第一歩
サマヨエルの暴露TV
ただの愉快犯だと思われていた彼だが、貴族へ手をかけてからは衛兵達の捜索にも熱が入っていた。
正義感か、それとも……上司である貴族が、自身まで魔の手が及ぶのを怖がったのか。
理由はともかくとして、捜索人員の規模は数倍にまで膨れ上がっていた。
たった1人の犯人に対して割く人員としては、異例の人数である。
そして家宅捜索も辞さない強行姿勢。
片っ端から家を、店を、空き家をくまなく調べていくのだ。
もちろんその中には、犯人であるサマヨエル……もといキースの家の中も含まれている。
だが……見つかる事はない。
彼は幻影のプロフェッショナル、彼が幻影の使い手というのを事前に知らなければ見つけるのは無理だろう。
全く見つかる事のないサマヨエル。
結果的にそれは暴露TVの名声を高め、興味のなかった民衆まで熱狂へ引き摺り込む、逆効果さえも生んでしまう。
大通りを封鎖する?
それをやろうにも、もう参加者が多すぎた。
もし仮にやったとしても、幻影が別の場所へ映されるだけで意味はなさないだろうが。
『さあ、今日も暴露TVのお時間がやってまいりました!』
「「「「うぉおおおおおお!!」」」」
「待ってましたっ!!」
だから、止める事も出来ずに今回も見せられることになる。
そして衛兵の彼らの心中には、一つの嫌な予感が浮かんでいるだろう。
……どこかの貴族家が匿っているのでは?
これだけ探しても見つからないのだ。
捜索していないのは王都の中ではもう貴族の屋敷と、王城ぐらいである。
ただこの2箇所へ衛兵が立ち入る権限は、持ち合わせていない。
だからもう、捜索は形だけのものとなってしまった。
『今回はタレコミを頂きました、ありがとうございます!』
『しかも、か〜な〜りの大物です!」
「「「「うぉおおおおお!!!」」」」
「早くっ、教えてくれぇええ!!!」
こちらの声は届いてはいない。
なのに一挙手一投足だけで、あちらが盛り上がっているのは感じられた。
……家にいても、遠くから少し聞こえてくるぐらいだし。
『では、ご覧いただきましょう。
現宰相を務める……バタイユ家の真実を』
その言葉と共に指をパチンと鳴らすと、幻影に動画が映し出された。
場所は、どこかの応接室という事しかまだ分からないはず。
ただ廊下をみれば、制服姿で歩く男女の姿が。
平民でもあの格好を見ればここがどこかぐらいは分かってしまうだろう。
学園都市カルヴェングル
ルイス王国内全貴族の男女が15歳から3年間を過ごす、王立学園を擁する町だった。
その学園内の応接室で話し合いは行われていた。
1人は教員の格好をした男、そしてもう1人は執事の格好をした男。
閉め切られ、密室となっているはずのこの部屋。
なのにも関わらずその映像は撮られている、きっとこれを見ている貴族関係者は戦々恐々としているだろう。
もうこれでは、逃げ場がないと暗に言っている様なものなのだから。
そうして字幕のついた動画が、大通りへと流れていく。
『では、今回もよろしくお願いします』
執事は、懐から取り出した袋をそのまま教師の前へと置く。
その状態では中身を確認する事は出来ない。
そしてそれを慣れた手つきで教師は開封し、中身を確認する。
袋の中には黒いケースが入っていた。
指がかけられ、開かれたそこには……光り輝くダイヤモンドが数個鎮座していたのだ。
もちろん、この世界でも非常に高く取引されている代物。
親指の爪サイズなのだから、きっと平民が一生かけても稼げない様な額だろう。
「……それは、もちろん」
そのダイヤ達を満足げに眺めた教師は、いそいそとその懐へと仕舞い込み満面の笑顔を見せる。
そうしてこの日は、解散したのだった。
場面は切り替わり、日が暮れてランプの明かりが灯るだけの暗い職員室……そこに1人の人影が。
それは先日、大粒のダイヤを懐に入れていた男であった。
彼はキョロキョロと、落ち着きない様子で辺りを確認する。
そして辿り着いたのは自身の机であり、そこには積まれた紙の束があった。
目を通せば容易に何が書いてあるか分かってしまうだろう。
そう、それは……テストの答案用紙。
ペラペラと捲っていき、抜き出したのは一枚の紙。
まだ丸つけもされていないそこに何をするかと思えば……回答を書き換えていたのだ!
貴族の集まる、この王立学園。
どれだけ特権階級として生きていた彼らでも、こんな所業は到底許されない行為。
例え王族でも厳罰が処される重罪である。
そしてそんな抜き取られた答案用紙の名前欄。
そこには、
ハーヴィル・ド・ラ・バタイユ
と書かれている。
その名は、バタイユ家の次期当主にして……ハーティアの実の弟の名前であった。




