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第28話 百人で災厄を受け取る

共同受領の実験に、百三十七人が名乗り出た。


多すぎた。


中継塔の前へ集まった人々を、俺は受付台の向こうから見た。

治療師、水道職人、暖房施設の技師、元教会職員。東の村やグラナから来た顔もある。

中には、痩せた男が報酬額を尋ねる姿もあった。


「今回は出さない」

俺が答えると、男は目を逸らした。

「でも、教会の仕事なら日当が出ると」


男の服は薄く、靴底には穴が開いていた。

それでも、ここで受けさせるわけにはいかない。


「食料は渡す。実験へ参加しなくてもだ」

「施しが欲しいわけじゃ――」

「なら、塔の外で搬送を手伝ってくれ。それも必要な仕事だ」


男はしばらく俺を睨んだ後、受付から離れた。


実験の条件は、全員の前で読み上げた。


受け取る量を事前に示す。

一人当たりの上限を超えない。

途中で撤回できる。

不参加を理由に不利益を与えない。

金銭を支払わない。

雇用主や家族による強制を認めない。


「最初に受けるのは、塔と魔法施設を運用してきた人間です」

アデルが受付簿へ自分の名を書いた。

「元処刑聖女として、私も制度側にいました」


主任技師と中継塔の職員たちが続く。

治療院長、水道責任者、暖房施設の管理者。

その後で、救助された住民から希望者を選んだ。


最終的に百人。


受付では、アデルが一人ずつ同じ問いをした。


「受領後に発熱や魔力低下が起こると理解していますか」

「途中で撤回できると聞きましたか」

「誰かに参加を命じられていませんか」


一人の若い女が、三つ目の問いで黙った。

隣にいた工房主が「本人も望んでいる」と口を挟む。


「本人へ聞いています」

アデルは工房主を列から離した。


女は銀輪の前まで進んだが、接続直前に首を振った。

誰も責めなかった。名簿から線を引き、待機していた次の希望者へ交代した。


塔の地下にある共同受領環へ、一人ずつ細い銀輪を持って立つ。

銀輪は手首へ触れるだけで、身体を拘束しない。嫌になれば離せる。


フィンは主任技師の隣で、父親の記録と制御盤を見比べていた。


「受領口、九十八まで接続」

「九十九、安定」

「百、つながった!」


百本の管に淡い光が通った。


俺は中央の受領台へ立つ。

積載率七十五%。

左腕の亀裂は肩から胸へ達し、視界の端では黒い靄が揺れている。


「始めます」


アデルの声。

主任技師が分配レバーを一段だけ下げた。


左腕を締めつけていた熱が、細い糸へ分かれた。


黒い因果が俺の身体から共同受領環へ移り、百本の管を通って銀輪へ流れていく。

百人の肩が、ほぼ同時に揺れた。


「停止するか!」

俺が叫ぶ。


「続けてください」

アデルは銀輪を握ったまま答えた。

額に汗が浮いている。声は通っていた。


他の参加者を確認する。

手が震えている者。

顔を赤くしている者。

膝をついたが、銀輪から自分で手を離した者。


離した受領口は即座に閉じ、残りへ負担が集中しないよう分配総量も下がった。


「三十番、撤回! 四十二番、上限到達!」

フィンが番号を読み上げる。


主任技師がその都度レバーを戻す。


一人の若い騎士が、さらに受けると手を上げた。

「私はまだ立てます。量を増やせば、もっと早く――」


「駄目だ。上限は変えない」

「しかし、転移者が死ねば」

「決めた上限は、誰の都合でも動かさない」


騎士は歯を食いしばったが、銀輪から手を離さなかった。


分配は三分間で終了した。


【積載率:57%】


数字が下がった。

百本の銀輪には、受領量と症状予測がそれぞれ残っている。

災厄は消えていない。予定どおり、百人へ分かれた。


実験後、参加者を治療師が一人ずつ確認した。

多くは微熱と軽い痺れ。魔法を使える者は、一時的に術が不安定になっている。

一人が水の入った椀を落としたが、怪我人はいない。


主任技師が受領記録を読み上げる。

上限を超えた者はゼロ。

途中撤回は七名。

撤回した七つの受領口は閉じ、他の参加者へ予定外の増加はなかった。


「百人いなければ成立しない仕組みではありません」

主任技師は記録紙を掲げた。

「人数に応じて、総受領量を下げられる。十人なら十人分だけを、安全な範囲で移せます」


これなら、大きな都市だけでなく、小さな村でも使える。


銀輪を離した女は、塔の外で水を配っていた。

参加を断った後も、誰も列から追い出していない。

受領した者が倒れれば椅子を運び、治療師へ症状を伝えている。


アデルは銀輪から手を離し、赤くなった掌を見た。


「鉱山で、あなたの積載率が下がった時と同じ感覚です」

「あの夜も、あんたが一部を受けていたのか」

「おそらく。あの時は封鎖術の消耗だと思っていました」


鉱山の救護所から残っていた一%の答えだった。


フィンが記録水晶を抱え、制御室から飛び出してきた。

「全部記録した。主任たちが、中継都市三つとグラナの天告鏡へ複製してくれた。ここを壊されても消えない」


塔の前に集まった人々から、歓声が上がった。

百人は熱を出し、手を震わせ、今夜の仕事を休まなければならない。

それでも、別の方法は記録に残った。


その時、復旧した天告鏡が赤く明滅した。


白い法衣を着た痩身の男が映る。

胸元の名札を、アデルが睨んだ。


「告示司教ネルガ」


『国民へ緊急告示。転移者が、中継塔を通じて百名へ呪いを感染させた』


周囲の歓声が止まる。


『感染者と協力者は直ちに隔離する。逃亡を助けた者については、本人だけでなく家族も処罰対象とする』


鏡に、参加者と協力者の名簿が表示され始めた。

マーラの名と、その幼い息子の名もあった。


マーラ本人は実験へ参加していない。

グラナで寝床と食料を渡したことを、協力者として数えられている。

教会は受領の危険ではなく、家族への罰で人を戻そうとしていた。


アデルが小型水晶へ告示を記録する。

フィンは父親の地図を開いた。


「ここにいたら、参加した人たちごと包囲される。グラナ街道の《渡り鳥亭・東支店》なら、首都へ抜ける暖房管がある」


俺は百人の前へ立った。


「教会が狙っているのは俺だ。三人でここを出る。参加した名簿は複製して、別々の場所へ隠してくれ」


共同受領が成功した証拠は残った。

次に運ぶべき荷物は、その証拠を中央塔へ届かせることだった。

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