【三二】システア共和国の受難
高大一貫教育の大学三年生になり、実習のために船で離れ小島へ向かっていた主人公は突然の嵐に遭遇してしまう。
気が付くと大学生男子一名、女子七名と女教師二名だけが異世界の孤島に漂着していた。
ここから孤島でのサバイバル生活が始まる。彼、彼女らは専門分野別に集められたエリート達だった。
生活する上で不可欠な拠点造り、食料の調達から始めることになる。
かつての世界の技術力を駆使した武器や輸送手段を筆頭に様々な開発も行うことになった。
最大の問題は武器、輸送機に使用されていた原料がこの世界には存在し無いこと。
新たなエネルギーを得るために悪戦苦闘するメンバー達。
発見された常識を覆す新エネルギーは後の大発明へとつながって行くことになる。
この世界を統治する王国や巨大生物、未知の病などと格闘する日々が続く。
次々と降り掛かる問題を持ち前の技術力と結束力で乗り越えて行く。
自分達の国を創り上げるため奔走する冒険と青春の物語である。
栗毛ロングの髪をポニーテールにした髪がトレードマークの巨乳で運動神経抜群な仲野早苗は医薬保体学部、通称「医薬部」でこの方面での専門家だ。
「症状しか聞いて無いから断言は出来ないんだけどねぇ・・これは多分、天然痘か黒死病に似た疫病・・もしくはその両方かもだねぇ」
モニタにはかつての世界で発症した天然痘と黒死病の原因や症状が映し出されていた。
メンバー達は大方の予想通りの答えだったが、やはりショックは大きい。
「なんで獣人族にだけ感染するのかなー?」と陽鞠。
「何とも言えないねぇ・・免疫の関係なのか、調べて見ないと」
「確か、天然痘は牛痘からワクチンが出来るのですわよね?」と花梨。
「博識だねぇ・・その通りだよ」
「・・黒死病は放射菌からワクチン培養出来る・・」と心愛。
「流石、心愛だねぇ・・その通りだよ」
「あらあら、それじゃワクチンが作れるのなら治せるの?」と希美。
「まあ、理論的はそうなるねぇ・・作れればだけどねぇ」
「早苗・・そう言うってことはワクチンを作るのは難しいの?」と愛理。
早苗は下顎に手を添えて少し考えてから切り出した。
「それは今回の疫病について説明してからだねぇ・・天然痘は知っての通り感染症で飛沫か水疱分泌物に触れることで感染する、潜伏期間は二週間弱ってところだねぇ・・症状は全身に出来る膿水疱が最も分かり易い特徴になるねぇ」
視線を花梨に向けて説明を続けた。
「花梨の言うようにワクチンは牛痘からウイルスを採取して培養、無毒化して精製する方法が有名だねぇ・・」
「・・でも、この世界で牛痘に罹った牛を見付けなければ始まりませんわね」
早苗は花梨に頷いて一つ溜息を付いてから続けた。
「この世界に来てから色々と調べた範囲では牛痘に罹った牛は見てないからねぇ・・まあ、牛痘から採取ってのは間違ってはいないが本当は馬痘からでも採取出来る」
「あらまあ、そうなの?・・でも、そんな病に罹った馬も見てないわね?」
「希美の言う通りだよ・・結論的にはワクチンを作りたくても原株の採取が出来ないんだよねぇ・・最も聞かされた疫病が天然痘であれば、だけどねぇ・・」
「「「「・・」」」」
例えワクチンを作る技術があっても、ウイルスの原株を採取出来なければ何も始らないし、ましてや今の時点でこれらの疫病がかつての世界で猛威を振るった疫病と同じだとは言い切れない。
「次は黒死病だねぇ・・この疫病はペスト菌によって引き起こされるんだけど、これをばら撒く媒介者がいるんだねぇ・・何だか分かるかい?」
「・・ネズミからノミ・・」
「はは、本当に心愛は博識だねぇ・・正解だよ、この疫病の厄介なところはネズミからノミという媒介者を無くさない限り根絶出来ないってことだねぇ」
「元を絶つためには、殺鼠剤を使えば良いよー!」
