【五三】感染源駆除 エルフ族 その二
高大一貫教育の大学三年生になり、実習のために船で離れ小島へ向かっていた主人公は突然の嵐に
遭遇してしまう。
気が付くと大学生男子一名、女子七名と女教師二名だけが異世界の孤島に漂着していた。
ここから孤島でのサバイバル生活が始まる。彼、彼女らは専門分野別に集められたエリート達だっ
た。
生活する上で不可欠な拠点造り、食料の調達から始めることになる。
かつての世界の技術力を駆使した武器や輸送手段を筆頭に様々な開発も行うことになった。
最大の問題は武器、輸送機に使用されていた原料がこの世界には存在し無いこと。
新たなエネルギーを得るために悪戦苦闘するメンバー達。
発見された常識を覆す新エネルギーは後の大発明へとつながって行くことになる。
この世界を統治する王国や巨大生物、未知の病などと格闘する日々が続く。
次々と降り掛かる問題を持ち前の技術力と結束力で乗り越えて行く。
自分達の国を創り上げるため奔走する冒険と青春の物語である。
一方、感染源撲滅チームは初日から壮絶な戦いを強いられていた。
ネズミ達は森林地帯から集団で人里に降りて来て、可能な物は何でも食料として喰い尽くして行く。
それはまるで山津波だった。進路にあるものは何にでも噛み付き、穴だらけと変わり果てる。
食料を求めて進む先で邪魔となれば人間や家畜などへも容赦無く攻撃を加えて来た。
普通であればネズミが人間を襲うことなどほとんど無い。
しかし、種に異常繁殖が起こると種内での生存競争が激化し、凶暴性が爆発的に増大する。
斃した家畜に群がり、その肉を貪り、瞬く間に骨だけにしてしまうネズミ達は間違い無く異常な存在と言えた。
陽鞠、花梨、勇作の三人は人里に降りてくるネズミ達の駆除に奔走していた。
「陽鞠!そっちに集団が行った!・・花梨!後ろからも来てるぞ!」
勇作は状況を見ながら的確に指示を出し、自らも駆除に当たっていた。
二時間近く息つく暇も無い程の戦いが続いた。
山津波のように襲い掛かるネズミ達に対してエルフ族の戦士達も果敢に戦っていたが、多勢に無勢の様相だった。
次々に手足や顔を咬まれ、全身血みどろになりながら応戦していた。
勇作達はバトルスーツに気密マスクを装着しているため、ネズミ達の牙は届かない。
「エルフの皆は下がってくれ!・・駆除は俺達が引き受ける!」
勇作達は林、中央道路を三方向に背中合わせに向き直って、電磁捕獲網(通称MCN)を連射して駆除していた。
これは花梨が開発した収束式拳銃にスコープのようにマガジンパックを装着して撃ち出すもので、捕獲用のネットが射出されて着地と同時に高電圧がネットに流れてネット内の生物を感電死させるえげつない武器である。
「バリバリバリ・・」
MCNが射出される度に捕獲したネズミ達に容赦の無い高電圧によって感電死して黒焦げになった塊が積み上がって行った。
森林から襲い掛かるネズミ達の勢いが弱まって来た。
エルフ達にはネズミの死骸から逃げ出す感染の元凶である無数とも言えるノミを焼却処理するよう指示を出す。
「陽鞠、花梨!・・このままの勢いで森林地帯に突入するぞ、大本を絶つ!」
ここで衛生対策班の心愛と希美が戦線に加わる。
調査の結果、エルフ族の里の衛生状態は非常に良く問題が無いため、こちらの応援にやって来たのだ。
「・・おお、流石、勇作・・」「あらあら、かなりの成果ね!」
森林地帯に突入する前に武器を持ち替える。
心愛には森林地帯での駆除作戦に備えて、かつての世界の超大国と言われる国で開発競争が激化していた、マイクロ波技術を使った音響兵器「サウンドキャノン」(通称SCN)を開発してもらった。
マイクロ波はレンジ調理にも使用される危険な音波であることが知られている。
可聴音を超えたエネルギー音を聞くことで、脳神経が麻痺して身体の活動不能になる指向性殺傷兵器である。
また、SCNとは別にナノレーザを使用してプラズマ体を作り、異なるレーザを照射することで爆発的な光量と音響を発生する光音響兵器「サウンドライトウェポン」(通称SLW)までをも開発してくれていた。
SLWは光と音を使った非殺傷兵器のように思えるが、実は神経系へのダメージ深度が深く出力設定を間違えると人など簡単に殺傷出来る兵器なのだ。
森林地帯は遮蔽物が多く、花梨に開発してもらったMCNが有効に使えない。
そこで心愛が開発してくれたのがSCNとSLWだ。
