冬の薬草園
冬の薬草園は、夏よりも正直だった。
枯れるものは枯れ、根だけで生きているものはただじっとしている。葉も花も飾りがなく、土と茎と根だけが残る。ソルテはその正直な景色が好きだと、以前言っていた。何があって何がないか、冬が一番よく分かる、と。
アルテは今日、課業の合間に薬草園の手伝いをしていた。ソルテに頼まれたわけではなく、自分から申し出た。根域行きのことを話したかったのと、単純に、土に触れていたかったのと、両方の理由があった。
「これは残す?」アルテは枯れた茎を手に取りながら尋ねた。
「残す。根が生きてる」ソルテは土の表面に手を当てたまま答えた。「切ったら春に芽が出ない」
「どうして分かるの、根が生きてるって」
「温かい。少しだけ」
アルテは枯れた茎の根元に、そっと指を当ててみた。冷たい土の中に、かすかに何か——言われてみれば、温かいような気もする。言われなければ気づかなかった程度のものだったが、確かにそこに何かがあった。
「精霊と似てるね」アルテは言った。「見えなくても、感じると分かる」
「同じかもしれない」ソルテは短く答えた。「植物も、精霊も、生きてる。生きてるものは、何かを出してる」
◆ ◆ ◆
手を動かしながら、アルテは春の根域行きのことをソルテに話した。白い夢のこと、セレーヌが同行すること、もっと奥へ行くこと。
ソルテは黙って聞いていた。途中で手を止めることもなく、ただ土に触れながら聞いていた。
話し終えると、しばらく薬草園に風の音だけが流れた。
「ソルテは、どう思う?」アルテは尋ねた。
「怖い、とは思わない?」ソルテは問い返した。
「怖い。でも、行かないという選択は、もうない気がしてる」
ソルテはそれを聞いて、ゆっくりと頷いた。「アルテが行くなら、わたしは——ここで待つ」
「ここで?」
「精霊の気配を、ここから読んでる。根域の方向の気配が、どう変わるか——それを見てる。アルテが行く間、ここから繋がってる」
アルテはその言葉の意味をゆっくりと受け取った。一緒に行くことだけが、そばにいることではない。ソルテはここから、自分のやり方でついてくる。
「ありがとう、ソルテ」
「ありがとうは、いい」ソルテは素っ気なく言った。それからしばらくして、付け加えた。「——ナヤにも、話してあげて。あの子は、気配で分かってる。何か大きいことが動いてるって」
「ナヤが?」
「このあいだ来た時、根域の方向をずっと見てた。何も言わなかったけど」
アルテは少し驚いた。ナヤはまだ精霊の名前を覚えたばかりで、方角の気配まで読めるとは思っていなかった。
「そんなことまで分かるんだ」
「生まれつきが強い子は、そういう」ソルテは枯れ株の根元の土を少し掘り返しながら言った。「教えてないのに知ってることがある。アルテも、最初はそうだったでしょ」
「……そうだったかな」
「そうだった。精霊の声が聞こえる前から、気配を感じてた。本人が気づいてないだけで」
それは言われてみると、確かにそうだったかもしれない。幼い頃から、誰かに見られているような、何かがそこにいるような感覚は、ずっとあった。
◆ ◆ ◆
午後、ナヤが来た。今日は珍しく、少し早い時間だった。正門をくぐる時の迷いが、先週よりも少し短くなっていた。アルテはそれを中庭から見ていて、小さく嬉しくなった。
「今日は早いね」
「エダばあさんが、昼間に来いって言った。夕方は冷えるから、って」
「エダさん、優しいね」
「うるさい」ナヤは言ったが、その声に棘はなかった。
今日はソルテも一緒に薬草園に座り、三人で根守りの話をした。土の中に静かにいる精霊たちのこと、根と根守りの関係のこと、なぜ植物が枯れても根守りは残るのか、ということ。ナヤは黙って聞きながら、時折、土の方に視線を向けた。
「根守りって」ナヤがふと言った。「名前、呼べる?」
「呼べる」ソルテが答えた。「でも、すぐは来ない。根守りは、急がない」
「どのくらいかかる?」
「人による。早い人は、すぐ。遅い人は、何度も呼んでやっと」
ナヤは少し考えてから、土に向かってぼそりと言った。「根守り」
三人とも、しばらく土を見た。何も起きなかった。
「来ない」ナヤが言った。
「来ない」ソルテが繰り返した。「でも、聞こえてる。さっき言ったでしょ」
「聞こえてる証拠がない」
「証拠はない。でも——」ソルテは土に手を当てた。「今、少し動いた気がする。わたしには」
ナヤはソルテの手元を見た。それからまた土を見た。じっと見た。
「……さっきより、温かい気がする」ナヤはぼそりと言った。「土が」
ソルテが小さく頷いた。「それが、返事」
ナヤはしばらく黙って、それから「そうか」とだけ言った。短い言葉だったが、その声の中に、何か納得したような重みがあった。
◆ ◆ ◆
ナヤが帰る前に、アルテは少し迷ってから、春に根域へ行くことを話した。詳しくはなく、ただ「また根域へ行く予定がある」ということだけを。
ナヤは少しの間、アルテを見た。それから、根域の方向——北東——に視線を向けた。ソルテの言った通りだった。ナヤは方角を知っていた。
「あっちに、何かいる」ナヤは静かに言った。「ずっと前から、気になってた。大きくて、遠くて——でも、こっちを向いてる気がした」
「そう感じてたんだね」
「行って、来れる?」
その問い方が、直接的で、子供らしくて、アルテは少し胸を打たれた。
「来れる。必ず帰ってくる」
ナヤはそれを聞いて、頷いた。「じゃあ、帰ってきたら教えて。あっちに何がいたか」
「教える。約束する」
ナヤは満足したように、また正門の方へ歩き始めた。その背中に、アルテは声をかけた。
「ナヤ。根守り、また呼んでみて。来ないかもしれないけど」
ナヤは振り返らずに言った。「もう呼んだ。帰り道で、また呼う」
アルテは笑った。ソルテもアルテの隣で、ほんのわずかだけ口元を動かした。
夜、手記を開いたアルテは、今日のことをゆっくりと書いた。ソルテの「ここから繋がってる」という言葉。ナヤが根域の方向を知っていたこと。根守りを呼んで、土が少し温かくなったこと。
「冬の薬草園で、今日はいろんなことを教えてもらった。枯れた茎の根元に手を当てると、かすかに温かい——それが根が生きている証拠だとソルテは言う。生きているものは何かを出している、とも。
精霊も、人も、そうかもしれない。目に見えなくても、何かを出している。それを受け取れるかどうかは、触れようとするかどうかで変わる。冬の薬草園は、そういうことを正直に教えてくれる場所だった」
炉端妖精がいつものように現れた。アルテは光の珠を灯しながら囁いた。
「おやすみ。——今日ナヤが根守りを呼んだよ。あなたも、聞こえてた?」
妖精はひとめぐりして、少しだけ大きく揺れた。アルテはそれを肯定と受け取って、手記を閉じた。冬の夜は長く、でも暖かかった。




