【二十】愛理、希美、陽鞠、早苗そして志摩
生活環境の改善や安定的な食料の調達に始まり、拠点の設営、整備、厳しい世界で生き抜くための武器や移動手段の開発など多岐に亘ってメンバーのために粉骨砕身、努力してきた。
悩みがあると聞けば話し疲れるまで愚痴を聞いた。
メンバー間での揉め事があれば、進んで仲裁に入った。
食べたいものがあると相談されれば、材料の入手に奔走した。
女性特有の身体の不調にもケアを怠らなかった。
もっとも男である勇作には細かいことが分かるはずも無く、対処方法も分からないので愛理や希美に相談しながら、より快適な毎日が送れるよう頑張った。
これらは皆に対する愛情というよりは、リーダーとしての義務感の方が強かった。
望まずして、かつての世界から放り出された勇作達十人は、肩を寄せ合うようにこの世界を生きてきた。
一日一日と月日を重ねていくことで、ただの同級生であった少女達の存在はいつの間にか勇作にとって間違い無く家族の一員であり、かつての世界で起こった災害で肉親全てを一瞬で失った勇作にとって、文字通り彼女達は掛け替えのない存在となっていた。
「あ、ありがとう・・少し、一人にしてくれ・・」
勇作が指令室を出た後、エルピーダは拠点へと帰還するため静かに飛び立った。
エルピーダの試験飛行も無事に終わり、拠点に帰還した二日目の夕食時に勇作はメンバーへ話があるからと集まってもらった。
夕食後の食堂にはメンバー全員が集まり、ハーブティーが用意された。
勇作はひとしきりハーフティーを飲んで心を落ち着けた後、メンバー全員の顔を見渡して話し始めた。
「初めに皆に確認しておきたいことがある・・皆が俺のことを好いてくれたことは素直に嬉しい、が、この世界に飛ばされた者の中に男が俺一人だったからということは無いか?」
「「「「??」」」」
一瞬、何を勇作が言ったのか分からずポカンとしてしまう女子メンバー達。
現実に戻って来た彼女達から一斉に責められることになる。
「バ、バカなことを言わないで下さる?・・たまたま男が勇作一人だったから皆が好きになったと仰りたいのかしら?バカにしないで下さいまし・・勇作だから好きになったのですわ」
「・・勇作、バカ?・・」「私はどんな時も勇作が好きだよー!」
「あらあら、勇作は心配性なのね、そんなことある訳無いじゃない・・」
「・・バカだねぇ」「ほんまやな・・そんなこと考えてたんか」
「勇作くんだからです・・そんな心配無用です!」
散々な言われようの勇作はホッと一息つくと皆を見回して話し出した。
「俺の杞憂だったのならそれで良いんだよ・・オケアノスに続いてエルピーダの試験飛行が成功したことをまずメンバーの皆にお礼を言いたい・・ありがとう・・」
勇作は立ち上がって深々と頭を下げた。
あっけに取られたメンバー達は慌てて自らも立ち上がって頭を下げた。
「すまない、気を使わせちゃったな・・座ってくれ」
全員が着席するのを待って話を続けた。
「この世界に突然飛ばされてもう一年が経った・・皆を守るために、この生活を守るために何が必要か・・そればかりを考えて来た一年だったと思う・・明日にでも志摩にお願いしていたムサ羽?だったか、運用テストを行いたいと思う」
一旦、言葉を切った勇作はメンバーを見渡した。
「今回の開発は俺自身、焦っていたこともあったんだと思うが、無理をさせてしまった・・メンバーの皆には本当に苦労を掛けてしまった・・すまなかった」
勇作は椅子から再度立ち上がると深々と頭を下げた。
「な、何を言ってるんですか?・・勇作くんは悪くなんか無い、一生懸命やってたもん・・そんなこと言わないで・・」と愛理は立ち上がり瞳に涙を一杯溜めながら訴えた。
「ありがとう、愛理・・君がいつも俺の隣でサポートしていてくれていたから今がある・・本当に感謝してる・・」