希美が花梨開発の生体探査装置「バイオサーチデバイス」(通称BSD)を操作してネズミ達の潜伏場所を探り出して狙撃メンバーに伝える。
「あら、二時方向十メートル・・八時方向十五メートル・・十二時方向五メートル、
近いわ!・・後ろよ!五時方向八メートル!」
勇作、陽鞠、花梨、心愛が希美を囲むように指示された四方向から襲い掛かるネズミ達に音響兵器SCNを放って無力化しながら奥地へと進んで行った。
森林を奥に進むに従って後方からの襲撃が薄くなった。その分前方からの襲撃が厚くなる。
後方の守りを陽鞠、前三方向を勇作、花梨、心愛が担当する。
今までが前哨戦かと思える程の物量で前方からの襲撃が厚くなる。
「・・くっ、バカ花梨・・しっかり防げ!・・」
「はっ?やってますわよ・・一杯一杯ですわ!」
「・・役立たず・・」「キィー!・・あ、後で覚えてらっしゃい!」
このままでは体力が続かず、どこかで飲み込まれてしまう。
「陽鞠!・・心愛と前方の狙撃を代わってくれ!・・後方は希美に頼む!・・心愛!SLWの狙撃準備!」
「「了解!」」「・・分かった・・」
正面に立つ勇作の背中に隠れるように光音響兵器「サウンドライトウェポン」通称SLWの射撃準備に入る。
「希美がBSDで調べたところだと、前方十一時の方向が極端に奴らの厚みが濃い・・心愛、頼む!・・皆は防音、耐閃光防御!」
「・・了解・・」
心愛は勇作の背中におぶさるように身体を重ねてSLWを構えた。
ナノレーザ収束音が響き「・・SHOOT!・・」の声と共に射出された。
射出先では球体のプラズマ体が形成され、再度「・・SHOOTEND!・・」の声と同時にレーザが照射された。
直後に極大の閃光と腹にズンッと響く音の波が襲ってきた。
光が収まり、光音響爆発のあった方向を見ると、夥しい数の今までより一回り以上大きく、中でも大きい個体は優にかつての世界でネズミ最大と言われたカピバラを上回る大小のネズミ達が地面に積み重なっていた。
この兵器は焼く訳でも切る訳でも無い。当然、ネズミ達にも外傷は見られない。
これの恐ろしいところは脳や眼底、鼓膜、内耳機関等を内部破壊してしまうところだ。
圧倒的な閃光量と膨大な不可聴音撃という最新技術のダブル攻撃によって外目には何ともないが脳内、眼内、耳内内部の組織焼損、神経切断・壊死を発生させている。
目や耳等から大量に出血していることもその証明だ。
SLWの投入で延々に続くのではと思われた山津波が止まった。
勇作達の周りは静寂に包まれていた。
その時、希美から警告の声が上がった。
「あら!まだ奥にいるわよ・・でも大き過ぎだわ・・そこにいるのよりかなり大きいわよ!気を付けて!」
のそっと死骸を踏み付けながら勇作を見下ろしてきたそいつは・・確かにネズミとしては大き過ぎる。
体毛が逆立ち、ヤマアラシの見た目をクロサイ程の大きさにしたような巨大ネズミだ。
「ギシュ、ギシュ・・チュチュッ」
巨大な囓る歯を擦り合わせて耳障りな音を立てながら赤く光る目で見下ろしてきた。
メンバー達はこの異様な雰囲気と圧力に押され後退った。
「ギシュ、ギシュ・・キュキュッ」
こちらの怯えが伝わったのかまるで嘲笑うような声で嗤った。
次の瞬間、巨体とは思えない程の速度で心愛に迫り跳ね飛ばすと、後ろにいた花梨を尻尾で弾き飛ばした。
「・・くっ・・」「・・あぐっ・・」
そもそも遠距離攻撃担当の二人である。近接戦闘では勝ち目が無い。
バトルスーツの耐衝撃構造によって致命傷に繋がるダメージは受けていないようだが、やはり衝撃は二人の身体に届いてしまってすぐには立ち上がれない。
「よくも!やったなー!」「あらら、行くわよ!」
ここで近接戦闘担当の陽鞠と中距離担当の希美が心愛達を庇うように前に出た。
巨大ネズミの突進は質量差があり過ぎて薙刀師範代の肩書きを持つ陽鞠でも受けきれずに静型両刃薙刀で切り返すのが精一杯だ。
切り替えされた隙を縫って希美が長杖型鞭杖を振るって電撃攻撃を放つ。
「グギャッ・・ギャギャ」
電撃は巨大ネズミの表皮は焦がすものの、ヤマアラシのような体毛が邪魔して有効打にはほど遠い。
突進を躱しながら陽鞠が切り付け、隙を見付けて希美が電撃を放つ。
まだまだ体力の限界が見えない巨大ネズミに対して、陽鞠と希美は疲れから明らかに動きが鈍って来た。
「くっ・・厳しいよ-!」「あら、まだまだ行けるかな?・・行けないわね」
