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婚約破棄令嬢 家柄……今は× 資金……今は× スパイ適正……◎  作者: お汁粉パンチ


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キースの能力

「ごめんごめん!嫌なモノ思い出させちゃって……。

あ〜っと、これっ!このタオル、比較的清潔だからっ!

一旦涙拭こう?お、お茶とか一回飲む?お代わりもいっぱい用意するからさっ!」


 軽い気持ちで聞いた彼女の事情、それはあまりにも重かった。

 そして話す過程で嫌な現実と彼女を、向き合わさせてしまったのだ。


 両手をグッと握りしめたまま、ポロポロと涙を零す彼女。

 それにアワアワしてしまって、まるで押し売りの様にタオルやお茶を押し付けてしまう。


 真っ白なタオルを受け取った彼女は、そのまま目元を隠す様に押し付ける。

 そして俺は遠慮がちに、ソファの横に座る彼女の背中へそっと手を当てると、優しくさすっていくのだ。


 この世界だとアレだけど前世の子どもの時は、こんな感じで家族にされた気もする。

 ただ……初対面の、それも貴族のお嬢様にする事かは、分からないけども。

 

 最初に指が触れた時は、ビクンと体を跳ねさせてたけども、手を退けようとする仕草はなく。

 ただ2人だけの家の中へ、彼女の嗚咽が響くのだった。




「ごめんなさい、取り乱してしまって……」


「いや、それは気にしてないですけど。

むしろこっちが、嫌な事を思い出せてしまって申し訳ない」


「いえいえ、私が……」


「いやいや、俺が……」


 そうして始まる、自虐の取り合い?

 中々これも終わらず、


「コホンっ、ならお互い様という事で忘れましょう?」


「分かった」


 彼女の提案に乗っかる形で、それはようやく終結した。

 心の中では……今もこっちの方が悪いと思っているけどね。


「ではまず、ありがとうございました。

匿っていただいた所から、その後まで……」


「まあまあ、こちらが家に引き込んだ事で始まった訳ですし」


 深々と頭を下げる彼女を、そう言いながら宥める。


 だけども、折角だし聞いてみたい事もあった。

 さっきまでの彼女だと、ダメージを負いそうだけど今なら……大丈夫かも?

 

「少し聞きたい事があるんだけども」


「はい、私に答えられる事でしたら」


「さっきの衛兵の事で……」


 それを口にした瞬間、少しピリッとした空気が広がる。

 とはいえ、こちらの安全保障にも繋がる問題なので突っ込む方を選ぶ。


「何故、ハーティアさんを探しているのか気になっててさ」


「なるほど……」


 それを聞いた彼女は、顎に手を当て考え始めた。

 最中の雰囲気は、彼女が元は高位貴族という事実を疑わせない迫力を醸し出している。

 そして、


「バタイユ家を、他陣営に行かせないため……でしょうか」


「へぇ……」


「今までバタイユ家は、婚約を結ぶほどの第一王子派閥。

ですが婚約破棄されたという事は、袂を分かったということ」



「であればバタイユ家が他の第一王女や第二王子派閥に行かない様、私を手元に置いときたいのでしょう。

私に過失があり婚約破棄と証言させるぞ、そう脅せば王になるまでの協力なら取り付けられるでしょうから」


 そんな推理を披露する。

 タイミング的にハーティア同様、シュタイン王子も親の王族辺りから説教でも受けたのだろうか。

 そして王子は反省はせず、今も正妻をセーラとやらにしたいから、そのためにハーティアを人質として扱いたいと。

 ……結構鬼畜だし強引だな、ウチの国の王子サマは。


 パーティーで結構やらかしたけど、その責任を全て彼女に押し付けても良し。

 バタイユ家を脅して協力させれば、次期国王も夢じゃない。

 国王になってしまえば、これぐらいの醜聞も握り潰せるだろうしね。


「そっかぁ〜〜……」


 そう言いながら、ソファに座った俺はゆっくり頭を抱えた。

 ……貴族達の政争、しかも王の継承権争いとかいう本当のど真ん中に首を突っ込んでしまったらしい。

 草として明らかな領分違反である。

 これは事故だったという事で、許して……くれませんかね?



 

「私からも質問を1ついいでしょうか?」


「……お好きなものをどうぞ」


 控えめに手を上げながらの言葉。

 別にスパイという事以外ならなんでも話そう。

 

「衛兵がこの家へ訪れた時、何か私にしたでしょう?

ドレスを着た状態であれだけ近寄られて、バレないはずがありませんわ」


「そうして話が戻ってくると……。

口で説明するより、見せた方が早いかな?」


 彼女の疑問も尤も(もっとも)だ。

 一応今までの人生で家族と草本部以外には隠してたんだけど……まあ、いっか。

 彼女も納得しないだろうし、偶には人に見せたい気分もあるしね。


 今までの訓練の成果で自在に操れる魔力。

 それを脳内で魔法として構築し、出力を行う。

 その魔法はこちらの体を覆っていき、


「これは、私?

