【四五】魔人族 その二
高大一貫教育の大学三年生になり、実習のために船で離れ小島へ向かっていた主人公は突然の嵐に遭遇してしまう。
気が付くと大学生男子一名、女子七名と女教師二名だけが異世界の孤島に漂着していた。
ここから孤島でのサバイバル生活が始まる。彼、彼女らは専門分野別に集められたエリート達だった。
生活する上で不可欠な拠点造り、食料の調達から始めることになる。
かつての世界の技術力を駆使した武器や輸送手段を筆頭に様々な開発も行うことになった。
最大の問題は武器、輸送機に使用されていた原料がこの世界には存在し無いこと。
新たなエネルギーを得るために悪戦苦闘するメンバー達。
発見された常識を覆す新エネルギーは後の大発明へとつながって行くことになる。
この世界を統治する王国や巨大生物、未知の病などと格闘する日々が続く。
次々と降り掛かる問題を持ち前の技術力と結束力で乗り越えて行く。
自分達の国を創り上げるため奔走する冒険と青春の物語である。
「ちょっと待ちーや!!」
群衆が今にも勇作に飛び掛かろうとしていたところに凜とした女性の声が響き渡った。
「・・志摩」
「おう勇作・・私を置いて何楽しいことしてんねん」
「いや別に楽しいって訳じゃ・・」
「ふふ・・分かっとるて、後は私に任せや!・・」
そう言うと志摩は群衆に睨みを利かせながら人垣を分けるように広場中央に進み出ると言い放った。
「勇作・・こんなに怪我してもうて、全身傷だらけやないの・・何や何や!一人の男に寄って集って・・全く、いっぱしの男が小さいことを言ってるんやないで!・・文句があるなら私が相手になるで!」
「「「・・・」」」
「誰もおらへんのかいな・・勇作はな、あんたらの集落に一人で乗り込んでんねん・・力は見せたやろ、真剣勝負ならそいつら死んでんねんで・・要は口ばっかりの腰抜けぞろいなんやな!」
「勝手なことをぬかすな!」「お前一人で何が出来る」「侮辱は許さん!」
「ほうかい・・威勢だけは良いんやな、言いたいことがあるんやったら掛かってこんかい!」
「「「上等だ!」」」
志摩は持っている鞭杖をワンアクションで二分割すると、電撃を先端の導電部に纏わせて群衆に突っ込んで行った。
「ギャッ・・」「ウグッ・・」「アワッ・・」
鞭杖が振るわれる度に飛び掛かる男達は痙攣してバタバタと倒れて行った。
「こ、こいつも変な武器を使うぞ・・」「気を付けろ・・」
無闇に飛び込むことを止めた男達は遠巻きに志摩を囲んで輪を縮めて来た。
「ほう、そうかい・・そう来るならこうやな!」
二分割された鞭杖は先端に導電部があり、最大一万ボルトの電撃を放てる。
しかし、この鞭杖のギミックはこれだけでは無い。
鞭杖の名のとおり、杖の先端が鞭のように伸縮出来る。
先端には電撃用導電部があり、最大十メートルの鞭として機能する。
これは離れた対象に鞭を使って先端の導電部を飛ばして電撃攻撃を行うためのものだ。
両手の鞭杖を一振りすると、杖から先端に導電部を備えた鞭が射出された。
「「バリバリ・・」」
志摩の左右に飛ばされた鞭は確実に男達を捕らえ、電撃をお見舞いした。
「グアッ・・」「グギャッ・・」
電撃で倒れた二人の男達を見下ろして「本来なら黒焦げになってるところなんやで・・出力を最低にしてるさかい、失神する程度で許したる」と志摩は巨乳の胸を張った。
群衆の男達は固まっていた。瞬く間に五人の男達が倒された
正直なところ、あまりの早業に動くことが出来なかったというのが本当だ。
「何やもう終わりなんかいな・・しゃーない、次は素手でやってやるで」
ホルスターに鞭杖をしまうと、近くにいた男に向かって手招きして挑発した。
「くっ・・おのれ、馬鹿にしおって!」
男は志摩に掴み掛かった。が、次の瞬間、男の身体は宙を舞っていた。
「ぐえっ・・」
地面に叩き付けられた男はそのまま失神した。
志摩はかつての世界で合気道、古柔術の達人であった。
技を持たない男達など志摩にとっては木偶と同じだ。
「あがっ・・」「おごっ・・」「ぐえっ・・」
次々と投げ飛ばされ、腕を決められて引き倒され、意識を飛ばした男達が積み上がっていった。
