【二二】王国からの要請
メンバー全員と想いを交わしてから一週間が経った。
最初こそギクシャクしていた彼女達だが、女子メンバー全員(そもそも勇作を除けば女子しかいないのだが)と勇作という構図のためか彼の側には常に誰かしらが付き添うようになっていた。
聞いてみたところでは皆で想いを確認し合ったのだから、公平に当番制で勇作に付き添っているのだそうだ。独り占め、抜け駆けはダメということらしい。
今日は朝から心愛と希美が勇作と共に過ごしていて、昼食を食べているところだ。
「勇作・・はい、あーん・・あらあら、零しちゃったわね・・ウフフ」
「・・勇作・・これも食べる・・」
現在進行形で二人に給仕?給餌?されている。
自分で食べられると言ったところ、二人から物凄く悲しい顔をされてしまったので慌てて撤回した。
あのキス騒動以来、メンバーとの距離は確実に縮まった。
そのこと自体は喜ばしいことなのだが、逆に距離が近すぎる気がする。
ちょっと気を許すと唇を奪われることが日常的になってきた。
「・・くっ!・・肉食女子達め・・」
勇作は怨嗟の声を上げるのだが、「えー!・・勇作は嫌なの?」「ええやんか、減るものでも無し」「・・役得!・・」「あらあら・・勇作、真っ赤よ?」「当然の権利ですわ・・」「ハーレムだねぇ・・」とまるで相手にされない。
花江からは「・・ごめんね、皆に当てられちゃって」、初音からも「・・私も仲間に入れて・・」と言われては何も言い返せなかった。
そんな充実?した毎日を過ごしていた勇作達の元を王国から騎士副団長が訪れた。
哨戒任務に就いていた陽鞠と志摩から無線で連絡が事前に入っていた。
早苗と希美に海岸まで迎えに出てもらった。
立ち話もなんだし、拠点の整備も終わっているので招くことにしたのだ。
メンバー達は来客用の応接間で騎士副団長を迎えた。
「勇作殿、皆様にはお変わりないようで何よりと存じます・・それにしても凄い館ですな、王国にも無い変わった建築様式だ・・」
「ご丁寧にありがとうございます・・して、今回のご用向きは?」
勇作は騎士副団長にソファーへ座るよう促しながら用向きを聞いた。
「早速で恐縮ですが、国王様から手紙を預かって来ております・・勇作殿からのお返事を頂くよう仰せつかって来ました」
差し出された手紙は愛理が受け取り、開封してから勇作に渡された。
会話は翻訳機のお陰で問題無くなったが、手紙はダメだ。書いてある内容がサッパリ分からない。
志摩に頼んで翻訳してもらった。その内容とは・・。
「隣国であるシステア共和国に近い、王国属島の一つであるトゴイル島近海で巨大海洋生物が出現して困っているので助けて欲しい・・と言うことですね?」
「は、はい・・間違いありません、トゴイル島では漁に出た漁民が多数行方不明になっていまして・・王国としても軍船を数隻派遣したのですが成果には程遠く・・」
ふむ、と勇作は考え込んだ。先般よりマルカナ島やコナトラ島でも無残な敗戦をしている王国だ。今回、何の策も持たずに派遣したとは思えない。
「ちょっと確認したいのですが・・」「は、はい・・分かる範囲であれば」
「分かる範囲で結構です・・王国は今回の軍船派遣において何か対策は練られたのでしょうか?」
「はい、先般の敗戦を深く反省し、大砲の搭載数を倍増して臨んだのですが・・」
「それでも歯が立たなかったと・・」「・・はい」
「巨大海洋生物の詳細は分かりますか?」「はい、拙い絵ですがこれに・・」
騎士副団長が広げた羊皮紙には手書きの生物らしき絵が描かれていた。
「絵の補足をさせて頂きますと、全長二十メートルを超え、一見、大魚とも取れる長い体を持ち、大きな口を開けて全てを飲み込んでしまいます・・そして厄介なのは浅場には出て来ないことにあります、海底が深場に落ちる位置から島に近付きません・・大砲を打つとすぐに深場に逃げ込んでしまいます・・」
騎士副団長の顔には苦悶が刻まれていた。
「派遣された軍船への被害は?」
「はい、深場に逃げた奴はそれを追って沖に出た我々の船に次々と咬み付いて沈没させました・・無念です」
勇作は少し難しい顔をして考え込んでいたが、ふと顔を上げると愛理を見て言った。
「これはケートスかもしれないな・・」「ケートス?」
「ああ、俺もそんなに詳しくは無いんだが、ギリシャ神話に出てくる深海に棲む巨大鯨だよ・・それにこの絵が酷似してるんだ・・この魔物には大きなヒレがありませんでしたか?」
「申し訳ありません・・船に同乗していた訳ではありませんので、この絵に描かれた以上のことはちょっと・・」
「そうですか・・それで王国からは何と?」
「王都までご足労願いまして詳細の説明をさせて頂きます、その後にトゴイル島まで巨大海洋生物討伐に向かって頂きたく存じます・・」
「事情は分かりました・・メンバーと協議したいので少しお待ち頂けますか?」
騎士副団長にはそのまま応接室で待機してもらう。花江と初音にお茶を用意してくれるよう頼んだ。
別室の会議室に集まったメンバーに勇作が説明を始めた。
「今回の討伐は今までのものと違う点が二つある・・一つは推測の域を出ないが俺の知る魔物だとするとそいつは深海に棲んでいる」
「・・深海?・・」首を傾げる心愛に向かって言った。
「そうだ、数千メートルの深海に棲んでいると言われる魔物の可能性が高い・・正直、オケアノスが開発できていなければ俺達には手も足も出ない相手だ」
メンバー達が一様に固い表情をしている。勇作は続けた。
