【三四】新たな開発
高大一貫教育の大学三年生になり、実習のために船で離れ小島へ向かっていた主人公は突然の嵐に遭遇してしまう。
気が付くと大学生男子一名、女子七名と女教師二名だけが異世界の孤島に漂着していた。
ここから孤島でのサバイバル生活が始まる。彼、彼女らは専門分野別に集められたエリート達だった。
生活する上で不可欠な拠点造り、食料の調達から始めることになる。
かつての世界の技術力を駆使した武器や輸送手段を筆頭に様々な開発も行うことになった。
最大の問題は武器、輸送機に使用されていた原料がこの世界には存在し無いこと。
新たなエネルギーを得るために悪戦苦闘するメンバー達。
発見された常識を覆す新エネルギーは後の大発明へとつながって行くことになる。
この世界を統治する王国や巨大生物、未知の病などと格闘する日々が続く。
次々と降り掛かる問題を持ち前の技術力と結束力で乗り越えて行く。
自分達の国を創り上げるため奔走する冒険と青春の物語である。
王城を出て、ラフェスタ騎士団長にハミルブルックまで馬車で送ってもらった。
「勇作殿、またしても急ぎ戻られることになったのだな・・今回こそはゆっくり酒でも飲みたいと思っておってのだが・・」
「そうですね、予想もしていなかった展開に私も戸惑っていますが、事が事だけに放って置く訳にもいかないですし・・」
「その通りだな、気を付けて行かれるが良い・・」「ありがとうございます・・」
挨拶を済ませた勇作達はオケアノスとエルピーダに分乗して拠点へと出航した。
大型飛行船であるエルピーダ搭乗メンバーは艦長が愛理、正操縦士が花梨、副操縦士が志摩、整備士が陽鞠、通信士を花江が担当している。
大型潜水艦のオケアノス搭乗メンバーは艦長が勇作、操舵士が心愛、航海士が希美、機関士が早苗、通信士を初音が担当している。
王国の港があるハミルブルックから勇作達の拠点があるエルピス島まではエルピーダの場合、メインエンジンを併用すれば三時間程、サブエンジンのみであれば半日で到着出来る。
オケアノスの場合、水中を進むこともあって三日程の行程だ。
拠点を長く空けていたこともあって、エルピーダには先行して帰島してもらった。
オケアノスが拠点に戻ってすぐにメンバー達は割り振られた仕事に散った。
愛理からの報告では不在の間、拠点への不審な侵入の形跡は無く小動物がセンサに反応した程度であった。
拠点に戻って一週間が経過した。
その間、メンバー達は勇作から依頼された開発に没頭していた。
芸家部の希美と家政講師の花江は気密スーツの開発に取り組んでいた。
戦闘用スーツは既に開発されていて、伸縮が自在で耐熱、耐寒、耐水、耐刃性に優れた防御スーツに「ムサ羽」と志摩が命名した緊急単独避難用の装備に水中移動用の酸素発生装置までを内装している。
スーツの背中部分に出力を落とした収束エネルギー噴射装置を積み、一瞬で上空百メートルまで上昇、ムサ羽を広げて滑空出来るシステムである。
この推進装置を使って水中でも移動可能である。
スーツ自体は動き易さを考慮して膝上、肘までの作りになっていたが、今回、気密スーツを開発するに当たって膝下はブーツ、肘下は肘までを覆う手甲でカバーする構造にした。
スーツとの接合部から空気が漏れないように高強度ゴムを薄く這わせて気密性を確保した。
頭部は以前のヘルメット型(主に水中用だったが)を止め、高強度樹脂パネルを採用した軽量フルフェースマスクとした。
今回採用した高強度樹脂はかつての世界のFRPに迫る強度を持ち、超軽量な新たに開発したものである。
鉄に匹敵する強度を持つ檜木材のパルプからの抽出液と杉の木に似た木の樹皮から採取できる樹液から精製したものだ。
全ての装備を身に着けると、世紀末の過激なバイク乗りのような見た目になってしまった。
他の女子メンバーからは機能優先過ぎてお洒落じゃ無いと辛辣な意見が相次ぎ、スーツの色合いとデザインを見直したのだが、まるで〇〇戦隊か〇〇レンジャーのように見えてしまうことは内緒だ。
