その10
(こいつ、強い!)
ユーネスをオーバーシュートしてしまった瞬間、爆発音に似た咆哮とともにV-53sのテールノズルにアフターバーナーが点火される。
ロードは逃げを打ったのだ。
あそこからロードが上昇し敵機を追いかけていれば、ループ半径は速度と開始位置によってロードの方が大きくなり、その内側にいる敵機からは格好の標的となっていたからである。
強烈な加速がロードをシートに押し付ける。
同調して、ロードは四肢と腹に力を込めて血液を頭に絞り上げる。
徐々にタイミングをつかめてきて、体にかかる負荷が軽くなってきている。
あまりにも短い間に繰り広げられる攻守の逆転につぐ逆転。
降下からの加速のため速度の上昇は早かったが、ユーネスに上を奪われた今の位置関係はロードには圧倒的不利だった。
一刻も早く、ユーネスがロードを追いかけ始める前に、スピードと距離を搾り出さなければならなかった。
垂直尾翼の合間に見える、敵機の影に目を凝らす。
(なぜ、やられた?!
奴の死角に入ってからの、”動き出し”だったはずだぞ!!
まぐれ、か?
それとも・・・。)
ロードは自分の機動に対抗策・カウンターを当てられないように、敵機から自分の機が見えなくなってから動き始めていた。
が、それはロードが、万全を期すために行った保険だったのだ。
ロードは例え”動き出し”を見られたとしてもカウンターを当てられるとは思っていなかった。
その上、ロードにはユーネスのカウンターの”動き出し”も見えなかった。
(読まれたのか?!)
ロードがユーネスから目を離したのは水平を回復させるために行ったロールとピッチダウンの一瞬だけだったにもかかわらず。
(悪夢だ。)
背後に見えるユーネスの機首がゆっくりと、ロードに向く。
この距離、スピードでは振り切ることもできない。
「えぇいっ!!」
ロードは加速しながら右に旋回する。
旋回効率は無視した大半径旋回。
ロードを撃墜するつもりならならば、ユーネスは追って来る他ない。
(どうする、どうする、ドウスルっ・・・。
下手な機動はあのパイロット相手では、次はない。
何かないのか、此方から出来てユーネスに出来ない回避不能の・・・?!)
ユーネスはやはり加速しながら後を追ってくる。
単発のユーネスは加速しながら旋回しなければ、V-53の加速旋回について行けず振り切られてしまうからだ。
ユーネスはまだロードをサイトには捉えられてはいないだろうが、ロードの旋回の内側にいるユーネスは多少V-53より低速度でもついてこられる。
(博打を打つしかないのか!)
ロードは力ずくに近い旋回加速を続けながら、ユーネスのサイトを横切るためにロールしながら左に向かって急角度で切り返す。
・・・・・・
一つ一つの旋回が力任せのブレイクに匹敵する”敵 V-53フラット”の高G旋回に必死に追随するエルドシンEN-65ユーネスのコックピットで、パイロットが荒い息を吐いていた。
「ハァ、ハァ、ハァ」
前方近距離を旋回飛行するV-53へ機銃攻撃を加えるために、軸線を大きくV-53の進行方向のその先に向け見越し射撃の角度をとる。
単発機のため、総合推力に劣るユーネスは全速で後を追う他なかった。
旋回機動によるGによって、射撃照準レティクルはHUD下隅に流れているため、敵機を撃墜するためにはHUD視界ギリギリの範囲にあるその一点に機影を捉えなくてはならない。
強烈な右旋回に追随する。
しかし、フラットはその照準から逃げるように左に反転して切り替えし、ユーネスグのHUD下方、計器盤の影へと隠れてしまう。
「ツハァーッ」
途端に、ユーネスの機体は翻り、フラットに追随すべく降下を織り交ぜ同様に切り返してゆく。
