【四十】ドワーフ族 その一
高大一貫教育の大学三年生になり、実習のために船で離れ小島へ向かっていた主人公は突然の嵐に遭遇してしまう。
気が付くと大学生男子一名、女子七名と女教師二名だけが異世界の孤島に漂着していた。
ここから孤島でのサバイバル生活が始まる。彼、彼女らは専門分野別に集められたエリート達だった。
生活する上で不可欠な拠点造り、食料の調達から始めることになる。
かつての世界の技術力を駆使した武器や輸送手段を筆頭に様々な開発も行うことになった。
最大の問題は武器、輸送機に使用されていた原料がこの世界には存在し無いこと。
新たなエネルギーを得るために悪戦苦闘するメンバー達。
発見された常識を覆す新エネルギーは後の大発明へとつながって行くことになる。
この世界を統治する王国や巨大生物、未知の病などと格闘する日々が続く。
次々と降り掛かる問題を持ち前の技術力と結束力で乗り越えて行く。
自分達の国を創り上げるため奔走する冒険と青春の物語である。
時間を遡り、ドワーフ族の町へと向かい出発した希美と愛理は・・。
ドワーフ族は山脈の連なる山麓に町を築いていた。
これは鍛冶を主の生業としているドワーフ族にとって非常に効率的な立地条件なのである。
何が効率的なのか。彼らの生業が鍛冶であることが理由だ。
金属の結晶や鉱石はほとんどの場合、火山と関係が深い。
火山地帯でなければ手に入らないものもある。
また、結晶や鉱石から必要な成分を抽出するためには、これらを高温に熱するための溶鉱炉が必要になる。
この燃料として木材や石炭が大量に必要になるのだが、これら全ての材料が山麓にいれば比較的簡単に手に入るのだ。
エルピーダの待機する獣人族の都市からドワーフ族の住む山麓まで馬車で一週間の距離だ。
希美達の乗るミニホバーでも五日間は掛かる行程であった。
計算上では四度の野宿が必要になる。
食料や水、生活必需品は日数分以上の量を積み込んである。
「あら、少し眠そうね?・・代わりましょうか?」
いつものんびりとした口調の希美はいるだけで癒やされる希有な存在であるのだが、淡々と長時間草原を進むだけの運転を続けている愛理にとっては逆に気が抜けてしまい集中力が削がれてしまう。
「だ、大丈夫です、まだまだ行けます」
「本当かしら-?」
「交代まではまだ時間がありますから・・頑張ります!」
「ふふっ、分かったわ・・辛くなったら言うのよ~」
そう言うと希美はベッドに潜り込んだ。
まだ夕方には早い時刻であったが、夜の不寝番を考えて少しでも睡眠を取っておこうと二人で話し合ったのだ。
愛理はかつての世界で国内A級ライセンスを持つレーサーだった。
異世界に飛ばされるようなことが無ければ、国際ライセンスに挑戦していたことだろう。
しかし、競争相手がおらず、延々と同じ景色の中で長時間運転を続けることは愛理をもってしてもかなりの苦痛と我慢を強いられていた。
運転についてはあまり得意ではない希美の負担を少しでも減らそうと、交代時間の三時間を経過しても運転を続けていた。
ふと、集中力が途切れてきたな・・と感じていた運転を始めて五時間程が経った頃、前方に巨大な竜巻のような砂煙がかなりの上空まで立ち上っていた。
嫌な予感に駆られた愛理は希美を起こすことにした。
「希美!・・起きて下さい、希美!」
「う、うーん・・あら、随分と寝過ごしてしまったわ・・ごめんね」
「いえ、起こさなかったんですから良いんです・・それより前方を見て下さい!」
「えっ?・・あれって」
「はい、多分、竜巻ですね・・進行方向にあるのでルートを変更して回避します・・ナビゲートお願いします」
「ええ、分かったわ」
話している間にも竜巻は愛理達の方へと迫って来ていた。
愛理は操縦桿を右に切った。ミニホバーはほぼ九十度に曲がる。
一瞬、竜巻の猛烈な風に煽られて、操縦不能になりかけたが路面との接地を高めることで何とかやり過ごした。
「そのまま五百メートル程直進よ!・・その後、取り舵一杯よ!」
「了解!・・取り舵ってことは左に行けば良いのよね?」
「・・直進そのまま三百メートル、面舵一杯ね」
「了解です・・今度は面舵だから右に行けば・・」
ミニホバーは陸地との接地距離を比較的自由に変更できるシステムを搭載している。