まあ、黒一色よりかは大分見た目がマシにはなった。
煮沸消毒装置の開発を依頼された技建部の心愛と農畜部の陽鞠はものの数日で完成させていた。
仕組み自体は難しいものでは無いらしく、問題は携帯性、煮沸水の確保、電源、汚染水の処理にある。
心愛はバトルスーツにも採用した超薄合金と導電合金を組み合わせてカプセルを製作した。
これに蓄電鉱石と発電樹葉から作った小型発電システムと、陽鞠の考案したカプセル内に作られた空洞内の塩化カルシウムを含む特殊鉱石に当てながら常時送風する機構を組み込むことで水を確保した。
ただ、空気中から水分を集めるため乾燥地域ではかなり効率が落ちる。
得られた水を瞬間的に煮沸に必要な九十度以上に熱してカプセル内に噴出する。
使用された水は汚染水として特殊なフィルタを通して排水される仕組みだ。
このフィルタは五段階の多層構造になっていて最終的には百ナノメートルの細かさになっている。
これは陽鞠がエルピス島に自生するヤシの木に似た木の実から抽出した繊維から作り上げたものだ。
細菌などには球菌、桿菌、螺旋菌等があるがサイズは小さくても五百ナノメートル程度であるため除去出来る。
天然痘ウイルスのサイズは三百ナノメートル程度であるため、これも除去出来る。
黒死病のペスト菌は一ミクロンメートルなので除去出来る。
ちなみに、一ナノメートルは一億分の一メートル、一ミクロンメートルは百万分の一メートルである。
これらは既知のウイルスや菌と同等のサイズであったと仮定してのものだが。
煮沸消毒装置カプセルは精製する水を除けば三十キロの重量で完成した。
これで二人掛かりであれば持ち運べる目処が付いた。
一方、生体センサを依頼された防衛部の花梨と統括部の愛理達の開発は壁に突き当たっていた。
通常、生体センサと言えば心拍数、体温、姿勢変化等を計測するものを言う。
これらは全てその生体の直近または接触させて計測するものだ。
しかし、今回はかなり計測対象と離れた距離で検知しなければならない。
救いは生体がそこにあるか無いかを判定すれば良いので、計測値として取り出す必要の無いことぐらいか。
その用途では赤外線、超音波、可視光等が一般的に良く使われている。
だが、この方法は温度、湿度、明るさ等の外因による影響が大きく検出精度も低い。
電子光学・赤外線センサを使用したモーションディテクターも一つの方法だが、遮蔽物がある場合には検出が不可能だ。
音波、電波による検出ではドップラーシフトと言う動きによる誤差が回避出来ない。
悩んだ挙句、花梨はUWB(超広帯域無線)技術の使用を決めた。
UWBとは極短く鋭い矩形波の電波が持つ、中心周波数が高く広い帯域に分散する信号を利用して通信範囲は近距離だが高速通信が可能で位置検出も可能になる・・というかつての世界の最新軍事技術だ。
かつての世界で軍事利用を目指して、大学で花梨が取り組んでいた課題でもあった。
が、未だこの段階では実用段階には達していなかった。
技術的には構築出来ているのだが、検出距離を稼ぐためには莫大なエネルギーを必要とし、それほどのエネルギー発生装置を探索に持ち歩く事が出来なかったためだ。
でも、この世界で作り上げた技術なら・・。
花梨と愛理は想定されるエネルギー出力の資料を持って心愛の工房を訪ねた。
「心愛、いる?・・」工房のドアをノックすると、暫くしてドアが開いた。
「・・花梨か・・」と言って閉めようとするドアを押さえて「ち、ちょっと心愛、相談があるのですわ、閉めないで下さる?」と引っ張り合いに発展した。
「こ、心愛・・話を聞いて欲しいの、お願い・・」
愛理の懇願に閉めようとしていた手を離し、引っ張っていた花梨はドアと共にひっくり返った。
「痛っ・・何するんですの?」「・・何もしていない・・」
「キーッ・・心愛!喧嘩を売ってますのね?、のね?」
「・・それが分かる程度の頭はあるのか・・」
