃんと伝えたい」


炉端妖精がいつものように現れた。今夜の妖精は、いつもより少し大きく揺れていた。祭りの前夜の高揚か、それともアルテの気持ちに呼応しているのか。


「おやすみ」アルテは囁いた。「——明日、ちゃんとやれるかな」


妖精はひとめぐりして、それからもう一度だけ大きく揺れた。アルテはそれを肯定と受け取って、手記を閉じた。夏の夜は短く、窓の外に蛍のような光がいくつか漂っていた。葉陰妖精か、それとも光芒妖精の小さいものか——どちらでもよかった。ただ、そこにいた。

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