1ー2 開始!部員集め!
サッカー部が存在しない、『私立獣崎高等学校』にサッカー部を作る。そう決意したスバルとハヤテは、まず初めに部員を集める事にする。
この高校で新たに部を興すには、三つの条件を満たさねばならない。
一、部員は最低でも五人以上いること。
一、正式な許可の元、部室となる設備を用意すること。
一、これらの条件を満たした上で、顧問の教師を得ること。
現在サッカー部(仮)にはスバル、ハヤテの二人のみ。最低でもあと三人は揃えねばならない。
「なあなあスバル、まずどうやって集める?最低三人だろ?」
スバルの机の前の席にある椅子に腰掛けながら、頬杖をついてはスバルに問う。スバルは腕を組んではう〜ん……としばらく唸ったのち、思い付いたように目を見開いた。
「よぉし、まずは張り紙だ!そうだなあ、デザインは────」
そう言いながら画用紙にスラスラと文字やイラストを書き上げていく。以外に上手い。
十分足らずで色を付け終えて書き上げた張り紙には、『サッカー部創部予定!部員募集!』とデカデカと書かれていて、中々様になっている。
「っし、できた!よし、あとはこれをコピーして貼りまくんぞ!ハヤテ、やってくれるか?」
「あったり前だろ!なあスバル。オレはどこの方から貼ってった方がいい?」
「オレは東回りで貼ってく。ハヤテは西回りで頼む!」
「っし!任せんしゃい!」
放課後、二人は校内を走り回って部員募集の貼り紙を掲示板に貼り回った。
その結果は────
「三日経って誰も来ないとか嘘だろォォォ!!!」
ハヤテの絶叫が夕刻の住宅街に響く。そう、三日経ってもなお、誰も来なかった。
「……まあ、新入生がいきなり部活作るつって、早々来る訳ねぇよな……でもこのままじゃ、フットボールチャンピオンシップの受付が……」
「だよな……マジで急がないと締め切っちまう……」
どうするべきか、と顎に手を当てて思案するスバル。どうすべきかと唸る中……ドゴッ、と何かを殴る音が響いた。
「ん?何の音────」
音のした方……路地裏を見ると、そこにはスバル達と同じ獣崎高校の制服を身にまとった赤い鱗の竜人が、他校の生徒と殴り合い……否、蹴り合いをしていた。
「うわ、不良同士の喧嘩じゃん……さっさと離れようぜ、スバル……スバル?」
スバルは竜人の動きに釘付けだった。ハヤテの声すら聞こえていない様子だ。
赤い鱗の竜人は、腕を使っていない。拳ではなく蹴りで応戦している。しかしスバルが注目しているのは、そこではない。注目しているのは────
「なん、だ……あの足……!」
制服越しでは分かりにくい。だが、竜人の脚力は誰が見ても異常だった。何故なら……
「ぎゃっ!?」
一蹴りで、大柄な獣人を数メートル吹っ飛ばした。明らかに普通の竜人の脚力ではない。
スバルの意識は完全に赤い竜人の動きに夢中だった。利き足の扱い。軸足の安定性……それら全てを総合していく。
そしてスバルが導き出した結論。それは────
「……見付けた。三人目……!」
その呟きにハヤテはギョッとする。その発言が指す意味。それは……
「は!?あの喧嘩してる竜人をサッカー部にスカウトすんのか!?」
ハヤテの言葉が路地に反響する。それにより、不良達の動きがピタリと止まる。それは赤鱗の竜人も同様だった。全員の視線がスバル達に向く。
「……何見てんだ、お前ら。これァ見せもんじゃねぇんだぞ。失せろ」
竜人はドスの効いた声でそう促し、ハヤテはひぃ、と怯えた声を出しながらスバルの腕を引く。……しかし。スバルは微動だにしない。むしろ、前に出てくる。一触即発の空気の中、お構い無しに。
