【五二】感染源駆除 エルフ族 その一
高大一貫教育の大学三年生になり、実習のために船で離れ小島へ向かっていた主人公は突然の嵐に
遭遇してしまう。
気が付くと大学生男子一名、女子七名と女教師二名だけが異世界の孤島に漂着していた。
ここから孤島でのサバイバル生活が始まる。彼、彼女らは専門分野別に集められたエリート達だっ
た。
生活する上で不可欠な拠点造り、食料の調達から始めることになる。
かつての世界の技術力を駆使した武器や輸送手段を筆頭に様々な開発も行うことになった。
最大の問題は武器、輸送機に使用されていた原料がこの世界には存在し無いこと。
新たなエネルギーを得るために悪戦苦闘するメンバー達。
発見された常識を覆す新エネルギーは後の大発明へとつながって行くことになる。
この世界を統治する王国や巨大生物、未知の病などと格闘する日々が続く。
次々と降り掛かる問題を持ち前の技術力と結束力で乗り越えて行く。
自分達の国を創り上げるため奔走する冒険と青春の物語である。
獣人族への疫病対策は一週間に及ぶ勇作達の激闘の甲斐があって、作業の峠を越えた。
種族全体にこられの対策が行き届くまでにはまだ時間が掛かるのだが、ワクチン接種、感染源撲滅、衛生対策という三本柱各々に獣人族からリーダーを立てて自らの手で進められるよう教育してきたのだ。
その成果が現れ、勇作達の指示が無くても作業が進められるまでになっていた。
もちろん、ワクチン製造は勇作達にしか出来ないため、必要数の供給は続けることになるが。
「俺が見て来た限りでは教育も順調に進んでいるから、そろそろ次の種族に移りたいと思うんだが各チームのリーダの意見はどうだ?」
勇作はメンバーを見回した。
「そうだねぇ・・ワクチイン接種に関してはもう大丈夫だと思うよ?・・適宜、ワクチンの必要量を供給してあげればねぇ・・」
「そうか・・素人に接種のやり方を一から教えるのは大変だったと思うが良くやってくれた」
早苗の説明に続いて愛理、志摩からも同様の報告がされた。
「次は私からね!・・感染源の撲滅作戦わねー、花梨の作ってくれた秘密兵器が絶好調だったよ!・・奴らも一網打尽だったからね!って勇作もいたんだから説明しなくても分かってんじゃん!」
「俺が分かってるのは当然だろ?・・皆に説明してるんだぞ、陽鞠」
「そっかー!・・分かった!」
「はぁ・・相変わらずだな・・花梨からは何かあるか?」
「いえ、特にはありませんわ・・新兵器が役に立って良かったですわ」
「ああ、本当に助かったよ・・」「ほ、褒められてしまったですわ」
耳まで赤くなった花梨は置きざりにして、衛生対策班の説明を求めた。
「・・順調・・」「あら、計画通りよね」
「・・終わった・・」「引き継ぎは滞り無く完了よ」
「・・調達必要・・」「物資の調達が必要よ、在庫の材料は全部使っちゃったから」
「希美も良く心愛の単語会話に付いて行けるな・・それにしても一番人手の掛かる作業だったのに良く目処を付けてくれた・・礼を言わせてくれ」
「・・賞賛!・・」「あら褒められっちゃったわ!」
「・・ご褒美!・・」
「ん?・・ああ、ご褒美な?・・何が良いんだ?」
「・・LOVE・・」「・・ん?」
「・・いちゃいちゃ・・」「・・ああ、お前もか・・疫病対策の目処が付いたな?」
「・・むぅ!・・」「膨れるな・・」
「あら、私もご褒美が欲しいわ!」
「ふぅ・・俺が出来る範囲で考えておけ」
「うふふ・・分かったわ」「・・ゾクッ・・」
何か一瞬、背筋が寒くなった勇作だが気のせいだと思うことにして、この後の行動計画について説明を始めた。
「やっと次に進めるな・・今後の行動予定について説明するぞ・・愛理、頼む」
