【五一】ワクチン接種 獣人族その三
高大一貫教育の大学三年生になり、実習のために船で離れ小島へ向かっていた主人公は突然の嵐に
遭遇してしまう。
気が付くと大学生男子一名、女子七名と女教師二名だけが異世界の孤島に漂着していた。
ここから孤島でのサバイバル生活が始まる。彼、彼女らは専門分野別に集められたエリート達だっ
た。
生活する上で不可欠な拠点造り、食料の調達から始めることになる。
かつての世界の技術力を駆使した武器や輸送手段を筆頭に様々な開発も行うことになった。
最大の問題は武器、輸送機に使用されていた原料がこの世界には存在し無いこと。
新たなエネルギーを得るために悪戦苦闘するメンバー達。
発見された常識を覆す新エネルギーは後の大発明へとつながって行くことになる。
この世界を統治する王国や巨大生物、未知の病などと格闘する日々が続く。
次々と降り掛かる問題を持ち前の技術力と結束力で乗り越えて行く。
自分達の国を創り上げるため奔走する冒険と青春の物語である。
陽が傾き、その日の作業を終了して拠点に戻って来た勇作達は拠点の異様に気が付いた。
エルピーダの脇に衛兵が倒れている。
少し先の木陰には獣人族の男達が笑い声を上げながら群れている。
くぐもった女性の呻き声に即座に事態を理解した勇作は二丁の収束拳銃をホルスターから抜いて走り出そうとした。
が、直後に花梨に止められた。
「な、何をする?」「勇作!今、出て行ったら人質を取られるだけですわ」
「・・だが、一刻を争う」
「ダメですわ、ここは私達に任せなさい!・・陽鞠、行くわよ!」
「分かった!!」
そこへ心愛と希美が帰って来て合流する。
「・・隙を作る・・」「あら、後は勇作の好きにして良いわよ」
花梨達四人は臆すること無く男達に近付いて行った。
「ちょっとあなた達!・・何をしているのかしら?」
突然、後から掛かった声にギクリとした男達だったが、華奢な人族の女達四人だと分かると余裕を取り戻して厭らしく笑った。
「何だ、獲物が勝手に舞い込んで来やがったぞ」
「何をしているのかと聞いているのですわ」
こういう時の花梨は頼もしい。恐怖は勿論あるのだろうがおくびにも出さない。
「ははっ・・見りゃ分かんだろ、これからお楽しみだ・・ちょうど人数が足りなかったところだ、お前達も可愛がってやるぜ」
下卑た笑いをしながら花梨達に近付く男達。
「ちょっと待って下さるかしら?・・そこにいるのは私達の大切な仲間なの!」
男達より遙かに小柄な花梨の身体からは怒気とも取れるオーラが放たれていた。
あまりの迫力に道を空ける男達の間を花梨は真っ直ぐ花江達に歩を進めた。
「か、花梨さん・・」
花江も初音も衣服を剥ぎ取られ、ほとんど全裸の状態だったが、まだ、一線は越えずに済んでいたようだ。
「大丈夫ですわよ!」
ショックの大きさから半分意識を飛ばしている初音を抱き寄せ、泣きじゃくる花江をも抱き寄せた。
「ギリッ・・」
花梨の身体から目に見えぬ憤怒のオーラが迸った。
「あなた方・・こんなか弱い女性を大勢で手籠めにしようなんて・・男の風上にも置けませんわ!!」
男達は花梨の剣幕に一歩、二歩と後ずさった。
花梨はこの期を見逃さなかった。
「今ですわ!!」
「・・死ぬが良い・・」「あら、殺っちゃって良いの?」
心愛が収束拳銃を発射、希美が電撃を放ちながら長杖型鞭杖を振るう。
「行っくよー!」「只では帰さん!」
陽鞠は片刃薙刀を殲滅用両刃薙刀に組み替えて男達に切り込む。
