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冬の終わりに

冬が終わりかけていた。


水都アルテミアの冬は短い。北の大陸では雪が積もる季節でも、この街では霜が降りるだけで、一月もすれば春の気配が戻ってくる。運河の水はさすがに冷たいが、凍ることはない。冬の間も、舟は走る。


アルテが十三歳になったのは、その年の冬の終わりだった。


誕生日に特別なことはなかった。朝の礼拝があって、午前の講義があって、昼食があった。ミラが「おめでとう」と言って、食堂から持ち出した蜂蜜菓子を一つくれた。エランが「おめでとうございます」と言って、すぐに自習の話に切り替えた。ソルテが「アルテ先輩の精霊、今日は少し金色が強い」と言った。


それだけで、十分だった。


夜、暖炉の前に座ってアルテは思った。十二歳と十三歳で、何が変わっただろうか。背が少し伸びた気がする。歴代聖女の記録を第一巻の途中まで読んだ。精霊との感覚がほんの少し、言葉にしやすくなった気がする。


大きなことは、何も変わっていなかった。


でも小さなことは、少し変わっていた。


それでいいと思った。


◆ ◆ ◆

その年の冬、神殿医療棟に運ばれてくる人が増えた。


冒険者の怪我人ではなかった。迷宮に行った様子もない、ただ疲れ切った、普通の人たちだった。子どもを連れた母親、老人、若い男性。服が薄くて、靴が傷んでいた。目が乾いていた。長い距離を歩いてきた目だった。


クレイン修道士が手当てをして、食事を出して、暖かい部屋を用意した。神殿にはそのための場所があった。巡礼者や困窮した者を受け入れる、古くからの習わしだった。ただ今年は、その人数が去年より多かった。


アルテは医療棟の手伝いをしながら、それを見ていた。


ある日、廊下でクレイン修道士に聞いた。


「最近、来る人が多いですね」


クレイン修道士は少し間を置いた。


「そうですね」と言った。「北の方が、少し騒がしくなっているようで」


「騒がしいというのは」


「戦争が長引いています」クレイン修道士は静かに言った。「直接ここまで来てはいないけれど、影響がじわじわと南に来ている。そういうことだと思います」


アルテは頷いた。セレーヌ大神官から聞いた言葉が、頭の中で重なった。遠いままでいられる時間は、永遠ではないかもしれない。


永遠ではない、が——まだここには来ていない。来ているのは、そこから逃れてきた人たちだった。


◆ ◆ ◆

その人たちと言葉を交わすようになったのは、自然な流れだった。


医療棟の手伝いをしていれば、顔が合う。顔が合えば、挨拶する。挨拶すれば、少し話す。言葉が通じない人もいたが、通じる人もいた。ゲルアラント語を話せない人には、精霊に頼んで気配だけ伝えた。怖くない、ここは安全だ、という感覚だけ。


ある夕方、中庭のベンチに一人の老人が座っていた。


七十代くらいの、小柄な男性だった。膝の上に何も持たず、ただ空を見ていた。アルテが声をかけると、ゲルアラント語で答えた。少し訛りがあったが、通じた。


「どちらから来たんですか」とアルテは聞いた。


「ミルヴァから」と老人は言った。


ミルヴァ。アルテは図書庫で読んだ大陸の地図を思い出した。西方の小国。かつて中立を保っていたが、地理的に戦場に巻き込まれたと神殿の記録にあった。


「遠いところから」とアルテは言った。


「遠い」と老人は繰り返した。「歩いて、一月以上かかった」


一月以上。アルテには距離の感覚がなかった。この街から出たことがないから、一月歩くということがどういうことか、体でわからなかった。


「街は、どうなっているんですか」とアルテは聞いた。聞いていいかどうか迷いながら。


老人はしばらく黙っていた。


「ない」と言った。「わたしがいた村は、もうない」


◆ ◆ ◆

もうない。


アルテはその言葉を、どう受け取ればいいかわからなかった。


村がない。建物が、通りが、市場が、川が——すべてがなくなるということが、どういうことか。この街が——水都アルテミアが、運河が、神殿が、石橋が、花売りの屋台が、すべてなくなるということが。


想像しようとして、できなかった。


老人は空を見ていた。アルテが黙っているのに気づいて、静かに言った。


「あなたは若い。知らなくていいことかもしれない」


「いいえ」とアルテは言った。思ったより、はっきりした声が出た。「知りたいです。知らないままでいることの方が、怖い気がするので」


老人はアルテを見た。しばらく見ていた。


「神殿の子かい」


「見習いです」


「聖女様と聞いたが」


アルテは少し止まった。


「そう呼ばれることもあります。でも今はただのアルテです」


老人はもう一度、アルテを見た。それから少しだけ表情が緩んだ。


「ただのアルテか」と言った。「いい名前だな」


◆ ◆ ◆

老人の名前はベルト、と言った。


ミルヴァの村で農業をしていた。妻は十年前に亡くなっていて、息子は遠い街に出ていた。村にいたのはベルトと、残った老人たちと、幼い子どもたちだった。


戦場が近づいた時、村の若い者たちが言った。逃げよう、と。老人たちは迷った。生まれた土地を離れることへの抵抗と、このままでは危ないという恐怖が、天秤にかかった。


最後は、子どもたちのために逃げることにした。


ベルトは話しながら、時々言葉が止まった。止まっても、続けた。アルテは何も言わずに聞いた。


「南に行けば、光の神殿がある街がある、と誰かが言っていた」とベルトは言った。「精霊教の聖地だと。そこなら安全かもしれないと。だからここまで来た」


光精霊たちが、静かにベルトの周りに集まっていた。


ベルトは気づかなかった。でもアルテには見えた。精霊たちがこの老人に近づいて、そばにいた。何かを感じているのかもしれなかった。


「来てよかったです」とアルテは言った。「ここは安全です。神殿にいる間は、ちゃんと守ります」


守ります、という言葉が自分の口から出たことに、アルテは少し驚いた。言えるかどうかわからない言葉だった。でも出た。


ベルトは少し目を細めた。


「ありがとう」と言った。「ただのアルテ」


◆ ◆ ◆

夜、アルテは部屋に戻ってから、しばらく窓の外を見ていた。


運河が見えた。水面に神殿の灯りが映っていた。いつもと変わらない景色だった。


でも今夜は、その景色が少し違って見えた。


この光がある。この水がある。この街がある。それは当たり前ではないのかもしれなかった。当たり前だと思っていたけれど、一月歩いてここまで来た人がいる。村がなくなった人がいる。それでも「光の神殿がある街」を目指して来た人がいる。


アルテは窓から離れて、机に向かった。


あの小さな紙を出した。


今日、ベルトさんという老人と話した。ミルヴァから一月以上かけて歩いてきた。村はもうない、と言っていた。わたしにはその重さがまだわからない。でも聞いてよかったと思っている。知らないままでいることの方が怖い、とわたしは言った。それは本当だった。知ることで何ができるかはまだわからない。でも知っておきたい。この街の外で、何が起きているかを。


書いて、閉じた。


暖炉の前に座った。炎が揺れていた。


「おやすみ」と言った。


今夜はベルトのことも思いながら言った。あの老人が、今夜暖かい場所で眠れているといいと思いながら。


炎がふわりと揺れた。


水都の夜が深くなった。運河が流れていた。この街に流れ込んできたものを、静かに受け止めながら。

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