「私なんて・・いつも勇作くんの後を懸命に付いて行っているだけ・・本当に頑張っているのは勇作くんだよ・・私は誰より知ってるもん・・」
「俺は立案者だからな・・頑張るのは当然のことだよ」
「でも・・」
「優しいな、愛理は・・俺も・・愛理のことが好きだよ」
感謝の言葉の後でさらっと愛の告白とも取れる言葉を受けた愛理は、泣き顔が時間停止したかのように目を見開いて硬直していた。
「いつもありがとうな・・そしてこれからもよろしく!」
硬直している愛理に近付いて抱きしめると、おでこにキスをした。
黒髪、ボブカットの愛理からは百合の花の香がした。
「・・愛理は・・当分現実に戻って来そうもないから、次に行かせてもらう・・予め断っておくが順番に他意は無いぞ・・理解して欲しい」
メンバーは愛理を羨ましそうに見ながら勇作の不可解な言葉に?を付けた。
「次に希美・・」「えっ?・・あら、私?」
「希美の持つ豊かな包容力にどれ程、癒されたことか・・そう言う俺もその一人だ・・ちょっと天然が入っているがな」
「あら?・・ふふ・・」
「戦闘なんて素人で無縁の世界から突然こんな世界に放りこまれたのに、自分のことよりメンバーに寄り添ってくれたこと・・本当にありがとう、希美がいてくれてどれ程心強かったことか・・」
「あら・・褒められちゃったわ」
「希美が好きだと言ってくれたこと最初は信じられなかった・・俺はこう見えて子供のようなところがあるからな、相手にされていないと思っていたよ・・」
いつに無く真顔になった希美は勇作を見つめた。
「そんなこと無いわ・・いつも頼もしかった・・いつの間にか貴方を目で追うようになっていたわ」
「ありがとう・・俺は希美のことが好きだ・・多分これからも頼りにさせてもらうことになると思う・・よろしくな・・」
勇作を見つめていた希美の瞳から突然、大粒の涙が伝い落ちた。
希美の目元の涙を指で拭うと、そっと抱き締めた。
濡れた瞳で見つめる黒髪、ロングの希美からはお日様の香がした。
勇作を見つめたまま時間停止している希美のおでこにキスをした。
「次・・陽鞠・・」「は、はーい・・わ、私だね!」
「陽鞠だって不安と戦っていただろうに・・あちらの世界で武道の師範代をしていたといっても、突然こんな世界に放りこまれたんだからな・・」
「そ、そうだね!・・でも、皆がいるから大丈夫だよ!」
「そのとおりだな・・良い仲間に恵まれたと俺も思っているよ・・でもな、陽鞠のそのお日様のような明るさに俺を含めて皆、どれほど助けられたか分からない」
「・・う、うん!・・」
「うちのメンバーの元気印だからな、いつも明るくいてくれて・・本当にありがとう」
「・・えへへ・・」
「陽鞠から好きだと言われて嬉しかった・・俺も陽鞠のことが好きだよ、これからもよろしくな」
陽鞠はキョトンと何を言われたか理解出来ていないようだった。
爽やかなフローラル漂う栗毛、ミドルの髪をツインテールにしている陽鞠を抱き締めると、おでこにキスをした。
陽鞠は顔を真っ赤にしてポカンと時間停止していた。
「・・次は・・早苗・・」「私かねぇ・・」
「早苗には医療、薬、栄養と皆が健やかに過ごせるために必須と言えるセーフティラインを守り抜いてくれた・・変な言い方だが早苗がいてくれたから安心して怪我することが出来たようなものだ」
「確かに変な表現だねぇ・・」
「すまん、他に良い言い方が見当たらなかった・・この世界に放り出されて安心出来る環境を与え続けてくれたこと、言うのは簡単だがそれを維持することの大変さは計り知れない・・本当にありがとう」
「改めてそう言われると・・照れるねぇ」
「早苗にはメンバー全員が感謝しているよ・・もちろん俺もその一人だ・・」
「そう言ってもらえると苦労が報われるねぇ・・」
「そしてまさかのことだったから驚いたんだ・・早苗が俺のことを好いていてくれたとは・・」
