【三三】勇作達の判断
高大一貫教育の大学三年生になり、実習のために船で離れ小島へ向かっていた主人公は突然の嵐に遭遇してしまう。
気が付くと大学生男子一名、女子七名と女教師二名だけが異世界の孤島に漂着していた。
ここから孤島でのサバイバル生活が始まる。彼、彼女らは専門分野別に集められたエリート達だった。
生活する上で不可欠な拠点造り、食料の調達から始めることになる。
かつての世界の技術力を駆使した武器や輸送手段を筆頭に様々な開発も行うことになった。
最大の問題は武器、輸送機に使用されていた原料がこの世界には存在し無いこと。
新たなエネルギーを得るために悪戦苦闘するメンバー達。
発見された常識を覆す新エネルギーは後の大発明へとつながって行くことになる。
この世界を統治する王国や巨大生物、未知の病などと格闘する日々が続く。
次々と降り掛かる問題を持ち前の技術力と結束力で乗り越えて行く。
自分達の国を創り上げるため奔走する冒険と青春の物語である。
プロイスは書状を勇作に手渡した。
「・・これは?」「うむ、共和国で発生している疫病の調査依頼書だ」
「調査依頼?・・」「そうだ・・」
「詳細は後程説明するが、共和国で発生している疫病について王国内で検討して見たのだ・・結果、過去の文献からもそれらしき前例は無く、皆目見当も付かないという結論に至った・・現状はアサルド王国での感染報告は無いがもしもと言うことがある、システア共和国とは地続きだからな・・そしてそうなった場合、王国として打てる手が無い・・ここは異世界の近代文明を知る勇作殿達に調べてもらう他無いということになったのだ」
「それでこの依頼書、と言うことですか・・」
勇作は難しい顔で依頼書を眺めた。
正直なところ関わり合いになりたくないという気持ちが強い。
未知の疫病に立ち向かうには人手も機材も情報も足りない。
メンバーを危険に晒すことは出来ないと断ろうとした。
ここで使者ガーダが平伏して叫んだ。
「このような事をお願い出来る立場に無いのは重々承知の上でお願い致します・・我が国の窮状をお救い頂くことは叶いませんでしょうか?・・こうしている間にも同胞が次々と命を落としているのです、何卒・・何卒、お力をお貸し頂けませんでしょうか?・・」
使者ガーダは額を床に擦り付ける様に懇願した。
「・・そう言われても、困ったな」正直なところ勇作は判断に困っていた。
男はそのままの姿勢で「どうか・・どうかお聞き入れ下さい」と取り憑かれたように繰り返し叫んでいる。
視線を早苗に合わせると難しい顔をして俯き加減に考え込んでいる。
愛理、心愛、花梨達を見ても同様の反応だ。
「ガーダさん、まずは立ち上がって下さい・・本当に我々に出来ることがあるのか、一度検討させて下さい・・一旦、退席させて頂いても宜しいですか?プロイス殿・・」
「・・あ、ああ、構わんよ・・じっくり検討して見て欲しい」
了解を得た勇作達は縋るような目で追う使者ガーダを残して謁見の間を退席した。
控えの間に戻った勇作達は一様にソファーに身を沈めて深く息を付いた。
メイド達がすぐにハーブティーを煎れてくれた。
ささくれ立った神経を休めるのにハーブティーは特に効果的だ。
ひとしきりハーブティーを飲んで落ち着いた後、暗く沈んだ空気を破って勇作が話し始めた。
「先程の件だが、俺達の取れる選択肢としては大きく分けて二つだ・・一つはシステア共和国には悪いが一切の依頼を断る・・もう一つは現地を視察して対応策を探すことだ、と言っても結果はやって見ないと分からないがな・・」
勇作は皆を一度見回してから続けた。
「まずは専門家である早苗の意見を聞きたい」
皆の視線が早苗に集中する中、黙って腕組みして瞳を閉じていた顔を上げた。
「私かねぇ?・・」「そうだ、今回、早苗の意見が最も大切だからな・・」
「そうかもだねぇ・・」
「確定していることだけじゃ無くて良い、忌憚の無い意見を頼む・・」
腕組みしたまま立ち上がると窓際に立って淡々と話し始めた。
「前にも言ったことだけど、天然痘にしても黒死病にしても今回の疫病が私達の知っているものと同じだと現時点では言い切れない・・だけどもし同じようなものだったとしてパンデミックのような大規模感染症の場合は、ワクチン接種が最も効果が高いんだよねぇ・・まずはワクチン開発が最優先課題だよ」
