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『完結』婚約破棄令嬢 家柄……今は× 資金……今は× スパイ適正……◎ 〜家を追い出された令嬢が敵国のスパイと手を組み、破壊工作で祖国を滅ぼすまで〜  作者: お汁粉パンチ
バタイユ家の侵略編

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36/50

戦場に舞い戻った日



 雲一つない、快晴の青空。

 

 時間はまだ昼前で、道には仕事だろうか行き交う人の数も多い。

 例えサマヨエルに熱狂していたとしても、仕事をしなければ生きていけないのだから。

 そんな普段の風景と何一つ変わらない大通り。

 その道を、1人の女性がスタスタと歩いていた。


 作業服の多いその道で目立つ、灰色のスーツ姿にワインレッドのネクタイという出で立ち。

 下はスカートではあるものの、女性がその格好をしているのはこの世界では中々珍しく、すれ違った人間達の注目を集める。

 

 だがそれだけでは終わらない。

 サラサラと、風を受けて靡く長い銀髪。

 神に寵愛されたかの様に美しいその貌。

 見てしまえば、その後の予定も忘れて足を止めてしまう程だった。


 だが誰も手を伸ばそうとも、話しかけようとすら思わない。

 きっと自分の手では届かないと、心が先に諦めてしまっているから。



 

 こんな……景色だったかしら?


 バタイユ家から追い出された、あの時も歩いただろう道。

 あの時はこんなに心の余裕がなかったから、覚えていないのだろうか?

 

 いや……そもそも、こんなに明るい場所を歩いてなかったっけ。

 誰にも見られたくないから、太陽の光が差し込まない様な暗がりを歩いていたし。


 でも今は、まるで舞台の照明を一身に受けている気分。

 太陽が私を照らすために昇っているとさえ思えてしまうぐらい!

 ……もちろん、冗談だけど。


 そんな私が向かう先、そこは生まれた時から寝食や勉学に励んだあの場所。

 そう、王都のバタイユ家、その屋敷であった。



「改めて見ると、デカいわね……」


 道と敷地とを区切る石が積まれた高い塀。

 それはかなり遠くまで続いていて、門まで歩くだけで少し疲れそうなぐらい。


 生まれた時から、他の貴族の屋敷と比べても大きいとは思っていた。

 でもキースの家に居候させてもらってよく分かった、あの屋敷は……広過ぎる。

 王都の中でも一、二を争う大きさのパーティー会場を始めとする、施設達。

 屋敷は……裕福なはずのカルメン領都の館よりも、数倍広い。

 しかも収めている港湾都市サランであれば、さらに大きいのだから。


 もう規模が分からなさすぎて、目眩がしてしまいそう……。

 そう思うと、やっぱりウチは裕福だったんだなと、改めて実感する。

 

 

 そんな事を思いながらも、思考は切り替えていく。

 ここからは、敵地に乗り込むと思って行かなければならないのだから。

 たとえ長年住んでいて、血縁上は家族がいる場所だとしても。

 

 そうして足を止めたのは、バタイユ家の門前。

 もちろん貴族の屋敷には、見張りや中との繋ぎ役となる門番がいるのだ、それも2人。

 いつでも戦える様に甲冑を身につけており、正面突破は無理だろう。

 そんな事は流石にしないけどね。


 でも……ある意味、正面突破ではある。


 彼らは、急に足を止めたこちらを不審がる目線を送ってくる。

 それもそうだ、バタイユ家に用がある者が徒歩で来るわけが無いのだし。

 基本的には小間使いが予定を事前に確認した後、馬車で訪れるのが普通である。

 もちろん事前に確認をとっていない、飛び込み状態だ。


 そんな私の顔をジロリと見る門番の2人。

 だが彼らは、すぐにこちらの正体に気づいたのだろう。

 顎が外れたんじゃないの?と言いたくなるぐらい口が大きく開かれ、


「ま……まさか、ハーティア……お嬢様?」


「ええ、そうよ。久しぶりねラグナ、それにスインも」


「……お久しぶりです、ハーティア様。

本日は、バタイユ家へ何か御用でしょうか?」


「相変わらず堅いのね、スインは。

なんとなくはもう分かっているのでしょう?

……バタイユ侯爵にお目通りを願えるかしら?」


 そう堅物の彼らに問いかける。

 だがそれを聞いた瞬間2人は顔を顰めると、


「はぁ……ご存知かと思いますが、事前にお約束をなされておりませんのでご案内出来ません。

お早めにお引き取りください」


 とスインは強く否定の意を示す。

 

 それもそうだ。

 決まりを破った場合、まず罰せられるのは彼らなのだから。

 こちらが強引に押し入ることも出来ないのだしね。


 とここまでは、もちろん想定済みだ。

 だから……交渉材料(脅し)もしっかり持ってきている。


「2人とも、サマヨエルって知ってるかしら?」


「……ええ」


「……一応は」


 出した話題、どうやら知ってくれているみたいだ。

 知らなかったら、少し困った事になっていた。

 そう私が持ってきたのは、


「2人とも……夜中、門前で酒盛りしているでしょう?」


「……ぇっ、いや……そんな事」


 そんな彼らの秘密の楽しみ。


「あら、屋敷に住んでた頃から知ってたわよ?」


「それはっ、昔の話で……」


「いいえ?一昨日もしているのを確認しましたから。

……ふふっ、それに今自供したでしょう?」


「あっ……」


「……ラグナ」


「すまん」


 明らかに動揺してくれた2人、というかラグナ。

 スインはあまり心は揺さぶられていないみたいだ。

 やっぱり、これだけじゃ足りないか。


「それで、サマヨエルは……どう関係するので?」


「あら、それは簡単よ。

この事をサマヨエルに渡そうかと思って……ね?

バタイユ家の門番が仕事中に酒盛り、きっと前菜ぐらいにはなるでしょうね」



「普段なら、そこまで大事にはならないはず。

だけど今暴露してしまったら……一体どうなってしまうのかしら?」


 話しながら、2人の顔が真っ青になっていくのが分かる。

 

 暴露を受けた一般人がどうなったか……風の噂できっと彼らにも届いているだろう。

 街同士移動を自由に出来ない平民が、どうやって生きていくのだろうか。


 このバタイユ家は給金がたっぷり出るが、規則の中に就業中の飲酒禁止がある。

 だから暴露されてしまったら、簡単に仕事から切られてしまうだろう。

 お父様は代えの効く者を守るほど慈悲深い人間ではないのだし。

 

「大丈夫よ?別に聞いてくれるだけで、私は納得するし。

もし断られても言わないから……ね?」


「分かり……ました」


「なら、お願いね」


 そうして小走りで屋敷へと消えていくスイン。 

 ふぅ……これで一旦、戦場の入り口ぐらいには立てただろうか?

 

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