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嘘告されるのかと思ったら、将来を誓い合うことになった件  作者: 遼魔


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7/9

7.ボクが先に好きだったのに

『……シンプの入場です!』

 

 シンプ? シンプといったら神父かな?

 キリスト教会で聖書を朗読する年輩の外国人男性のイメージ。

 だが、そんな想像はすぐに流れてきた音楽で打ち消された。

 結婚行進曲じゃん。ってことは新婦か。え、新婦ぅ!? じゃあ、新郎は……。

 

 その時、昇降口から黄色い歓声が聞こえてきた。「キレイ」とか「素敵」って言ってる。

 静々と登場したのは真っ白いドレスを着た女性だった。顔はベールによって隠されている。

 

 付き添いは黒いスーツの長身男性。俺よりも背が高くて2mに届きそう。うちの学校であれほどの高身長は限られる。ガチガチに緊張した顔の結城旭(ゆうきあさひ)だった。

 

 吹奏楽部による結婚行進曲が流れる中、結城に付き添われた白いドレスの女性は、芝生のバージンロードをゆっくりとした足取りで俺に向かってくる。

 

 胸元が大胆に開いたハートカットのビスチェ。立体感を持たせたロングスカート。純白のウェディングドレスに身を包んだ彼女は薄いベールの下でわずかに口角を上げている。

 実物を見たことは無いけど、あれは本物のウェディングドレスだと確信した。

 それくらい、彼女の姿は降り注ぐ陽光にキラキラと輝いて見えたから。まさに神の祝福を受けていると言っても過言じゃない。


 その神々しい美しさに見惚れながら、俺は得心した。きっと麗が思いついて、友人たちとサプライズを仕組んだのであろうと。

 

 やがて二人は俺の前まで辿り着いた。

 

「後は、頼む」

「あぁ。協力してくれありがとう」

 

 まだ緊張しているのか。新婦の父役を演じた結城は堅い表情のまま会釈して、大股で戻っていった。

 

「いいかしら? 始めるわよ」

 

 いきなり背後から声をかけられて、びっくりして声が出そうになった。いつの間にか立っていたのは紺の修道服の女性だ。黒髪は頭巾で隠し、眼鏡をかけている。麗の親友である大道寺だったよな。こんなところで何をしているんですかね。

 

 シスターに扮した大道寺は意外と様になっていた。神父の代わりに進行役を務めるつもりらしい。彼女の前で俺と麗は向かい合った。

 

「本来は讃美歌と聖書の言葉なんだけど、今は省略するわね。邪魔が入る前に誓いの言葉よ」

 

 小声で囁いた後、大道寺は周囲にも聞かせるかのように声を張り上げた。

 

「新郎瑞樹。あなたはここにいる麗を、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」

「……はい。誓います」


 大道寺の朗々とした問いに、一瞬言葉が出なかった。

 だが、ここまでお膳立てされたのなら、乗るしかない。俺ははっきりと答えた。

 

「新婦麗。あなたはここにいる瑞樹を、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」

「はい。誓います」

 

 大きくはないが、迷いのない、しっかりとした誓いの言葉だった。

 

 さっきまで周囲は賑やかで、主に麗のウェディングドレスを褒めたたえる声で溢れていた。

 それが進行を告げるアナウンスにより、静まり返っていた。遠くで男の声がした気がするが、大道寺は気にせず進める。

 

「では指輪の交換を」

 

 着替えの場にいた演劇部の子がすっと近づいてきて、大道寺の手に小箱が渡った。

 開かれた小箱の中には太陽の下で光り輝く二つのシルバーリングがあった。

 

 お互いの左手薬指に嵌める。本物と違って演劇部の小道具なのだろう。柔らかい素材でできているようで、うまく嵌めることができた。

 

 本当の結婚式の進行と同じく、二人を隔てるものが無くなったという意味でベールアップする。

 麗の長い黒髪は結い上げられ、頭部はプリンセスのようなティアラで飾られていた。化粧は普段と変わらないナチュラルメイク。おそらく、着替えと髪だけで時間いっぱいになったのだろう。

 

「信じられないほどきれいだ、麗。この世で一番美しい、俺の自慢の彼女、いや嫁さんだな」

「うふふ。瑞樹も恰好いいよ。私の素敵な旦那様。もう一生離さないんだから♪」

 

 俺たちが見つめ合って互いを褒めていたら、コホンと咳払いされた。大道寺が目で促す。

 指輪交換の後にすることといえば、一つだけだ。

 

