第5話「それぞれの紹介――両親と、マネージャーと」
――声の人は、僕の妻です。秘密から始まった“結婚生活の真実”
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その日は、朝から落ち着かなかった。
スーツに袖を通し、ネクタイを締める手が少し震える。
「緊張してる?」
「……してないって言ったら、嘘になるかも」
鏡越しに見つめる自分の姿。
“大学生”の顔ではなく、“夫”としての顔を、今から両親に見せることになる。
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★悠人サイド:両親との初対面
実家のリビングには、父の誠司と、母の志津子。
悠人が「ちょっと紹介したい人がいる」と言った瞬間、ふたりは驚きつつも快く迎えてくれた。
玄関のドアが開く。
そこに現れたのは、深いネイビーブルーのワンピースに身を包んだ――結城ほのか。
「……失礼します。初めまして。結城ほのかと申します」
「えっ……? ええっ?」
母が目を丸くし、父が固まる。
当然だった。テレビの中で観たことのある“あの声優”が、
息子の隣で微笑んでいるのだから。
「……えっと、僕、実は――ほのかさんと、結婚してます」
「………………は?」
完璧に時が止まった瞬間だった。
「しかも、交際0日で……卒業式の日に、プロポーズして……」
「……なにその、ドラマみたいな展開」
母が呆れ気味に言いながらも、徐々に笑みを浮かべる。
「でも、ほのかさんって……ほんとに、結城ほのかさん?」
「はい。声優としてのお仕事も続けています」
「……声で分かった。テレビと同じだったから」
父がポツリと呟いた。
「……あの、“嘘”じゃないんだな」
ほのかは深く頭を下げた。
「未熟なふたりですが、どうかよろしくお願いいたします」
緊張に包まれた空気の中――
最初に笑ったのは、母だった。
「でも……こうして、ちゃんと挨拶に来てくれたのは嬉しいわ。
息子が選んだ相手が、こんなに誠実な方なら――心配、やめるしかないじゃない」
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★ほのかサイド:事務所とマネージャーへの報告
一方その頃。
ほのかは、所属事務所の会議室にいた。
向かいに座るのは、長年支えてくれているマネージャー・古澤と、事務所社長の泉。
「ご報告があります」
静かに、でもまっすぐに言葉を重ねた。
「実は――結婚しました。お相手は、一般人の方で……大学生です」
空気が、ピタリと止まる。
「えっ……大学生……?」
「はい。彼は、18歳年下です」
沈黙。
泉社長が組んでいた手をゆっくりとほどき、口を開いた。
「……いつから?」
「交際0日で結婚しました。出会いは、ファンレターです」
マネージャーの古澤は頭を抱えた。
「ほのかさん、あなたね……」
「怒られる覚悟はあります。でも、私は自分の人生に責任を持ちたいと思ってます」
社長は黙ったまま、窓の外を見ていた。
そして――小さく笑った。
「君らしいな。突拍子もないけど、芯が通ってる」
「社長……」
「結婚しても、仕事に支障が出ないようにしてくれればいい。
その代わり、マスコミ対策と情報管理だけは徹底するように」
「……ありがとうございます」
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夜。
それぞれの“紹介”を終えて、自宅のダイニングで顔を合わせたふたり。
「……終わったね」
「うん。お互い、ちゃんと“紹介”できたね」
「……怖かった?」
「うん。でも、後悔はしてない」
そして――
ほのかがふと、手を差し出した。
「じゃあ、今日だけは特別に。夫婦記念日、ね?」
悠人は笑って、その手を取った。
「これで、僕たちはまた一歩、夫婦に近づけた気がするよ」
手と手が重なる。
そして、ゆっくりと――唇が触れ合った。
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