変身ではなく……幻影でしょうか?」


「そう、これは光属性系統の『幻影』ですね」


「なるほど……」


 そうしてソファから立ち上がった彼女は、こちらの体をペタペタと触ってくる。

 ……淑女だよね、こういう行為はあんまり良くないのでは?そんな言葉はゴクンと飲み込んだ。

 決して嬉しいからではない……決して。


「しかも、瞬きも呼吸の際の胸の動きまで再現ですか……」


「一応、喋ってる時の唇の動きなんかも合わせれるし、走っても大丈夫!」


「それは、素晴らしいですね!」


 彼女はどうやら、結構感動してくれているらしい。

 ただ、あくまで幻影。

 触られたら、嘘なのはバレてしまう。

 

 地球にあったもので一番近いものをあげるとしたら、Vtuberだろうか。

 あちらはアニメ調で、こちらはリアル度を求めたという違いはあるけども。

 それを液晶を通さず、現実世界に顕現出来るというのが、『幻影』の強みだ。

 超高性能360°プロジェクションマッピング、と言ってもいいかもしれない。


 だから彼女には座っていて貰ったのだ。

 動くぐらいなら大丈夫だけど、もし彼女が逃げようとしたらもちろん捕まる。

 そして男のガワを貼り付けていたのに、体を触られた瞬間に本当は女性なのがバレてしまうだろう。

 

 あちらさんはあくまで家宅捜索、しかも残業で…夜間に複数箇所を巡るだろうハードスケジュール。

 別にこちらが暴れず協力的ならば、わざわざ手を出しては来ないはずと考えていた。


「これほどの幻影、人生で初めて見ました。

しかも無詠唱で……」


「そりゃあ、そうですよ。

これだけ光属性の才能があったら……教会が黙っていません、回復魔法の担い手として」


「あっ」


 この世界には、火水土風闇光の六つに分かれた魔法の属性がある。

 そもそも魔法を使える人間は限られているのだけど、闇光はごく少数。

 自慢じゃない…やっぱり自慢になるけども、かなりの光属性の才能を俺は持っていた。

 きっと教会で回復魔法を習っていたなら、聖女と並ぶ地位…聖人やトップの教皇も目指せたと思う。

 ……こんな薄暗い場所で過ごさなくていい、イージー異世界ハッピーライフがそこには待っている。


 そんな輝かしい道を捨てる人なんて、多分スパイ……それも他国に潜入中でないとあり得ない。

 自国だったら祖国も、絶対回復魔法を覚えさせて囲いたくなるだろうしね。

 スパイさせてる場合じゃねぇ!って感じで。

 ちなみに、スパイがこれ覚えてたら便利じゃね?……きっとそんなノリだろう草本部からの命令によって、こちらのルートを強制的に選ばされた。


 後悔しているかだって?……月に一回ぐらいは後悔してるけど!!

 だって、異世界の仕事キツすぎるし!

 これでも良くなった方だ、労働1年目なんて毎日思ってたし。

 別に回復魔法で教会に潜入してても良くね?ってね。


「まあ、気持ち程度なら回復魔法を使えるんだけど……」


 そう言いながら、彼女の足元へ手を翳す。

 手から放たれる柔らかい光は彼女の足を包み込み、疲れを癒していく。

 そして少し経ち、


「筋肉痛が、消えましたわ……」


 彼女の言う通りの効能が発揮されたのだ。

 現代日本で例えるなら、湿布を貼って1日寝たぐらいの効果と言えば伝わるかな?


 うん……地味である。

 患部を冷やして寝れば良いんだから、本当に魔法でやること?って思ってしまう。

 失った手足がニョキニョキ生えてくる聖女レベルの回復魔法と比べると、あまりにも悲しいクオリティ。

 

「回復魔法ではなくそれだけ幻影魔法を極めて、貴方どんな職業に就いてますの?」


「……今は、老朽化した王都の城壁の修復工事。

その日雇いの肉体労働やってます……」


 疲れる肉体労働、その時だけはこの筋肉痛回復はまあまあ役には立っている。


「……バタイユ家に売り込みにいらっしゃったら、雇ってあげましたのに……」


「………」


 そうして俺はガクッと肩を落とす演技…でもないか。

 正直本心でもあるのだから。


 ただそんな事やったら、草として祖国を敵に回す事になるだろう。

 幻影魔法に白兵戦能力はなく、俺本体の戦闘能力は衛兵2人がかりで襲われたら負けるレベル。

 そのため、貴族の雇われルートは取れない。


 だから叶わぬ夢と現実の、ギャップの狭間で肩を落とすのだ。


「それで……ハーティアさんは行く宛はあるんです?」


「いえ、ありませんわ……」


「そっか、じゃあここに住む?」


「えっ……本当に良いんですの?」


 話題の振り方が悪かったんだろうか、彼女まで辛い現実に引きずり込んでしまった。

 そうして肩を落としていた彼女だったけれど、こちらの問いかけを聞いて上目遣いで答える。

 ……それは、ずるくない?


「ま、まあ?1人暮らしだし?飯と寝床ぐらいは用意するよ」


 思ったより動揺してしまい、裏返ってしまった声。

 熱くなった頰は…見られてたら、幻影でも隠せないだろう。


「では……お言葉に甘えて、お世話になりますわ。

あっ、そう言えば貴方の名前を聞いてませんでしたね」


「名前はキース、ただの日雇い労働者。

少しの間かもしれないけど、よろしく」


 そうして婚約破棄され、貴族の地位から追い出された彼女……ハーティア。

 

 はたや、他国からのスパイとして代々潜伏し続けた草の一員である俺……キース。

 

 そんな異色の経歴の2人による奇妙な同居生活は、こうして始まりを告げたのだ。

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