「はい、皆の頑張りで獣人族の疫病対策については目処が付いたと思います・・次に対策を急いでいるのがエルフ族です・・花梨達の調査結果でもかなり追い詰められた状況です」
「今、愛理から説明があったようにエルフ族の方もかなりヤバイ状況にあるようだ・・獣人族の場合、衛生対策がまるでなっていなかったのが疫病蔓延の最大の理由だがエルフ族の場合は少し状況が違うようだ・・愛理」
「はい、調査結果ではエルフ族の場合、獣人族に比べて遙かに衛生的な環境下であるにも関わらず物凄い蔓延速度で感染が拡大しています・・これは感染を媒介するネズミの異常繁殖が最大の原因と思われます・・そして異常繁殖の根本原因はエルフ族の里に隣接する森にあると考えています」
「基本的な疫病対策の三本柱である、ワクチン接種、感染源撲滅、衛生対策は変わらないが、今回は感染源撲滅に関して森林地帯での駆除になる可能性が高い・・遮蔽物の多い森林で奴らを駆除するのはかなり難しい作業になるだろう・・花梨が開発してくれた電磁捕獲網MCNは市街戦等での使用に限定されてしまうだろう・・そこで今、心愛に頼んで森林地帯での駆除ツールを開発してもらっている、この目処が付き次第エルフ族の里に向けて出発する・・以上だが、何かあるか?・・無ければ各自準備に入ってくれ!」
「「「「はい!」」」」
二日後、勇作達メンバーは全員でエルフ族の里へ向けて出発した。
花梨達が里へ向かった時はミニホバーを使っていたため、東へ街道沿いに向かったが今回はエルピーダの空路なので直接、大陸東にある森林地帯を目指した。
ミニホバーで二日間の工程が二時間程で森林地帯が目視出来るところまで着いた。
「はぁ・・流石にエルピーダですわね、あのミニホバーでの苦労は何なのでしょう?」
花梨は前回の旅の苦労を思い出して一人呟いた。
森林地帯の入口にある一際大きな木の近くに着陸した。
「花梨、エルフ族へは連絡してあるんだな?」
「はい、ですわ・・多分、そろそろ出迎えがあると思いますわ・・ああ、こられましたわ・・スコイレオさん、お久しぶりでも無いですね、この間ぶりですわ」
「おお、花梨殿、初音殿もおられるか、無事に帰還できたのですな・・」
「ええ、今回は私達メンバー全員で感染対策に着かせて頂きますわ・・この人が私達のリーダー、勇作ですわ」
「初めてお目に掛かります・・勇作です、先日は花梨達がお世話になりました」
「ご丁寧に痛み入る・・政務官を任されているスコイレオと言う、我々の方が世話になったと思うのだが・・全員でのお越し恐縮する」
一通りの紹介と挨拶を終えた勇作は拠点について相談した。
「ところでスコイレオさん・・我々の感染対策に使用する拠点についてなのですが、迅速に対応するためにも出来れば里の中に設営したいと思います・・どこか良い場所はありませんか?」
チラリとエルピーダを見て「勇作殿はこの大きな物を拠点として里のどこかに設置したいのですな?」と候補を思い起こしながら思案した。
「これ程の大きなものとなると森林地帯ですので候補が限られるのですが・・里の北側に小さな湖がありまして、その湖畔で宜しければ・・」
「分かりました、その場所を見させて頂いても?」
「はい、ご案内します」
勇作は花梨達エルピーダ正規操縦班である愛理、花梨、志摩、早苗、花江を残して里へと向かった。
里の中へは迷路のような木々の間を三十分程もくぐり抜けた先にあった。
開けたところに大きな木々が立ち並び、樹上には家のようなものが点在している。
一際大きな樹上家にエルフ族族長がいると言う。
大きな扉の前に立ち「異世界から来られた方達を案内して参りました」と声を掛けた。
中から返事があり、部屋に入ると細身の男女が迎えてくれた。
「遠路よく参られた・・花梨殿はおられぬのか、拠点造りの方におると・・おお、初音殿、その節はお世話になり申した・・皆様方、私がエルフ族代表、マカリオスと申す、こちらが副代表を務めるアイオーンと申す」
