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1ー4 古鐘コテツ/大空ツバサ/黒鉄ワタル

「…………で。マァジで紅先輩引き入れたのかよ!?」

「そ。どーよ」

「うるせぇな……」


 獣崎高校屋上、昼休み。

 新設予定の運動部、サッカー部の面子は近況報告のために集まっていた。

 先日、リュウキを加えたばかりで現在三人。部として成立させる上で必要な最低人数は五人。残り二人。


「それにしても、よく殺されなかったな、スバル……」

「あ?んだとこの駄犬が」

「駄犬!?ひっでぇ!!」

「まあまあ喧嘩しないの、二人共」


 なんとか宥めつつ、スバルは本題に入る。それは、今後どう部員を集めるか。

 元より帰宅部であったリュウキは兎も角、時期が時期。大体の新入生は入部する部活は決めている頃合。二年生以降も既に部に所属している者がほとんど。その場合は引き抜く他ないが、それは矢張り、相手側の同意等が要る。


「それより、部室はどうすんだ」


 部室。その言葉にスバル達も苦い顔をする。

 部を興す上で必要な要素のひとつ、それは正式な許可の元、部室となる場所を用意すること。

 とはいえ運動部関係の施設はほとんど埋まっている。言わば、場所らしい場所がない。


「んー……古い……今使ってない施設を使うとか?というか、あるのか……?」


 ハヤテの懸念は尤もだ。大抵の施設は新しいし、古いものは撤去されていても不思議ではない。

 右手を顎に添え、思い付いたように目を開いたリュウキは口を開いた。


「いや、一箇所だけあるぞ。今はもう使われてねぇちっせぇ体育倉庫がある。取り壊しの話は聞かねぇし、そこ使えばいいんじゃねぇか」

「マジですか!?じゃあそこを最有力候補にして……次は、部員。どう掻き集めるか、だよなぁ」


 その話題が出てきて、再び沈黙する。リュウキは菓子パンを齧り、ハヤテは持ってきた弁当の卵焼きを口に運んで静止。部員不足。これをどう補うか。三人は揃って唸る。


 そんな中、屋上の出入口の扉が開く音が響いた。


 現れたのは、大柄な男の虎獣人。黄と白の縞模様が入った体毛。優しげな灰色の目。その目は屋上を一周してはスバル達に留まると、パッと明るくなってパタパタと駆け寄ってきた。


「あ、あのっ!サッカー部の人達……ですよね…?」

「ん、ああ。きみは……」

「おれ、古鐘コテツっていいます。今年入学した新入生で、中学までテニスやってました!あの、貼り紙を見て……サッカーやった事ないんですけど、サッカー部に入ってみたいなあって……」