「あんたが族長やってな・・これでも私達の話が聞けへんのかいな、どうなんや?」
あまりの光景に口を開いて固まっていた族長の男はようやく再起動した。
「皆、もう止めよ!・・これ以上の戦いは無用だ」
族長の言葉に皆、剣をしまい素直に従った。
「勇作殿と・・志摩殿であったか、不躾な争いに巻き込んでしまったこと、まず詫びさせてもらう・・私がこの集落を預かる族長のオルフェンと言う・・そなたらの力は十分に理解させて貰った、今後は客人としてもてなさせてもらう・・皆の者、異議は無いな?」
オルフェンはそう言うと群衆を見回し、異議を唱える者のいないことを確かめると「まずは私の家に来て頂こうか・・付いて来てくれ」と勇作達を案内した。
そこは他の家よりは少し大きい程度の普通の家屋だった。
「不思議かね?・・族長の私の家がこのように普通の物で」
「いえ・・ただ、予想していたよりかは普通かと・・」
「ふふ・・勇作殿は正直よな・・我々の住む地域は土地が枯れていて、作物もろくに育たぬし獣も少ないのだ・・暮らしに余裕が無いのだよ」
そう言いながらオルフェンは自らお茶を煎れてくれた。
「今まで嗅いだことの無いハーブの香りやな・・でも良い香りや」
「俺もそんなにこっち方面は博識では無いが確かにそうだな」
暫し、お茶を飲んで休憩した後、オルフェンが切り出した。
オルフェンは姿勢を正すと深々と頭を下げた。
「先程は勇作殿達の力を試すようなことをしてしまい申し訳無い・・我ら魔人族は長年に渡って力によって皆をまとめて来た歴史がある・・生存競争が激しかったこともあって力の無い者に対して苛烈に当たってしまうところがあるのだ、すまぬ・・」
「いえ、謝罪は受け入れます・・終わったことですし・・」
「そう言って頂けると安堵する・・して、この度ここまで来て頂いた理由をお聞きしても?」
「はい、共和国プリメノス代表より依頼を受け、この大陸で感染が広がっている疫病の調査に来ました・・」
「その内容は官邸からの通知に書いてあったな・・何でも獣人族の間で今までに経験の無いような疫病が広がっているとのことだが・・」
オルフェンに渡された依頼書は確かに共和国代表の書かれた書であった。
「最新の情報では獣人族以外のエルフ族やドワーフ族でも感染者が出ているそうです・・疫病を発生させる原因がどこにあるのか、発症してしまっているとしたらどのように感染を防いで行けば良いのか各種族の方々のところへ俺の仲間達が手分けして向かっています」
「それで我々のところへは勇作殿達が来られたと・・」
「はい・・」
オルフェンは腕組みをして考え込んでいた。
魔人族の間で今までに感染が起こったとは聞いていない。
ただ、魔人族達は基本的に群れないので、集落があっても少人数であり全体の情報を掴むのが難しい。
「一人、二人で生活している魔神達は所在を掴めないが、小さくても良いのであれば集落を形成しているところを教えることは出来るが・・」
「別にそれでええやん・・どうせ全てを調べる訳にはいかんのやから・・」
「・・そうだな、では明日、集落のある場所を教えて頂きます」
「分かった・・」
勇作達は族長の家を出てホバーに戻った。
泊まって行けと引き留められたが、あまり余裕の無いところに迷惑は掛けられない。
その夜、夕食を摂ってシャワーを浴びた勇作がのんびりと夜具に横になっていると、今日の戦闘で昂ぶっていたのか寝込みを志摩に襲われた。
「お、お前・・ここはホバーの中なんだぞ!」
「だから何やの?・・このままじゃ昂ぶって寝られへんのよ、天井の染みでも数えてる内に終わるから・・」
「うぐっ、何の比喩だよ・・こら、志摩!」
勇作の抵抗空しく美味しく頂いてしまう志摩だった。
翌朝、生気漲るツヤツヤ顔で起きてきた志摩は、若干やつれた顔の勇作のために腕によりをかけた朝食を用意することにした。
真空処理された食材の中から豚肉風の肉を軽く茹でて味付けし葉物野菜と合わせた豚肉風冷しゃぶサラダ、鹿肉風燻製肉と根野菜を煮込んだ具沢山ポトフ、鮭風切り身に塩胡椒してバタ風味ーで焼き上げたムニエル、発酵釜から取り出した自家製ヨーグルト、この世界で言う柔らかい仕上がりの白パン・・というラインナップだ。
