【二三】トゴイル島へ
ラフェスタ騎士団長の案内で王城に到着した愛理達は馬車を降りて城門へと向かった。
既に衛兵には話が通っているらしく、確認されることも無く城内に入ることが出来た。
宮殿の入口まで来ると「ここからは別の者がご案内致します」と前回と同様、システアメイド長へ案内が引き継がれた。
「皆様、長旅お疲れ様でした・・お部屋にご案内させて頂きます」
毎度のことながら宮殿内は広く長い廊下が多い。何度か建物を通り過ぎ、階段を上がった二階にある部屋を用意してくれた。
「準備が出来ましたらお呼びに参りますので、それまでここでお寛ぎ下さい」
メイド長はそう言うと部屋を退出し、他のメイド達が一斉に動き出した。
愛理、志摩、早苗の三人は一目で高価と分かる調度品に飾られた白色で統一された部屋に通された。
様々な刺繍の施されたテーブルクロスの掛けられたテーブルには、すぐにも紅茶やお菓子が運ばれてきた。
部屋の扉がノックされ、メイド長が対応すると「皆様、セレネ第一王女様がいらしています・・」と伝えられた。
愛理はメンバーに目で頷いた後、「分かりました・・お会いします」と伝えた。
部屋に入って来たセレネはメンバーを見て満面の微笑を浮かべた。
「皆様、お会いしとうございましたわ・・」
何事も無かったようにテーブルに着くと、すかさずメイドが紅茶を用意していた。
流石に王城のメイドは仕事が早い。秋〇原のなんちゃってメイドとは格が違う。
「セレネ第一王女様・・ご健勝そうで何よりと存じます、一ケ月ぶりでしょうか?」
「そうですわね・・それと堅苦しい呼び名は要りませんわ、セレネとお呼び下さい」
「は、はぁ・・承知しました・・セレネ様・・」
「うーん、まだ少し硬い感じがしますが、取り敢えず良しとします・・それより他の方々はどちらに?勇作様は?」
セレネは身を乗り出すように聞いて来る。そんなに勇作に会いたかったのだろうか。
「は、はい、ここにいない勇作くん達のメンバーは先にトゴイル島へ向かっています・・私達もご挨拶が済み次第、後を追う予定になっています」
「まあ、そうなんですのね・・それではあまり長くはお話しすることは出来ませんね」
見るからに意気消沈するセレネを見て、愛理は苦笑いした。
「今回の討伐が無事に済みましたらご報告に王城へ寄らせて頂きますので、その時にでもゆっくりお話し出来れば・・」
「そ、そうですわね・・愛理様たちはこれから討伐に向かわれるのですものね・・分かりました、愛理様達に怪我などの無いようお祈りしてご無事のお帰りをお待ちしておりますわ」
「は、はい・・ありがとうございます」
セレネ王女は愛理の手を取るとブンブンと振りながら喜びを表して来た。
愛理は何か地雷を踏んでしまったような気がした。やってしまったか?
