暴露TVの誕生
「おっと……」
肩がぶつかり、ついオレの口からそんな言葉が漏れ出てしまう。
だが、あちらはそんな事は気にしていない様子で、人混みへ消えていった。
だってこの時間の通りは、人間で溢れかえっているのだから。
王都にある4大通り、東のサントルイス、南のシックルイス、西のナイルイス、そして北のエルブルイス。
この四箇所で開かれる朝市、それも休養日である日曜にオレはここに居た。
何故って?暇だからだよ。
娯楽も何も面白い事はねぇ。
しかも物価は上がって、贅沢はしてねぇのに何故か金欠。
これじゃあ、気分が悪くなる一方だぜ。
はぁ、本当にカルメンの領主サマは何やってんだか……。
もちろんそれを口に出す事はない、そこまでオレもバカじゃねぇし。
もししたら、衛兵に追いかけ回された挙句鞭打ちの刑になる事ぐらい当たり前に理解している。
そんなつまらなくて、不満が溜まる一方の毎日。
暇つぶしと節約も兼ねて、今日はこんな大勢が集まる朝市に来ていたのだ。
ただ……考える事は皆同じって感じで。
混雑を超えてまともにモノが買えず、帰ろうにも一苦労間違いなしな状況。
「はぁ……こんな事なら、家で寝てた方がマシだったぜ」
そうしてため息を一つ溢しながら、空を見上げた。
このまま人間をずっと見ていると、酔って吐いちまいそうだしな。
ただそこにあったのは、オレの想像していた青空じゃなかった。
「何だ、ありゃ……?」
予想外の光景に、つい動かし続けていた足を止めてしまう。
ドンッ
「おい、急に止まるなよ!……あっ?
だから後ろの人間からぶつかられたみたいだが、それも今は後回しだ。
後ろの男も……空の光景に気づいたみたいだから。
「何だ、アレ?」
「絵か?いや、動いている……か?」
そのざわめきは少しずつ市場中に広がっていき、買い物の喧騒から困惑した様子へと変わっていく。
空に映るのは、絵……というか動く絵?
椅子に座り手を組んだ、銀色の目元だけを隠す仮面に黒のタキシード姿の男。
これから仮面を着けて舞踏会に行く、そんな出立ちをした人間だ。
そして何よりも驚くのは、あの巨大な動く絵。
魔法か何か知らねぇが、桁違いの力なのはオレでも分かる。
そんなオレ達の様子を見ているのか、絵が少し変わった。
『暴露TVをご覧の皆さま、おはようございます。
私の名前はサマヨエル、正義をなすためにこうして姿を現しました』
あの絵の中?で、男は表示された文字と共にこちらへ向かって手を振っている。
どうやら、音はないみたいだ。
そして何よりも目を惹かれるのは、その内容。
……頭が、おかしいんじゃねぇか?