勇作は二丁収束拳銃を次々と発射した。
四人の男達は四肢があらぬ方向に曲がり、手足を切り飛ばされて瞬く間に行動不能にされた。
「チッ・・これじゃどうにもならねえな、ずらかるぞ」
リーダー格の男は包囲の隙を見て離脱を始めた。
残り二人の男は花江達を庇う花梨に襲い掛かった。
「「死ね!」」「嫌ですわ!」
その攻撃を花梨は収束和弓を盾に防いでいたが、二人を庇いながらでは自らを盾にするしか無かった。
「うっ・・ぐっ・・まだまだですわ」
致命傷は避けていたが、手足にいくつもの剣傷を負っていた。
「・・花梨!・・」
心愛は花梨が窮地と見るや猛然と男達に急追して収束銃を放った。
一人の男の腕が吹き飛び、太腿にも着弾させて行動不能にした。
もう一人の男は心愛に目もくれず、花梨に猛攻を加え続けた。
「くっ・・そろそろ限界ですわね・・」
花梨が諦め掛けた刹那・・心愛と同時に飛び出した勇作が花梨に斬り掛かる男の眉間を吹き飛ばした。
「花梨!・・花梨!大丈夫か?、花江さん、初音さん!大丈夫ですか?」
勇作が傷付いた花梨を抱き上げると、ニッコリ微笑んで気を失った。
一人、襲撃現場から離脱したリーダー格の男は独りごちた。
「チッ・・くそっ、邪魔が入りやがったか、もう一度出直しだ、今度はもっと人数揃えねえとな・・」
男は森の中を虎獣人の脚力を生かして疾走していたが、突然もんどり打って転がった。
「何だこりゃー!!」
男の両足は片方が焼け爛れ、片方は凍り付いて膝から下が無くなっていた。
「逃がすとでも思ったのかねぇ?」
木の陰からスッと現れたのは、男の両足を切断した早苗だ。
早苗の愛用の武器は棍棒が二分割される超高温と超低温の両手小太刀だ。
「動かないで下さい・・動けば打ちます」と収束拳銃を構えて警告する愛理。
「何言ってるんや・・警告なんていらんわ、こんな奴らは全員殲滅や!」
二分割型短杖鞭杖から男に向かって二つの電極を射出し、電撃を放った。
「アバババッ・・」
奇妙な叫び声を発して痙攣した男はその場で頽れた。
「早苗!花梨の手当を頼む・・愛理!花江さんと初音さんの服を持って来てくれ」
「了解だねぇ」「はい!」
勇作と志摩は自分の上着を脱いで花江達に掛けると「手の空いているメンバーは奴らを死なない程度に治療してから拘束を頼む!」と指示した。
久し振りに見る勇作の厳しい表情にメンバーは「「「はい!」」」と応えて行動を開始した。
花梨達三人はエルピーダに運んで早苗の検診を受けた後、自室で休ませた。
花梨の負った剣傷は幸いにも浅いものばかりだったようで、ほとんど傷も残らないだろうとのことだった。
花江と初音は引き連れられた時に負った擦り傷がある程度で、乱暴される前に助けられたようだ。
(今回のことは単に運が良かっただけだ・・花江さん達だけを拠点に残した俺のミスだ・・)
花江達に失策を詫びる勇作にメンバー達からは「勇作が悪い訳じゃ無い」と励まされたが、指揮官として想定しておかなければならない重大なミスだと自身を強く戒めるのだった。
翌朝、襲撃犯達を獣人族の衛兵に引き渡して、その脚で宮殿に向かった。
「一人で行く」と厳しい表情をしている勇作を心配してメンバーはワクチン接種班から愛理の手を空けて同行させた。
愛理は作業に向かうメンバー達から「勇作を頼みます」と送り出されていた。
「勇作くん、大丈夫?」「・・ああ」
「怒ってる?」「・・ああ」
いつしか勇作の瞳から光が消えていた。
(ああ、勇作くん・・これキレちゃてるな、ヤバイかも?)
