6.何が始まる?
ついに嘘告当日を迎えた。麗からメッセージが来ていた。
協力者がいるので指示に従って欲しいとのこと。
何を言われても、すべて「はい」か「Yes」で答えて欲しいとのこと。拒否権はないらしい。何を考えているのかわからんが、俺は麗を信じることにした。
昼休みに麗がうちのクラスを訪れた。目立つ存在の麗が一人で他教室に来ることは珍しく、さすがに目を惹いていた。
呼ばれた俺はドア付近で待つ麗のもとへ行く。
「み……伊勢君!」
「どうしたの? 北条さん」
麗の様子はいつも通りのように見えたけど、緊張はしていたらしい。
俺が笑いを含んだ顔をしていたようで、じと目になって拳を突きつけてきた。
「放課後に話があるの。来てくれる?」
「わ、わかったよ。必ず、行く」
手の中にあったのは折り畳んだメモだ。
メモを受け取る際、あえて俺は緊張した様子で声を震わせる。
傍目には、学年一の美少女から呼び出しを受けて緊張している陰キャ男子に見えたかな。
席に戻ってもざわめきが続いていて、俺は興味津々といった視線を集めていたが、誰も話しかけに来なかったので助かった。
とりあえずメモを開いた。時間と場所が書いてあった。
『15:00 中庭の噴水前』
14時じゃなくて、15時?
今日の放課後に体育館で卒業式の準備とリハーサルがあるらしく、授業は5時間で切り上げられることになっている。
授業が終わってからだいぶ時間が空きそうだ。困ったな。何をして時間を潰していようか。
そう思った俺だが、実際は目まぐるしい時間を過ごすことになる。
「伊勢君!」
「はい?」
「時間ないわ、早く来てっ」
「えっ、俺、この後」
授業終わりのチャイムが鳴るなり、俺はすごい勢いでやってきた女子に手を掴まれて連れて行かれた。
無造作にひっつめ髪にした彼女の名は太田って言ったっけ? 確か演劇部だったと思うが。
太田に連れて行かれたのは少し離れた空き教室だった。中に入ると、移動式ハンガーが置かれていくつもの衣装がかけられていた。
「準備いい?」
「オッケー! すぐに始めよう」
すでに数人の女子がいて、窓のカーテンを閉め、暗幕で廊下から見えないようにしていた。
太田が手にしたプリントを見ながら声をかける。
「伊勢君はAの3番で」
「了解、Aの3!」
もう一人の女子が衣装を取り出す。
「サイズは合っているはず。さっさと制服脱いで、これに着替えて!」
女子ばかりのこの教室で着替えろと?
だが、俺は麗からの指示を思い出した。
こうなったら、腹を括るまでだ。俺はその場で制服を脱ぎ始めた。
「はぁ、いい天気だな」
約束の10分前に到着した俺は噴水前でぼんやり立ち尽くしていた。
今日は澄み切った青空が広がる快晴。ポカポカとした春の陽気に包まれている。
「本当はタキシードが良かったんだけど、普通のスーツで我慢してね」
演劇部の女子たちに言われて着せられた真っ白のスーツに白いネクタイ。確かにサイズはほぼ合っているようだけど体に馴染んでなくて、なんだか居心地が悪い。
そんな俺の周囲はぽっかりと空いている代わり、遠目に大勢から見られている。
そもそも、告白って人目を避けてするんじゃなかったのか?
そもそも中庭って二つの校舎に挟まれている。そんな中で白いスーツを着た俺は非常に目立つのだ。
「何が始まるんだ?」ってばかりに校舎側のベランダには生徒が鈴なりとなっているし。
2階のベランダには同じクラスのオタ仲間の顔があるな。
俺と麗は強制された嘘告を逆手に取ってマジ告にする計画を立てた。だが、相手はグループであり、二人きりでは不安だ。告白した途端、上杉たちに「嘘でしたー!」って騒がれたら台無しになる。
だから、成功させるために協力者を募ることにした。麗の親友である大道寺がそうだし、さっきの演劇部の子たちもそうなんだろう。わざわざ着替えさせる意味がわからないが。
俺も数少ない友達に協力をお願いした。俺が告白を受け入れたら、大声で祝福して欲しいと。前もって買っておいたクラッカーを渡しておいた。
「嘘でした」の声を「おめでとう!」とクラッカーで打ち消し、マジ告を成功させようという目論見だ。
ただ、多くはこれから起こることを知らない。
遠目にもひそひそされているよ。正直、恥ずかしい。
麗、早く来てくれないかな。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
【Side:上杉憲人】
「なんであいつ白いスーツなんか着ちゃってんの? バカなの?」
ボクたちは管理棟側の植え込みに隠れ、噴水前に立つ伊勢を見ていた。少し離れた位置で里見と佐竹が手持無沙汰な様子で座っている。すぐ隣には成田花鈴が寄り添い、嬉しそうな顔でスマホを弄っていた。
あと一人、結城の姿は見えない。「用があって遅れる」とか言って、放課後すぐにどこかに行った。麗と大道寺も知らぬ間に教室から姿を消していた。必ず告白はするとは言っていたからな。さすがにドタキャンは無いだろう。
「まぁ、思った以上にギャラリーは集まったな。いい見世物になりそうだ」
「ウチ、上杉君のために頑張って声をかけたから!」
「偉いぞ」
「褒めて褒めて」と言わんばかりに花鈴が顔を近づけてきたので、頭を撫でてやる。花鈴は嬉しそうに目を細めた。
言うことを聞かない男子より、忠実な女子の方が利用しやすいな。
くっついていると柔らかいし、いい匂いがして気分が高まるし。そういえば、まだこいつとはヤってなかった。高校デビューのギャルで、男の噂は聞かないから処女に違いない。後でご褒美に抱いてやろう。
そう思いつつ、スマホの時刻を見た。なぜか放課後すぐじゃなくて、15時に始めると聞いていたが、もう過ぎているな。まだ始まらないのか。
突然、キーンっと耳障りな音が響いた。マイクのハウリング音みたいだ。
『あー、あー、テス、テス』
マイクで喋る女の声が聞こえた。
腰を浮かせて見てみると、噴水の向こうにテントがあって、その下に机と椅子が並べられている。運動会で使うような持ち運び用のスピーカーと、マイクを持った女子がいた。
『これより……キーン……失礼しました……による……を始めさせていただきます。司会は、放送部の遠山が務め』
今日は体育館で卒業式の準備とリハーサルがあると聞いていた。教師の多くと三年が出席しているはず。
中庭でも何か予定されていたのか?
ただ、どうもマイクの調子が悪いみたいだ。
『それでは……し……の入場です!』
「タタタターン、タタタターン、タタター、タタター、タタター、タタター、タン、ターン♪」
いつの間にかテント近くに楽器を抱えた生徒たちが集まっていた。おそらく吹奏楽部の面々。流れ出した音楽は聞き覚えがある。なんだったっけ?
というか、嘘告をさせるタイミングでこんなイベントが始まるなんて聞いてねーぞ。