ちょうどそこでメイド長が謁見の間に移動するよう呼びに来た。
ホッとする愛理の様子に「どうかなされましたか?」とメイド長から心配する声を掛けられた。
「い、いえ・・何でもありません」慌てて取り繕う愛理だった。
謁見の間で片膝をついて待っていると前回と同様にイェティス国王とソフィア王妃が揃って入ってきた。今回はプラグマ王子、セレネ王女は同席しないようだ。
「面を上げられよ・・遠路ご苦労であった、息災にしておられるか?」
「はい、お陰様を持ちまして、皆、元気にしております・・イェティス国王様、ソフィア王妃様もご健勝のご様子、メンバー一同お喜び申し上げます」
「うむ、それは何よりじゃ・・時間が無いじゃろうから早速本題に入らせてもらおうかの?」
イェティスは側に控えるプロイス宰相に目配せをした。
プロイスは盆に乗せられた大きなメダルを愛理に手渡した。
メダルの片側には二匹の鷲が向き合って描かれている。王家の紋章だ。
裏側にはアサルド王国の大陸と五つの島が描かれている。
突然、手渡されたかなりの希少品であろうメダルに、愛理は当惑の眼差しを向けた。
「いきなりで驚いているやもしれんが、そのメダルは王家の者のみが携えられるものじゃ・・王国内であればそのメダルを見せるだけでほとんどの事は解決出来るじゃろう」
「・・そ、そんな大切なものを頂く訳には・・」
「ほほほ、良いのじゃ・・ここにはおらんが勇作殿、そして皆の働きに感謝しておるのだよ・・なのにろくな褒賞も出せておらんからの、これはこれからもアサルド王国にそなたらの力を貸して欲しい・・と言う建前であり願いじゃ、それがあれば王国内の何処でも簡単に検問を通って行けるはずじゃ・・有効に使われるが良かろう」
とんでもないことをさらりと言うイェティス国王に愛理達はただ目を丸くし、驚いていた。ソフィア王妃からも礼を言われる。
「受け取ってもらって良いのよ・・貴女方なら信頼出来る、ううん、信頼しているわ・・貴女方の島では色々な新しいものを次々と作っているそうね、それは王国内の生活水準、価値観を今後大きく変えて行くことになると思うわ・・それの先行投資、と言うことでどうかしら?・・ふふっ・・」
愛理達は謁見の前にイェティス国王には将棋、ソフィア王妃には虹蜜由来の化粧品、プラグマ第一王子にはトランプ、第一王女にはオセロ、第二王女にはジェンガを遊び方の説明書付きで贈ってあったのだ。
遊んだ感想を伝え聞いたところでは概ね評価は高いようである。
「恐れ多いことですが・・有難くお借りさせて頂きます」
「そう言えば、新しく開発されたものは他にもまだ色々あるのでしょう?・・今度ゆっくり話を聞かせて欲しいわ」
「承知しました・・今は別行動しておりますが、討伐を無事完了出来ましたらご報告に参上させて頂きますので、その時にでも・・」
「そうね、まずはこちらから依頼させてもらった討伐が先決よね・・皆の無事を祈っているわ・・」
「ありがとうございます・・別行動のメンバーは既にトゴイル島に向かっておりますので、私達も合流するためすぐにも出立致します」
「うむ・・危険な討伐ばかりそなたらに頼ることになってしまい申し訳無く思う・・無事の帰還を待っておるぞ」
「承知しました・・全力を尽くします」
謁見はこれで終了し、愛理達は急ぎ王城を後にした。
ラフェスタ騎士団長に馬車でハミルブルック港まで送ってもらうと、挨拶もそこそこにエルピーダを出航させた。
まだ、大型飛行船であることを知られたく無いため、沖に出るまでは海上を航行した。
港から沖合二十キロメートル程の地点で一度、停艦させた愛理は「ではこれより海上を離水して飛行形態にて目的地に向かいます」とメンバーに告げた。
「飛行形態での離水用意・・ですわ」花梨が復唱指示を出す。
「了解・・離水形態に移行や」志摩が離水準備を開始する。
「・・準備出来たねぇ」早苗が離水準備完了を告げる。
「・・各部計器問題無いです」初音が各部に異常が無いことを報告する。
「分かりました・・では、離水開始!」「「「離水開始、了解!」」」
志摩の操作によってエルピーダの垂直離陸のため収束ツインエンジンに火が入る。
早苗がツインエンジンの出力を徐々に上げて行く。
数秒後、海上を離れたエルピーダは高度を上げ、千メートルに達した。
「エルピーダ、高度千メートルに達しました」
「分かりました、エルピーダ発進して下さい・・」「「「発進、了解!」」」
志摩の操作でツインエンジンが垂直揚力から水平飛行へ移行する。