代表との謁見が許され、勇作のいつに無い厳しい表情に訝しい表情を一瞬みせたが、いつものようにメイド長のラウラが案内してくれた。
既にレペンディス代表、ネフェレー政務官が謁見の場で待っていた。
「突然の申し入れにご対応頂きありがとうございます」
「いや、勇作殿からの緊急要請だからな・・して、今日は何用かな?・・うっ!」
顔を上げた勇作のゾッとする程に厳しく冷たい表情に凍り付いた。
「まだ連絡が入っていませんか?・・先程、宮殿の衛兵に我々のメンバーや護衛の衛兵を襲った襲撃犯を引き渡して来ましたが・・」
「・・なんと!・・ネフェレー!」
ネフェレーは即座に側に控える衛兵に指示を出し、自らも謁見の間を飛び出して行った。
「昨夜、我々のメンバー女性二人が拠点で獣人族に襲われました、暴行されたんですよ・・そちらから派遣された衛兵の人達は戦ったものの、犯人達に倒されてしまったようです」
「・・そんな事が」
「途中で我々が拠点に戻り撃退ましたが・・メンバーの何名かが怪我を負い、精神的に大きな傷を負っています・・襲撃犯はあのフォティアを頭と呼ぶ集団でした・・」
「・・あの馬鹿共が!」
「心当たりは?」「・・ある」
そこへ現状を確認しに行っていたネフェレーが戻って来た。
また、騒ぎを聞きつけた各種族の代表達も集まってきた。
「ご報告致します・・総勢八名の虎獣人で・・全員が手足を折られ、切断されていて重症です・・出来る限り聴取はしてきましたが、満足に話を出来るものが少なく調査は難航しています・・しかし、聞き出せた聴取の内容を精査すると、勇作殿達を襲ったのは確かなようです」
レペンディスは天を仰いで呟いた。
「・・なんと愚かなことを」
「レペンディス代表・・フォティアを含め、関係した者達を俺の前に連れて来て下さい」
「どうされるつもりか?」
「当然、報いを受けてもらう」「・・し、しかし」
はっとして勇作を見る愛理はゾッとする程に冷たい眼差しの彼を見て叫んだ。
「ダ、ダメだよ、勇作くん!・・それじゃ本当の解決にならないよ」
ふっと目を和らげた勇作は「大丈夫だ」と愛理の頭を撫でた。
「ううん、ダメ・・そっちに感情を持って行っちゃダメだよ!・・私に任せて!」
愛理は勇作を庇うように前に出た。
「私達は共和国からの正式な要請に応えて、御国を疫病感染から救うために心身を削って努力しています・・そんな私達を、それも抵抗する力の無い女性を力尽くで暴行したんです・・信じていたあなた方に裏切られ、私達のリーダーである勇作くんが憤るのは当たり前のことです・・勇作くんは・・私達のリーダーは何よりメンバーのことを大切に考えてくれています・・そう、自分の命よりも!」
「・・」レペンディスは俯いたまま微動だにしない。
「このようなことが絶対に、二度と起きないと代表が確約して頂く事、今回の襲撃犯及びそれに同調する者達の即時処分を行って下さらないのであれば・・私達は自分達の拠点に今すぐ撤退します・・ご返答を!」
愛理はこう叫びながら勇作の横顔をチラリと見た。
先程までの凍り付いたような表情から若干の熱を帯び、呆気に取られているような表情になった。
(これで良いんだよね?・・やっと少し戻って来てくれたのかな?)
レペンディスは雛壇の豪華な椅子から降りて、勇作、愛理の元へ歩を進めた。
片膝をつき、頭を垂れて陳謝した。
「勇作殿、愛理殿・・そのようなことがあったとは、知らぬでは通らぬことは十分に承知している・・そなたらの怒りはもっともだ、暴行を受けた女性達には心からの謝罪をしたい・・今回の襲撃犯は虎獣人の中の者達によるものと判明した・・即時、容疑者を検挙し処分することを約束する・・勇作殿達の尽力には本当に感謝しているのだ、私だけでは無く獣人各種族全てが同じ気持ちだ・・一部の愚か者によって失ってしまった信用を少しでも回復出来るよう全力を尽くす、二度と同じ過ちを犯さないと代表の名においてここに誓う」
愛理は心配そうに勇作を窺う。長い沈黙の後、幾分か目を和らげて勇作は口を開いた。
「・・分かりました、レペンディス代表の謝罪を受け入れます」
勇作はレペンディスを立たせるとその瞳を真っ直ぐに見詰めて言った。
「私にとってメンバーの皆は自分の命と同じ・・いや、それ以上に大切なものです・・それを害する者は一瞬の躊躇無く排除します」
「すまなかった・・後は我々の行動で信用を取り戻すしか無いと思っておる」
「レペンディス代表・・貴方を信じます」
二人はきつく握手をして別れた。
その後のレペンディスの行動は早かった。
勇作達の拠点であるエルピーダの周辺は一個師団を持って二十四時間体制で警備に当たった。
また、三つの班に分かれて現地に赴いて作業するメンバーには衛兵では無く、護衛として勇作達一人に付き四人ずつ騎士を派遣して警備に当たらせた
この護衛騎士は有事の際に宮殿を守る精鋭の騎士達である。
今回の騒動の原因である虎獣人達は三つある里を一時、閉鎖して徹底した捜査が行われた。
但し、勇作達からの要請で女性、子供、老人等はこの対象から外された。
レペンディス代表自らの陣頭指揮で行われたこれらの処置は迅速且つ的確であったため、獣人族への疫病対策は順調に進んで行った。