ユーネスの軌道はV-53フラットの旋回半径の内側をショートカットする形、急激に左に切り返したフラットを追随はできても、その軌道は自然に直線的にならざるをえない。
ユーネスにはフラットの挙動は、言わば典型的シザース機動の始まりに見えたはずである。
しかし、そうであっても機影を確認しなければそのまま離脱され、せっかく確保しているこの位置が無駄になるだけなのだ。
ユーネスは速度を多少落しつつもフラットを追うため更に左へ急旋回をかけようとする。
「?!」
ロールからピッチアップに移行しようとする背面状態に近いコックピットのなか、見上げた旋回方向にあるはずのフラットを確認しようとしたユーネス・パイロットはありえない状況を目の前に見る。
「フゥォ、フホォォッ、フッフッフッ!」
パイロット・・・、カーヴィナスパイロットの間で”ジュラーヴリク”として恐れられている者の息は酷く乱れ始める。
そこにあるはずのフラットが“消えていた”からだ。
それでも、最後に見たフラットの機動をなぞるしかないユーネスは、急激な引き起こしによって翼端から短く鋭い雲を引く。
「ハァハァハァ、シュー…」
機体を90度以上左に傾けたままで、すぐさま地面方向に視線を移すが、・・・いない。
水平を回復させながらも上下左右を確認するが、やはりいない。
予測も出来なかった状況にパイロットは虚をつかれ、レーダーの確認が遅れてしまっていた。
「っ?!!」
レーダーには敵機影はある・・・が、その場所はユーネス・パイロットの常識ではありえない場所。
『Waning Waning!!』
直後、ユーネスのコックピット内に、けたたましく鳴り響く警戒警報。
「うぅっ!」
ジュラーヴリクは一瞬、呼吸を途切れさせてしまう。
素早く振り返ったパイロットがシート越しに目に映したのは、背後に浮き立つ白と蒼に塗装されたV-53フラットの機影だった。
・・・
スタインがV-54 スターカウンターの全開速度で、ロードが戦闘を行っている空域に到着し見たものは様々な面に於いて、あり得ない光景だった。
スタインからは、敵機と比較すれば明らかに自軍のものと判る機体が、加速大半径旋回で小型単発機を振り切ろうとしている時点の軌跡から確認ができた。
「急げっ! もっと早く!!」
しかし、焦りが呼び起こすスタインの叫びにこの状況を好転させる力は無い。
『ケーセス1 基地周辺空域からのエルドシン機 完全離脱を確認。』
スタインが見抜いた通り、問題は此方なのだ。
スタインが向かって来た空域にいた試験機は、ロードの乗ったV-53sテスト機を含めてもたった2機だけだった。
しかも、片方の試験機はすでに別空域に離脱している。
残ったのは操縦経験もない受験生たった一人が乗ったV-53sと、悪夢のエルドシン機だけ。
基地から離れ支援の最も遅れる場所で、たった一人でいるということ自体がすでに絶望的な状況だった。
今まで持ち堪えただけでも奇跡的なことなのだが、そんな奇跡は今のスタインには気休めにもなりはしない。
長く同じ機動を続けるV-53sの機動は、スタインから見れば撃墜の前ぶれにしか見えないのだ。
あと少しでも敵機が機首を上げれば簡単に撃墜されてしまう危険な軌道。
しかし、スタインの乗るV-54 スターカウンターは、エルドシン小型軽戦闘機の小回りの利く機動性に対抗するために開発された、単発戦闘機である。
新型エンジンを搭載しているとはいえ、最高速度はたかが知れている。
全ての兵装が射程外なのだ。
スタインがあの2機に影響を与えられるようになる頃には、あの機動はすでに終わっているだろう。
(マズイ!)
