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婚約破棄令嬢 家柄……今は× 資金……今は× スパイ適正……◎  作者: お汁粉パンチ


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3/9

婚約破棄 (前)


「隠れないで良いから、喋らないで座ってて。

後はこっちで何とかするから」


 それを聞いた彼女がコクコクと何度も頷くのを確認した俺は、ドアへと駆け出しその鍵を開けた。

 扉の向こうにいた人達の姿を確認したところで、彼女が敵に回した存在がなんとなく察せられてしまう。


「遅れてしまい、申し訳ありません。

古い友人との再会で、話が盛り上がってしまい……。


「いや良い。現在、王都全域にて指名手配犯の捜索が行われている。

これは、第一王子シュタイン様直々の命令のため強制である。

一応聞くが……良いな?」


 そんな、まるでこちらが罪人の様な問いかけ。

 心当たりは……すごいあるから、内心では焦りまくり。

 脇の辺りから浮き出た嫌な汗が、シャツの下に隠れた体の表面を伝う。


 でもそんな感情をおくびにも出さず、


「どうぞ、どうぞ。

ただ、あまり荒らさないで頂けると助かります」


「それは、もちろん。では、失礼する」

 

 彼らを招き入れた。

 許可を出した瞬間、ドタドタと入ってくるのは数人の鎧を身につけた者達。

 そう、あの鎧は王都での治安を維持する部隊、ルイス王国衛兵隊である。

 衛兵を証拠のない民家に突撃させれるなんて、相手はもう相当な高位貴族に違いない。

 いや、シュタイン王子の命って言ってたっけ?

 ……どちらにせよ最悪だよ、本当に。


 そして会話を交わしたのは、多分この小隊の隊長だろうか?

 名前は別に知らないけども。

 そんな彼は、他の部屋へ行く衛兵とは違い真っ先に彼女の元へと向かう。


 口をアワアワとさせる彼女、こちらへチラチラと救いを求める様な視線を送ってくる。

 …あんまり、目立つ様な真似はしないで欲しい……バレるから。

 そんな彼女の顔や服装をジッと見ていた隊長の彼。

 きっと彼女にとっては生きた心地がしない時間が過ぎ……


「問題なし……か。

お前達、誰か隠れていたかっ?」


「いえ、誰も確認されておりませんっ」


「そうか、ご苦労」


 後ろで目をぱちぱちとさせる彼女を置いて、衛兵達は室内で言葉を交わす。

 そりゃそうだ、扉の向こうには誰も匿っていないし。

 そうして彼らはこちらへ振り向き、


「捜査への協力感謝する。

夜分遅くに失礼した」


「いえいえ、ご協力できた様で何よりです」


 家から去っていったのだ。

 ……ふぅ、何とか上手くいった。

 流石に声までは誤魔化せないからね。


「一体、どういう事……なの?」


「いやいや、それはこっちが聞きたいんだけどね。

王太子に狙われるなんて、一体何をしでかしたのさ」


 彼女に問いを投げかけられるけども、流石に先にこちらが聞きたい。

 一応彼女を庇った訳だし。

 ………とはいえ、あんまり物騒な案件だったら突き出すのも考えなければならないけど。


 そんなこちらの目線に気づいたのだろう。

 口をつぐんでいた彼女も、ポツポツと話し始めたのだ。




 煌びやかなシャンデリアが支配するこの空間。

 その規模を例えるなら、キースの前世である地球の市民体育館ほどだろうか。

 それほどの広い空間の至る所へ、贅を凝らした絵や壺を始めとする芸術品が飾られていた。

 この規模のパーティーは、どれだけ金を持っている貴族だとしても年に1回が限度だ。

 きっと、それが行われるのは現王の誕生パーティーくらいだろうが。


 そんなモノが行われている今日の主役は、多数存在した。

 今日は王立学園の卒業記念パーティー。

 これから職務についたり、領地へ戻って将来の更なる勉強をしたり、そんな将来の門出を祝う日だ。

 

