【十七】新たな結束とオケアノス
勇作は愛理に自分の過去について順を追って話した。
愛華との関係については多少ボカして説明したが、話しの途中から愛理は周りを憚らず声を上げて泣き出した。
「勇作くんは愛華先生のこと、大好きだったんだね・・」
途中で説明を止めて愛理に追加のハンカチを渡した程だ。
話し終えて勇作は愛理に言った。
「すまなかった・・皆が心配するのが分かってて自分の感情を抑えられなかった・・でも皆のことが心配だったんだ、滑走路で倒れている花梨を見つけた時・・助けられなかった、あの時のことがフラッシュバックして・・」
「勇作くんが謝ることじゃ無い・・私も含めて勇作くんの気持ちを蔑ろにしてた・・皆、すごく反省してるの・・話だけでも聞いてもらえない?」
「・・分かった」
その答えを聞いた愛理は涙を拭うこともせず、入口の扉を静かに開いた。
愛理を除くメンバー全員が部屋の中に入ってきた。
全員が瞳を真っ赤にして涙を流していた。
「皆、聞いていたのか・・愛理にも言ったがすまなかった・・自分の感情を抑えられなかったんだ・・ごめん・・」
突然、花梨と心愛が泣きながら勇作の目の前に跪いた。
「勇作・・ごめんなさいですわ・・そんなに辛い過去が、あったなんて知らなくて・・研究に夢中になり過ぎて・・心配掛けてしまって・・謝りますわ・・二度とこんなことに、ならないよう気を付けますわ・・だから・・だから・・許して欲しいですわ」
「勇作・・ごめん・・やり過ぎた・・謝るから・・機嫌直して・・ごめんなさい」
二人揃って頭を下げた。
「二人共、相当反省しているようやし・・許してやってや」
「勇作・・ごめんーって・・皆で心配掛けないようにするー!」
「謝るだねぇ・・こんなに勇作に心配掛けてるとは知らなかったんだねぇ・・」
「ごめんなさいね・・皆、反省してるわ・・あらあら、二人ともまた泣いちゃったわね」
「「私達からも謝ります・・私達の監督不行き届きでもあるもの」」
「勇作くんの気持ちは皆分かってるの・・いつも皆のことを心配してくれていることも・・そんな勇作くんの気持ちに甘えていたことも・・だから・・」
愛理の言葉を途中で遮り、勇作は突然立ち上がった。
これ以上、皆からの謝罪など必要無かった。
花梨と心愛の前に膝を付くと二人の肩に手を置いて話し始めた。
「俺は・・こんな世界に突然飛ばされて不安だった・・でも皆がいてくれたから、支えてくれたからここまでやってこれた・・皆のことを何より大切に思っている、家族だと思っている・・だから何かあってからでは遅いんだ・・分かって欲しい・・それと、心配掛けてごめん」
勇作は頭を下げた。顔を上げた時にはその瞳からは涙が流れていた。
「勇作!ごめんなさいですわ」「勇作!ごめん」
花梨と心愛は勇作に突進するように抱き付いた。
勇作は「もう無茶はしないでくれよ」と泣き笑いしながら二人を抱き締めた。
そんな勇作達に愛理が泣きながら抱き付いたのを皮切りにメンバー全員が一塊になって泣きながら抱き合った。
翌朝、勇作が朝食のテーブルに着くと、既にメンバーは全員が揃っていたが何となくギクシャクとした空気が流れていた。
「「「「お、おはよう勇作」」」」
「おはよう、皆」
感情をぶつけ合ったメンバーは今まで以上に勇作を中心に強固な結束を果たして行くのである。
そんな騒動?の一カ月後、課題とされてきた開発が次々と成果として披露された。
農畜部の陽鞠が主に進めていた健康補助食品はビタミン剤とミネラル剤の生産が完了していた。
これは錠剤形で摂取できるよう改良を加えて、専用の容器に保存出来るようになっていた。
海に囲まれた島々ではどうしても栄養素の偏りが出て、様々な病気につながっているのだ。
この栄養錠剤を使えば、病気になるリスクを減らし、未然に防ぐこと出来る。
「これでー、ビタミン不足やミネラル不足の病気が無くなると良いねー!」
いつも元気な陽鞠は上機嫌だ。
医薬部の早苗が主に開発していた痛み止め剤と抗菌剤が完成した。