「その通りなんだけどねぇ、陽鞠・・あいつらの危機察知能力は人間なんて比較にならない程に凄くてね、二度目は通用しないんだよねぇ・・間違って生き残るとスーパーネズミになっちゃうし」
「それだと下手に殺鼠剤は使えないってことやな・・」
「そうなんだよ、志摩・・だから殺鼠剤だけでは完全に駆除することは無理なんだよねぇ・・まあ生存出来ない環境を作れれば相乗効果でなんとかなるかもだけどねぇ」
「そんな事が出来るんですか?」
「まあ、ちゃんとやれば良い線にはもって行けると思うよ・・ところで愛理、黒死病のワクチンはどう作るか分るかい?」
「さっき心愛が言ってましたけど、私にもそれ以上のことは・・」
早苗が周りを見回すとメンバー達は一様に首を振った
「なるほど・・大体の腐葉土の中には放射菌ってのが住んでてねぇ、これを抽出して培養、必要な成分を精製すれば出来るんだよ」
「では、その菌を探して抽出や精製をすればワクチンを手に入れられるってことですわね?」
「そうだねぇ・・まあ、実際には他にも様々な手順が必要になるんだけどねぇ・・そして既にサンプルは出来てるんだよ」
早苗はいつも使用している薬保管庫から小さな瓶を取り出してテーブルに置いた。
「これはエルピス島の腐葉土から抽出、培養、精製して作ったものだねぇ・・」
「「「「・・!」」」」
「凄いじゃないか・・流石、早苗だ」
「勇作に褒められるのは悪くないねぇ・・花梨や心愛の気持ちが分かるよ」
「なっ?」「・・はっ?・・」
早苗は頬を染めながらそう言い、話しを振られた花梨と心愛も顔が赤くなっていた。
「ただ、糠喜びは禁物だよ?・・効果があるかどうかは今、流行しているウイルスや菌を調べてからだねぇ」
「なるほどな・・迂闊にはワクチンの存在は明かせないってことだな」
「早苗・・原株があったとしてワクチンが完成するまでにどのくらい掛かるんや?」
「んー・・そうだねぇ、専用のラボで人手も問題無いと仮定して・・約一ケ月ってところだねぇ」
「結構、時間が掛かるんだねー!」「培養に時間が掛かるからねぇ・・」
「あら、やっぱり設備的にはどこでも出来るって訳にはいかないわよね?」
「うん・・抽出、培養、精製と大きく分けても三つの専用設備が必要になるねぇ・・」
「採取にも時間が掛かりそうですわね・・」「そうだねぇ・・」
「・・牛痘も無い・・」「そうなんだよねぇ・・探さないとだねぇ」
「「「「・・」」」」
「勇作くん、今後の私達の方針としてどう動きますか?」
目を瞑り、暫し考えた後、勇作は立ち上がって皆を見回しながら言った。
「まずはシステア共和国の使者と話して見ないと始まらないな・・現地を視察するにしても、距離を置くにしてもそれからの話になる」
翌日、勇作達はラフェスタ王国騎士団長に連絡を取り、王城へ送り届けてもらった。
城内に入ったところからは、いつものようにシステアメイド長が案内に立った。
この人が共和国の元王女だったとは・・今に至るまで数え切れない程の、言い尽くせぬ苦労と悲しみを乗り越えて来たことだろう。
勇作はかつての世界で両親、妹、祖母を震災で亡くしている。
肉親を亡くす痛みは誰よりも我が事のように感じてしまう。
そんな勇作がシステアを見詰めていると「私の顔に何か付いていますか?」と聞かれてしまった。
「い、いえ何でもありません・・」つい、無遠慮に見詰めてしまっていたようだ。
感情移入も程々にしないとな。
若干の冷や汗を掻きながら進んで控室に通されたが、ほとんど待たされること無くすぐに呼ばれた。
謁見の間に入るとイエティス国王、プロイス宰相、アダマス将軍が跪く一人の男を囲むように話をしているところだった。
勇作達に気が付いたプロイスは「おお、勇作殿・・わざわざ何度も足を運ばせてしまいすまぬ・・どうぞこちらへ」と謁見の間中央へと通された。
勇作達はイエティスの前に進み出て跪いた。
「勇作殿達には何かと面倒を掛けるが、共和国の使者が申すことを聞いてはくれまいかの?」とイエティスは済まなそうに切り出した。
