【三五】システア共和国へ
高大一貫教育の大学三年生になり、実習のために船で離れ小島へ向かっていた主人公は突然の嵐に遭遇してしまう。
気が付くと大学生男子一名、女子七名と女教師二名だけが異世界の孤島に漂着していた。
ここから孤島でのサバイバル生活が始まる。彼、彼女らは専門分野別に集められたエリート達だった。
生活する上で不可欠な拠点造り、食料の調達から始めることになる。
かつての世界の技術力を駆使した武器や輸送手段を筆頭に様々な開発も行うことになった。
最大の問題は武器、輸送機に使用されていた原料がこの世界には存在し無いこと。
新たなエネルギーを得るために悪戦苦闘するメンバー達。
発見された常識を覆す新エネルギーは後の大発明へとつながって行くことになる。
この世界を統治する王国や巨大生物、未知の病などと格闘する日々が続く。
次々と降り掛かる問題を持ち前の技術力と結束力で乗り越えて行く。
自分達の国を創り上げるため奔走する冒険と青春の物語である。
拠点に戻って二週間が経過した。
メンバー達は文字通り昼夜を問わず、依頼をクリアするため作業を続けていた。
毎度のことながら心愛と花梨は作業に没頭するあまり、睡眠不足と疲労から工房で倒れ、大騒ぎになったものの回復後に勇作から拳骨をもらうという騒動があったものの皆の頑張りもあって、求めていた開発は順調に仕上がっていた。
気密スーツは希美と花江の頑張りで、メンバー全員のバトルスーツ兼防護スーツが完成した。
この類のものはともすれば無機質なスーツになってしまうのだが、そこは女子メンバーがほとんど(勇作以外は全て女子)であるため、生地の装飾やら、色合いやらと様々な要望に応えた力作なのだそうだ。
勇作から見れば〇〇戦隊にしか見えないのだが、それを言ったら命の危険があるので黙って置く。
ちなみに勇作のスーツはオーソドックスに黒色で統一してもらった。
煮沸消毒用カプセルは心愛と陽鞠の共同開発で二人であれば可搬出来るサイズで完成出来た。
洗浄に使う水も自前で精製出来て、収束エネルギー発生装置と同様の原理で発電できるシステムが組み込まれている。
また、洗浄後の汚染水は超精密フィルタを通すことで万が一にも外部に漏洩しない仕組みが採用されている。
生体センサはエルピーダのメインエンジンに搭載された高出力エネルギー結晶を更に高濃縮化して随時、高出力エネルギーを取り出せるよう心愛が一から設計を見直して開発を行った。
これによりエネルギー問題に目処が付いた生体センサはUWB技術を使用した生体検出システムとして花梨が開発を完了させた。
大学時代に既に理論は完成していたようで、システムとして満足のいく物が出来たようだ。
このシステムをフル稼動させるためのエネルギー源として高出力エネルギー発生装置を心愛が完成させてくれたのだ。
二人の合作として出来上がった生体センサは八時間のフル稼動が可能で、建屋内であっても半径百メートル以内の生体を検出出来るものになった。
エネルギーを使い果たした結晶はエルピーダに新たに搭載されたエネルギーチャージシステムによって二十四時間で充電が完了する。
このチャージシステムは拠点にしか無かったものだが、エルピーダ艦内でも出来るよう花梨が追加で搭載したものだ。
早苗は来たる共和国遠征を前に検査装置と培養装置の製作に取り掛かっていた。
検体が手に入っても検査に時間が掛かってはどうしても後手に回ってしまう。
そして有効な原株が見つかったとして、ワクチンを作るには培養が必須であるため培養装置も必要になってくる。
心愛と陽鞠の手を借りながらも二週間と言う短期間に数セットの装置を完成させた。
これにて拠点で出来る準備は全て終わった。
「・・くっ、無念・・」心愛は自身の開発したオケアノスが今回、役に立たないことを悔しがっている。
今回は内陸を中心とした活動になるため、オケアノスは留守番なのである。