そのまま飲むには苦すぎて難しかったが、共に開発していたカプセルに入れることでこれをクリアした。
この開発によって、骨折や腰痛などの痛みの軽減と外傷による感染リスクの低減につながる。
「この薬を悪用されないように気を付けないとだねぇ・・」
早苗は怖いことを言っていた。薬は一歩間違えば毒にも成り得るからな。
芸家部の希美が開発していたゲーム関連製品も一通りの量産が完了していた。
計画にあったトランプ、オセロ、ジ〇ンガの他にUNO、花札、麻雀(これは勇作の切なる願いによるもの)、将棋などを作り上げていた。
トランプの絵札は王国や貴族の関係を考慮して絵を使わない図柄にした。
将棋では車の表現を舟に変更、王将を大将に変更するなどこの世界での戦闘に近い表記に変更したりと工夫を凝らした。
ゲームの説明書は経外部の志摩に頼んで作成してもらった。
現在は取説の増版に大忙しの状態だ。
「どの世界でも娯楽は必要よ・・あら、新しいゲームが閃いたわ、早速、試作しようかしら」
いついかなる時でも希美はマイペースだ。
これらのゲームの中で国王には将棋、トランプをプラグマ第一王子、オセロをセレネ第一王女、ジェンガをカロン第二王女に贈呈した。
もちろん遊び方の取説も同封してある。
次回、王都へ行った際には対決しましょうと煽っておいた。
技建部の心愛が開発していた大型潜水艦、名前を「オケアノス」(ギリシャ語で海神)と言い、苦労の末にやっと進水式を迎えることができた。
出力は予定の五千馬力に達し、最高航行速度は三十ノット、最高潜行深度は千メートル以上、連続航行時間は基本的に無限という途轍もない高性能大型潜水艦が完成した。
船舶の大きさを示す単位として排水量トンがある。
心愛の開発したオケアノスが何トンになるのか本人からの申告が無いため良く分からない。
勇作が心愛に聞いてみたところでは「・・意味が無い・・計算していない・・」のだそうだ。
それより「・・各種性能値の方が大事・・」と言っている。
確かに「何トンクラスのトラック」と言われてもピンと来ない。
最高速度がどれほどで、最大積載量がどれほど積めて、最高出力がこれだけ・・と言われた方が分かり易い。
実益本位の心愛らしい考え方だ。
一応、計算上の数値としては基本排水量三千五百トン、水中排水量五千トンらしい。
一人当たり三畳程ではあるがメンバー全員分の個室が用意されていた。
トイレは艦内という制約上、共同での使用になるが、かなり広めに設計されている。
バスは小さいながらもバスタブに体を沈めることの出来る深さと広さを確保している。
主に調査や戦闘の役目に就く予定のオケアノスだが、やはりこの辺は女子的にどうしても譲れなかったようだ。
潜水艦には待機、整備するためのドック(専用の船着き場)が必要になる。
拠点地下二階から行ける洞窟のような地下スペースに心愛はドックを建設した。
吊り上げ用のクレーンや巨大な排水装置、各種性能テスト用機材などがところ狭しと置かれている。
このドックからは掘削機で開けた円筒の穴が島の海岸から二キロの地点まで続き、そのまま海中に出られるよう設計されていた。
拠点から直接、海底を通って出航することを目的に建設されたドックなのだ。
何故、二キロも沖合なのかと心愛に聞いたところ、「・・ちょうど良い岩盤がそこにあったから・・」だそうだ。
メンバー全員(女教師二人も同乗している)でオケアノスに乗り込んだ。
潜水艦を運用するには通常、最低でも常時十人程度の人員を必要とする。
艦長、操舵士、航海士、機関士、操作士、通信士などだ。
これ以外に調理士なども必要になる。
かつての世界で日本最新型と言われた「そ〇りゅう型」の場合、定員は六十名程度と言われている。
居住空間を極限まで切り詰めた結果である。
オケアノスでは通常の潜水艦で五、六人分のスペースを一人の居住空間としてメンバー全員分の個室が用意されていた。
やはり女子的にプライベート空間は何より大切であるらしい。
そのためオケアノスには個室の他、シャワー室、トイレは言うに及ばず食堂や娯楽室まで完備されている徹底振りだ。