 スバル達三人は目を合わせた。四人目。願ってもない人員だった。

 未経験。だからなんだ。続けていけば、自ずと経験は蓄積されていく。故に────


「マジか!マジかよスバル!!四人目ぇ!!」

「ああ、ああ!ありがとうコテツ!オレ、天之河スバル!こっちが……」

「オレ、雪原ハヤテ!よろしくな!」

「……紅リュウキ」

「はい!よろしくです!」


 新たなメンバー、古鐘コテツ。彼を加えて四人目。サッカー部創部可能条件となる最低人数、五人まであと一人。




 ▲▲▲▽▽▽




「さて、コテツも加わって、あとは最低一人……」

「んー、やっぱし引き抜くか?どっか適当な部活から……」

「それじゃ意味ねぇだろ、馬鹿が」


 サラッとハヤテを罵倒。ハヤテは「紅先輩ヒデェ!!」と叫ぶが意に返さず、今度はコテツの方を見やる。


「ある程度サッカーでも活かせっとこが最適だ。古鐘、お前テニスやってたんだろ。何ができる」


 その問いにコテツは少しだけ逡巡し、思い当たる節を少しづつ口にする。


「えーと……そうですね、ある程度相手の動作とか、返ってくる弾道の予測とか、それに見合った立ち位置を調整して返す、とかでしょうか……?」

「なるほど。スバル。コイツのポジションは……」

「ええ。MFかDF向きですね。FWだと却ってコテツの強みを殺してしまう」

「みっど……?でぃふぇ……?ふぉわ……?」


 コテツの頭に疑問符が大量に浮かぶ。

 そもそもコテツがやってきたのはテニス。ほとんど個人競技。集団競技自体、体育の授業でなんとなくやってきたが故に、ポジションについてはよく分かっていない。

 サッカーやバスケなどで用いられるポジションの名称など、元テニスプレイヤーのコテツが把握しているはずもなく。


「あー、その辺後で教えるよ。それよりもまず、あと一人欲しいな。先輩、コテツ。宛はあるか?」

「んー……ごめんなさい、まだ入学して間もないから……」


 その返答に、スバルとハヤテは無茶振りをしたと自覚する。この三人は新入生。つまり、まだ明確な人脈も確立できていない。故に互いのステータスを把握できていないのも当然だった。


「……二人、宛がある。つっても、片方は接点が少ねぇが」

「二人!?先輩マジすか!?」

「うっせぇ駄犬。ひとりは、大空ツバサ。鷲の鳥人で弓道部のエース。そんでもって俺のダチ。種族や能力を観点に入れりゃ、キーパーに向いてる。んでもう一人は黒鉄ワタル。鴉の鳥人で将棋部だ」

「大空先輩は分かりますけど、なんで将棋部……文化部である黒鉄先輩を?」

「決まってんだろ。────司令塔だ」


 その言葉にスバルとハヤテはハッとする。元テニスプレイヤーのコテツはピンと来ていないが。

 サッカーにおける司令塔とは、監督に変わってフィールド上の味方の指揮を担う、チームの頭脳を担う存在だ。必要不可欠、という訳では無いが、優秀な司令塔の存在がチーム全体を強めることに変わりはない。


「アイツ、将棋に関しちゃ全国を制覇してる猛者だ。噂によりゃ、十以上先の手まで読めるとか」

「その話が本当なら最強じゃないっすか!!」

「よく分かりませんけど、でもその方って文化部なんじゃ……体力面とか、大丈夫でしょうか…?」

「それは追々だ。それくらいすごい人がいるのなら、願わくば手を貸してほしいしな。……よし、リュウキ先輩は大空先輩の元に。オレ達三人は件の黒鉄先輩の元に行きましょう!」


