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嘘告されるのかと思ったら、将来を誓い合うことになった件  作者: 遼魔


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9/9

9.エピローグ

 放課後になり、1組の友人に別れを告げた俺は2組の教室に向かった。

 

「よう」

「おっす」

 

 真っ先に教室から出てきたのは、学年一の長身でバレーボール部屈指のブロッカーである結城旭(ゆうきあさひ)であった。

 彼は寡黙であまり喋る方ではないが、例の模擬結婚式で協力してもらった関係で挨拶くらいは交わすようになった。

 

 続けて部活に行く数人が出てくる。

 その中にサッカー部の里見芳也(さとみよしや)と野球部の佐竹銀仁朗(さたけぎんじろう)もいた。

 嘘告に賛成して上杉に協力した二人だ。

 

 後日、二人は嘘告を仕掛けたことを謝罪してきた。悪ノリはしたが、根は悪いやつではなさそうなので、俺は謝罪を受け入れた。

 まだ少し気まずそうだったが、軽く手を振ってすれ違った。

 

 教室を覗くと、真っ先に大道寺、そして麗が気づいた。

 

「あら、ダーリンのお迎えよ」

「あっ、瑞樹ぃ!」

 

 すでに帰り支度は終えていたのか、席を立った麗はすごい勢いで俺の元にやってきた。抱き着きそうになったところで急停止する。

 

「帰ろうか?」

「うん!」

 

 教室に残っていた生徒たちが一斉に注目する。だが、模擬結婚式の日以降、毎日一緒に登下校しているし、お昼も一緒に過ごしている。始めは妬む男もいたが、俺たちがあまりにも堂々とイチャついているので諦めたらしい。

 あからさまに悪意の視線を向けてくることは無かった。

 

「今日もご一緒させてもらっていいのかしら?」

「もちろんかまわないよ。なぁ、麗」

「うん。今の私たちがあるのはまーちゃんのおかげだから」

 

 週の半分くらいは麗が俺の家に来る。そのまま泊まることも多い。

 だが、今日は俺も麗もバイトがあるので、駅まで送っていく。同じ方向の大道寺も一緒になる。

 

「そういえば、今日も上杉と成田は欠席か」

 

 教室で見かけなかったので歩きながら尋ねてみた。

 

「そう。ずっと学校来ていないね」

「大道寺さんは知ってる?」

「ええ。でも、あまり人に聞かせたくないから、夜に教えるわ」

「まぁ、知ったからって、どうするってわけじゃないけどな。麗に害が無いかぎり」

 

 上杉が麗に横恋慕していたとは聞いていた。どこまで掴んでいたのかはわからないが、俺との関係を怪しんでいたのかもしれない。

 そのために嘘告を発案して俺を貶め、麗の前で格好つけたかったんじゃないかと推測した。

 その後、大道寺は人を通じて詳しい事情を知ったらしい。

 

 バイトが終わって帰宅した後、麗と大道寺、三人のグループチャットで教えてもらった。

 

 俺と麗が誓いの言葉と指輪を交わした後、キスしてお姫様抱っこで去るところまで。上杉は結城に押さえつけられた状態———大道寺から前もって乱入阻止を依頼されていた―――で見届けたらしい。

 上杉は顔面蒼白だったが、そばにいた成田花鈴(なりたかりん)に付き添われて帰っていき、翌日の卒業式を欠席した。まぁ、俺たち二年は主役じゃないので影響はなかったが。

 

 その後、上杉を不幸が見舞った。

 上杉の父はもともと大手芸能事務所のマネージャー統括職をしていたとか。

 それが5年くらい前に部下やタレント数名を引き抜く形で独立し、自身の事務所を立ち上げた。

 

 勤め先に不義理を働いて独立したわけで、たいそう揉めたんじゃないかと思うが、それでも事業を続けていられたあたり、それなりに有能だったのだろう。

 

