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第2話「手を繋ぐのは、家の中だけ」



――声の人は、僕の妻です。秘密から始まった“結婚生活の真実”



日曜の午後。

街中には春の陽気と人混みが溢れていた。


マスク、サングラス、帽子。

“完璧な変装”をしている隣の女性は、誰がどう見ても「有名人のオーラを隠し切れていない」。


――結城ほのか。

悠人の“妻”。だけど今は、“ただの知人”として歩いている。


「……人、多いね」


「日曜だからね。映画館もショッピングモールも混んでるし」


「でも……一緒に出かけられるだけで、十分」


そう言って、少し距離を取って歩くふたり。

手は繋げない。

「一緒にいる」という事実すら、知られてはいけない。


すれ違う誰かに見られるたび、彼女が誰かに気づかれないか、悠人はひやひやしていた。


(“恋人つなぎ”したいなんて言ったら、ほのかを危険に晒すことになる)


(それでも……ほんの少しでも、近くにいたくて)



昼過ぎ。

人目の少ないカフェのテラス席に腰を下ろし、ようやく少し落ち着いた。


「ねぇ、悠人。……あなた、さっきからちょっと不安そう」


「……うん、やっぱり少し、落ち着かないかも」


「ふふ、正直言うと私も。

 けど……こうして外にいると、あなたが大学生だってこと、実感するね」


「なんで?」


「私よりも全然若いし、きょろきょろしてて、かわいいなって思う」


「……それ、褒めてる?」


「褒めてる。世界一、私にだけかわいい夫よ?」


悠人の耳が、ほんのり赤く染まる。


彼女がこうして“妻”らしい一面を見せてくれるたび、

手を取りたい気持ちが、喉元までこみ上げてくる。


(言いたい。堂々と“俺の奥さん”って紹介したい)


(でも……まだ言えない)



帰り道。


駅のホームで、電車を待つ人波の中。

ふたりはまた、人目を避けるように離れて並んでいた。


そのとき、電車が来る音と同時に――

ほのかが、そっと囁いた。


「手、貸して」


「え?」


「……少しだけ。今だけ。誰にも見えないから」


ホームの影。

人の視線が交差しない、わずかな一瞬。


ふたりの手が、そっと重なった。

寒くもないのに、指先がじんと熱くなる。


「たった数秒でも、こうして触れると……安心するね」


「うん。……俺も、こんなに手を繋ぐことが大事だなんて思わなかった」


電車が近づき、騒音が押し寄せる。

ふたりの手が、名残惜しそうに離れる。



夜、自宅。


「ただいま」


「おかえり」


エプロン姿のほのかが、温かいシチューをよそいながら、そっと微笑む。


そして夕食後。


ふたりはソファに並んで座り、自然と手を取り合っていた。


「外では繋げない分、家の中ではいっぱい触れていい?」


「……うん。むしろ、触れてほしい。

 今日の分、足りなかったから」


「じゃあ……手だけじゃなくて、もうちょっと」


そう言って、ほのかが寄りかかる。

彼女の髪が肩に触れ、体温がじわりと伝わってくる。


「外じゃ触れられないからこそ――こういう時間が、特別に思えるんだよね」


「そうね。……世界が敵でも、家の中だけは味方でいようね、私たち」


その言葉が、何よりも深く、心を包んだ。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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