勇作は悔しがる心愛の頭を撫でて宥めながら「では、システア共和国に向けて出発する!」と指示を出した。
「「「「了解!」」」」
全ての機材を積み込んだエルピーダは拠点を飛び立った。
勇作達はまずトゴイル島を目指した。
これはシステア共和国本土に上陸する前に属島であるガイル島を視察しておきたかったからである。
トゴイル島からガイル島へ使者を立てて上陸の許可を取ることになった。
多民族国家であるシステア共和国にとってガイル島は特別な意味を持っている。
それはガイル島が「始まりの島」と言われることにも関係する。
地上に様々な生物が次々と誕生していた頃、ガイル島に男女一組の人族の祖が神々より産み落とされた。
この人族の祖は島のあらゆる生物と交わった。
ある時は獣類と、ある時は両生類と、ある時は森の草木と・・気の遠くなるような時を経て進化を遂げた生き物たちは思い思いに島を出て大陸へと旅立って行った。
これらの一部が人族、獣人族、エルフ族、ドワーフ族、妖精族、魔人族へと枝分かれして行くことになった。
その中で知能、繁殖力が高く、成長速度の速い人族が最も早く大陸に馴染んで独自の文化を形成していった。
地殻変動や自然災害、疫病等の影響もあって、大陸の三分の二を人族が占め、他の民族は残りの三分の一に肩を寄せ合うように生きて来た。
この多民族国家がシステア共和国の興りである。
人族には欲深く、悪知恵の働く者が少なからずいて、人族以外の民族を騙して捕虜や奴隷にして強制労働に従事させたりしていた。
人族の間では宗教的思想を持つ者達と王制を望む者達で争いが起き、分裂する結果となった。
これがルビナンス教国であり、アサルド王国である。
ガイル島から上陸許可の下りた勇作達はエルピーダを水上航行モードにして、トゴイル島を出港した。
飛行形態で向かっても良かったのだが、初めて見る大型飛行船であるエルピーダを見た島民達が余計な騒動を起こすことを避けるのが理由だ。
ゆっくりとガイル島に入港した勇作達は王国で会見した際に、システア共和国の使者ガーダからもらった入国許可証を港の衛兵に見せた。
志摩開発の翻訳機が働いてくれるお陰で会話に困ることは無いが、耳にした言語としては王国とは異なる言語体系のようだ。
勇作、心愛、志摩、早苗の四人が上陸し、衛兵に案内されて村長宅に向かった。
他のメンバーは有事に備えてエルピーダで留守番だ。
心愛はクレー射撃学生日本代表になる程の腕前で遠距離攻撃を主としている。
エネルギー収束砲と収束拳銃を装備している。
志摩は合気道、古柔術の有段者で中距離戦闘を主として担っている。
鞭杖として電撃も出力出来る二分割式棍棒を装備している。
早苗は剣道、居合道の有段者で近接戦闘を担ってくれている。
二分割式小太刀を内装した棍棒を装備している。
中身を知らない者達にとっては、大きな筒やただの棍棒にしか見えないので必要以上に怪しまれなくて済むのが利点だ。
また、全員が今回開発したバトルスーツを着込んでいる。
取り敢えず、今回は気密マスクまで装着していないが。
勇作はバトルスーツの上に銃剣収束機関銃を背負っている。
案内されて行く道々ですれ違う人々に、猛威を振るう疫病の影は見当たらなかった。
村長宅に到着した勇作達は早速、島内の感染状況について話を聞いた。
「初めてお目に掛かります・・システア共和国の使者ガーダ殿からの依頼で調査に来たものです」
まずは勇作が同行しているメンバーの紹介を行った。
村長からも紹介が行われ、勇作は島内で感じた疑問について尋ねて見た。
「港からこちらまで歩いて来ましたが、共和国本土で問題になっている疫病に掛かっている人を見掛けませんでしたが・・」
「そうじゃろう、この島では一人も感染者は出ておらんからのぅ・・」
「「「「・・」」」」
島民達にそのような影が無かったのはやはりそういうことか・・。
「感染者が出ていない理由に心当たりは?」
「何じゃろうなぁ・・強いて言うなら始まりの島じゃからかのぅ」
