第9話「夫は新卒一年目、妻は主演声優」
――声の人は、僕の妻です。秘密から始まった“結婚生活の真実”
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春。
満開の桜の下、スーツ姿の悠人は、緊張した面持ちで会社の正門をくぐった。
「……社会人一年目、始まった」
悠人が配属された部署は――
姉・美琴と詩織の両方が在籍する企画開発部。
表向きは「偶然の配属」だが、社内の一部では「仲の良い社員同士」くらいに思われており、
3人が実の姉弟だと知るのは、ほんの数人に限られていた。
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「ほら悠人、社内メールは“署名”ちゃんと入れないとダメよ」
「Excelの関数、間違ってる。これだとデータ整わないよ」
「……はい、すみません……!」
入社一週間目。
姉たちは愛情と厳しさを込めて、悠人をビシビシと鍛えていた。
一見冷たく見える指導も、
その実、彼の“新人としての価値”を本気で高めようとしている証。
ただ――
「神谷くんって、あのふたりにめちゃくちゃ扱かれてない……?」
「もしかして……付き合ってるとか?」
といった社内の視線が時折刺さるのは、ご愛嬌。
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ある日。
「神谷美琴さん・神谷詩織さん・神谷悠人さん、社長室へどうぞ」
まるで“家族会議”のような呼び出し。
けれど社長室で待っていたのは、一枚の企画書だった。
「この企画、通りましたよ。
3人が共同で出してくれた、次期ブランド戦略案」
社長は頷きながら、笑った。
「まさか“姉弟で立ち上げたチーム”とは知らなかったが……
見事な連携でした。期待してますよ」
その言葉に、悠人は思わず姉たちと視線を交わし――
胸が熱くなった。
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その夜。
仕事を終えた美琴と詩織は、それぞれ別のLINEグループでほのかに連絡を入れていた。
【ほのかちゃんへ(詩織)】
「お仕事忙しい中、今夜少し電話できたりする?」
【From 美琴】
「真面目な話なんだけど、ちょっと聞かせてほしいことがあるの」
夜9時。
ほのかはアニメの収録を終え、マネージャーの車内から姉ふたりの通話に出た。
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「……ほのかちゃん、ちょっと、改めて聞かせて」
「なにを、ですか?」
詩織の声は柔らかいが、真剣だった。
「本当に――悠人と、結婚してよかった?」
「……」
車の窓の外、街の明かりが静かに流れていく。
「結婚して、声優としての立場が変わったり、
スケジュールもきっと自由じゃなくなったり……それでも」
「――はい。良かったと思ってます」
ほのかの声には、迷いがなかった。
「確かに、主演アニメが3本、ナレーションも連続で入っていて……
今は人生で一番忙しいかもしれません。
でも、家に帰れば“あの人”がいる。それが……何より幸せです」
「彼の隣にいて、誰かの奥さんである自分が、すごく自然で……
それが今の私の“声”にも繋がっている気がします」
静かに、でも確かな想いだった。
電話の向こうで、美琴がふっと息を吐いた。
「……なら、もう何も言わない」
「うん。あんたたちがどんな形で夫婦やってても、私たちは味方でいるよ」
「ありがとう、おふたりとも」
そしてほのかは、マネージャーの横で小さく微笑んだ。
“自分のことを心から思ってくれる人たちがいる”
それは、芸能人としてではなく、
ただひとりの女性としての“支え”だった。
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深夜0時すぎ。
帰宅したほのかを、眠そうな顔で悠人が迎えた。
「おかえり……忙しかったね」
「うん……でも、あなたの声聞いたら、全部癒された」
「じゃあ……」
キスをしようとしたほのかのほうが、先に目を閉じた。
彼の唇が触れると、全身から力が抜けていく。
「……こうして、あなたといると、“主演”も“忙しさ”もどうでもよくなる」
「なら、俺が毎日……主演声優の“おまもり”になるよ」
ほのかはそっと笑って――
そのまま、彼の胸の中に身を沈めた。
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