「や、やめとけってスバル……!」
ストップを促されてもスバルは止まらない。スバルは竜人の前に立つと、大きく息を吸い込み……
「あの!サッカー、興味ありませんか!?」
その大きな声が路地裏に反響する。誰もが言葉を失った。ハヤテすら頭を抱えて黙り込んだ。昔からそうだ。サッカーが関わると、スバルのIQは著しく低下する。
「……は?」
竜人は、その金色の目をまん丸に見開いて呆然とした。喧嘩の真っ只中。しかも突然現れた犬獣人からサッカーのお誘い。情報の処理が追いつかない。
それは後ろの不良達も同様である。
「な、おまっ……状況分かって言ってんのか……!?つか、サッカーだと……」
竜人の目から明確な困惑と微かな焦りが滲む。その目には、遠い何かを思い浮かべるような……
「余所見すんじゃねぇ、紅ィィ!!」
その声を皮切りに、紅と呼ばれた竜人目掛けて鉄パイプが振り抜かれる。……が、紅という竜人は素早く身を翻しては鉄パイプを蹴り飛ばす。しかも、鉄パイプが折れ曲がり、ひしゃげている。
「っ……!腕が、痺れ……!?」
「に、逃げんぞ!勝てる訳ねぇ……!」
その光景に他の不良達は蜘蛛の子を散らすように路地の奥に消えていく。その光景に紅はフン、と鼻を鳴らした。
「情けねぇ。……で、サッカーに興味ねぇか、だったか?……って、俺と同じ学校の奴かよ……!」
「はい!一年の天之河スバルです!」
「一年……俺の一個下かよ……」
呆れたように白い鬣をガシガシ掻く紅。一方、ハヤテは恐る恐るといった様子で堂々と直立するスバルの背中に隠れ、紅を見上げる。
「あの、えっと……」
「……リュウキ。紅リュウキだ」
「紅先輩。あなたの足は、紛れもなくサッカーでこそ生きるものです……!あなたの足は数万……いや、数十万人にひとりの豪脚だ。あなたの力があれば、全国制覇も夢じゃ……」
「うるせぇ!俺の前でサッカーの話をすんな!!」
突然怒鳴られて、スバルは言葉を切る。単に驚いただけである。対してハヤテはすっかり萎縮していた。
「なんなんだよ、お前!いきなり出しゃばりやがって……サッカー?やりたくないね!」
そう言ってリュウキ、と名乗った竜人は踵を返して路地の奥へと消えていく。取り残されたスバル達二人はしばらく立ち尽くしていた。
「スバルッ!お前ホントどうかしてるぞ!?不良だぞ、不良!!」
「……ハヤテ。気持ちは分かるが……彼の足の動き、見てたか?あれは……サッカーやってた奴の動きだった」
「……え。マジ?」
スバルはマジか、といった様子のため息をつく。実際、スバルの目はしっかり捉えていた。リュウキの足の動作にある、微かなサッカーの動きに似た挙動を。
「マジか……全っ然気付かなかった……」
「だと思ったぜ。……っし、そうと決まれば、逃がす訳にいかねぇ。明日から勧誘しまくんぞ!」
「いやすんのかよ!?オレやだァァァ!!」
嫌々と叫び散らしながらも、結局スバルに着いてくる。雪原ハヤテというハスキーの獣人は、少なくともそういう男だった。
◇◇◇◆◆◆
一方その頃。
スバル達と別れ、ひとり路地を歩くリュウキは、ふと自分の胸に手を当てる。
「……数十万人にひとりの豪脚、ね」
胸の奥に燻る、リュウキにとって捨てた筈でありながら、心の奥底に封じ込めていた欲求。リュウキの内側にて抑えに抑え、燻るだけ燻っていたその感情が、スバルという火種が現れたことによって、爆発しかけていた。
「……それでも、親父は許してくんねぇだろ」
それでも。それが爆発することはなく、さらに燻らせることになる。スバルは知る由もない。彼をこちら側に引き込むには、更なる刺激が必要である事に────




