8.弁当と舞台裏
「やっほー、瑞樹!」
「お邪魔するわ」
中庭で結婚式を演じた翌週の月曜日である。
お昼のチャイムが鳴ってすぐに麗がやってきた。一人ではなくて、大道寺麻沙美も一緒だ。
先週の件で、二人は演劇部の太田や放送部の遠山を始めとする1組の女子と協力関係にあり、遠慮なく来るようになった。もともと中学や一年の時の繋がりがあったらしい。
「お昼、一緒に食べよ!」
「あぁ、約束していたからな」
「風間、いいかい?」
「お、おぉ……」
普段は男ばかりで集っているオタ仲間だ。女子二人に来られたのでキョドっている。
「いきなりでごめんなさい」
「ご一緒させてもらえるかしら?」
学年一の美少女・麗姫と称される麗だけでなく、実は大道寺も眼鏡美人の優等生として密かに人気があるらしい。
そんな二人に低姿勢でお願いされて断れるわけがなかった。
いきなりだが、俺の友達を紹介しよう。
真っ先に仲良くなったのが、背が高くてひょろっとしたインテリ風眼鏡の風間。
水泳部で見た目はごついが心優しき男・梶原。
ぽっちゃりしていて独特な口調だが、明るくて陽気な松田。
二次元が好きすぎて彼女には縁がないが、人付き合いには問題ないくらい人格はできている。つまり気のいいやつらだ。
いつも廊下から見て奥に梶原と松田、手前に風間と俺の机をくっつけているのだが、二人加わるとスペースが足らないので、持ち主に断りを入れて借りた机を俺と風間の横にくっつけた。
斜めになるが、俺の右隣に麗。風間の左隣に大道寺が来た。風間はあたふたしている。
そんな中、それぞれ用意した弁当やパンにて昼食が始まった。
「あれ? 伊勢と北条さん、弁当の中身が同じだね。ひょっとして愛妻弁当ってやつ?」
「あ、いや」
「朝一緒に作ってきたんだよ!」
位置が近いせいで、風間に弁当のおかずがそっくり同じであることがバレてしまった。梶原と松田は興味津々。大道寺はすでに聞かされていたのか、ニコニコして何も語らない。
「朝って、どういうこと?」
「昨日お泊りしたから」
俺が止める間もなく、麗はあっさりとばらした。
この間の結婚式以来、登下校も一緒だし、もう隠す必要ない。俺も開き直った。
「幼馴染だし、お互いの家族も了承済で、頻繁に泊まりに来ているからね」
「さすが、将来を誓い合った仲だけある」
「うむ。さすが伊勢殿。幼馴染から恋人とは胸熱」
高校生なのに次元が違うとばかりに梶原と松田から感心された。
「ねぇ、瑞樹の作った蓮根のきんぴら、少し分けてくれない? お弁当箱に入りきらなくて」
ばーちゃん直伝の蓮根のきんぴらは麗の大好物だ。
「いいよ。好きなだけ取って」
「ありがとう! 代わりにアスパラのベーコン巻食べる?」
「あぁ、麗の力作だな。ありがたくいただくよ」
「本当に合作のお弁当なのね」
「伊勢は料理もできるのかぁ」
ごく自然におかずを分け合っていると、風間や大道寺にも感心された。
そこで麗が口を尖らす。
「できるどころじゃないのよ。悔しいけど、料理の腕は瑞樹の方が上なの」
「そりゃ、いつもばーちゃんを手伝ってるからな。今の時代、男だって料理できた方がいい」
聞こえていたようで、近くの何人かの女子が同意するように頷いた。
「じゃあ、今度伊勢君のおうちでお料理を教えてもらってもいいかしら? おばあさまも一緒に」
「いいけど。せっかくだから風間たちもうち来るか? 一緒に飯を食おうぜ」
「え、いいの?」
「いつも俺のバイトが忙しくて、ほとんど放課後遊ばないじゃん。こういう時くらいさ、来てくれたら嬉しい」
「おぉ! せっかくだからお邪魔させてもらおうか。なぁ、松田」
「か、かたじけない。参るでござる!」
興奮のあまりに武士になった松田に一斉に笑った。