遂に、V-53sがロックオンされると思われた途端・・・。
「何っ?!」
スタインは思わず漏らしてしまう。
・・・V-53sは突然に左へ切り返したかと思うと、スタインの感覚に沿わない異常な挙動を見せたのだ。
客観的に状況を把握できる立場にあるはずのスタインでさえ、一瞬V-53sの行った機動が何なのかが掴めなかった。
スタインから見ればV-53sの描く軌道に残る白く細い雲が濃くなった直後、忽然と消え去ったように見えたのだ。
その、残りの軌跡をなぞるように飛行してきたユーネスは、突然に行き止まりになったV-53sの軌跡を飛び出してしまう。
「なんだ、オーバーシュートさせたのかっ?!」
光の反射面の違いによってV-53sの形状・動きが確認できる。
ゆっくりと前進しつつおじぎをするような、機動の終わり方。
V-53sテスト機が可能なあの種の機動。
何よりも今の機動戦術の組み立てと間は、操縦経験のない一般人に可能な技ではない。
その時、V-53sがユーネスの背後を取っていた。
・・・・・・
「・・・勝った、のか?」
すぐさま、ロックオンのためにシーカーがユーネスの単発ノズルを追いかけ始める。
ロックオンが完了されれば、敵機が不規則回避機動・ジンキングを始める前に打たなければならない。
そして、HUDサイト内にある敵機をロックオンするなんてことは、シーカーが敵機を追いかけ始めてから1秒もかかりはしない。
ピッピッピッ・・・ピーーーーーーーー!!
ミサイルロックを告げる電子音がイヤホンから響く。
ロックオン。
「はぅっ・・・!」
反射的だったのか、決心して行ったのかはロード自身にも判らない。
が、抜けるような息を吐き出したロードの右親指は、確かにミサイル発射ボタンを押し込んでしまっていた。
しかし、
「・・・おかしい。」
それは明らかだった。
ヘッドアップディスプレイにはミサイル発射を示す表示が点滅している、にもかかわらず敵機に向かい伸びて行くはずのミサイルの航跡は一向に現れないのだ。
ロックオン状態は継続していたが、迷いつつもう一度発射ボタンを押してもディスプレイ上での変化は確認できても、ユーネスは依然目の前に健在している。
悪い予感が頭をもたげ始めた。
「・・・まさか・・・。」
ロードは選択機器を切り替えたり、トリガー・火器発射ボタンを連打する。
が、やはり反応が無い。
「エマージェンシー!!
ミサイル発射!
シーカーオープン!
シュートっ・・・ウェポンフリー!
FOX-2!」
もしかしたら、解除コードが必要なのかもしれない、という微かな希望にすがり、思いつく限りの命令コードを叫びながら、ミサイル発射ボタンを連打する。
が、無情にも敵機に向かって伸びてゆく筋雲は現れない。
機銃発射トリガーに至っては、先程から引いたままの状態である。
全ての兵装が沈黙を続けている。
このタイミングで撃墜できなければ、火器が使えなければ、どんなに敵機の背後を取ろうともロードを待つのは撃墜される結末でしかない。
しかし状況は、シミュレーションならば当然装備されているはずの火器が、一つとして装備されてはいないという“現実”を示していた。
試験機・技術試験機というこの機の立場が最後の最後に来てロードにとどめをさすことになった。
背中を悪寒が走る。
絶望の、その時・・・
シュィィィーーー!!
背後から視界内に、細い雲が急速に伸びてくる。
『ウオォォォーーーッ!!!
生きてるなっハーノクス!!』
「あ!」
イヤホンから聞こえるスタインの叫び声が耳に痛い。
しかしそれは絶望的状況の中にあり、半ば諦めていた救いの声でもあった。
今まで、その存在を忘れていた、“カーヴィナス”そのものが、今、ロードの背後に絶大なる存在感を放ち、敵に対峙していた。
先程のミサイルは、射程外からのセミアクティブ中距離レーダーミサイルによる射撃である。
敵機にレーダー警告を与えることは出来るだろうが、ミサイル自体は敵機到達前に推進力・運動エネルギーともに失い、決して当たりはしない。
とにかく、一秒でも早く敵機に自己の存在を確認させ、ロードの安全を確保しようとしたスタイン苦肉の策である。
ユーネスは速度を増しまっすぐにロードから遠ざかってゆくが、ロードもそれを追いかけようとはしない。
もしロードがミサイルを積んでいれば、確実にユーネスは撃墜される軌道を飛行していく。
その敵機の飛行軌道に、ロードは骨の芯から冷たくなってゆく自分自身を感じた。
(あれが、こちらに兵装が無い事がばれていたな。)
もし、スタインがこのタイミングで現れなければ、ユーネスは間違いなくオーバーシュート無視でロードを撃墜するまで追ってきただろう。
ロードにとってそれは絶対に勝つことの無い延々たる追いかけあい。
しかし、ロードはその絶望的状況に、生き残ることが出来た。
『生きているなっ?!