あんな顔を隠した風貌がまず怪しすぎるし、そもそもこの街には治安を守る衛兵がいる。
旅の道化師でも、もう少しマシな言葉を使うだろうさ。
どういう角度から見ても信頼ならねぇ……
『とは言っても、皆さんからまだ信頼を得れていないのは事実でしょう』
だがあっちもそれは、考え済みらしい。
……なんか、手のひらの上で転がされてるみたいで癪だ。
そんな何とも言えない気持ちに襲われながらも、首が多少痛いのは気にせずに上を向き続けた。
『だから率直に、私が見た光景を皆にも見てもらおうと思います。
これから出るのは動く絵……動画です』
そうして始まった動画……とやら。
それは日が落ちたどこかの街だろうか。
……いや、ここは王都か。
動画内で見回りをしている、黄色のスカーフを巻いた衛兵は王都の西……ナイルイス方面を担当しているはずだから。
そして動画は、そんな衛兵2人組が松明を片手に見回りをしている場面。
どうやら2人は、その最中に道端で蹲る酔っ払いを見つけた様で、そちらへ近づいていく。
その内の1人が軽くビンタして、起こそうとするがそれは叶わない。
ご苦労なこって、そんなことを内心思っていると……
「なっっ!?」
動画は衝撃的なモノを捉える。
衛兵は、酔っ払いの男の懐から財布を取り出し銀貨を抜き取っていくのだ。
そしてそれをポケットしまったところで本格的に起こし、酔っ払いのフラフラとした帰宅を見送った。
そんな足で彼らは……酒場へと向かったのだ。
まだ衛兵の証である鎧を着たままなのにも関わらず……だ。
勤務内というのも気にせず、並々に注がれたエールを気持ちよさそうに喉へと流し込んでいく。
そんな飲食の支払いを、ポケットから取り出した銀貨で済ませたのだ。
財布からでもない、先ほどしまった場所から……出てきた。
そうしてプツンと、動画は終了する。
『いかがだったでしょうか?』
……そう問われても、何も言えねぇ。
でも思ったのは2つ、1つ目は衛兵は確かに今までオレ達を守ってきてくれていたが少し……幻滅した。
そしてもう1つは……動画のコイツは、案外悪いやつじゃねぇのかもというモノ。
『私がこの正義が執行されることを望んでおります』
その言葉を最後に、動画は終わった。
朝の市場に、ざわめきを残して。
数日後、
「おい、聞いたか?あの動画の衛兵、捕まったってさ」
「ああ、知ってる知ってる。
まさか本当の出来事だったとはなぁ」
あの突然現れた動画、そこで喋っていた男の話題は、庶民の間で持ちきりだった。
緩やかに鎮火していっていたものの、捕まったという事実でまるで薪をくべたかの様に燃え上がったのだ。
そうして酒場ではあの男の正体を、テーブルの垣根など超えて今は考察していた。
「酔っ払いの親族とかか?」
「いや、そもそもアレって幻影なんだろ?
光属性持ちが教会に所属して無いわけないし、国へ対してのアピールなんじゃないか?」
「まさか、敵国の工作だったりしてな!」
全く根拠のない噂も、尾ひれを付けて広がっていくのだ。
だが何となく、全員が共有していたのは……アレだけでは終わらないという事。
あの圧倒的な力を持っている人間が、たかが衛兵2人捕まえさせて終わり、それはないと思っていた。
だから、次の休養日である日曜日……朝市には人が溢れかえっている。
あれ以上混雑しないと思っていたが、それを軽く超えてきたのには脱帽だ。
とはいっても、
「オレも、期待して来たんだがな」
自身もその一員なのは理解している。
そうして全員、呆けたように空をただ見上げるのだ。
今は日が顔を出して、雲一つない青空がそこに広がっている。
そしてそこに、突然絵が出て来たのだ。
「来たぞっっ、サマヨエルだっ!!」
その大きな声は、無視していた全員の足を止めるだけの力があった。
そしてもれなく、空を見上げる一員となる。
『皆の者、あの衛兵に対して正義は執行された』
「おお!!」
「アレは本当だったんだな!?」
「何で分かってたの!?」
こちらからは、動画内の男に対して言葉が飛んでいく。
そしてそれは聞こえているのだろうか、彼は恭しく貴族に仕える執事の様に深くお辞儀をする。
同時に、
『ありがとう、これを見ている皆にも感謝しています。
この事実を皆が、広めてくれたからこそ正義は執行されたのだから!!』
「「「「おおおおおおお!!!!」」」」
その老若男女問わない、揃った歓声。
それは空気をビリビリと震わし、地響きを感じてしまうほどだ。
オレの中でも、内心燃え上がっているのを感じる。
退屈な日常から、抜け出せる……そんな予感がしたから。
そうか……あれは、オレ達の力でも……あったのか。
『これからも、協力してくれるだろうか?』
広場に、再びの地響きが鳴る。