 だが、数日前に警察に逮捕された。

 仲間と共謀し、スカウトした若い女性を監禁、暴行、強姦した疑いだ。

 やはり事務所の内情は苦しかったようで、芸能界でアイドルやタレントとして有名になれると甘言で誘っておいて、実際はアダルト関係の仕事に回そうとしたとか。

 

 そこで断った女性を無理やりに仕事させるため、また自らの欲望を果たすために犯行に及んだと報道された。

 

 上杉の母は即座に離婚手続きをして実家に戻った。そして上杉自身は置いていかれた。

 というのも、上杉の母は後妻であり、息子と血の繋がりもなく若い。

 推測だが、上杉の母からすると、女をとっかえひっかえして家に連れてくる義理の息子が夫と同じようなケダモノに見えたに違いない。もしかしたら、自分も襲われるかと恐怖していたのではないか。

 

 そういうわけで、父は逮捕されて留置所行き。継母からも見捨てられて、部屋に引きこもり状態になっていた。

 なぜそんな事情を大道寺が知っているかというと、前から上杉を慕っていた成田花鈴(なりたかりん)が家に居座っているのを本人から聞き出したから。

 

「憲人はね。一人ぼっちになって可哀そうなの。だからウチが慰めてあげるの。ずっと一緒にいて、ご飯を食べさせて、お風呂も一緒に入って、全部お世話してあげるの。

 寝る時に抱きしめてあげるとね、『ママ、ママ』って言って甘えてくるの。あぁ、憲人可愛いよ。

 もう他の女は絶対近づけさせない。スマホはうるさいから叩き壊したわ。憲人はウチのモノ。ウチが憲人のママになってあげるの。外に出したら憲人が傷つくからね。絶対出さないわ。

 いいこと思い付いた! 手錠で繋いでおこうかな。そうすれば、ウチから逃げられないよね? うふふふふふふふふふ……」

 

 恍惚とした表情で語る成田に大道寺は顔を引きつらせつつ、「それは良かったね。お幸せに」と祝っておいたそうだ。


 そもそも成田花鈴がギャルっぽい外見になったのは、上杉に惚れたのがきっかけだという。高校一年の夏までは大道寺と同じ真面目そうな黒髪女子だった。

 しかし、上杉の気を惹くため、目立つためにも夏休み明けに大胆にイメチェンしたのだと言っていた。

 

 なんだか危うい気はするが、成田にとって一年以上かけた想いが結実したわけで、本人たちが幸せならいい。こっちに関わってこない限りは静観しようと決めた。どうせもうすぐ春休みだし。

 

 

 

 数日後、終業式の朝を迎えた。

 高二最後の日ばかりは一緒に登校したいというので、前の日から麗が泊まっていた。

 

「どう? 曲がってない?」

「ちょっと待って。うん。大丈夫」

 

 今日の麗はサイドを三つ編みにして後ろで結び、白いリボンで飾ったハーフアップにしていた。制服姿もばっちりだ。

 

「今日もきれいだよ、麗」

「うふ。ありがと。じゃあ、行こっか」

「そうだね。行ってきます」

「行ってきまーす」

「「行っていらっしゃい」」

 

 祖父母に見送られて玄関を出る。

 

「ちょっと待って」

「ん?」

 

 門から出る前、呼び止められて麗を見ると、俺の首の後ろに両手を回して背伸びしてきた。あっという間の早業で唇を奪われた。

 

「えへへ。行ってきますのちゅー」

 

 ほんのりと頬を赤く染めてはにかむ麗。俺の彼女、可愛すぎるだろと悶絶しそうになった。

 だが、門を出たところで向かいのおばあちゃんに声をかけられた。

 

「おやおや、朝からお熱いのぉ」

「お、おはようございます……」

「はようございます……」

 

 ばっちりと見られていたようで、思わず頭を下げて足早に学校に向かった。

 