掴み合いになった二人を愛理が何とか引き離して宥め始める。
収まりの付かない二人に愛理は「こんなにも仲が悪いのなら・・勇作くんに一言言ってもらうわ!」と呟いて部屋を出て行こうとした。
愛理は心愛と花梨に両腕を取られて必死に止められた。
「・・ごめん愛理、ダメ・・」「愛理、待ってなのですわ、また拳骨が・・」
ジト目で二人を見た愛理は「これ以上、喧嘩しないと誓ってくれますね?」と詰め寄ると二人はコクコクと頷いた。
「・・ふぅ、分かりました、今回は勇作くんへの報告は保留にします・・が、分かっていますね、次は無いですから」
再度、二人共にコクコクと頷いて、急に大人しくなったところで話し始めた。
「生体センサの開発でどうしても心愛に協力して欲しいことがあるんです・・花梨の説明を聞いて下さい」
話を振られた花梨は頷いて開発中の資料をテーブルに広げた。
「生体センサには最新の軍事技術であるUWB理論を使用する予定ですわ・・でも
今回の目的を果たすためには・・」
「・・エネルギー不足・・」
「その通りですわ・・そこで資料にある規模の装置をエネルギーパックとして持ち運べる範囲の大きさで開発して欲しいのよ」
「・・かなりムズイ・・」
「ですわね・・悔しいですけれど私では、この規模のものをエネルギーパックにする技術はありませんわ」
「・・そこがネック・・」
「何とかお願いできないかしら?」「・・分かった・・」
愛理からもお願いされた心愛はすぐに工房の演算装置を起動させて計算し始めた。
このモードに入った心愛にとって自分達は雑音でしか無いことは分かっている。
花梨と愛理はそっと工房を出た。
その頃、経外部の志摩と法科講師の初音はシステア共和国の情報収集に奔走していた。
アサルド王国本土に最も近いサーミル島やシステア共和国の属島であるガイル島に最も近いトゴイル島へカーチスを飛ばして直接、情報収集に出向いていた。
カーチスは二人乗りで空水陸全てに対応出来る小回りに長けた優れた飛行艇だ。
両島共にガイル島との交易が少なからずある。
島民や商人達から聞いた情報を分析していた。
志摩達は現段階での分析結果を報告するために勇作の元を訪れた。
その結果は・・「かなりマズイ状況のようやで、確かに圧倒的に獣人に発症してるようやけど極稀に他の種族・・人族にも感染してるらしいで・・」
報告を受けた勇作は同席している医薬部の早苗に意見を求めた。
「早苗はこの状況をどう見る?」
「そうだねぇ・・予想の斜め上を行ってる感じだねぇ、疫病の一部についてはもう既に変異が始まっていると見て間違い無いよ・・もう少し時間が掛かると思ってたんだけどねぇ・・」
「早苗の予想よりも早いってことか?」
「うん、半年から一年は変異しないと見てたんだけどねぇ・・獣人族と人族間の接触が繰り返し行われた結果だろうねぇ・・」
「でも、獣人族と人族は距離を置いてるんとちゃう?」
「まあ普通はそうだろうねぇ・・でも夫婦の場合はそれも難しいと思うよ?」
なるほど早苗の言う通りである。一つ屋根の下で夫婦として暮らしていれば、気付かぬ内に接触は繰り返される。
「そして獣人族に発症が認められ、何かの拍子に変異したウイルスが人族にも感染した・・と言うところだろうねぇ」
「「・・」」
「現地に入ったら変異前後のウイルスを採取して、今考えているワクチンの効果を調べないとだねぇ・・結構、大変だよ?これ、ご褒美が必要だと思うよ?」
早苗は意味有り気に勇作を見て口端をニッと上げた。
「今回はどうしても早苗に頑張ってもらうしか無い・・何が褒美として良いのか分からんが考えてみよう・・」
「分かった・・言質は取ったからねぇ」
そう言うと早苗は自分の工房へ戻って行った。
「勇作・・そない簡単に請け負って大丈夫なんか?・・早苗やぞ?」
勇作は頬を引き攣らせながら「ま、まあ、そんな無茶な要求はして来ないだろ?・・多分・・」と自分を納得させるのだった。