返事をしろっ!!」
「は、・・・はいっ!!」
疲れ過ぎ、投げやりにも聞こえかねない、尖った返事しか今のロードには返すことが出来なかった。
返事をする短い間さえ息が続かず、大げさな抑揚が出来てしまう。
今は静かに呼吸だけしていたい。
長く、とてつもない緊張感と緊迫状態から開放され、ロードの疲れ過ぎた頭は考えること自体が苦痛になっていた。
機体を自動水平飛行に移行させるとロードの目は自然に閉じられてしまう。
加速した思考はコンピュータのように脳を発熱させ、閉じられたまぶたは異常に熱く、目の奥はジリジリと痛む。
耳元にスタインの声が聞こえているはずなのだが、その言葉はだんだんと意味を成さないただの音としてしかロードに認識されなくなっていった。
V-53sフラットが、T.REXの操るV-54スターカウンターに引率されるように、ケーセス基地への帰還コースをとっていく。
二機が黒いシルエットとなる背後では、真っ赤な太陽が陽炎のように地平を揺らめかせながら沈んでいく。
その日、基地に辿り着いたロード達不運な受験生と試験官パイロット達は、徹夜で取り調べにも似た状況説明を軍から求められることになった。
死亡者まで出してしまった採用試験。
運良く生き残った者達の中には、翌日まで泣き伏す者さえいた。
喉が渇くほど過剰に暖められた控え室でロード達受験生は、長く重い夜を明かすこととなった。
控え室のテレビでもその話題しか放送されていない。
おそらく、基地の前はマスコミの取材陣でごった返しているだろう。
しかし、これらは全てロードが翌日眼を覚ました後、他人から聞いた話である。
ロードは、スタインが現れてからの記憶がどうにもはっきりしないのだ。
どうやって、帰還・着陸し、今ここにいるのか・・・。
そんな状態だから、ロードが軍関係者に質問を受けたのは受験生で最後だった。
本来なら、いや、実際はロードが真っ先に説明を求められていたのだったが。
ロードは翌日まで口さえ利けず黙々と眠りの底に沈み込んでいた。
翌日、目が覚めて行われた尋問は、同じことを繰り返し何度も何度も、何時間も続いた。
ロードの被害者という立場を、理解していないのではないか?というほどに、軍のロードに対する接し方は高圧的であった。
「ロード・ハーノクス君・・・
「敵機に初めて気が付いたのは・・・
「それでは、君は・・・
「バカな・・・
「嘘をつかず、正直に・・・
「大体が、あのような・・・
「君から仕掛けた・・・
「あり得ないのだよ・・・
「・・・くれぐれも、内密に・・・
「今回のことは、機密に関わる・・・
「・・・
「・・・・・・
「・・・、・・・
・・・・・・
「撃墜数3機か、予定よりもだいぶ少ないな。
ヴリクに到っては撃墜数無しの上に、被撃墜と同等だと。
誤算だった、ヴリクがしてやられるとは。」
「はっ」
「陛下も心配しておられた。」
エルドシン航空作戦司令室、各種データディスプレイが並ぶ階段状になったその部屋は、薄暗く照明が落とされディスプレイからの光が異常に目立っている。
その最上段に位置する部分で豪勢な椅子に腰掛ける司令官に、部隊長が作戦結果の口頭報告を行っていた。
「誰にやられた?」
「特定できておりませんが、敵機がV-53s技術試験機であったということから、恐らくはT.REXであったものと思われます。」
「カーヴィナス ワンか。
戦闘記録は私も見ているが、らしくないな。」
初老の司令は、右手だけで頬ずえをつき、再度EN-65の撮った正面カメラの映像をみている。
「はい、今までは互角か、ヴリクが勝っていました。」
「それもそうだが、私が言ったのはT.REXの方だ。
飛び方が違う。」
司令官は眉間に皺をよせながら、ディスプレイを凝視している。
カメラは旋回を続ける敵機の背後に軸線を向けたまま、背景だけがぐるりと廻っている映像を映し出している。