 

 

 

 ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

【Side:上杉憲人(うえすぎけんと)】

 

「はっ、離せ!」

「そういうわけにはいかない」

「くそっ、裏切ったな!」

「最初から嘘告に賛成していたわけじゃない。ただ、こっちの方が二人にとっていいと思っただけ」

 

 ボクの立てた筋書きは伊勢を貶め、麗の気を引くための嘘告劇であり、うまくいけばボクがヒーローになるはずだった。

 

 それがいつの間にか伊勢と麗の結婚式もどきにすり替わっていた。

 怒りを覚えたボクはあそこに乱入していって、ぶち壊してやろうと思った。だけど、結城の馬鹿力で押さえつけられ、無様に地に伏している。

 

 里見と佐竹に協力させようと思ったが、いつの間にか離れてギャラリーに加わり、へらへらした顔で眺めている。

 花鈴はというと、喜々として前に出てスマホを向けて録っている。確かにそう指示した。だけど、ボクの状況に気づかない。まったく、使えねえ。

 いったい、どうしてこうなった?

 

 何もできないまま見ていると、二人は指輪交換してやがる。指輪が欲しければ、あんな安っぽいのじゃなくて、ボクが高級ブランドを買ってあげるのに。

 そして向かい合う二人。伊勢の手が肌を晒した麗の肩に置かれる。顔が近づいていく。まさか、まさか……嘘だろ? やめろぉぉぉー!

 

「わあああああぁぁぁぁぁぁ!」

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉ!」

「すげええええええ! マジかよぉ!」

「キャーーーー素敵!」

「ひゅー! ひゅー! おめでとう!」

「二人ともお幸せに!」

「ああああぁぁぁぁぁ……北条さぁん……」

「チクショー! 羨ましいぃぃぃ」

「目から汗が……末代まで祝ってやるぅ!」

 

 二人がキスをした瞬間、一斉に歓声が沸いた。クラッカーが鳴らされ、花吹雪が舞う。

 吹奏楽部が祝福の音楽を奏でた。ボクの抗議の声はかき消されてしまった。

 

 こんな時に視力がいいのが恨めしい。キスを終えた後の麗が頬を赤く染めてはにかんだ後、目を潤ませている表情まで、ばっちりと見えてしまった。

 ボクの前では、あんな表情を一度も見せたことはない。まるで、前から伊勢のことが好きだったかのような……。

 

「こらこら、何をやっとる!?」

 

 その時になって、ようやく事態に気付いた数人の教師が中庭に入ってきた。

 くそっ、遅すぎるんだよ!

 

『皆さんのご協力でお二人は見事に結ばれました! はい、では撤収!』

 

 アナウンスと共にガタガタと片づけ始める音。生徒が散らばり始める。

 その中で伊勢と麗は見つめ合っていたが、やにわに伊勢が麗を抱き上げた。お姫様抱っこだ。まだ残っている生徒たちが祝いの言葉をかける中、昇降口へと連れ去っていく。

 

 その光景をボクはただ茫然として見ているだけだった。

 異性関係で初めての挫折。悔しさに視界が滲む。すごく、惨めな気分だった。

 なんで……なんで……ぽっと出のモブ転校生なんかに奪われなきゃいけないんだよ!

 だって……ボクが先に好きだったのに……。


「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 がんがんと拳を地面に打ち付ける。

 さっきまでボクを押さえつけていた結城はいなくなっていた。

 それでも立ち上がれないでいた。石に当たったのか、拳から血が流れた。痛い。

 でも、手よりも心の方が痛かった。


「上杉君?」


 地面に這いつくばっていたボクに声をかけてくれた女の子がいた。

 麗じゃないのは確かだ。誰だっけ? えーと……花鈴か。


「ど、どうしたの!? あ、血が出てる!」


 花鈴は傷ついて汚れたボクの手を取ると、ハンカチでそっと拭った。汚れは落ち切らなかったが、花鈴は躊躇することなく咥えて血を舐め取った。


「そんなにショックだったの? 辛かったの? 大丈夫だよ。ウチがいるから。ウチが一緒にいてあげる。さぁ、帰ろ?」


 花鈴はボクの傷ついた手を離すことなく、腰にも手を回されたが、ボクにはそれを振り払う気力もなくて。彼女に引かれるまま、その場を去っていく。

 ボクはずっと俯いた俯いたままだったから、彼女の口角が上がって半月のようになっているなんて、その時は気づかなかったんだ。






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