3.マジ告にしよう
麗が髪を長くしたままでいるのは、小学校の頃に俺が「お姫様みたいできれい」と褒めたからだそうだ。
しかし、行為の最中に長い髪は邪魔というか、引っ張られて痛い思いをするとわかった。だから俺の部屋に常備しているシュシュとヘアゴムを使い、二つに分けてお団子にまとめてあった。それが激しい運動で乱れて崩れ、毛先が胸元にかかっている。
その先で豊かな胸が上下している。血が通ってほんのりピンクに染まった肌が艶めかしい。今なお麗は荒い息をついて陶然とした表情を浮かべていた。
コンドームを始末した俺は、麗の方へと姿勢を戻しながら声をかけた。
「寒くないか?」
「こうして瑞樹とくっついていればね、大丈夫なの」
一人用のベッドでは、密着せざるを得ない。そしてお互い裸で直接肌が触れている状態だ。
横を向いた俺の背に麗は手を伸ばしてきて、さらに密着してきた。
俺も抱きしめ返しながら、掛け布団をかけてやった。
興奮は鎮まったが、こうして好きな子とくっついているのはいい。
麗は俺の首元に顔を埋めている。俺は麗の頬にキスを落とす。すると、麗は俺の頭を引き寄せながら、顔を近づけてきた。俺たちはキスを繰り返した。
しばらく無言で抱き合った後、ふと思い出した。
「あのさ」
「あのね」
声が重なって笑い合う。
「先にいいよ」
「ううん。瑞樹から言って」
「それじゃあさ……」
俺は麗の頭を撫でながら今日聞いてしまったことを打ち明けることにした。
「聞くつもりじゃなくて、通りすがりに偶然聞こえちゃったんだけどさ。麗、俺に嘘告するの?」
「へ!?」
麗は心底驚いた顔をした。
というのも、麗も放課後の教室で嘘告を強制されてしまったことを俺に相談するつもりだったらしい。
「私たち、やっぱり気が合うね」
「ははっ。そうみたいだな」
顔を見合わせて微笑みを浮かべたものの、内容は複雑だ。
やはり俺が去った後、多数決で決まったらしい。麗自身、罰ゲームは他人を巻き込まない方向だと思っていたらしく、不満だったが強引に決められた。
「嘘告って、流行ってるみたいだけど、やり方次第で問題になるじゃない?」
「だよな。そういうのに麗が巻き込まれるのは避けたいんだが」
「だいたい、あいつらの頭が小中学生で止まったままなのよ」
コンプライアンスが厳しい昨今、イジメと捉えかねない。録画でもしてネットに流出したら炎上案件だ。
「一応、試験期間中だから保留にしてもらったけどね」
「そりゃそうだ。有耶無耶にしたまま春休みに突入しちゃえばいいんだけどな」
「あれでしつこいからね。特に上杉の亀頭あたまは」
「あはは」
学校での麗は麗姫の異名通り、お淑やかで清楚。決して人の悪口なんか言わない。俺の前でもほぼ同じなんだが、上杉だけは別らしい。
上杉は背が高くて、一見爽やかそうなイケメン。バスケ部キャプテンを務めているのもあってモテる。彼女が途切れることは無いようだし、よく告白を受けているそうな。上杉を嫌っている男子の噂によると、息を吸うように二股三股しているが、なぜか表立ったトラブルには発展していない。
そんな上杉から二年になって早々に狙われるようになったと麗はうんざりした顔で言っていた。わざわざカースト上位グループを形成したのもそのため。何度も麗に告白をしてはフラれているが、それでも諦めることなく誘いは数えきれないほど。
麗も二年が終わるまでの我慢として耐えている。ちなみに一時期茶髪をマッシュルームカットにした時、後ろ姿が亀頭によく似ていたので、俺たちの間だけの仇名になった。機嫌の悪い時は口に出てしまう。
「まーちゃんは反対してくれたんだけど、花鈴が賛成に回っちゃったからねぇ。有耶無耶にするのは難しいよ」
“まーちゃん”とは麗の中学時代からの親友である大道寺麻沙美。真面目で良識的な女の子である。そして花鈴は成田花鈴。高校デビューのギャルであり、なにかと上杉に媚びている。今回も上杉の発案だから賛成に回ったのだと麗は言った。
「そこで思ったんだけどね」
「うん」
「嘘告をマジ告にしちゃえばいいやって」
「ん? 麗が俺にマジで告白するの?」
麗はニカっと笑った。
「瑞樹は三年になったら交際宣言すればいいって言ったよね」
「うん。確かに言った」
「別に3月でもよくない?」
一か月早いか遅いかの違いだが、クラス替えのタイミングの方が面倒なくていいかもしれないと思っていた。
だが、どうせ俺と麗が付き合っていると知れば、面倒ごとが起きるのは変わらないのではないか。
俺が考えている間にも麗が続ける。
「私と瑞樹が幼馴染って明かすの。それも両片想いだったって。瑞樹が転校してきたのに私は気づいたけど、なかなか近づいて話しかける勇気が出せなかった。ずっと想いを秘めたままだったけど、思い切って告白するってこと」
今まで瑞樹が誰の告白も受け入れず、付き合わなかったのは、心の中に秘めていた想いがあったから。ここにきて、ようやく勇気を出そうと決断した。
一途で健気な想いを抱いていた女の子。それは学校での麗のイメージを損なうことはない。
どうせ俺が妬まれるのはどんなタイミングだって同じだろう。
「うん。いいアイデアかもしれないな。麗にヘイトが行かないようなら、俺はそれでいい」
「だったら、まーちゃんに相談しようかな。瑞樹が悪く言われないようにしたいし」
「俺は平気だって」
「瑞樹が悪くなっちゃうのはやなのー」
頬を膨らませた麗が可愛くて、俺は頭を抱え込むようにしてキスをした。
「あはぁ……幸せぇ。学校でもキスしたいな」
「さすがにそれはまずいだろ」
今までの麗のモテぶりからすると、キスをして見せたら憤死する男子が続出しそうだ。
「うーん。じゃあ、マジ告成功したら、手を繋いで登下校するのから始めようね」
「それくらいなら」
「でも、とりあえず今はね……もう一回したい」
「は?」
「だって、瑞樹、硬くなってんじゃん」
「う……」
密着しているから、すぐばれる。こんなに魅力的な女の子と密着していて反応しない男はいないだろう。
「で、でも、俺まだ勉強してない」
「普段から真面目に勉強しているからいいでしょ。私とこうしている時くらい……」
「あ」
握られた。麗の手はすべすべしていて柔らかい。さらに俺の胸にキスを落としてくる。
初めての時はお互いぎこちなかったのに、最近では慣れたというか、上達したというか。
さっきまで俺に攻められて、いっぱい喘いで息も絶え絶えだったのに、早くも復活して俺を誘う。
そして俺も我慢が効かなくなりつつある。
「麗がエロ可愛いからいけないんだぞぉ!」
「きゃあーん」
俺は狼のごとく麗に襲い掛かった。
だが、結果的には俺が麗に捕食されたとも言えた。




