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『完結』婚約破棄令嬢 家柄……今は× 資金……今は× スパイ適正……◎ 〜家を追い出された令嬢が敵国のスパイと手を組み、破壊工作で祖国を滅ぼすまで〜  作者: お汁粉パンチ
バタイユ家の侵略編

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逃走劇

 サマヨエルの発見報告。

 それを受けたフィエルメは、表情を変え、


「了解した、すぐ出よう」


「承知いたしました!では馬車を屋敷外へ待機させておりますゆえ……」


「いや、それには及ばない」


「えっっ」


 そんな言葉を交わしたかと思えば、会場の窓を勢いよく開け放った。

 静かな会場に冷たい夜風が、ビュービューと入り込んでくる。

 そして窓枠へ、ヒールを履いた足をかけると、


「では、私は先に行かせてもらう」


「はっ、はいっっ!お気をつけて!」


 最後に一言を残し、風に誘われ……空を飛んでいった。

 馬を遥かに超える速さで、もう豆粒ぐらい小さくなった姿しか見えない。


 あれが、周辺国を姿が見えるだけで震え上がらせた……『風詠み(かぜよみ)』の力……。


 私……ハーティアは、戦場に出た事はない。

 強いて言うなら、カルメン領反乱の時だけ。

 だからフィエルメと馬を並べて戦う、という機会は訪れなかった。


 だけども、第一王女派閥が信奉する力を見て、その一端を否が応にも理解させられてしまった。 

 確かに戦場で命のやり取りをしている中で、あれを見せられたら私でも信者になってしまうかもしれない。



 ……というか、キースは何をやっているのよ! 

 私に内緒で何かやって、バレるとかいうヘマしてるじゃないの!


 これには、ため息の一つも溢したいぐらい。

 けれども、そんな事をしたらバレてしまうから、静かに喉の奥へと飲み込んだ。


「なら私が馬車を使わせてもらっても良いかい?

きっとフィエルメ……様の、多少の役には立つだろう」


「あっ、はいっ!では、ご案内致します!」


 どうやら、カーミラも戦場へ行く事に決めたらしい。

 彼女が戦っている……という所は見た事ないけどね。

 発明品で何かをするという事だろうか?

 

 そんな彼女はこちらと目を合わせると、


「という訳だ、私達は先にお暇させていただく事にするよ」


「……はい、お気をつけて」


「ああ、主役のサミーネにはよろしく伝えておいてくれ」


 会場の出口へと足を向けたのだ。

 だが、

 

「あっ」


 なぜかわざとらしい、言葉を溢すと再び振り向く。

 そしてズンズンと、歩を進めてくるのだ。


「何か、ございましたか」


「いやぁ……ね?」


 どんどんと近づいていく顔の距離。


「えっ」


 もう、彼女の吐息が感じられるほど。

 あと一歩踏み出したならば、唇が重なってしまう。


 今までで一番近づいた、カーミラの顔。

 普段はズボラなはずの彼女も、化粧を施されて……いや、素材がそもそも良いのかもしれない。

 日に当たらないからか白い肌に、


 同性なはずなのに、心臓の鼓動が高くなる。

 

 そして近づいてきた顔は……するりと直前で横へ避け、


「安心したよ、キミは関係なかった」


「なにを……」


「もう関係者じゃなくなった、という方が正しいかな?

だって今回の事件を知らなかった……いや、()()()()()()()()()()()()


「〜〜〜っっっ!!」


 耳から入り込んできたのは、正体の看破……そして挑発を交えた言葉。

 感情を表に出すのはよくない、そう心が言っていてもつい、ほんの少しだけ……漏れ出てしまった。

 それを見て満足したのか、


「では、私はこの辺で」


 そう言い残して、カーミラもパーティー会場から去っていったのだった。


 

 ぎりっっ


 強く噛み締められた歯から、嫌な音が鳴る。

 ……終わりよければ全て良し、なんて言葉はあるけれど、最後が悪かったらどんな感情を持てば良いのだろう?

 

「……これも全部、キースのせいね」


 予定にない行動で、目立っている彼が悪いと思う。

 うん……そうね、アイツが悪いのよ!


 また、会ったら文句の一つでも言ってあげようかしら。


 とは言っても、まずは衛兵とフィエルメ。

 そしてカーミラの追跡から逃れなければならない。

 古今東西、捕まったスパイの末路は……目も当てられないほどに酷いものだから。


 でもきっとアイツなら大丈夫。

 根拠はないけども、盲信している訳でもない。

 ただ彼の実力を考えて、心の底からそう思ったのだから。





「追えっ!追えぇえええ!!サマヨエルはっ!すぐそこだぁあああ!!」


「「「「うぉおおおおお!!!」」」」


「ははっ、本ッ当に有名人になってる!!

……いや、笑えないけどっ!」


 俺……キースは、王都の街を駆け抜けていた。

 それも……後ろに大量の衛兵を引き連れて。


 どうしてこうなったのか。


「これも、あの聖女とやらが偶然いたからぁッッ!」



 いつも通りサマヨエルとしての活動のため情報集めに勤しんでおり、今日はライセル伯爵の屋敷に潜入していた。

 だが屋敷内の者と約束していたのだろうか、今代の聖女とばったり会ってしまったのだ。


 こちらは変装していたものの、同じ光属性……そして高位の使い手のため、それを容易に看破。

 


「貴方はっ、サマヨエルッッ!?」

 

「なっ!?サマヨエルですと!?

聖女様、それは本当でしょうか」


「あれほどの幻術、他にはいないでしょうし間違いありません」


「なるほど!使用人、奴らを捕らえよッッ!!」


 

 とそんな流れで、屋敷から命からがらに逃走。

 そしてあちらは衛兵に連絡したのだろう、膨れ上がった追っ手達によってとんでもない騒ぎになったのだ。


 本当に勘弁してほしいよ、全く。


「まあ……俺が悪いんだけどさっ!」


 ただ逃げるだけじゃ、もう埒が明かない。

 きっとこっちの体力が尽きて、捕まるだけ。

 それに、


「おいっ、こっちにサマヨエルがいるってよ!」


「マジかよ!本物と一回ぐらい会いてぇな!!」


「きゃあああ!!サマヨエルさまぁあああ!!」


 野次馬も、集まってきたのだ。

 夜中だというのに、全くもう。

 もう良い子は寝る時間なのに……さ。



「だから起きてるのは……全員悪い子、だよね?」


 懐から取り出した1つの玉。

 それを地面に思い切り叩きつけた瞬間、辺りを一面をモクモクとした煙が覆う。


 そうしてその間にこっそりと……それでいて大胆に、



 人生で一番の規模の、幻影を発動させたのだった。

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