第7話「じゃあ今度、姉にも紹介してよ」
「じゃあ、今度うちで――ご飯でもどう?」
その言葉は、双子の姉・美琴が言い出した。
「さすがに正式な顔合わせはしたほうがいいでしょ。こっちは弟の嫁なんだから」
「仕事帰りに寄ってくれていいから。手料理も一応、準備するし」
「……あの2人が“手料理”って珍しい」
「失礼な。やるときはやるのよ、私たちも」
そんなわけで、金曜の夜――
悠人とほのかは、姉たちの暮らすマンションに訪れた。
⸻
ピンポーン、とインターホンを押すと、玄関が開いた。
「……ど、どうも……はじめまして」
緊張で表情がこわばるほのか。
だが、玄関に立つ双子の姉たちは、思ったよりもフランクだった。
「ほんとに……あの結城ほのかさんだ……すご」
「テレビと変わんない。ていうか、普通に美人すぎる……弟よ、よく頑張ったな」
「……ほ、褒めてるんでしょうか」
「もちろん。じゃあ、どうぞ。“嫁さん”として、歓迎します」
玄関をくぐった瞬間から、空気は変わった。
緊張がありつつも、“受け入れる気持ち”が、確かにそこにあった。
⸻
夕食は、美琴特製の和風ハンバーグと、詩織が炊いた炊き込みご飯。
テーブルを囲んで4人が並ぶのは、初めての光景だった。
「声優って……やっぱり日常生活でも“声”に気をつけてるの?」
「はい。喉を冷やさないようにとか、無意識に姿勢もよくなります」
「普段はどうしてるの? 悠人とは、外では会わないようにしてるの?」
「ええ。変装しても限界がありますから。
なので、手を繋ぐのは……基本、家の中だけです」
少し照れくさそうに言うほのかに、姉たちは顔を見合わせて――笑った。
「可愛い」
「ね、それ」
「……えっ?」
「“芸能人オーラ出しすぎる女”かと思ってたけど、案外素朴で、ちゃんと嫁してる」
「悠人、あんたも嬉しそうな顔してんじゃん」
悠人は少し照れながら、コップの水を口に含んだ。
⸻
食後、リビングでコーヒーを飲んでいると、詩織がふいに口を開いた。
「聞いていい?」
「はい」
「……なんで、弟と結婚しようと思ったの?」
美琴も真剣な目で加わる。
「交際0日でしょ? 年齢差もあるし、相手はただの大学生。
あなたは仕事もキャリアもあって、正直リスクのほうが大きかったはずよね?」
静寂。
ほのかは、一呼吸おいてから答えた。
「リスクは、ありました。
でも――彼の“声”が、私の人生を救ったからです」
「……声?」
「彼が送ってくれたファンレターには、彼の“まっすぐな想い”が、ずっと詰まっていました。
読むたびに、自分が“誰かのために声を出せている”って実感できて……
ある日、気づいたんです。
“私が好きなのは、この人の想いそのものだ”って」
「……」
「芸能人としての立場よりも、彼の隣にいたいと思ったことの方が――
私にとって、圧倒的に大切でした」
美琴と詩織は、真剣に聞いていた。
そして。
「……なるほど」
「そこまで言われたら、もう何も言えないね」
「ってことで――」
ふたり同時に立ち上がり、手を差し出す。
「弟の嫁として、ようこそ私たちの“家族”へ」
「ま、弟のこと、これからもよろしく頼んだわよ?」
ほのかは、一瞬きょとんとし――そして、微笑みながら手を握り返した。
「はい。こちらこそ、末永く、よろしくお願いします」
⸻
帰り道、エレベーターの中。
ほのかが、そっと呟いた。
「ねぇ、悠人」
「ん?」
「今日、“嫁です”って言って……本当に“家族”になれた気がした」
悠人は微笑んで、手を繋いだ。
「もう、ずっと前から“俺の家族”だよ」
「……でも、今日ちゃんと認めてもらえたのが嬉しかった。
私が“声の人”じゃなくて、ただの“悠人の奥さん”になれたみたいで」
そして、誰もいないエレベーターホールで――
ふたりは、静かにキスを交わした。
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