「ご丁寧にありがとうございます、先日は花梨と初音がお世話になりました・・私が我々メンバーのリーダーをしています勇作と申します・・それから・・」
固く握手を交わし、メンバー達の自己紹介が済んだところでスコイレオが説明を行った。
「なるほど、拠点をな・・確かにあの湖畔であれば広さとしても申し分無いが・・皆さんが住むための樹上家が無いからな・・どうしたものか」
「それについてはご心配無用です・・我々が乗ってきたエルピーダという乗り物には居住空間もありますので・・」
「そう言うことであれば湖畔を拠点として使用してもらって構わない・・スコイレオ、勇作殿達をあの湖畔にご案内しなさい」
「はっ・・承知しました」
代表の家を暇乞いし、湖畔へと向かった。
そこは・・木々に囲まれた周囲数百メートル程の小ぶりな湖で湖畔が大きく開けた場所であった。
「スコイレオさん・・ここを使用させてもらっても?」
「はい、ご自由にお使い下さい・・何かご入り用なことがあれば先程の樹上家か隣にある樹上家が私の家ですので申し付け下さい」
勇作は待機中の花梨達に湖畔に来てくれるよう連絡を入れた。
「もう、待ちくたびれましたわ!」
「すまんな、信号弾を打ち上げるからそれを目印に来てくれ」
「全くもう!・・分かりましたわ、すぐに向かいますわ」
何分も経たない内に上空に巨大な影が映り、収束エンジンの音が聞こえてきた。
「花梨・・二つの大きな木が見えるか?その間に着陸してくれ」
「了解ですわ」
あまりに大きく、独特の吸排気音を奏でるエルピーダの着陸を間近で見たスコイレオは大きな木の根元で腰を抜かしていた。
その夜、代表のマカリオス主催で宴が開かれ、副代表のアイオーン、政務官であるスコイレオ以外にも要職に就いているエルフ達が参加して友好を深めた。
翌朝から獣人族の時と同じチーム編成で疫病対策に臨んだ。
早苗、愛理、志摩はワクチン接種班として早々に暗礁に乗り上げていた。
「何故、発病していない我々までが、針を身体に刺されねばならんのだ?」
「禁忌を犯してまで接種するだけの効果が本当にあるのか?」
「我々エルフ族は精霊のご加護の元、自然治癒が本来である」
等々、散々な状態であった。
種族の特徴としてエルフ族は森林地帯に住み着いている精霊を信仰しており、その加護(自然治癒でしかないのだが)で病や怪我が治ると信じて疑わない。
既に疫病に罹患している者達がワクチン接種によって快方に向かっても、それは精霊の加護のお陰だと言う始末である。
精霊信仰からくる拒絶反応は想像以上に強いものであった。
「どうしたもんかねぇ?」「困りました・・」「勇作に相談してみたらどうや?」
「「それ(です)だねぇ」」
感染源撲滅班で準備に忙しい勇作を捕まえて指示を仰いだ。
「・・と言う状態なんだねぇ」「どうしたら良いか分からなくて・・」
「何か良い案は無いんやろか・・」
勇作は作業の手を止めて話を聞いていた。腕組みをして考え込んだ。
(ある程度拒否反応があることは予想していたが、これ程とはな・・)
精霊信仰とはいわば宗教的な価値観の違いと同義であり、これを覆すのは至難の業だ。
「早苗、この問題は根深い・・俺達の処置に対する危険視は簡単には払拭出来ないだろう・・接種拒否者達は後に回せ、騒ぎになったら既に罹患しているエルフ達も救えなくなる・・ただ、準備だけはしておけよ?」
「うーん、やっぱりそうなるよねぇ・・分かったねぇ」
「そうですね・・」「そうなるわな・・」
本意では無いが絶対的に時間の無い現状では、拒否する者達は後回しにせざるを得ない。
ワクチン接種は既に罹患している重症者を優先的に治療することになった。




