前日譚
「ちょっと、天下の往来で堂々と寝てんじゃないわよ。邪魔よ」
「………」
「………そのまま無視するようなら、遠慮なくあんたの股間蹴り上げるわよ。いーい、忠告はしたからね」
「……………あぁん?」
「あら、起きたの? 残念」
「……………誰だよてめぇ」
「誰だろうといいでしょ。そんなことより、デカい図体で道塞いでんじゃないわよ。通行の邪魔よ」
「は? 通行もなんも………あっち側通ればいいだけだろう」
「はん、いーい? 耳の穴かっぽじってよく聞きなさい。私は、ここを通りたいの。だけど私の進路上にはあんたがいる。じゃあ、解決法はひとつしかないわ。あんたが避ける、これだけよ。おわかり?」
「………」
「………」
「……………いいか女、俺は今機嫌がよくねぇんだ。ゴタゴタ面倒くせえこと言ってると、どうなっても文句言えねえぞ」
「ふん、できるもんならやってみなさいよ。血ダラダラ流して路上で寝ている男に私がビビるとでも思ってるの?」
「てめぇ………」
「この状態ならあんたが私に一発入れるより、私があんたの急所に一撃かます方が早いわよ」
「………」
「………」
「はぁ……………お前、もういいからどっか行け」
「………」
「………」
「………ふん」
「………………おい、なんだよこれ?」
「さあ?」
「さあ、じゃねーよ。これ、てめぇのだろうが」
「知らない。落としたんじゃないの?」
「はあぁ?」
「私はね、敗者に寛容なのよ」
「………おい、訂正しろ。俺は負けてねえ」
「はいはい、そういうことにしておいてあげる」
「おい!」
「ともかく、あんたみたいな血流した凶悪面が夜中に歩いてたら近所迷惑もいいところだわ。落し物のハンカチで止血でもしてさっさと家に帰りなさい」
「………何言って――」
「それではごめんあそばせ」
「………」
「………」
「なんなんだ、あの女………?」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「……………………………………白、か」
一応これでラストになります。
完結作を作ろうと思って書き始めたものでした。
いろいろな意味で残念なお話でしたが、ここまで読んでいただきありがとうございました。