「まあ・・勇作は格好良いからねぇ・・」
「はは・・誉め言葉として受け取っておくよ・・早苗の苦労と想いに報いることが出来るか分からないがこれからも全力で頑張るよ・・そして、俺も早苗のことが好きだ」
勇作はそこまで言うと長身で栗毛、ロングの髪をポニーテールにした早苗と向き合って抱き締めた。
早苗からは消毒液のような痺れる香りがした。
されるがままの早苗のおでこにキスをした。
「次は・・志摩・・」「やっと、私の番やな・・」
「今回は畑違いの開発を担当してもらった関係で大分苦労させてしまったな・・王国と良好な関係を築けたのも志摩が先頭に立って交渉してくれたからだ、礼を言わせてくれ・・ありがとう」
「ま、まあ・・それは私の得意分野やからね・・」
「それでもだ・・個性的なメンバーが集まった俺達の中で、いつも中心となって取り纏めてくれていた・・俺や愛理の手の回らなかったところを影からフォローしてくれてただろ?」
「なんや知ってたんかいな・・」
「最初の頃は自分自身のことで手一杯だったから気が付かなったが・・思い返すと色々なことが思い浮かぶよ・・甘えちゃいけないと思うんだが、つい、な・・」
「ええやないの・・頼ってええんよ?・・仲間やんか」
「そう言ってくれるだろうと思ってたよ・・・・ありがとうな、皆と同じように志摩にも本当に感謝してるんだ・・今後も遠慮なく頼らせてもらう」
「はは・・多少は遠慮してもらってもええのよ?」
「・・そうだな、志摩も俺のことを好きでいてくれたとこの前聞いた・・」
「そうやな・・最初は堅苦しい融通の利かない奴やと思ってたんやけど・・いつ頃からかな?・・気になり出して勇作を目で追うようになってた・・この辺は花梨と同じやな」
「えっ?志摩も私と同じ?」
「・・そうや・・私も勇作中毒に掛かってしもうたわ」
「おまっ・・中毒ってひどい言われようだな」
「ほんまのことやから・・私もいつの間にか勇作のこと・・好きになってた」
「ありがとう・・志摩にそう言ってもらえてすごく光栄だよ・・皆のことも志摩のことも好きだなんて不謹慎かもしれないけど・・」
話の途中から照れ隠しなのか、椅子から立ち上げって壁にもたれ掛かっていた志摩の正面に移動した。
「・・志摩、君のことが好きだ」
壁ドンの状態から志摩を抱き締めた。志摩はされるがままになっている。
栗毛、ミドル髪の彼女からは甘いフルーツの香がした。
志摩の瞳は「それからどうするん?」と微笑しながら問い掛けていた。
勇作は志摩の瞳を見つめると、おでこにキスをしようと・・志摩が不意に顔を上げ、彼の首に腕を回して引き寄せた。
「チュッ!・・」
衆目の中、勇作は志摩に唇を奪われた。
「「「「・・あっ・・」」」」メンバー達が志摩の行動に固まった。
突然のキスに呆然とする勇作は咄嗟に反応する出来ず身動ぎ一つせずにいた。
長いキスが終わり二人の唇が離れると勇作はようやく再起動した。
「な、何を・・志摩?・・」「ウフフ・・愛理だけズルいやんか・・私も仲間に入れてや・・」
「・・えっ?・・愛理?・・」
王城での出来事を知っているメンバー達は一様に苦笑いを浮かべた。
「勇作が知らないだけやで?・・王城で倒れた際に愛理から奪われて・・もが、もが・・」
「ち、ちょっと、それは言わない約束です、勘弁して下さい!・・」
愛理は志摩に飛び掛かるように口を塞いだ。
「??・・」
全く事情の分からない勇作は困惑するだけだった。
真っ赤になった愛理から睨まれて、さすがの志摩もたじろいだ。
「・・分かったから離しいな・・どうせ後で分かることなんやから、話してスッキリした方がええ思うんやがな・・まあ良いわ、ほれ、勇作・・私の次や・・」
「さ、さっきの話は・・」「後や、後・・早よしい・・」
「・・志摩にも困ったもんだ・・全くもって納得出来んが、分かった・・」




