棚からぼたもち的な?
眩いほどに照りつけるシャンデリアの明かり。
それを受けて光るドレスやスーツ、色とりどりで食べきれないほどの量が積まれた料理達。
異世界よりは基本的に現代の方がいいけども、この空間だけは前世でも滅多にお目にかかれない豪華さだ・
もちろん前世も庶民側の俺では、縁がなかった。
流石に同窓会ぐらいの規模では、ここまで豪華にはならないしね。
あっ、ホームシック来たかも。
家というより、地球)シック的な?
……とはいえ、もう戻れないモノを考えてもしょうがない。
頭をブンブンと振り、記憶から追い出した所で仕事へと再度集中する。
そうして新たに与えられた、皿の上に空きが目立つ料理を取り替える仕事を黙々とこなす。
でも先ほどまでと違うのは、やはり参加者との距離。
300人近くも参加者がいれば、酒の力も相まって盛り上がるのだろう。
子どもや孫自慢の様な他愛のない話に始まり、商売や猥談まで多岐に渡る。
他には、
「フィエルメ様が遠征先への道中、口にされて美味しいと言われた茶葉があるそうだぞ。
ウチでも取り扱っているが、相場より多少高くなってしまう。
だが、その事実が広まれば絶ッ対儲かるはずだが……どうだ?」
「第一王女様が、そんな事を!?
ぜひ買わせてください!!」
そんな、怪しげな商談まである。
……金儲けに絶対って言葉を使う奴は信用しちゃアカンと、ばっちゃんも言ってました。
買おうとしているのは俺より少しだけ年上の男で、売り手側はグヘヘと笑いそうな小太りの中年男性。
内容というより、見た目で判断しちゃっている気もするけど……。
まあ彼とは関係ないし、商いは自己責任だしね。
そんな一つ一つの会話に聞き耳を立てながら、仕事をこなしていく。
一応草の一員として叩き込まれた、マルチタスクの訓練の成果が出ているはずだ。
そうして料理を取り替えようとした所で、演奏していたオーケストラがピタリと止まる。
何だ何だと釣られる参加者達が舞台へ目を向けると、つい作業中の俺も釣られてそちらに目線を送ってしまう。
「長らくお待たせしました。
モリッジ男爵家一族の入場です、皆様拍手でお出迎え下さい!」
そうして開かれた扉から現れるのは、このパーティーを主催する男爵一家。
会場中を包む拍手の海の中、その一家は堂々とステージの中央へと歩いて行く。
あれが……貴族か。
男爵は貴族の爵位の中でも位自体は一番下。
だがそんな彼らでも、庶民とは隔絶した自信と王者の風格を漂わせている。
だからこそ尊敬と畏怖を集め、人の上に立てるのだろう。
ハーティアも元貴族ではあるんだけど、こういう表舞台での姿は見た事ないしね。
彼女は侯爵家だしこれより上か……そう考えると、同じ屋根の下で過ごしているのが不思議な気持ちになる。
あのステージに立つ当主のモリッジ男爵も、屋敷のソファに寝転んでポテトを貪ったりするのだろうか?
と少し余裕が出来たからか、頭の中を覗かれたら不敬罪でしょっぴかれそうな事も考えてしまう。
そんな彼の、日本とも変わらないお偉いさんの退屈な挨拶は聞き流し…
「では、本日の主役をお呼びしよう……フレイナ」
「はい、お父様」
再び開かれた扉、そこから当主の呼びかけに答える女性の声が。
そうして扉を抜けて現れた女性の姿。
その瞬間、
『ほぅ……』
感嘆とした吐息が参加者から漏れ出る。
雑談をしていた人達も全員舞台の上の彼女へ視線を釘付けに。
それはやはり…彼女が美しすぎたからだろう。
夜闇の様に黒く、星々の様にキラキラ光るラメが散りばめられたドレス。
自信を持って体のラインを出せる、スタイルの良さ。
盛り上げられた真っ赤な赤髪に……何よりも、クールビューティーな印象を受けるその美貌。
参加者達は金持ちで、何人も美女を囲っている事だろう。
でもきっと、その人たちでは敵わない美しさだ。
そうして会場中の視線を独り占めする彼女は、舞台の中央まで行き拡声効果がかけられたメガホンを受け取った。
「ご紹介に預かりました、モリッジ男爵家三女、フレイナでございます。
本日は、私の誕生日パーティーへこれだけ多くの方へご来場頂いた事へ、心より感謝を申し上げます」
始まるのは、彼女の挨拶。
それは特別なモノではなく、形式ばったもの。
でも、明らかに参加者達の興味は違う。
……なんて現金な連中なんだ。
まあ、俺もその一員なんだけどさ。
そうして挨拶は終わり、舞台上で彼女がぺこりと挨拶をすると万雷の拍手が送られた。
……なんだこれは。
ただの挨拶なのに、下手したらアンコールと言い始めそうな雰囲気が漂っている。
そうして再びガヤガヤとした雰囲気に会場は変わった。
「やはり、お美しくなりましたなフレイナ様」
「本当に見違えました、これは婚約者のサミル様にも嫉妬してしまいます」
やはり話すのは、主役であるフレイナ様について。
ちなみにサミルというのは、この国の伯爵家嫡男の名前だ。
そう、彼女は男爵家の三女という庶民と結婚することが殆どの地位。
そこから伯爵家嫡男の正妻という座を射止め、玉の輿に乗った女性だった。
「さすが……」
つい、溢れてしまった本音。
もちろん、フレイナ様へ向けたモノではない。
貴族にそんなこと言ったら、極刑モノだ。
それは隣にいる、
「当然でしょう?私の弟子の1人なんだから」
ハーティアへ向けて。
聞かれない様に小声だけども、声色から鼻高々なのは伝わってくる。
あくまでフレイナ様も当時は男爵家の三女以上ではなく、取り巻きの中の1人に過ぎなかったはず。
でもしっかりとメイク技術を教えるのは、案外ハーティアは面倒見が良いのだろうか?
