取り調べ?
こちらへ向かって歩を進めてくるフィエルメとカーミラ。
それを察してか、先ほどまで談笑していた以前の顔見知りも話を切り上げ、離れていく。
道中には私よりも偉い、貴族の当主もいたが2人は片手を上げる軽い挨拶に止める。
それが彼女達の、ハーティア・ド・ラ・バタイユへの強い疑いを感じられたのだ。
体調不良などで席を外す、という選択は一応はある。
だがきっと、それはあくまで一時凌ぎであり、疑いを晴らすには至らないのだ。
なんだったら証拠がなくとも疑いで拘束する、それぐらいの強権を振るっても許されるのが王女なのだから。
こちらは当たり前だけど白ではない。
ここからの対応で全てが決まる、だから……
「……あら、フィエルメ様にカーミラ様ご機嫌よう」
まずは、先手必勝という感じで。
こちらから話しかけていく。
「ご機嫌よう、ハーティア。
随分と『顔』を見せなかったが、壮健だったか?」
「ご心配ありがとうございます、フィエルメ様。
ただあくまで、『港湾都市サランで静養していただけ』ですから、私は元気ですよ」
そんな軽い探り合いを交えた会話から始まった。
きっと他からならば、旧交を深めているだけに聞こえるだろう。
けれども、顔というワードを強調した場合、
『姿形を変えても、お前が暴れているのはわかってるぞ』
という風にも聞こえるのだ。
もしかしたら、嵌める予定だったパーティーに参加しなかったのを恨んでいる可能性も?
……いや、流石にないわね。
そこまで恨み深く思う人じゃないはず。
「やあ、ハーティア久しぶりだね。
フィエルメと違って、私とキミはパーティーぐらいしか接点がないし、覚えているか分からないけれど」
「いえいえ、そんなはずはありませんわ。
確かにお会いする機会は少なかったかもしれませんが、その活躍の噂はしかとこの耳で聞いております」
「おや、それは嬉しい言葉だね」
もちろんカーミラとも言葉を交わす。
会う機会は少ないが、他人との話題として上がる回数は数え切れないぐらい。
それに毎回、ローズ家の一員としてバチっと決めた服装は忘れられないのだ。
今日は黒い生地に白いレースがあしらわれた、いつもより大人びて見える格好。
ちなみにフィエルメの方は、真っ赤なドレス。
それは主役のラミーネさんとは違って、真っ白な肌を惜しげもなく露出させた成人後の人間にしか許されない格好。
……まあ、婚姻前の女性が着ていいかは審議かもしれないけど。
っとそんな事、今はどうでもいい。
2人が今も向けてくる目線、それはまるで犯罪者を見るかのようなモノ。
記憶の中の彼女達は、こんなものを向けてきては来なかった。
だからこれは、『今の』私への警戒感。
辺りを漂うピリピリとした空気が、肌を容赦なく突き刺してくる。
「それでお二人は、なぜこのパーティーに足を運ばれたのでしょう?
差し支えなければ、お教え願えないでしょうか?」
だが、そんなものは気にしない。
これぐらいの圧など、生まれた時から受けていたのだから。
ザーヴィルは隙を見せない、だから侯爵家の令嬢の方に隙はないか?……っていう具合に。
そんな敵対派閥からも厳しい目で見られ、味方からも信頼に足る人間か値踏みもされる毎日。
だからもう、慣れている。
……むしろこっちの方が日常であり、私にとっての……戦場だ。
「……自国の貴族、その誕生日に来ただけだが?
何か、文句があるのか?
「いえいえ、文句などとても!
ですがストレイ家はバタイユ……ひいてはシュタイン派閥。
あまり深入りされますと、こちらも対応を考えねばなりませんゆえ」
そう言いながら、私は貼り付けた様な笑みを浮かべる。
こちらに興味があるならば直接来い、ビビってんのか?という挑発を混ぜるのも忘れずに。
フィエルメに対して、それは案外効いたのだろう、目元をピクピクと震わせている。
彼女は王女なのだ、流石にここまでコケにされた経験はないだろう。
もしあるならば、粗暴な者が多い戦場ぐらい。
ただその場であれば、自身の持つ力で鉄槌を下す事も許されるし、実際そうしてきたと思う。
だがここは、あくまでパーティーの場。
幾ら腹を立てたとしても、拳を振るうのはあまりに外聞が悪い。
それも敵対派閥のトップである、バタイユ家相手ならば尚更。
もしやってしまったならば、王位継承戦は貰ったようなもの。
「……ああ、それぐらいは分かっている」
だからこそ、彼女は全てを飲み込んで、静かに頷いたのだ。
フィエルメは、王女として数々の特権を持っている。
だがそれに付随する様に、一挙手一投足を見られ続ける立場でもあるのだ。
将来の国を背負うかもしれない人間、きっと私とは比べ物にならないほどの重圧。
それは彼女の体へ鎖をかけ、自由な行動を許さない。
それだけが、フィエルメの唯一と言ってもいい弱点であった。
……まあ、戦場だったら全く関係ないモノなんだけども。
そうして互いに見つめ合う沈黙が続く。
あっちが気まずくなって帰る分には嬉しいので、こちらは喋らない。
だがあちらが喋ろうと思っても、とっかかりがないため難しい。
……こうなると、少し周りの視線も気になってくるわね。
談笑しているならまだしも、無言で見つめ合っているのだ。
これはどうしても、周囲の興味を惹いてしまう。
そんな沈黙を破ったのは……
「失礼しますっっ!!」
勢いよくパーティー会場へ入ってきた、鎧姿の男だった。
「なんだ、あの男は?格好からして。王都の衛兵か?」
「なんと無礼な……」
散々な言葉が、この場にそぐわない格好をした男へかけられる。
だがそれらの批判を気にも止めず……こちらへと向かってくるのだ。
まさか……逮捕!?
そう内心戦々恐々としていたが、彼はフィエルメの前へと辿り着くとその場へ跪いた。
……どうやら関係なかったみたいで一安心だ。
静かに、心の中で胸を撫で下ろす。
「あまり、パーティー会場へ入ってくるのは良いとは言えないな。
何かあったのか?」
「はっ、申し訳ございません。
ですが最重要事項の1つに指定された案件でして……」
「ほう……?」
男の言葉を聞いた瞬間に、雰囲気の変わるフィエルメ。
そう……この状態こそ、彼女が圧倒的な支持率を持つ根源と言っても良い。
王位継承戦の3人の中で一番王に相応しい威厳と戦局を変えうる力、それが無意識のうちにか漏れ出しているのだから。
どれだけ鈍い者でも、相対すれば否が応にも感じ取れるだろう。
そして気になる、最重要事項とやらに指定された案件。
決して小さな声ではないから、きっと聞かれても問題はない……という事だろうか。
私も静かに、その言葉を待っていたのだけど、
「ライセル伯爵の敷地内にてっ、サマヨエルが発見されたとの事!
現在衛兵によって追跡中ですが、お力を借りたくっ!」