いよいよ攻防が厳しくなって来たところへ心愛と花梨の避難を済ませた勇作が加勢に来た。
「パシュッ・・」
収束拳銃の発射音が響き、巨大ネズミの頭部に着弾して大きく仰け反らせることに成功した。
「・・グッジョブだよ!勇作!」「あら・・待ってましたわ」
「すまん、遅くなった!・・奴が大本か!」
二丁の収束拳銃に小刀を取り付けた収束銃剣を構えて、勇作は巨大ネズミの前に躍り出た。
「俺が奴を引き付けて動きを一瞬止める!・・MCNでその隙を突いてくれ!」
「「了解!!」」
どう言う理屈か分からないが巨大ネズミには収束銃の殺傷効果が低い。
ヤマアラシのような体毛のせいか、体表が特殊なのか原因は不明だ。
勇作は収束弾を打ちながら巨大ネズミの鼻面を銃剣で切り付ける。
「ギャギャッ!・・」
およそネズミとは思えないような叫び声を上げて襲い掛かってきた。
「パシュッ、パシュッ・・」
両拳銃から放たれた収束弾が巨大ネズミの鼻面にヒットした。
「今だ!」
左右から囲むような位置で今か今かと待っていた陽鞠と希美はMCNを即座に射出した。
結果を見る間もなく、次弾を装填して射出した。
MCNに手足や顔を絡め取られた巨大ネズミは複数の電撃を受けて地面に音を立てて倒れ込んだ。
ネズミが倒れて地響きがするとは・・いかに質量が大きいかを物語っている。
しかし、完全に息の根を止めるには至らず立ち上がろうともがいていた。
陽鞠と希美が攻撃に出ようと前に出たところを勇作に止められた。
「俺がやる!」
勇作は背中に背負ったバッグの中から収束式機関銃を取り出した。
「本当は周りへの影響があるから森の中では使いたくなかったんだが・・ここまで来ると今更だな・・」
直後、一分間に三千発発射出来る収束機関銃から、収束弾の発射音がけたたましく鳴り響いた。
ヤマアラシのような体毛も体表の頑丈さも三千発の掃射には為す術も無く、手こずらせた巨大ネズミは穴だらけになってようやく息の根を止めた。
しかし、これで終わりでは無い。
今回の感染源撲滅ではネズミの駆除が第一目的ではあるのだが、根本的な媒介者であるノミをそのままにはしておけない。
駆除されたネズミ(MCNを使用した場合は電撃によりノミ自体も駆除出来る)から夥しい数のノミが霧散することになる。
この駆除についての話し合いではメンバー間で意見が割れた。
「・・焼き払え!・・」「そんなことをしたら山火事になりますわ」
「・・大事の前の小事・・やはり小物か花梨・・」
「キーッ!山火事は小事ではありませんわ・・表に出なさいお相手しますわ」
「殺虫剤はダメかなー!」「あら、山の土壌が汚染されないの?」
「陽鞠はそう言うけど希美の言うように薬は残るからねぇ・・やばいよねぇ」
「もう手が無いじゃないですか・・早苗ももっと真剣に考えて下さい」
「そう言うけどさぁ・・ワクチン作るんで疲れてるんだよ?愛理・・」
こんな感じで収集がつかなくなってきたところへ勇作から提案があった。
「生き物を駆除するのに必ずしも数百度以上の炎が必要では無いんじゃないか?消毒したい訳じゃ無いしな・・例えばこんな方法はどうだ?・・七十度ぐらいの熱風を周り中から放射したら駆除できないか?ダメか?」
火を使う訳では無いから延焼等の心配は無い。
熱風を掛けたところは木々もダメになるが範囲はかなり限られる。
昆虫類で熱風を掛けられて生き延びられるものは極少数で、少なくともノミは生きられない。
「うん、良いんじゃないかねぇ・・」「グッドアイディアだよ!勇作!」
勇作の早苗はしな垂れかかり、陽鞠は正面から抱き付いた。
「うぷっ・・ほ、他の皆はどうだ?」皆、異論は無いと頷く。
「分かった・・心愛と花梨、悪いがどちらかての空きそうな方で熱風機を作ってくれないか?」
勇作から頼まれた?二人は同時に立ち上がった。
「・・私が作る・・花梨は邪魔・・」
「私が作りますわ、心愛は引っ込んでて下さる?」
「・・私の方が高性能・・」
「私が心愛に劣ると?・・喧嘩を売ってますのね?」
二人は取っ組み合いをしながら、エルピーダ内の工房へと戦いの場を移して行った。
結局のところ、二人の開発競争は収まらずに勇作の仲立ちで心愛、花梨の合作として収束式携帯型熱風機ポータブルホットブロワー(通称PHB)が完成した。
戦線に復帰した心愛達を含めて、五方向からPHBを放射してノミの一斉駆除を完了したのだった。