エネルギー使用量を考えなければ、陸地から一メートル近く浮いた状態でも航行出来るのだ。
「ふーっ・・何とか躱せました」
「危なかったわね・・」
後もう少し気付くのが遅ければ、回避が間に合わなかったかもしれない。
思わぬ自然現象に遭遇して、冷や汗を流した二人だった。
そんなトラブルに遭いながらも四度の野宿を経て、山麓に到着した。
野宿とは言っても、普通の食事は出来るし風呂に入れてベッドで寝られるのだから本当にこれを野宿と言って良いのか疑問ではあるが。
大きな山門の前で停車した愛理達は衛兵に来訪した趣旨を説明した上で、共和国代表から貰った依頼書を見せた。
「私達は共和国代表から依頼されてドワーフ族の方々の町での疫病感染状況を調査に来ました・・これが依頼書になります」
衛兵は「確認するので暫く待たれよ」と言い残して門内に消えた。
「あらあら、やっぱりドワーフ族って背が小さいのね・・他の人達もそうなのかしら」
「希美!・・あまり不躾なことは控えて下さい、これから交渉が始まるんですから」
「ふふっ・・ごめんね」と悪びれる様子も無い希美だった。
三十分程で確認に行っていた衛兵が戻って来た。
「確認が取れたので入場を許可する・・但し、貴公達が乗ってきた乗り物か?これは中には入れんぞ?」
確かにいかにミニサイズとなったホバーと言えど、軽く観光バス程度の大きさはある。
暫く悩んだ末、「出来れば山門の近くに駐機したいのですが、どこか良いところはありませんか?」尋ねてみた。
「そうだな、塀伝いに少し行くと大きな木がある・・その周辺であれば問題無いがそれでも良いか?」
「はい、問題無いです・・そこに停めさせて頂きます」
愛理達は指定された場所にミニホバーを駐機させると、到着を聞いて駆け付けた町長の代理と言う案内人に付いて入場した。
メインストリートであろうその道の両側には煉瓦造りの家が建ち並び、所々にある煙突からモクモクを煙が立ち上っていた。
時々見掛ける人達は男女を問わず皆、背は低くくがっしりした体躯をしていた。
案内された大きな建物は煉瓦造りで三階建てのビジネスビルのような装いだった。
二階にある事務所のような応接室に案内され、ここで待つよう伝えると案内人は部屋を出た。
代わりに入ってきた女性はかつての世界のスーツのような服に女性としてはがっしりした身を包み、一礼した後、お茶とお菓子を配膳して退出した。
「ねえねえ、やっぱり皆、背が低くて良い身体してる人達ばかりね」
「発言にはくれぐれも気を付けて下さいね、希美・・でも確かに言えてますね、種族の特徴なんでしょうか?」
十分程経過した頃、案内人が部屋に呼びに来た。
「代表が皆様に会われますので、付いて来て下さい」
事務所のような扉を開くと、一際、身体の逞しい男が大きな事務机に座っていた。
「おう来たか、俺がこの町の町長兼組合長のハルモニアって者だ・・んで?あんた方は?」
「共和国代表からの依頼で参りました、私が愛理と言います・・隣は」
「希美です」
ハルモニアはじっと二人の少女を見詰めた。
「代表からは事の内容について手紙を貰っている・・だが、この町で疫病の感染は起きてねえぞ?」
「そうなのですね・・」「あら、でも調べて見なきゃ分からないんじゃない?」
希美のフランクな物言いにハルモニアは一瞬呆気に取られたような顔をした後、豪快に笑い始めた。
「がははっ、俺を前にして中々の口を聞くじゃねえか・・随分と肝の据わった嬢ちゃんだ」
ハルモニアは希美をギロリと睨む。
「す、すみません、こら希美!何て口を聞くのよ!」
「えっ?・・だってハルモニア町長は見た目は怖いけど、すごく優しい方だと思うわよ?・・そんな事で怒るような方では無いですよね?」
ニッコリ微笑みながら返されたハルモニアは半ば呆れたようにプイっと横を向く。
「全く調子の狂う嬢ちゃんだな・・愛理殿と同い年と聞いているが本当にそうなのか?・・その艶熟な雰囲気は嬢ちゃんの年で出せるようなもんじゃねえんだがな」
「ふふっ・・褒められちゃった」
「希美!申し訳ありません、あまり周りを気にせず何でも口にしてしまうところがありまして・・ご気分を害されたようでしたら謝罪致します」
「・・ああ、まあなんだ、別に気分を害してなんかねえよ」