舞台から降り…今は婚約者の男と歓談している彼女、フレイナ様。
一応婚約破棄の場面にも居合わせたし、庇うことも無かったそうだ。
でもハーティアの反応からは、復讐しようという感情は見当たらない。
……完璧に隠しているだけかもしれないけど。
その辺りは、彼女のみぞ知るという感じ。
それは置いておいて元取り巻きという事は、他家よりは多少の勝手が分かっている。
男爵家、しかも商人達が通りやすい道を管理しているというのも相まって、平民の商人の参加が多い。
流石に貴族に変装は、初仕事からだとリスクが高すぎるとの判断だろう。
そんな経緯で、本部から最初に選ばれたのがモリッジ男爵家のパーティーだった。
今回の任務は良い情報を持ち帰るのが重要だけども、ハーティアが使えるかどうかの見極めも兼ねているはず。
結果としては、杞憂だったと思うけどね。
とはいえ、情報があまりにもしょっぱすぎる。
まともな情報は、ハーティアのメイク技術を伝授された取り巻きは男を熱狂させる、本当にそれぐらいしかない。
このままだと、俺まで能力を疑われかねないんだけど!?
だけども、無理やりやるのはスパイの仕事か?というジレンマ。
「無理する必要はないわよ?
無事終わらせるのが今日の、仕事なんだから」
どうやら彼女にも心配させてしまうぐらい、顔か仕草に出てしまったらしい。
流石に反省しよう、彼女の言う通りすぎるし……
「そういえば、本当なのか?
シャウナイ伯爵領の鉄鉱山で落盤事故って」
「ああ、本当らしいぞ。
……馴染みの商人によれば、大規模らしくて長引きそうだとさ」
静かに、与えられた仕事をこなすだけでいい。
「他だと……タボナタ男爵領か?確かあの家は……」
「ここに来て、第一王女派閥に追い風か。
第一王子様も運がねぇな」
「まあ……何はともあれ、その情報助かったよ。
流石に鉄がなきゃ、ウチも武器が作れねぇしな」
「お礼は、ワインで良いぜ。
うちの息子もそろそろ成人だしよ」
という話を溢しながら男達は、上機嫌にグラスを交わしながら去っていった。
それを確認してなんとなく隣で配膳を終えた彼女の方へ視線を送ると、しっかり目が合う。
そうして俺たちは、静かに親指を立て合った。
どうやら今日は運が良いらしい。
「そろそろ、戻ろうか」
「……そうね」
指で合図する方向、そちらに厨房はない。
その壁を抜けた先の先、そこには……屋敷のゲートがあった。
トイレへ向かった俺たちは、周囲に誰も人がいないことを確認し、幻影で……メイクで、元のガウディ夫妻へ戻る。
まだ参加者達は料理に舌鼓を打ち、会話を楽しんでいる頃。
だけども、俺たちはもうこの場に用はない。
そうして堂々と、廊下を、庭を歩いてゲートまで辿り着く。
「お早いお帰りですが、何かありましたでしょうか?」
流石にまだ帰る人もいない様で、受付に問いかけられてしまう。
でも、ここはしっかり準備済みだ。
「いやいや、何も問題はないさ。
少し飲みすぎた様で……な?」
「そうでございましたか。
馬車の方は、ご要望とあらば用意させていただきますが……」
「それは、大丈夫だ。
夜風に当たって酔いを覚ますのも悪くないだろう」
「分かりました、どうかお気をつけてお帰りくださいませ」
「ああ、ありがとう」
そんな問答を交わして俺は……魔力識別門を堂々と潜り抜ける。
本来あるはずの反応は、一切ない。
そりゃそうだ、こんな燃費の悪いモノつけっぱなしには出来ない。
地球の金属探知ゲートがどうかは知らないけど、これは結構な金食い虫の装置だ。
というか、そもそも目的は危険物を持ち込まれない為のもの。
わざわざ出ていく人間に使う必要はどこにも無いのだ。
まあ一応、起動中を示すランプが点いているかどうかぐらいは確認した上で、だけどね。
屋敷を背に歩いていた俺たち、もう時間的に良い子は寝る時間。
街行く家々も、明かりが消えてしまっている。
もちろん人通りもない。
道を照らす月明かりだけが俺たちの頼りだ。
そうして歩き続け、最初の曲がり角を曲がった所で幻影を今の姿から重ね掛けする。
これでもうバレる事はない。
「ふぅ、お疲れ様」
「お疲れ様、まあ……良かったんじゃない?」
そう言いながら俺は右手の甲で、彼女は左手の甲でロータッチをする。
こうして地味ながら誰にもバレず、初めての任務を遂行したのだった。