カメラが向くヘッドアップディスプレイの範囲から、上方へスルスルと敵機が逃げていこうとしていた。
「反応速度から見て、実際に搭乗している人間が操縦しているのは分かるが。」
司令官は無言で、その場面をまき戻して再生する。
「旋回性能が劣るはずの機体で、旋回の内側から 11G で追うヴリクの追尾を簡単に振り切ろうとしている。」
「・・・奴は一体、何Gで旋回しているのだ?」
「?!」
その疑問を問われ、部隊長は答えに窮する。
それは、11Gの旋回を続けるEN-65の軸線から、瞬く間に離脱しかける敵機にかかるだろう恐ろしいまでのGを想像したからという、それだけではない。
今まで、何度も飛行記録カメラ映像で目の当たりにして来た自分の中のT.REXのイメージと比較し、この敵機に司令のいう通りの違和感をおぼえたからである。
部隊長が思い出すT.REXの飛行曲線、敵としてみたとしても、それは優雅に洗練され無駄の無い、熟練者の技術が感じられていた。
しかし、目の前のこの軌跡は、どうにも形容しがたい。
あえて言うならば、ごちゃ混ぜなのである。
失速を警戒したギリギリの加速旋回、それは明らかに熟練者の飛行であるのにも関わらず、次の瞬間にはブラックアウトを忘れたルーキーのような失速しながらの連続急旋回。
このような、運動エネルギーを意味も無く、大量に失わせる機動はドッグファイトを知っているパイロットなら、まず、することはない。
鋭角と鈍角、剛性と軟性が不快なほど混ざり合っている。
(まるででたらめに見えるが、先に行くとヴリクが追い込まれている。)
「うむ。
では、このオーバーシュートだ。
ヴリクは何といっていた?」
司令は、隊長が自分と同じ疑問へ行き着いたことを確認すると、話題を新しいものにかえた。
「オーバーシュートに関しては、どんな機動をされたか分からないと。
私もこれだけでは判断できませんでした。」
「うむ、実は私も分からん。
よって、コックピットから得られる情報がこれだけである以上、この機動で我々も死んでいるな。
今回は、ヴリクが無事帰ってこられたことが何よりの幸いだ。」
ゴクリと、息を飲み込む音が伝わる。
正面のディスプレイでは彼らに危機感を与える源の映像が流れつづけている。
レーダーデータ上では正面レーダーから消えた敵機影が自分をすり抜けるように、後方警戒レーダーに移動している様子が確認できた。
「なぜ、敵機は撃たなかったのでしょうか?」
「分からんな。
分からんが、これがT.REXにしろ誰にしろ、最大限の注意が必要だ。
諜報には調査を命じておこう。
以上、ご苦労だった。」
「はっ」
返事とともに踵を返し、隊長は司令室を退出してゆく。
部隊長から新たに受け取った戦闘映像記録ディスクを再生装置にセットすると、司令の目はディスプレイに注がれる。
こちらは、EN-65パイロットのヘルメットにつけられた小型カメラの戦闘記録映像である。
それは、パイロットであるジュラーヴリクの驚愕を生々しく伝えていた。
今までその視界に捕らえていたはずの敵機が、忽然と消えたことで素早くカメラの視界が上下左右に流れている。
見失った敵機を探しているのだ。
そして、レーダーロックの警告に一瞬レーダー画面に目をやり、すぐさま背後を振り返るカメラの視界。
「…。」
背筋が凍りつきそうだっただろうジュラーヴリクの心情が、司令には恐ろしくも想像できてしまうのだった。
ディスプレイには、陽光を反射しギラリと光る背後の敵機が映し出されていた。
それは、こちらが詰みの一手を目前に、盤面を反転させられた状態と等しい。
こんな、映画のような逆転劇は現実にあってはならないことなのだ。
「何なのだ、コイツは。」
初老の男のこめかみから冷たい汗が一筋流れ落ちる。