「ははっ・・観察眼の優れた方なのですな、希美殿は・・仰るとおりこの方は見た目はアレですが、気の優しい暖かい方なのですが、発言が誤解を受け易く損をしておられるのですよ・・ああ、申し遅れました、案内人を務めさせて頂きました私は施設長をしておりますアスターと申します、お見知りおき下さい」
「おい、アスターてめえ、何を背中がむずむずするような事を言ってやがるんだ、ぶん殴られてえのか?」
アスターは肩を竦めてスルーした。
「チッ・・そんであんた方は何をするってんだ?」
「はい、ドワーフ族の方々の居住地で疫病の感染が無いか、感染源は無いのか、感染対策は出来るか等について調査したいんです」
「はっ?だからうちの町には感染者は出てねえって言ってるだろ?」
「い、いえ、ですから本当に感染者が出ていないのかを調べたいんです」
「ほう、じゃ何か?俺の言ってることが嘘だって言いてえのか?」
「いいえ、今回の疫病は二つの感染要因が複雑に絡んでいる可能性があるんです・・現在、感染者が出ていないのであれば尚のこと予想される感染源の元を絶つべきと考えています」
「あら、獣人族の町での爆発的な感染は知っていますでしょう?・・あの惨状がここで絶対に起こらないと言えるのかしら?」
「・・しかし、あの疫病は獣人族にしか感染しねえって聞いてるぞ?」
「ふふっ、残念・・もう既に疫病が変異を始めてて、他の居住地のエルフ族やドワーフ族にも感染者が出ているらしいわよ?・・それでも町長さんは大丈夫と言い切れるのかしら?」
押し黙ったハルモニア。「・・本当のことなのか?」
「はい、そのように聞きました・・未だ私達は確認出来ていませんが」
「そうか・・」
ハルモニアは腕組みをしてしばらくの間、目を閉じて考え込んでいた。
スッと目を開くと確認するように尋ねた。
「その疫病を起こしているものが、変異とかしやがると俺達にも感染するってことなんだな?」
「現段階では可能性があるとしか言えません、我々は共和国代表からその可能性についても調査を依頼されています・・もし、変異した感染源がこの町に存在していた場合、ドワーフ族が感染するリスクは跳ね上がると推測しています」
「・・そうか・・分かった、あんた方の言うことを信じよう、確かに感染が起こってからでは遅いからな」
「あら、了解してくれたの?・・散々ごねていたけど分かってくれたのかしら?」
「・・チッ、口の減らねえ嬢ちゃんだな」「ふふっ・・」
「まあいい、それで俺達は何をすれば良いんだ?」
「ありがとうございます、出来ればこの町の地図を見せて頂けませんか?・・調べるポイントを絞り込みたいんです」
「ああ、分かった・・おい、アスター!地図を持ってこい」
用意された地図を見ながら愛理は希美と絞り込み作業を進めた。
「ここが貧困層の居住区で良いんですね?・・なるほど、ここは外せないと・・」
「あら、下水道の経路が分かるものは無いのかしら?・・こっちの地図がそうなのね・・合流地点を重点的に調べた方が良いわね・・」
愛理と希美の作業はその日の夕方まで続いた。
調査は明日朝から始めることとして、一旦、ホバーに戻ろうとする愛理達をハルモニアが呼び止めた。
「一々、場外の駐機場まで戻ることはねえよ、宿はこっちで手配しておいたからそこに泊まんな」
「あら、以外と優しいのね?町長さん」
「チッ・・いちいち口の減らねえ嬢ちゃんだ、共和国から正式に派遣されてきた調査員をぞんざいには扱えねえよ」
「ふふっ・・それではお言葉に甘えましょう」
「本当に済みません、連れが失礼しました・・お言葉に甘えさせて頂いても良ろしいですか?」
「ああ、構わねえよ・・ふっ、あんたも苦労するな」
「あははっ・・」
休むためにハルモニアが用意してくれた宿屋は町一番の高級宿だった。
室内には大きなダブルベッドが二つ設置された寝室が二部屋と広いリビングルームにバルコニー、シャワールーム等が完備されていた。
湯に浸かる文化が無いのかバスルームが無いのは日本人としては不満が残るが、これほどの部屋を用意してくれたハルモニアの厚意に感謝だ。
宿の一階にある食堂で夕食を摂った後、部屋に戻った愛理達は翌日からの予定について話し合い、その後、疲れが出たのか泥のように眠った。