一旦、話を区切った早苗はメンバーを見回してから話を再開した。
「これも昨日言ったけど、今回のような疫病の場合はワクチン接種だけでは完全には抑え込めないことがほとんどなんだ・・ここまで広範囲に感染してしまっていると後手に回るワクチン接種だけでは無く、元を絶たなきゃ根絶出来ない・・媒介者の徹底駆除を平行してやらなきゃダメだねぇ・・」
「「「「・・」」」」
「でもこれにはかなりの危険が伴う・・ワクチンが開発出来るのを待たずに調査を行い、それらを特定、駆除をすることになるから・・結構、ヤバイねぇ」
考え込んでいた勇作は「確かにその懸念はあるな・・何とか別の方法で感染を防ぐことは出来ないのか?」と尋ねた。
「まあ、無いことは無いけどねぇ・・志摩が開発してくれたバトルスーツに気密を確保する機能が付けられれば何とかなるかもねぇ・・」
「・・希美、どうだ?」
「あら、私ね?うーん、気密か・・やって出来ないことは無いと思うわよ?・・でも、時間制限は付くわね、だけど汚染されたスーツはどうするの?」
「それは専用の洗浄室でも作って煮沸後に洗い流すしか無いねぇ・・」
「心愛、出来るか?」
「・・問題無い、出来る・・」
「汚染された処理水はどうされるつもりですの?」
「花梨の心配は最もだねぇ・・でも、煮沸処理すれば問題無いと思うよ」
「陽鞠、問題は?」
「大丈夫だと思うよー!・・設備さえ作れれば殺菌自体は問題無いよ!」
「分かった・・他に問題はあるか?」
「媒介者を駆逐するのは良いんやけど、どうやって探すん?・・生体センサでも開発せんと手間が掛かるし、簡単に逃げられるで?」
「確かに志摩の懸念も分かる・・花梨、それを作ることは出来るか?」
「難しい注文ですわね・・でも作ることは可能ですわ・・」
勇作はここで皆を見回して議論が決着したことを確認すると、最終確認を行った。
「今回の疫病調査依頼は心情的には出来れば請けたくない・・それは皆を危険に晒すことになるからだ、でもシステア共和国で刻々と人命が失われているのも事実だ・・このアサルド王国に飛び火しないとも限らない・・難しい判断になるが俺達の力で未知の疫病と戦って見ようと思う、皆の力を結集すれば越えられない壁は無いと信じてるからだ・・反対意見はあるか?」
「「「「・・」」」」メンバー全員が首を振る。
「良し、では俺達は未知の疫病を撲滅するためシステア共和国へ行くことにする・・但し、万全の準備を整えてからだ・・異論はあるか?」
「「「「・・」」」」メンバー全員が首を振る。
「分かった・・この結果を王国と共和国の使者に伝え次第、拠点に戻って準備に入る・・希美!」
「あら、何かしら?」「気密スーツの開発を頼む・・」「了解よ・・」
「心愛!・・」「・・煮沸消毒装置、作る?・・」
「頼めるか?」「・・うん・・」
「花梨!・・」「はい、ですわ・・」
「生体センサの開発を頼む・・」「了解ですわ・・」
「志摩!・・」「なんや?・・」
「システア共和国の情報収集を頼む・・」
「マジかいな、面倒なことを・・」「志摩にしか頼めない」「分かったがな・・」
「愛理!‥」「はい!」「花梨のバックアップを頼む」「了解です」
「花江先生!・・」「はい・・呼び捨てで良いのに・・」
「それは二人の時に・・希美のバックアップをお願いします」「はい・・」
「初音先生!・・」「私も呼び捨てで・・」
「時間が無いのでスルーします・・志摩のバックアップをお願いします」
「何よ!・・分かったわ」
「俺は皆のバックアップに回る・・では、愛理、志摩はアサルド王国への説明に同行してくれ・・他のメンバーは出港の準備を頼む」
「「「「了解!」」」」
勇作はイエティスやプロイス、使者ガーダに調査の依頼を受ける旨を伝えた。
「急ぎ、拠点に戻って準備に入りますが、どの程度の時間が掛かるか現時点では分かりません・・が、準備が出来次第、システア共和国に向かいます、ガーダさん・・」
「はっ!」
「共和国のどこに向かえば良いですか?」
「はい、共和国にはいくつか港がございますが、中でも最も大きく栄えている港がエステリアになります・・こちらにお越し頂ければ分かるよう手配しておきます」
「分かりました、その時は宜しくお願いします・・では、我々はこれで失礼します」