「分かりました・・」
「では、共和国の使者殿・・今一度、説明を頼む」
プロイスがそう促すと隠すべくも無い程にやつれた使者の男は頷いて説明を始めた。
勇作は説明する男を見ると、予想通り狐の獣人であった。
「では、今一度ご説明申し上げます、私は共和国にて政務官をしておりますガーダと申します・・今より三年程前、ある獣人の住む村で世にも悍ましい姿で次々と村人が倒れ、その村は死に絶えました・・宮殿からの指示で官邸から調査隊が編成されました・・調査隊が村で見たものは、それは身体中の水疱が破れ黒く変色した惨たらしい死体の山だったそうです」
「うわー、酷いね!」いつもの元気は無く項垂れる陽鞠。
「調査隊は死体から水疱の標本を取って帰路に着きました・・ところが帰路の途中、体調を崩す者が続出してしまったため、止む無く立ち寄った村で逗留することになったのです・・ここで悲劇が連鎖してしまいます、帰路の途中で立ち寄った村の全てで死に絶えた村民と同様の症状を訴える者が続出し、遂には調査隊と関わった全ての者が死に絶えました」
「あらまあ、大変・・」衝撃の事実に驚く希美。
「宮殿からは戒厳令が出され、被害の出た村への立ち入り禁止と共に関係する全ての村を焼き払いました・・ですが、全てを封じ込める事は出来ず、徐々に周辺の村へと被害は広がって行きました・・しかし、本当の悲劇はこれが始まりだったのです」
「まだ何かあるんかいな・・」あまりの負の連鎖に顔を顰める志摩。
「我が国には豊穣の森と言われる豊かで広大な森林地帯があるのですが、今まで申し上げた悲劇と時を同じくして森に生息する動物の一部に異常な現象が見られるようになったのです・・所謂、ネズミ類の大発生です、これらの動物は元々、森林の木の葉が積み重なる柔らかい土壌に巣穴を持つ者達です」
「・・ネズミと腐葉土・・」何か納得したような心愛。
「その年は雨が極端に少なく、冬を前に森の木の実等が大不作だったところにネズミの大発生が重なり、奴らは村や町へと餌を求めたのです・・我々としても天候不順による不作のため食料に余裕など無く、徹底した駆除を行いました・・ところが、駆除を逃れた奴らは次第に狂暴化し始めて、次々と人々を襲うようになって行きました。」
「パンデミックですわね・・」と結論付ける花梨。
「年が明けて春になると奴らは自然と森に帰って行きましたが、ここで新たな問題が発生します・・奴らに噛まれた者の中で身体の節々が大きく腫れ上がり、黒く変色した後に患部が崩れ落ちて死に至るケースが出てきたのです」
「そんな、まさか・・」と青褪める愛理。
「翌年にはこの疫病に国全体が脅かされることになりました・・宮殿がある首都周辺の村々で身体中に水疱や黒く変色する者が続出するという事態になり、宮殿は人々の外出、移動禁止と原因の調査を命じました」
「なるほどねぇ・・」と予想通りの展開に頷く早苗。
「しかし、遂には宮殿内にも感染が広がり、代表夫妻も同様の症状を発して亡くなってしまいました・・その後、新たに代表の座に就いた現代表はこの困難に果敢に立ち向かっていますが、原因の特定が進まず目ぼしい成果の無いまま・・今年になって国中に感染が広がってしまっているのです」
「この疫病は獣人族にのみ感染者が出ていると聞いているが・・」と勇作は聞いた。
「はい、その通りです・・エルフ族やドワーフ族、魔人族に感染者は見つかっておりません」
「なるほど・・獣人族の持つ何らかの因子が関係しているのかも知れないねぇ、でも、ウイルスはかなりの確率で変異するものだから今後はその限りでは無いかもだけどねぇ」
勇作達メンバーは一様にギョッとした目で早苗を見た。
イエティス達や使者ガーダは早苗が何を言っているのか理解出来なかったらしい。
「ま、まあ何にしてもだ、勇作殿達に王国として依頼があるのだ・・」