かつての世界のオス〇プレイと同じ原理だ。
スムースに水平飛行へと移行が完了した。
「メインエンジン点火して下さい・・」「「「点火、了解!」」」
「皆さん、衝撃にご注意下さいまし・・メインエンジン、点火!!」
「了解や!・・メインエンジン・・点火!」
花梨と志摩は操縦桿をキツク握りしめてメインエンジンをオンにした。
「・・衝撃が・・来るで!」
ゴオオオオォォォォ・・と機体後方から独特のエンジン音が聞こえて来た・・直後、凄まじい加速Gがメンバーの身体を座席に縫い付けた。
数分後、所定の速度に達したエルピーダは平常飛行に移行していた。
「平常飛行に移行しますわ・・」「了解、平常飛行に移行や・・」
メインエンジンがオフされ座席に縫い付けられていた加速Gが無くなると、皆、ホッと肩の力を抜いた。
急激な加速を必要とする時のためにサブエンジンである収束ツインエンジン二基の他にメインエンジンが一基搭載されている。
メインエンジンのエネルギー源は海底から採取されたエネルギー結晶から得られている。
花梨が場所を特定し、心愛が結晶を採取し、エネルギー結晶として花梨が精製した、言い換えれば技術の結晶と言えた。
このエネルギーを蓄えることが出来る性質を持つ結晶を事前に拠点で充填しておいたものをエルピーダに格納してある。
結晶からエネルギーを取り出しメインエンジンの推進力に変換することで、この暴力的な程の爆発的な加速力が得られたのだ。
結晶の数には限りがあるため、本当に必要としている時にだけ使用することにしていた。
最もあの爆発的な加速を必要とする場面などそうそうあるわけでは無いはず・・だが・・。
愛理達がトゴイル島に向けて飛び立った頃、勇作達はトゴイル島に到着したところだった。
衛兵に王国から海洋巨大生物の討伐依頼を受けてやって来たことを村長に伝えてもらい、勇作達は入港の準備に入った。
初めて見る流線型の巨大な金属の塊に島民達は皆、腰を抜かすほどに驚いていた。
慌てて港まで出向いてきた村長に王国からの討伐依頼書を見せ、後から合流するエルピーダを含めて二隻の入港、停泊許可をもらった。
トゴイル島はアサルド王国所属の島の中で最も小さく二百人程の規模だ。
特産品も砂糖、塩などの調味料と発酵食品がほとんどである。
もちろん海に囲まれているのだから漁はするが、海流の関係からか青物系の魚が多く傷み易いので保存には適さない。
過酷な環境で生きていくために生まれたのが様々な調味料と発酵食品だっだ。
かつての世界でも本土から遠い離島などでは、塩漬け、糠漬け、くさや、燻製などの保存食があった。
食材の傷みを避けるため塩分濃度の濃い沖漬けや砂糖を利かせた佃煮といったものもあった。
この島では採って来た魚のほとんどが発酵保存されている。
勇作は心愛、希美を連れて村長から話を聞くために島内に入った。
陽鞠と初音はエルピーダの到着を待って合流することになった。
村長宅では円卓を囲んで巨大海洋生物の聞き取りを行った。
「大きさはどの程度のものなんですか?」
「わしも直接見た訳では無いので何とも言えんが、村の者が言うには二十メートルを超えると言っとる・・」
「・・なるほど、他に特徴的なことは?」
「うーん、そう言われても数多くは無いんじゃが、大きなヒレを持つ長細い体をしていたそうじゃ」
「やはり・・王国の騎士団からもらった情報通りですね・・」
「・・おお、それと海面に出た時、潮を噴くことがあったらしい」
「!!・・勇作、それって」「ああ、間違い無いな・・」
勇作達のやりとりを聞いて不思議そうな顔の村長に「俺達の予想していた生物に酷似しているんですよ」と伝えた。
「なんと・・どのような奴なんじゃ?」
「まあ、確実と言う訳では無いですが、ケートスと言う生物で間違い無いかと思います」
「・・ケートス?」
「はい、俺達の世界では悪魔が作りし巨大鯨などと呼ばれていましたね・・」
「・・悪魔の巨大鯨」
「王国の騎士団から奴は攻撃を受けると海中深くに逃げてしまうと聞きましたが・・」
「そうなんじゃ・・折角、王国の軍船が来てくれたのにすぐに姿を晦ましてしもうた・・そしてその後は悪夢じゃった・・軍船は突然、奴に海中から体当たりされて・・次々と沈没してしもうて・・」
沈痛な表情の村長は「あんた方が王国から依頼されたのならそれなりに強いのじゃろうが・・あれは悪魔じゃ、太刀打ち出来る者などおらんて・・この村は終わりじゃ・・」と深く俯いた。




