第9話「見つめ合って、もう一度伝えたい」
――交際0日婚ですが、声の人に恋して
⸻
朝の光が、白いカーテン越しに優しく差し込んでいた。
休日の朝。
大学も収録もない、久しぶりの“ふたりだけの朝”だった。
ほのかはキッチンでコーヒーを入れ、悠人は洗面所で顔を洗っていた――そのときだった。
「……あ、ごめん、開けっぱなしで……っ!」
悠人が振り返った先に、ちょうどバスタオルを体から外して、着替えようとしていたほのかの姿があった。
一瞬の静寂。
ふたりの視線が、ぶつかる。
白い肌。濡れたままの髪。
体を隠す間もなく、真正面から彼女の“素”が、悠人の視界に映る。
「……っっ!!」
悠人は慌てて後ろを向いた。
耳まで真っ赤に染まり、心臓が跳ねるのを止められない。
「ご、ごめん! 見るつもりじゃ――!」
しかし、その直後――
「……悠人」
背後から、静かな呼び声。
振り返ると、ほのかがタオル一枚で、少し頬を染めながら、ゆっくりと近づいてくる。
「……見られちゃったからには、もう隠す意味もないでしょ?」
「ほ、ほのか……」
「私ね、ずっと思ってたの。
“裸”を見せるって、ただ身体のことだけじゃない。心も、まるごと委ねることなんだって」
彼女は静かに、悠人の目をまっすぐに見つめて言った。
「私の“全部”を、見てくれていい。
だって私、あなたの妻だから。
――そして何より、あなただけには、見てほしいって、思ってるから」
その言葉が、悠人の胸に深く染み込んだ。
気づけば、彼は彼女の手を取っていた。
その手のぬくもりに、確かな愛が込められているのを感じながら――
彼は、もう一度、膝をついた。
「……ほのか」
「……なに?」
「今さらかもしれない。でも、ちゃんと気持ちを伝えたいんだ」
彼は、まっすぐな瞳で彼女を見上げた。
「僕と――もう一度、結婚してください」
彼女は、驚いたように瞳を見開き、そしてすぐに、やわらかく微笑んだ。
「……ふふ。もう一度、って……今さら?」
「うん。最初のプロポーズは、高校卒業の日だった。
でも、今日の僕は、あのときよりずっと“あなたを知ってる”。
そして、今のあなたを見たからこそ、もっと深く、もう一度、心から言いたいんだ」
「悠人……」
彼女の目元が、少し潤んだ。
「私、二度目のプロポーズなんて、初めてだよ?」
「僕も、人生で初めてだよ。
……でも、一生に一度のプロポーズじゃ、足りないくらい、何度でも伝えたい。
あなたと――結婚したい。心から」
彼女はその場にしゃがみ込み、同じ高さで悠人の頬に触れた。
そして――
「……はい。二度目も、三度目も、何度でも。私はあなたの妻になるよ」
唇が、重なる。
それは、最初のぎこちないキスではない。
湯気に包まれた優しいキスでもない。
“ふたりの決意”を確かめ合う、再契約のようなキスだった。
長く、静かで、でもとても強く。
互いの存在を確かめ合うように、唇を交わし合った。
⸻
その夜、布団の中。
背中合わせに眠ろうとしていたふたりの手が、そっと重なる。
「ねぇ、悠人」
「ん?」
「またいつか、もう一回プロポーズしてくれる?」
「もちろん。記念日でも、誕生日でも、なんでもない日に。
あなたが不安になったときは、何度でも言うよ。
“結婚してください”って」
「ふふ……そういうところ、本当にズルい」
「ズルくてもいい。あなたの夫でいるためなら、なんだってする」
「……私も、あなただけの妻でいたい」
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