指令室にメンバー全員が集まり、予め決められた配置に着いた。
艦長席には勇作と愛理、操舵席には心愛と志摩、航海席には花梨と希美、機関席には陽鞠と早苗、通信席には女教師の初音と花江がそれぞれ着席した。
艦の最大能力を発揮させるためにはこの布陣が最良と考えられたが、実はフルオート航行モードを搭載しているので能力を抑えて良ければ最小人数二人で航行できる。
「では、オケアノス発進・・」「オケアノス、発進して下さい」
勇作に続いて愛理が復唱した指令にメンバーが動き出した。
「艦外問題ありませんわ」「艦内計器も異常ないわよ」
「機関オールグリーンだよー!」「艦搭載装備問題無しだねぇ・・」
「全てオールグリーンやな」「・・分かった、発進する・・」
心愛は収束エネルギー発生機関を変換炉に接続した。
エンジンもスクリューすら持たないオケアノスは収束エネルギーを変換炉で推力に変換して艦後方へと噴射させて推進する。
僅かな噴出音のみが聞こえ、少しずつオケアノスは前進を始めた。
「おおー、動いたよ!」「静かやね・・」「あら、気を付けないと寝てしまいそうね」「そこは頑張るのですわ」「でもねぇ・・」
「・・別に皆が寝たら私がフルオートで操縦するだけ・・」「「「「・・」」」」
「ほ、ほら皆さん、もうすぐ外海に出ますよ・・集中して下さい」と愛理は弛んで引き攣った空気を引き締めた。
程無くしてオケアノスはドックを出航した。
今回は処女航海として訓練を兼ねた三日間の航行予定だ。
指令室には四台のモニタが設置されている。
艦正面、艦左右、艦後方の映像が流れていた。
深海になるとほとんど映像は映らないので作戦行動マップなどが映されることになっている。
どうやって液晶を作り上げたのか心愛に説明を受けたがさっぱり分からなかった。
「うわっ・・海の中ってこんなんやったんか」「キレーだねー!」「本当だねぇ・・」
「あら、あんなに可愛いお魚さんが一杯よ」「本当に綺麗ですわ」
「・・公害が無い海・・当然の光景・・」「「「「・・」」」」
「ほ、ほらあそこにも見たことの無い魚が・・」必死に空気を取り繕う愛理であった。
段々に深度を下げて行くとモニタにはマリンスノー以外何も映らなくなった。
「音響探査・・データを画面に出しますわ」「あら、艦内情報も合わせて出すわね」
正面の一台のモニタには音響探査によって解析された艦周囲の海底の地形、障害物、大型の海洋生物などが刻々と映し出されていた。
もう一台のモニタには出力機関や装備兵器の状態、電気の蓄電量や酸素濃度、真水の貯水量など様々な情報が表示されている。
残りの二台のモニタは艦四方向の画像が継続して映し出されていた。
「現在、深度三百・・更に降下して行きますわ」「出力十五ノットを維持するわね・・」
「収束エネルギー、変換炉共に順調だよー!」「確かに順調だねぇ・・」
順調に進んでいた深度五百メートルに差し掛かった時、正面モニタに警告が表示され警告音が艦内に鳴り響いた。
「前方に未確認ですが、巨大海洋生物と思われる影を補足しましたわ!」
「データ照合・・あらあら、巨大海洋生物って五メートルぐらいのクラーケンのようね」
「心愛・・迎撃できるか?」「・・もちろん・・」
「よし、迎撃準備・・」「巨大生物に迎撃準備願います」愛理の復唱で全員が一斉に動き出した。
「・・収束砲、準備・・」「オッケー!・・準備完了だよ!」
「巨大生物との距離カウントしますわ・・五・四・三・・」
「・・発射、任せる・・」「任しとき・・照準OK・・発射!!」
心愛からトリガーを托された志摩は慎重に狙いを定めて発射した。
どおぉんと言う轟音を残して収束砲が発射され、両側のモニタが眩しく光り、徐々に可視状態に戻った。
「あらあら、巨大海洋生物の影も形も無いわね」「収束砲の方も問題無いようだねぇ・・」
音響モニタ上に映し出されていた巨大な影は消えていた。
「・・OK、問題無し・・」心愛の安堵と満足げな表情がここまでの苦労を思わせた。