志摩に呼ばれてテーブルに付いた勇作は料理を目の前にして固まった。
「・・これ、全部志摩が作ったのか?」
「そうや、勇作に栄養付けてもらわないかんやろ?」
「そ、それはありがたいが・・朝からとんでもないボリュームだな」
「勇作には頑張ってもらっとるんで腕によりを掛けたんや」
「あ、ありがとう・・頑張るか・・」
食べる勇作を見ながらニコニコと給仕する志摩のため、頑張って一時間程掛かったが全て平らげた。
「うぷっ・・も、もう入らん」
「お粗末様やで・・」
ご機嫌な志摩であった。
大量の朝食を何とか平らげた勇作だったが、食休みは避けられず昼前になってようやく動き出した。
この集落内と周辺の調査を終えた後、族長に紹介してもらった小規模集落を回ることになった。
集落間に距離があるため、族長は同行出来ないらしい。
ホバーに乗り込んだ勇作達は教えて貰った小さな集落を回り始めた。
辺境、僻地にある魔人族の小さな集落を訪ねて来る者などほとんどいないため、勇作達は最初からかなり警戒された状態から調査はスタートした。
「お前達、人族がここへ何しに来た・・用は無い、帰れ!」
「人族と話すことなど何も無い・・すぐに立ち去れ!」
・・と、まあ散々な対応をされ、その度に勇作は根気よく説得した。
中にはいきなり小競り合いになって、力こそ正義と言わんばかりに襲い掛かってくる魔人達もいた。
「なんや!人の話も聞かんと・・全くしゃーない奴らや」
ここでは勇作の出番無く、鞭杖を使うことも無く志摩は男達を次々と投げ飛ばしていった。
「つっ・・姐さん、強いっすね」
「若くて美しく武術の嗜みまで至高とは・・」
「我らが魔人族の女帝となってはもらえまいか」
叩きのめされた男達は流石に魔人族と言うべきか、力量を即座に認めて自分達の女帝として君臨して欲しいとまで言いだした。
「な、何なんや、こいつらは・・私はな、ここにいる勇作のもんなんや、あんたらの女帝なんぞやってられるか!」
・・と志摩が叫ぶや否や、男達の視線は「貴様!殺す!」と殺意を乗せて勇作に集中した。
(全く、志摩にも困ったもんだ・・そんなことを言えばこうなるに決まってるだろうに・・)
男達の殺意の籠もった嫉妬の視線を浴びながら溜息を付いた。
その後、結局、勇作は男達に次々と勝負を挑まれ、全員が昏倒して倒れるまでこの喧噪は続いた。
色々と面倒な魔人族達だがこちらの力を認めれば、馬鹿にした行動を取る者はおらず疫病の調査もスムースに進められた。
族長のいた集落を含めて小さな集落を二日間程掛けて調査したが、疫病に感染している者はおらず、感染源の可能性のある物も見付からなかった。
魔人族達は基本的に運動能力が高く、強靱な身体を持っているので疫病等にも罹患し難いのかもしれない。
詳しくは拠点にいる医薬部の早苗の判断を仰がなければ確かなことは言えないが。
ただ、魔人族には疫病以上に深刻な問題があった。
土地の痩せた辺境の地では極めて食糧事情が良くないのだ。
複数の集落を回って見たところでは、どこも同じような状況だった。
作物が順調に育てば、畜産に力を注ぐことも出来る。
野山から数少ない動物を狩ってこなくても、安定的に食料が調達出来る。
過酷な環境下でも育つ、山羊や羊が適しているだろう。
しかし、人が飢えていて家畜に回す餌を確保出来ない現状ではどうにもならない。
まず、最優先で取り組まなければならないのは、この地で育つ作物の栽培だ。
ホバーに搭載している長距離無線を使って、拠点にいる農畜部の陽鞠に意見を求めた。
「・・なるほどー!・・うーん、候補はいくつかあるけどすぐに手に入れられるものでは大豆、サツマイモ、麦、蕎麦とかかな!・・えっ?そんなに過酷な土地なんだ、そっか-!・・じゃあねぇ、取り敢えずは品種を絞ってやってみたら良いよ-!・・うん、サツマイモと蕎麦が良いと思うよ!・・分かった、場所を教えてくれるかな?カーチスで届けに行くよ!・・んっ?悪いって?何言ってるのよ!勇作の頼みだったらすぐ行くよ、今から行くから!待っててね-!」