 全員が首を縦に振る。

 大空ツバサはリュウキの友人。面識がある。黒鉄ワタルはリュウキが行くより新入生組で固まった方が変な印象を持たれずに済むはずだろうと考えた為だ。


 昼休みの終わりが近い。それぞれ手筈を簡潔に伝え合い、屋上を後にした。




 ▲▲▲▽▽▽




 放課後は部活の時間。

 ほぼ全てが各々の活動に精を出す中で、リュウキは弓道部の部室に足を運ぶと、早速弦が弾ける音と矢が的に当たる、ストン、という音が反響する。

 リュウキの目に入ったのは、白い鷲の頭と黄色の嘴、鋭い金色の目を持つハクトウワシの鳥人、大空ツバサだった。

 焦げ茶の羽毛は白い弓道着に隠れているが、鍛え抜かれたその体躯は道着越しでもよく分かる。


「ツバサ」


 矢を番えようとしたツバサに声を掛けて静止する。それに気付いたツバサは声を掛けられた方、リュウキの方を見る。


「……リュウキ。……珍しいな、お前が弓道部に来るとは」

「ああ。実はな、お前に頼みがあって来たんだよ」

「……俺に?……お前から?……明日は槍が降るのか」

「んだと。……ある奴がサッカー部を作ろうとしててよ。俺も入る事にした。……んで、お前が良けりゃなんだがよ、お前もサッカー部に入んねぇか、ツバサ」


 その言葉にツバサがキョトンとして、一拍遅れてから口を開いた。


「……サッカー」

「強制はしねぇ。ただ、お前が良ければで全然構わねぇよ。だから────」

「いいぞ」

「────検討しといてほし…………は?」

「……だから、構わないぞ。サッカー」


 一瞬の静寂。それは、その場にいた弓道部員達も、リュウキも同様だった。そして────


「はああああ!!?」


 リュウキの絶叫が木霊した。






 ────時は数分前に遡る。


 放課後になってすぐ、スバルはハヤテ、コテツと合流しては北校舎二階の教室にある将棋部に赴いた。

 パチン、パチンと駒を打つ音が絶え間なく響く。それなりに部員の数はいるらしい。

 教室の扉をそっと開いて覗くと、すぐそこにいた。黒い鴉の鳥人。彼は無表情で相手と駒を打っている。

 相手が数秒逡巡しているのに対して、ワタルは一秒も掛からず駒を進めて落としている。


「……王手」


 そして、あっという間に王手。相手はズタボロであるのに対して、ワタルの駒への被害は少ない。


「すっご……将棋詳しくないオレでもヤベェって分かるぞ……!」

「おれもです……!」


 サッカーやらテニスやらに明け暮れていた三人は、将棋には大きく触れた事がない。それでもワタルの腕がどれほど凄まじいかその目で実感した。どれほど先を見た上で手を動かしているのだろう。


「……さっきからそこで見ている一年。見学か?それとも入部希望か」


 ワタルから声が掛かる。気付かれていたらしい。どうやら視野も広いようだ。

 気付かれていた事にハヤテとコテツは硬直するも、スバルは臆さず教室の扉を開いて中に入る。


「一年、天之河スバルです。……黒鉄ワタル先輩に頼みがあって来ました」

「……俺に?」


 灰色の目がスバルを射抜く。全てを見透かすような、鋭く冷たい目。一瞬スバルは臆しかけたが、それでも踏みとどまり、口を開いた。


「オレと……オレ達と一緒に、サッカーやりませんか!?あなたの頭脳を、オレ達に貸して欲しいんです!」


 将棋部を静寂が満たす。一拍遅れ、誰かが「プッ」と息を漏らした途端、将棋部が笑みに包まれた。祝福などのものではなく、嘲笑のもの。それにハヤテはブチ切れそうになるのを必死に堪え、コテツは縮こまってハヤテの後ろに隠れている。

 それでもスバルだけは、静かにワタルを見据えていた。まだ返答を聞いていないぞ、という意志を滲ませて。


「……まず笑ってるお前ら。黙れ」


 ワタルの冷めた一言に、部室内は一瞬で静まり返る。有無を言わせぬその目は、将棋部員達を黙らせるのに十分だった。


「コイツらは本気だ。それを笑う権利はお前達にないだろ。これは、俺とコイツらの問題だ」


 その言葉に誰も口出し出来なかった。たしかにスバルの頼みは突拍子もない。だが、だからといって笑い飛ばす理由にはなり得ないのだ。あくまでもスバルとワタルに生じた問題。それ以上もそれ以下もない。


