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夏の大祭、三度目

三度目の夏の大祭は、去年より人が多かった。


港湾区に入る船が増え、市場区には去年まで見なかった国の商人が並んだ。ゲルアラント語の他に、三つか四つの言語が通りに混ざっていた。街の人々は、その変化を、概ね温かく受け入れていた。活気があることは、この街の人間には、喜ばしいことだった。


アルテは、ミラとエランとソルテの四人で、今年の大祭に出かけた。


去年と同じ、祈祷式の後の自由時間。でも今年は、ソルテも一緒だった。ソルテは去年も誘ったが、「人が多すぎて気配がうるさい」と断っていた。今年は「少しだけ」という条件付きで来てくれた。


◆ ◆ ◆

幹線運河沿いに出ると、すでに人が溢れていた。


ソルテが、少しだけ顔をしかめた。


「大丈夫?」とアルテは聞いた。


「……なんとか」とソルテは言った。「いろんな気配が混ざっていて、少し酔う感じがします。でも、歩いていれば慣れると思います」


「無理しなくていいよ」


「来たかったので」とソルテは言った。「三人が楽しそうにしているのを、一度ちゃんと見たかった」


ミラが、少し目を輝かせた。


「ソルテ、かわいいこと言う」


ソルテは、少し首を傾けた。かわいいことを言ったつもりはない、という顔だった。


エランが「行きましょう」と言って、先を歩き始めた。


◆ ◆ ◆

水上パレードを橋の上から見た。


去年よりも、船の数が多かった。音楽隊の船が三艘、花を積んだ船が五艘、神殿の紋章を掲げた船が一艘。それに混じって、今年は外国の商人団体が出した、見慣れない装飾の船も一艘あった。


「あれ、どこの船?」とミラが言った。


エランが、少し目を細めて見た。


「ノルダン連邦の商船組合の旗です」と言った。「夏の大祭に、今年初めて参加したと聞きました」


「ノルダン……」とアルテは繰り返した。七か国のひとつだった。


「商業目的です」とエランは言った。「政治的な意図はないと思います。ただ——」エランは少し声を落とした。「こういう形で、外が来るようになった、ということです」


アルテは、その船を見た。きれいな船だった。乗っている商人たちは、笑顔で手を振っていた。悪意は、どこにも見えなかった。


でも、エランの言う「こういう形で」という言葉の意味は、わかった。


◆ ◆ ◆

昼過ぎ、ソルテが「少し疲れた」と言ったので、四人は運河沿いのベンチに落ち着いた。


ソルテは、ベンチの端に座って、静かに目を閉じていた。


「ソルテ、大丈夫?」とミラが聞いた。


「はい」とソルテは言った。「目を閉じると、少し楽です。気配の整理ができる」


「気配の整理?」


「たくさんの人がいると、たくさんの気配が来るので。目を閉じて、一つずつ、わけていく感じです」


ミラが「大変だね」と言った。ソルテは「慣れています」と言った。


アルテは、ソルテのそばで、精霊たちを見た。今日は、精霊たちも少し、普段と違う動き方をしていた。人が多い分、気配が混ざって、少し落ち着かない感じがしているのかもしれなかった。


「精霊も、賑やかな場所は少し苦手みたい」とアルテは言った。


「わたしと同じですね」とソルテは言った。目を閉じたまま、でも少し、口の端が上がった。


◆ ◆ ◆

夕方になって、ソルテは「先に戻ります」と言った。


「一人で大丈夫?」


「はい。神殿の方が、静かで楽なので」とソルテは言った。「三人は、もう少しいてください。篝火が点くところ、見てきてください」


「後で話を聞かせて」とミラが言った。


「はい」とソルテは言って、人混みをすり抜けて、静かに帰っていった。


三人になった。


去年と同じ——いや、去年は最初から三人だった。でも、今年は四人で来て、三人になった。それは、去年とは少し違う三人だった。


◆ ◆ ◆

篝火が点き始めた頃、アルテは対岸を何となく見ていた。


今年は、フレンツに会えないかもしれないと思っていた。王と知れた今、簡単に「お忍び」で来ることは難しいだろうから。第二十五話でフレンツ自身が「来られるようにします」と言っていたのも、去年の「約束します」より、少し慎重な言い方だった。