 そんなこともあったが、途中から俺と麗は腕を組んで歩く。腕に柔らかな感触がある。

 愛しい彼女とこうして堂々といられて、幸せを感じる。

 

「そういえば、あれから二週間くらい経つのか」

「そうだね。あっという間だったね」

 

 嘘告を逆手に取ってマジ告にしちゃおうと話し合ったが、裏で麗は結婚式を模した将来の誓いを決行しようと計画を立てて、見事に成功した。

 その日から俺たちは恋人として堂々としていられるどころか、夫婦みたいに扱われている。

 

「今思えば、上杉が嘘告を思いついてくれたおかげか」

「えぇー、それはちょっと違うよぉ」

 

 拗ねた顔をした麗を見て思い直した。

 上杉のおかげなんて考えたら、麗に失礼だった。

 

「ごめん。俺の彼女が優秀だったからだ。麗と、協力してくれた人たちのおかげだね」

「わかればよろしい」

 

 麗はニコっと笑って組んでいた腕に力を入れる。さらにむにゅっと胸が押し付けられた。

 

 転校早々に麗と恋人であることを明かしたら、人間関係的にまずいかもしれない。

 それは自分だけでなく、麗のためを思ってのことだった。

 

 しかし、学校で親しくできないことに麗は不満を抱いていた。俺だって、麗が上杉たちに囲まれているのを見て、モヤモヤしたものを抱えていたものだ。

 

 二人でよく話し合って、協力者を得て根回しした上で、もっと早いうちに交際していることを明かしたって良かったはずだ。

 何が起きたって、互いを信頼して困難を乗り越えていけばいいのだから。

 

 学校が近づいてきた。周りに生徒が増え始める。腕を組んだまま登校する俺たちは始めこそ驚かれたものの、二週間も経てば少しは慣れてきたようだ。それでも、微笑ましい視線と妬む視線が混じっている。

 

「麗」

「なぁに? 瑞樹」

「三年になったら、同じクラスになれたらいいな」

「そうだね。最後に同じクラスだったのは小六だもんね。でも」

 

 言葉を切った麗は輝くような笑顔で言った。

 

「もしクラスが違っても大丈夫。離れていたって、私たちは続けていけたんだよ」

 

 俺は彼女の言葉にしっかり頷いた。

 

「そうだな。離れていようが、横恋慕するやつがいようが、俺たちは大丈夫。だって、将来を誓い合った仲だもんな」

「そうだよ! 瑞樹、大好き!」

「俺も、麗が大好きだー!」

 

「何を朝から叫んでいるのかしら。このバカップル……いや夫婦は」

「朝から胸やけしそうだぜ……」

「俺、ブラックコーヒーを買ってくる」

「さすが伊勢殿と奥方様。天晴れでござる」

 

 いつの間にかオタ仲間を引き連れた大道寺に見られていたようで、思い切り冷やかされたのであった。

 

 

 

 

【完】

 

 

 

 



 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

 もともと違う内容の幼馴染ものを書いていましたが、人様の嘘告ものを読んでいるうちに、つい書きたくなりました。

 王道展開とは違いますが、アイデアを思いついたら勢いで仕上げていました。

 

 遠距離を乗り切った瑞樹と麗の関係は、横恋慕野郎が嘘告を仕組んだくらいじゃ揺るぎもしませんでした。

 嘘告を始めとする企みはことごとく失敗に終わったこともあり、上杉へのざまぁは弱いものになった感じです。いや、一家離散になった上に忠犬からヤンデレへと変貌したギャルに縛られているという意味では重いかな。

 今後、我に返った上杉が麗に付きまといを再開したら、瑞樹が止める前に後ろから刺されそうですね。

 

 なお、登場人物の名前は戦国時代の関東の大名・武将から取りました。ちなみに上杉は越後の龍じゃなくて、後北条氏と敵対した関東管領家の方です。

 ある程度歴史を知っていれば、関係性がわかりやすいかなと思いまして。


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