勇作は謁見の間を退出すると、メイド長のシステアにプラグマ第一王子、セレネ第一王女、カロン第二王女に言付けを頼んだ。
以前渡した将棋やオセロ等の娯楽品を大層気に入っていて、勇作達と一緒に興じたいと言っていたからだ。
緊急依頼のため挨拶をすること無くすぐにも王都を離れることの詫びを伝えてもらうことと、ソフィア王妃に渡した化粧品の新作で手持ちのものを渡してもらうことを頼んだ。
また、システアとメイド達に勇作達の拠点であるエルピス島特産の虹蜜から作った焼き菓子を渡した。
「私達にまでこのようなものを・・お気遣い申し訳ありません」
深々と頭を下げるシステアに頼んで他のメイド達には退席してもらった。
「私達は共和国へ行くことになります・・どなたかに何かお伝えすることはありますか?」
「・・!」
「申し訳ありません、騎士団長殿からは厳重に口止めされていたのですが・・貴女の生い立ちについてもお聞きしました、差し出がましいことを申し上げてご気分を悪くされたら謝罪致します」
「・・」
「私達がこの件について他言することは無いと誓います・・王国と共和国の国交が途絶えたものの、現代表になって急速に関係が改善していると聞いています・・しかし、貴女がかの地を踏むには未だ時間が掛かると思います」
「・・」
「何かお伝えすることがあれば・・」
システアは途中から深く俯いてしまい表情は窺えなかったが、その細い肩が震えているのを見逃さなかった。
「システアさん・・」
突然、名前を呼ばれてビクッと肩を震わせたシステアは顔を上げて勇作を見詰めた。
その瞳は涙に濡れ、涙が頬を伝い落ちていた。
「・・本当に・・宜しいのですか?そのような事をお願いしても・・」
「はい・・」
システアは一度俯いて深呼吸すると心の奥底に仕舞い込んでいたであろう願いを口にした。
「既にご存じのようですが、私は共和国の元王女でした・・優しかった父母は病に倒れて亡くなりました、新しく選ばれた代表夫妻からは私自身の存在を疎まれて廃嫡され・・ある宮殿庭師夫婦の世話になっていました」
話の途中から堪え切れないように、ハンカチで目元を押さえていた。
「そんな中、イエティス国王様からお声掛け頂いて王国に参りました・・貴族と同様の教育を受けさせて頂き、メイド長というお仕事まで頂いています・・国王様には感謝してもしきれない御恩があります」
「なるほど、その思いが貴女の口を閉じさせているのですね・・それであれば尚の事、今回はまたと無いチャンスだと思います・・この事はここにいる者以外に漏らすことは無いとお約束します」
システアは異世界から来たという勇作を見詰めた。
最初はどこの馬の骨か分からない、得体の知れない平凡な男という印象だった。
何度か勇作に接し、彼を取り巻く女性達を見ていて認識を改めた。
勇作は元より、彼女達がいつでも自然体でいること、心から彼を信頼していることが分かったからだ。
勇作に心を寄せ、信頼している女性は一人、二人では無い。
七名の若い女性と妙齢の女性二名の全てが・・である。
これには正直、システアは驚いていた。
性格も生い立ちも年齢まで異なる女性達が勇作一人に心を寄せているということが良く分かるからだ。
普通であれば愛する男を独り占めしたいし、自分だけを愛してもらいたいと欲するものである。
貴族の場合、政略結婚等により側室を何人か娶ることも珍しく無いため、正室と側室達の間で醜い権力争い、愛憎劇が絶えることが無い。
勇作とはこれだけの女性達から信頼に足る存在であることの証だ。
システアは覚悟を決めて切り出した。
「・・それでは勇作様のご厚情に甘えさせて頂いて一つだけ・・共和国で私が宮殿を追われ、身を寄せていた時に優しく受け入れてくれた宮殿庭師で獣人とドワーフのご夫婦がいました・・アサルド王国に連れて来て頂いてから会えていません、無事に暮らしているかどうか・・」
そう俯いて話すシステアに勇作は約束をした。
「分かりました、今回、その宮殿に行けることがあれば、そのご夫婦の安否を確認して来ます・・」
「あ、ありがとうございます・・でもご無理はなさらないで下さい」
少し明るさを取り戻したシステアに頷くと、メンバーに出立の号令を掛けた。
「では、これより拠点に戻るぞ・・」
「「「「了解!」」」」