「・・始まりの島」
それ以上の情報は得られず、村長宅を後にした。
「・・早苗、理由は分かるか?」
「全くだねぇ・・始まりの島か、そこら辺にヒントがあるかもねぇ」
エルピーダに戻った勇作達は一晩の停泊許可をもらって、翌朝、共和国本土に向けて出港した。
目立つことを避けるため、水上航行したため時間を要したが三時間程で共和国の港町エステリアに到着した。
エステリアに入港し、衛兵に使者ガーダから渡された許可証を見せて入国許可を問い合わせてもらった。
連絡を待つ間、見知らぬ人族が来たと勇作達は港に集まる人々の衆目に晒された。
見ると犬耳、猫耳、狐耳などが頭の上に乗り、お尻に尻尾の付いた獣人族がいる、と思えば細身に容姿端麗なエルフ族と見られる者達、ずんぐりとした体形で立派な髭が特徴的なドワーフ族等・・確かにここは多民族国家なのだと知らされる。
共和国にも人族がいないことは無いのだが、非常に少数であり総勢十名の勇作達人族の襲来(港の人々にはそう見えたらしい)に騒然としていた。
待つこと一時間程で入国許可が下りた。使者ガーダの待つ宮殿まで来て欲しいとの事だ。
港町エステリアから宮殿まで馬車で二日程の距離があると言う。
宮殿までは衛兵が警護に当たりながら、馬車で移動するのだと言う。
これには勇作達が難色を示した。
エルピーダには今回使用する分析機器、培養機器、消毒カプセル等、多数の機材を積んで来ているため置いて行く訳には行かないのだ。
エルピーダという移動手段について衛兵達に色々と説明したが理解を得られない。
勇作は半ば強引に宮殿近くにあるという平原で落ち合うことに決めた。
案内を命じられている衛兵は難色を示していたが、埒が明かないため押し切った。
勇作はメンバー全員にエステリア港沖に一度出てから、飛行形態で目的地に向かうことを伝えた。
心配そうに見詰める衛兵や人々を港に残し、エルピーダは静かに出港した。
一キロメートル程、沖合に出たエルピーダは両翼にある収束ツインエンジンを垂直離水のため下方に向けた。
「では、共和国宮殿近くの平原に向けて発進する!」勇作が指示を出した。
愛理が「平原に向けて発進して下さい」と復唱した。
「エルピーダ発進ですわ」「了解!・・エルピーダ発進や」花梨と志摩が応えた。
志摩のスロットル操作により収束ツインエンジンが唸りを上げた。
エルピーダが徐々に海上より離水して行く。
遠い海上から響く聞いたことも無いエンジン音に、エステリアの人々は腰を抜かせて空へと舞い上がる機体を見上げていた。
海上百メートル程まで浮上したエルピーダは水平飛行に移行し、宮殿近くの平原に向けて飛び立った。
通信係の花江から「もう少しで目的地に着きます」と告げられる。
眼下の景色を確認すると、まだ距離はあるが宮殿らしき建物が視認出来る。
「エルピーダ、降下準備に入って下さい」
「エルピーダ降下準備ですわ」「了解や・・降下準備!」
収束ツインエンジンを徐々に下方へ向けて速度を落としたエルピーダが平原へと降下して行く。
「良し、着陸完了や・・」「着陸完了を確認ですわ」
「皆、ご苦労様です・・では機体のチェックは陽鞠、お願いします」
「分かった、了解だよー!」指示を受けた陽鞠は元気に機体後部へと移動して行った。
「心愛、花梨・・ホバーとカーチスの整備を頼む」
「了解ですわ」「・・分かった・・」心愛と花梨も後部格納庫へ移動して行った。
「早苗は調査の準備に入ってくれ、希美は早苗のバックアップを頼む」
「了解だねぇ・・」「あら、私は早苗のフォローね」
「花江さん、初音さん・・エルピーダ周辺の索敵と野営の準備をお願いします」
「分かりました・・もう、呼び捨てで良いのに・・」
「分かったわ・・何度言っても呼び捨てで呼んでくれないのね・・」
「あ、愛理は俺と今後の予定を立てよう・・」
バツの悪くなった勇作は愛理に話を振った。
「了解です・・勇作くん?」
勇作はそそくさと作戦指令室へと逃げ出した。




