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各国の使節たち

春が深まるにつれ、神殿への来訪者が増えた。


光誕祭で「成人の聖女の光が運河まで届いた」という話が、外に漏れたのだろうとエランは言った。光明派の巡礼者、各国の商人、旅の神官——様々な立場の人間が、神殿の門を訪れるようになった。アルテに会いたいと言う者も、その中に混じっていた。


セレーヌ大神官は、すべての面会を許可したわけではなかった。


「会う必要のある人と、会わなくていい人を、わたしが判断します」とセレーヌ大神官は言った。「あなたはすべてに対応する必要はない」


「どうやって判断するんですか」とアルテは聞いた。


「長年の勘、です」とセレーヌ大神官は、少し笑って言った。「七十年近く、人を見てきました。だいたいわかります」


◆ ◆ ◆

最初にアルテが会ったのは、ガルデン国からの使節だった。


精霊教を国教とする国の代表者で、若い女性の神官だった。名をリナといった。二十代半ばで、緊張した顔で神殿に来た。


「光の聖女に、お会いできて光栄です」とリナは言った。


「わたしもお会いできて」とアルテは言った。「ガルデン国のことを、少し知りたいです」


リナは、少し驚いた顔をした。聞かれるより先に聞く聖女は、想定外だったらしかった。


「……どんなことを、知りたいですか」


「精霊教の国として、今の戦争の中で、どんな状況ですか」とアルテは聞いた。「率直に教えてもらえると、嬉しいです」


リナは、しばらく考えてから、話してくれた。


◆ ◆ ◆

ガルデン国は、精霊教の旗手として一神教連合と戦っているが、規模の差から劣勢だった。精霊使いが少数ながらおり、彼らが戦線を支えているが、疲弊が限界に近い。そして——光の聖女の存在が、精霊教圏の民の間で「希望の象徴」として語られるようになっている。


「来てほしい、という意味で言っているわけではありません」とリナは言った。「ただ——あなたの存在が、遠くにいる人たちに、力を与えているということを、伝えたかった」


アルテは、その言葉を受け取った。


ランテ王国のガレンも、似たことを言っていた。あなたの存在が希望として語られている、と。今度は精霊教の側から、同じことを聞いた。


「わたしは、ここにいます」とアルテは言った。「行くことはできません。でも——光は、どこまでも届くかもしれない」


リナは、その言葉を聞いて、目を潤ませた。


◆ ◆ ◆

次の日、別の来訪者があった。


今度は、一神教正統派の神官だった。壮年の男性で、名をダウルといった。正統派の中でも穏健派に属するらしく、ガレンとは別の系統だが、戦争を早く終わらせたいという点では一致しているとエランが事前に教えてくれた。


ダウルは、アルテを見て、少し躊躇するような顔をした。


「精霊使いに、会うのは初めてです」とダウルは言った。


「怖いですか」とアルテは聞いた。


「……少し」と正直に言った。「正統派の教えでは、精霊は神の領域を侵すものとされています。でも——今日、お会いして」


「今日会って、どう思いましたか」


ダウルは、少し考えた。


「まだ、わかりません」と言った。「でも——あなたは、怖い人ではないと思いました」


アルテは、少し笑った。


「怖くないですよ」とアルテは言った。「ただのアルテです」


◆ ◆ ◆

その日の夕方、エランがアルテの部屋を訪ねてきた。珍しかった。


「今日の二人の使節について、報告します」とエランは言った。


「報告?」


「ガルデン国のリナ、それからダウル神官について、わたしなりに調べました」とエランは言った。「リナは、ガルデン国の精霊教神殿の中でも、和平派に属しています。戦争の継続より、精霊教の保全を優先したいと考えている。ダウルは、正統派の穏健派で、浄化派の急進主義に反対している人物です」


「つまり、二人とも——戦争を終わらせたい人たち?」


「方向性が違いますが、その点では共通しています」とエランは言った。「セレーヌ様がこの二人をあなたに会わせたのは——意図があると思います」


「意図?」


「対立する宗派の、それぞれの和平派を——あなたに会わせた」エランは、少し考えながら言った。「あなたが、どちらの側にも見えないことを、両方に示したかったのかもしれません」


◆ ◆ ◆

アルテは、その言葉を、ゆっくりと考えた。


ガルデン国の精霊教の使節と、正統派の神官。対立する側の人間が、同じ日にアルテに会いに来た。そして両方に、アルテは同じように話した。「ただのアルテです」と。


「セレーヌ様は、すごいね」とアルテは言った。


「七十年の勘、と言っていましたね」とエランは言った。「でも——あなたが、どちらに対しても同じように話せたことも、大事だったと思います」


「同じように話せたのは」とアルテは言った。「どちらも、ただの人間だったから」


エランは、少し目を細めた。


「それが」とエランは言った。「あなたの強さです」


◆ ◆ ◆

翌週、さらに二人の来訪者があった。


一人は、ノルダン連邦の商人組合の代表。もう一人は、仙人教の老師だった。


商人の方は、実務的な話をしたかったようだった。「聖女の神殿と取引できないか」という打診だったが、アルテは「神殿の運営についてはセレーヌ大神官とお話しください」と、落ち着いて答えた。


仙人教の老師は、面白い人物だった。


白髪の、小柄な老人だった。名はソウという。仙人教の修行者たちの中でも、特に長く生きているらしかった。


「精霊使いに、会うのは珍しい」とソウは言った。「仙道では、精霊に頼ることを弱さとするが——あなたを見ると、そう単純ではないと思う」


「弱さだと思いますか、わたしは」とアルテは聞いた。


「いいえ」とソウは言った。「精霊に頼っているのではなく、精霊と並んでいる。それは——仙道で目指すものとは違うが、別の道として、認めます」


アルテは、その言葉を、少し意外に思いながら受け取った。


◆ ◆ ◆

四人の来訪者の話を、その夜、ミラにした。


ミラは、真剣に聞いていた。


「精霊教と正統派と商人と仙人教、一週間でそんなにいろんな人が来るの」


「うん」


「アルテ、疲れない?」


「少し疲れる」とアルテは正直に言った。「でも——来てくれること自体は、嫌じゃない。ただのアルテとして話せれば、大丈夫」


「ただのアルテとして話せれば」ミラは繰り返した。「そこが変わらないうちは、大丈夫だね」


「変わらないよ」とアルテは言った。「変わったら、ミラが教えて」


「教える」とミラは言った。「絶対に教える」


◆ ◆ ◆

夜、アルテは紙に書いた。


一週間で、四人の来訪者があった。精霊教、正統派、商人、仙人教。みんな、違う立場で来た。でも、全員に同じように話した。「ただのアルテです」と。エランが「それがあなたの強さ」と言ってくれた。ミラが「変わったら教える」と言ってくれた。疲れたけど、大丈夫だった。これからも、こういうことが増えるかもしれない。でも——ただのアルテでいられる限り、大丈夫だと思う。


暖炉の炎が揺れていた。


「今週も、ありがとう」とアルテは言った。精霊たちに、炉端妖精に。


「おやすみ」


炎がふわりと揺れた。精霊たちが、静かに光った。


水都の夜が深くなった。神殿の門は閉まっていた。でも、明日また、誰かが来るかもしれない。それでも、朝になればいつもの礼拝があって、ミラがいて、この炎がある。


それだけで、十分だった。

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