「もう一つは主の戦場が海中になる可能性が高いことだ・・オケアノスに海中、深海での戦闘は可能か?・・心愛」
「・・問題無い・・」
「そうか、であれば作戦の立てようによっては何とかなりそうだな・・」
「なるほどですわ・・それでこの件は受けますのでしょう?」
「・・難しい戦いになるが、俺達以外では討伐は難しいだろう」
「それで編成はどうするのかねぇ・・」
「今回はオケアノスとエルピーダ両方で出ようと思う」
「おー!・・私達の最大戦力だね!」
「但し、両方とも大型機だから小回りが効かない・・なのでホバーとカーチスも積んでいきたい」
「ほんまか?・・本当に総力戦やんか」
「エルピス島から距離がある上に機動力を必要とする可能性があるからだ・・花梨、エルピーダの格納庫にホバーとカーチスを積んでいけるか?」
「問題ありませんわ・・元々、その二基専用の格納庫が用意してありますもの」
「ふふ・・さすがだな、花梨・・」
「も、もっと褒めてもよろしいのよ?」
勇作は花梨に近付くと軽く頭を撫でた。花梨は顔を真っ赤にして俯いた。
「何か他に意見があるか?・・無いようなら、皆、遠征の準備を頼む・・出発は三日後だ」
「あらあら、急に忙しくなりそうね・・」
「勇作くん・・メンバー構成はどうするの?」
「試験航行の時の主メンバー割り振りで行く・・俺はオケアノスに乗ることになる、エルピーダの方は頼むぞ、愛理・・」
「分かりました・・でも、無理はしないでね」「・・分かってる」
メンバーとの協議を終えた勇作は騎士副団長に「三日後に王都に向けて出発する」と伝えた。
慌ただしい準備が終わり、出発前日の夕食で勇作はどうしても事前に話しておきたいことがあった。
「皆に言っておきたいことがある・・何より優先して欲しいのはまず自分のことだ、怪我は元より命を落とすなどもっての他だ・・絶対に全てのメンバーが怪我すること無くここに帰って来よう」
「「「「・・はい!」」」」
翌朝、ホバーとカーチスを格納したエルピーダとオケアノスはエルピス島沖で合流し、途中まで並走した。航行速度を合わせて両機共に海上を滑るように進んでいた。
「では、王都に向けて発進!・・」「「「「・・了解!」」」」
エルピーダもカーチス同様、海上に浮くためのフロートを備えている。収束ツインエンジンは回転式を採用しているため噴射方向を変化させて垂直離着陸が可能だ。もちろん通常の飛行機のように離発着用の車輪も備えられている。
オケアノスの乗員は艦長・勇作、操舵士・心愛、航海士・希美、機関士・陽鞠、通信士・初音という布陣だ。
それに対して、エルピーダの乗員は艦長・愛理、正操縦士・花梨、副操縦士・志摩、整備士・早苗、通信士・花江という布陣である。
初音と花江は無線通信に関する教育を受け、通信士として同行してもらっている。
今回は長旅になるためマルカナ島、コナトラ島には寄港せず通過して直接サーミル島へ向かった。
カーチスで先行して事前にサーミル島に連絡を入れておいた。が、しかし、入港して来た見たことも無い二隻の大型軍船(島民にはオケアノスだけで無く、エルピーダも船に見えたようだ)に港は大騒ぎとなった。
乗船しているのが勇作達だと分かると皆、一様にホッとした顔をした。
港の衛兵に一晩の入港許可を町長へ確認してもらう。
わざわざ港まで足を運んでくれた町長は勇作達の入港を快諾してくれた。
物資の補給(主に島の特産品である畜産加工品)を行い、エルピス島特産品を商人達に卸すと島民達が集まり出して、またしても大騒ぎとなってしまった。
夕食は久しぶりに全員で島の食堂(と言ってもかなり大きい規模だが)で済ませた。
艦内で一晩を過ごした勇作達は島民に見送られながら王国を目指して出航した。
二日後、勇作達は王国の港町ハミルブルックに到着した。
ここからは二手に分かれて行動することになっている。
エルピーダに乗る愛理達のメンバーは王国に出向いた後、トゴイル島へ向かう。
オケアノスに乗る勇作達のメンバーはトゴイル島へそのまま向かうことになっている。
航行速度の関係もあってトゴイル島で合流することにしていたのだ。
港では二隻の見たことも無い大型軍船にサーミル島の時と同様に騒然となっていた。
「やはりここでもこうなるか・・まあ、目立つからな」
勇作は独り言ちると検問所の衛兵に用向きを王城に伝えてもらうようお願いした。
待つこと三十分程でラフェスタ騎士団長が検問所まで迎えに来てくれた。
「ご足労頂き感謝する、勇作殿・・」「こちらこそ、わざわざ団長自らお出迎え頂き恐縮です」
「そんな畏まることもあるまい・・貴殿達とは既知の仲だからな、すぐに王城に向かうのかな?」
「はい、今回はメンバーを二手に分けて対処する予定ですので俺達はここまでです・・ここからは愛理達に任せますので」
「そうなのか・・貴殿と色々な話をしたかったのだが、致し方無い・・では愛理殿達を案内するとしよう」
「討伐が終わりましたら、その時にでもゆっくりと・・」「分かった、楽しみにしておるぞ・・」
王城に向かうのは愛理、志摩、早苗の三人で花梨と花江はエルピーダで留守番だ。
「では、行ってきます・・」「頼んだぞ、愛理・・俺達は一足先に現地に向かう」
「はい、くれぐれも気を付けて・・」
心配そうな愛理達を残して勇作達はオケアノスに乗り込みトゴイル島に向けて出港した。
沖合に出た勇作達は深度を水深五百メートルに保ってトゴイル島へ航行を続けた。