食後も話が弾んだので問題はなさそうだった。俺の友人ということで麗は普通に話せる。クラスが違って高嶺の花の存在だったらしいが、俺の前では普通の女の子らしい麗に友人たちは好印象を抱いたようだ。
大道寺はラノベにも詳しい文学少女であり、風間らの趣味話についていくどころか熱弁を振るうまでになり、あっさり仲間入りした。
そういうわけで、春休みに入ったら、男女五人が俺の家に遊びに来ることに決まった。
引っ越してきて以来、麗を除いて高校の同級生を招いたのは初めてであった。
ここで、あの日の舞台裏を明かしたいと思う。といっても俺は蚊帳の外で、後日聞いた話。
ほとんど麗と大道寺が陰で進めていたのであるが。
嘘告をマジ告どころか、結婚式を模した将来の誓いに変えてしまおうと思いついた麗が親友の大道寺に相談したのが始まりだった。
快諾した大道寺は、その日のうちに多数決で反対に回っていた結城旭に計画を打ち明けて協力を依頼した。
さらにプレゼン資料を作成した。その名も『瑞樹と麗の愛のメモリー』。
俺と麗が出会ってから小学校を共に過ごし、中学からは遠く離れながらも連絡を取り合い、年に数回の逢引き。そして高二の夏に引っ越してきてから恋人としての付き合いが始まった。
それを時系列にして写真付きで綴ったものである。写真の提供者は麗であり、構成は大道寺。パワポを使い、二日で作り上げるなんて優秀すぎやしませんかね。
最後は、麗に邪な想いを抱いた者(上杉)によってピンチが訪れようとしている。二人の誓いが無事済むように応援しよう! そんなメッセージで締め括られていた。
大道寺は学校のホームページを管理している生徒会に話を通し、生徒だけがアクセスできる連絡用掲示板にプレゼンファイルを添付。1組の女子を始めとする協力者に共有した。
麗は幼い頃から評判の美少女だったからいい。その隣にいる俺は写真映りが悪いので、ちょっと恥ずかしかった。
とにかく、俺と麗は幼馴染から遠距離という壁を乗り越え、恋人として付き合っていると知らされた上で、今回のサプライズ企画が実行された。
模擬結婚式の様子はしっかりとカメラに収められていて、パイロット版を見せてもらった。なかなかの出来栄えであり、我がことながら感動してしまった。最後には協力:吹奏楽部、放送部、写真部とクレジットが入っていた。
編集版は4月の新入生向け部活動説明会にて、協力した各部の活動成果の一部として披露されるとか。特に演劇部からは、初心者から入ってもこんな素敵な劇ができますよってアピールするつもりらしい。俺たちは演技じゃなくて、本気だったけどな。
こんな時代だからこそ、結婚式に憧れる女子には受けるのだと演劇部の太田が力説していた。
「スーツや修道服は演劇部所有の衣装だったらしいけど、ウェディングドレス一式は?」
「あれはね、レンタルなの」
「だとしても本格的だったよな。けっこう費用がかかったろ? 俺も出すよ」
「それがね、倒産した結婚式場から流れてきた型落ちだから、そんなにしなかったの」
俺と麗との間で「出す」「大丈夫」と問答が繰り返されたが、俺が「麗の花嫁衣裳に感動させてもらったから」と言って一部を負担することになった。
俺としても、良い思い出にさせてもらったからな。
二人のツーショットやキスシーン、それに俺が麗をお姫様抱っこした写真は撮影協力してくれた写真部から譲ってもらって部屋に飾った他、データでももらってスマホの待ち受けにした。
お弁当のおかずで出てきた蓮根のきんぴらは、たまたまテレビ東京の『昼めし旅』で知り、試しに作ってみたら美味しかったので、その後もよく作ってます。
きんぴらというと牛蒡ですが、蓮根の方がシャキシャキして食べやすいと思うのです。