だから、対岸の人混みに、茶色の上着を探したりはしなかった。


ただ、篝火の光を見ていた。


「アルテ」とミラが言った。「今年は、フレンツさんはいないの?」


「わからない」とアルテは言った。「王様として来るのは、来年の光誕祭からって言ってたから。今年の大祭は——来られたら来る、くらいだと思う」


「寂しくない?」


アルテは、少し考えた。


「寂しいけど」とアルテは言った。「この篝火を見ていると、来年の光誕祭が楽しみにもなる」


◆ ◆ ◆

その時、エランが、ふと言った。


「あそこに」


アルテとミラが、エランの視線を追った。


対岸の少し離れた場所に、一人の人物が立っていた。篝火から少し外れた、人混みの端。質素な上着で、特に目立つ装いではなかった。でも——姿勢が、どこかで見たことがある姿勢だった。


アルテは、目を凝らした。


その人物が、こちらを見ていた。


目が合った。


遠くて、表情まではわからなかった。でも、その人物が、少し、手を上げた。


アルテは、思わず、手を上げた。去年と同じように。


ミラが、小さく息を呑んだ。


「……フレンツさん?」


「たぶん」とアルテは言った。声が、少し柔らかくなった。


◆ ◆ ◆

「工夫する、って言ってたもんね」とミラは、小さく笑った。


「うん」とアルテは言った。「工夫してきたみたい」


エランが、少し口元を緩めた。珍しかった。


「王が、自分の祭りに忍んで来る」とエランは言った。「記録に残らないのが、残念です」


「残さなくていいよ、そこは」とアルテは言った。


対岸の人物は、もう一度だけこちらを見てから、人混みの中に消えていった。追いかけることも、橋を渡ることも、アルテはしなかった。


それでよかった。


来ていたことが、わかった。それで十分だった。


◆ ◆ ◆

篝火の夜が深くなった。


三人は、去年と同じベンチに座って、火を見ていた。


「来年も、三人でいられるかな」とミラが言った。去年も同じことを言っていた。


「いられると思う」とアルテは言った。


「いるつもりです」とエランが言った。去年と同じ言葉。でも今年は、少し迷いなく聞こえた。


「来年の大祭は」とミラが言った。「フレンツさんが王様として、光誕祭に来るんだよね。大祭もそうなるかな」


「わからない」とアルテは言った。「でも——どっちでもいいかな」


「どっちでも?」


「王様として来ても、お忍びで来ても、フレンツさんはフレンツさんだから」


ミラが、「それがアルテだよね」と笑った。エランは何も言わなかったが、少し、頷いた気がした。


◆ ◆ ◆

神殿に戻ると、ソルテが中庭で星を見ていた。


「どうだった?」とソルテは聞いた。


「楽しかった」とアルテは言った。「フレンツさんが来てた」


「お忍びで?」


「多分」


ソルテは、少し考えてから言った。


「そういう人なんですね」


「そういう人だよ」とアルテは言った。


「精霊が、去年より少し穏やかです」とソルテは言った。「さっきより、気配が丸い」


「嬉しかったから、かな」とアルテは言った。


ソルテは、静かに頷いた。


◆ ◆ ◆

夜、アルテは紙に書いた。


三度目の大祭。今年はソルテも一緒に来てくれた。ノルダンの船が来ていた。外が、少しずつここに来ている。フレンツさんも来ていた。工夫してくれた。遠くから手を振り合っただけ。それで十分だった。ミラとエランと、来年もいられると思う。来年の光誕祭、フレンツさんが王様として来る。その日が、少し楽しみになってきた。怖いことも増えているけど、楽しみも増えている。そういう年だった。


暖炉の炎が揺れていた。精霊たちの気配は、ソルテが言った通り、今夜は丸かった。


「おやすみ」とアルテは言った。


炎がふわりと揺れた。


水都の夜が深くなった。篝火はまだどこかで燃えていた。街の遠くで、音楽の音がかすかに聞こえた。大祭の夜は、まだ終わっていなかった。

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