「天之河、と言ったな。その話、受けてやる」

「えっ……ほ、ホントですか!?」

「ただし────俺と将棋をやれ。それが飲めんのなら、この話はナシだ」


 その言葉に舞い上がりかけたハヤテもコテツも、あからさまな絶望顔を浮かべる。

 全国制覇の猛者、ワタル。彼と将棋を打てなど死にに行くのと同義だ。将棋部員達は無理だと微かな嘲笑を浮かべるが、スバルは…………


「……やります」


 真っ直ぐと、ワタルの目を見ながら同意した。そのスバルの様子を見て嘴の端を釣り上げた。


「……そうか。来い」


 手招きされ、スバルはワタルの向かい側に座ると、駒の準備を双方整える。


「よろしくお願いします……!」


 画して、黒鉄ワタル引き抜きを賭けた将棋の戦いが、幕を開けた────




 ▲▲▲▽▽▽




「────それで、お前の言うある奴は今、ここに居るのか」

「ああ。アイツら、上手くやってると良いんだが……」


 制服に着替えた大空ツバサと、紅リュウキ。

 ツバサの引き抜きに成功したリュウキは、早速ツバサを連れてワタルの元に赴いた一年三人の元にやってきた。


「んじゃ、入んぞ」


 取っ手に手を掛け、リュウキは将棋部室の中に入る。

 ……そこには、涼しい顔で盤面を眺めるワタルと、顔にビッシリと脂汗を垂れ流し、橙色の目をかっ開いて悩んだ様子で将棋盤を見つめて静止するスバルの姿があった。


「……どういう状況だ、これ」

「く、紅先輩ぃぃ!スバルが黒鉄先輩と将棋勝負してて今、スッゲェボッコボコに……!」

「何がどうなってそうなった……」


 説明が雑な事に、若干呆れたコテツは仕方なく状況を話す。

 スバルがサッカー部に入部してくれないかと頼み込み、ワタルがそれを飲む為には俺と将棋をやれと言い……今に至る。


「マジかよ……」


 リュウキは盤面を確認する。

 スバルの盤面に残る駒は残り少ない。対してワタルの駒は潤沢。寧ろ被害らしい被害が少ないようにも見える。

 将棋において、全国を制覇した猛者。その差は歴然と言える。


「……だが、アイツは諦めてねぇ」


 その言葉にサッカー部(仮)員達はスバルの目を見る。

 その目には諦めの色が欠片もない。僅かな、ほんの僅かな勝ち筋を探ろうとしている。

 それは無論、ワタルも同じだった。スバルが一切諦めていない事に、リュウキが気付くよりもなお早く理解していた。


 ようやくスバルの手が動く。

 駒を打つ。

 間髪入れず、ワタルが駒を打つ。

 駒を打つ。

 間髪入れず、ワタルが駒を打つ。

 駒を打つ。

 間髪入れず、ワタルが駒を打つ───


「王手」


 ワタルの駒が、スバルの王将を打った。誰がどう見ても、ワタルの圧勝だった。スバルは、何も出来ずに大敗した。


「……参りました」

「……ああ。俺の勝ちだ。悪くなかった」


 悪くなかった。圧勝しておいて何を、とハヤテは思った。

 そんなハヤテの視線を意に返さず、ワタルは荷物を纏めて背負うと、スバルの前に立った。


「約束は約束だ。サッカー部に入ってやる」

「…………へ?」


 その声は、スバルや将棋部員含めたほぼ全員の口から出てきたものだった。この男はなんと言った。入る、と。


「え、え……?いやあの、勝ったら……」

「誰が俺に勝ったら入ると言った。俺と将棋をやれ、としか言っとらんだろう。……お前と駒を打ってみて分かった。お前は不可能に等しい局面でも勝ち筋を探していただろ。……俺が相手してきた奴は、詰んだと分かった途端、手を引くやつがほとんどだった。だが……お前はそれでも戦う選択を取った。故に、お前とやるサッカーは面白そうだと判断した。それだけだ」


 ワタルからの言葉を聞いたスバルは……目から大粒の涙を蓄え、流した。その顔にワタルはギョッとするが、スバルは涙をゴシゴシ拭い……いつもの笑顔を向けた。


「よろしくお願いします、黒鉄先輩……!」

「……ふ。ワタルで構わん」


 ……画して、獣崎高校サッカー部(仮)に、新たに二人のメンバーが加わった。


 サッカー部創部条件の内の一つ、最低五人の部員を集めるべし────クリア。

『古鐘コテツ』

種族:虎獣人

性別:男

年齢:16歳

身長:179cm

ポジション:MF

性格:礼儀正しく素直

概要:元テニスプレイヤー。サッカー部員募集の貼り紙を見て入部を決意した。

その体躯に見合わず礼儀正しく、誰に対しても敬語を欠かさない。


『大空ツバサ』

種族:鷲鳥人(種類:ハクトウワシ)

性別:男

年齢:17歳

身長:193cm

ポジション:GK

性格:寡黙で、友達・後輩想い

概要:元弓道部員。リュウキに誘われてサッカー部に入る事を決意。

口数は少ないが、友達や後輩を大事にする、懐が広いタイプ。


『黒鉄ワタル』

種族:鴉鳥人

性別:男

年齢:17歳

身長:172cm

性格:寡黙で冷静沈着……にして、ツンデレ。

概要:スバル達一年組に誘われて、スバルと将棋勝負の末に入部を決意。

学生の域を外れた頭脳を誇り、将棋においては全国の常連と言えるレベル。

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