別れの時間
ハーヴィル・ド・ラ・バタイユ
現在15歳。
現在は学園に通い、将来的にはバタイユ侯爵家を継ぐ者である。
そんな彼は、他人から……神童と呼ばれていた。
他人の二歩、三歩先を行く学習能力。
他家は自身の子へ、あの子を見習いなさいと言い聞かせるほどの礼儀作法。
そのため彼は、外からも期待を寄せられている存在であった。
そんな彼がこんな事を?
きっとこの情報を耳にした貴族も、到底信じられないだろう。
勉強は問題ない……というのが、表向きの彼なのだから。
そう、これはあくまで表向き。
実際の彼は少し違ったのだ。
確かに礼儀作法は、侯爵家が厳しく仕込んだのだから相応しいものを身につけているだろう。
だが勉強は違った。
十で神童、十五で才子、二十過ぎればただの人
そんなことわざが日本にはあったけれど、正にそんな感じだったらしい。
これは才能にあぐらをかき努力を怠ってはいけない、という意味も込められているが、このハーヴィルは出来なかった側だったそうだ。
ハーティアも、昔は弟が天才だと思っていたが、徐々にその勉強に充てる時間が減っていくのを感じたらしい。
そして次期当主の彼に強く物申せる者もおらず、宰相であり父のザーヴィルもそんな話を面と向かって出来るほどに暇では無かった。
丸投げをするために高い金額を払って家庭教師を雇っていたのだから、当然の行動ではあるのかもしれないが。
そうして気づいた時には、そのハーヴィルは欲に溺れて努力を怠る人間になっていたのだ。
それは現宰相としては、他から付け入る隙を晒す事となる。
そのために、今回の様なテストの書き換えという行動に至ったのだろう。
あの動画に映っていた執事、その人間は知っている者がいれば一発で顔が割れる。
タイメイ、ザーヴィルの右腕として働く腹心の1人であった。
それがこの動画の信憑性を高めてくれるだろう。
……逆にこの人間を出しとけば本物っぽいだろ?と安直にやったフェイクニュースだ!と主張されるだろうけども。
もしかしたら、こんな事をするなんてリスクが高すぎるのでは!?と思う人間も多いかもしれない。
だが王立学園は陸の孤島。
もし問題になっても、宰相の地位についていれば簡単に揉み消せてしまうほどの事件だ、本来ならば。
それに一生遊んで暮らせるほどの金額の賄賂。
きっと罪を被る契約でもしていたのだろう。
彼……ハーヴィルがプレッシャーを受けていて可哀想だと思ったから、とか教師に言い訳させて。
だが、その隠した真実は暴かれた。
こちらには、かなりの身内であるハーティアも味方しているのだから。
ちなみに密室に潜入したのは、もちろん幻影を使っていたから。
他の光景を自身に映す、まるで光学迷彩の様にして潜伏していたのだ!
ただ武人なんかの気配に敏感な人間だとバレていたかもしれないけども。
とはいえ、あの場にそんな人間はおらず。
無事、これだけの特大スクープをゲットしたのだった。
『皆の者、どうだっただろうか?』
『これが現在、この国の宰相の座につく家の者の正体であるッッ!!』
「〜っっ、許せねぇ!!!」
「私達から取ったお金で、そんな事してたのッッ!?」
ドレスや美食に使うのであれば、きっと彼らも納得しただろう。
生まれた時から、貴族はそういう存在だと教育されてきたから。
だが今回は、外側を取り繕うためだけの賄賂。
別にそれがなくても死ぬわけじゃないのだから。
貴族や商人の間では、事の大小はあれど賄賂はおかしくはない。
ただこうして……サマヨエルがあげたものは今まで、全て悪かった。
だから叩く、そんな単純な思考プロセスに熱狂する彼らはなっていたのだ。
これはもう、他人から説得されても容易には納得できないだろう。
『では、皆には広げる役目を担ってもらいたいっ!!』
「もちろんだ!」
「王都以外にも、広めるわよっっ!!」
『ありがとう!暴露TVでは、今後もタレコミを待っている。
もちろん、秘密は絶対に守らせていただくので、安心して欲しい』
『では!!』
「「「うぉおおおおお!!!」」」
「ありがと〜〜!!!」
「サマヨエルっ!!サマヨエル!!!」
そして映像がなくなった今も、熱気が冷め止まない広場。
そこから終わったのを確認して、早足で抜けていく集団。
それは貴族が子飼いにしている者達だった。
彼らは、その情報を手土産に主人の屋敷へと戻っていくのだ。
「ほぉ、ついに尻尾を見せたか。ザーヴィル」
ワインをゆらゆらとさせながら、報告を受ける男。
彼もかつては宰相の地位を狙っていたが、政争に負け諦めざるを得なかったのだ。
そしてずっと次の機会を窺っていたのだが、
「こんな形で転がり込んでくるとは……ふっ。
そのサマヨエルとやらには感謝しないとな」
正に青天の霹靂。
そうして彼は部下に指示し、ザーヴィルをあの座から引き摺り落とすための計画を進めさせる。
その口角はニヤリと吊り上げられていた。
きっと脳内では、その後の事でも考えている事だろう。
そんな光景は、貴族の屋敷の各所で見受けられていた。
ザーヴィルは優秀ではあるが、それゆえに敵も多いのだから。
たった1つのスキャンダルをトリガーにして、貴族たちは蠢き始めたのだった。
「じゃあ、この辺で……かな?
「ええ………お別れの時間ね」
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