 それだけではなく、重要なモノがもう1つだけある。

 今までは婚約止まりだったが、もう成人年齢の18歳。

 婚姻の儀、そして……その先の行為までもが解禁される日だ。

 

 この日に婚約から婚姻へ、ステップアップする貴族も少なくない。

 それに今回は、第一王子であるシュタイン・ド・ルイスと、現宰相の娘であるハーティア・ド・ラ・バタイユが参加する。

 婚約関係の2人だが、その先へと進むのが今日と言われていた。

 

 もしそれが本当ならば、王位継承戦はほぼシュタイン王子が勝つことになる。

 それが理由なのか、いつもより豪華な飾り付けがされていた。

 

 そんな今回の話題の中心である2人は、会場内で別々の輪を作っていた。

 2人とも周りに集まる取り巻き達と、酒を酌み交わしながら談笑している。

 この空間を見て、後の展開を予想できた者はいないだろう。

 

 だが後から思えば、この時にはもう彼らの心の距離が可視化されていた。



「みんな!楽しんでいるところ申し訳ないが、私から重要な発表がある。

聞いて貰えないだろうか?」


 パーティーも終わりに差し掛かろうとする時間。

 そんな時に会場へ響き渡ったのは、第一王子シュタインの呼びかけ。

 なんだなんだと彼ら、彼女らは視線を彼へと向け、


「ありがとう! では……ハーティア、来てくれ」


「〜ッ、はい」


 王子が紡いだ次の言葉で、会場中が理解した。

 それは、婚約者であるハーティアも同じく。

 普段は高位貴族として隙を見せない彼女も、この時は少しだけ声を上擦らせてしまった。

 その失態をかき消す様に、少し早足で彼の隣へ行ってしまったのはご愛嬌。


 皆は心の中で、祝いの言葉を準備していた。

 気が早い者なら、99.9%王妃が確定したハーティアへどうやって取り入るか考え始めていただろう。

 だから、


「私、シュタイン・ド・ルイスは、ハーティア・ド・ラ・バタイユとの婚約破棄を宣言するッッッ!!」


「……えっ?」


 誰しもが、王子の発した言葉を飲み込めなかった。

 つい疑問の声を漏らしてしまう者も少なくない……ハーティアの様に。

 彼女は、その非現実的な言葉に瞳を揺らす。

 そしてプルプル震える真っ赤な唇を開き、


「シ、シュタイン様?じ、冗談ですわよ……ね?」


「冗談などではないさ、ハーティア。

私は……真実の愛に目覚めたのだ!」


「何よ、それ……」


「来てくれ、セーラさんッ!!」


 消え入りそうなハーティアの声は、直後の王子による様に呼びかけで上書きされる。

 

「セーラ?」


「高位、ではないよな?だって……」


「マイヤー男爵領の次女、それ以外にいた?」


 正気に戻ったのか、ザワザワとし始めた参加者達。

 もちろん噂のセーラは、王子が読んだ事から参加者なのは予想できる。

 そしてほぼ貴族の子弟だけのため、数多くない王立学園。

 別学年ならともかく、同級生ならば彼らも心当たりはあった。


 だけども彼女では……明らかに、王子とは釣り合わない。

 

 そんな思いが野次馬の心を占める。

 そしてその人の波を割って出てきたのは、彼らの思い描いた通りの女性だった。


「お会いしたかったです、シュタイン様ッ!!……あっ」


「おっと……大丈夫かい?


 急に駆け出したセーラという女性。

 だがヒールではそれも難しく、体勢を崩してしまう。

 それはちょうど王子以外助けれない距離。

 このままだと怪我してしまいそうな彼女だったが、咄嗟に前に出た彼の胸元へ優しく受け止められた。


 むにゅり……


 そんな擬音が聞こえてしまいそうな触れ合い。

 王子の背中までギュッと回された彼女の手。

 

「ごめんなさい、シュタインさまぁ……」


 ズリズリと王子の体へ、惜しげもなくドレス越しにその大きな胸を擦り付ける彼女。

 その甘ったるい声で謝罪とも言えない何かを言いながら、潤んだ上目遣いで彼を見つめる。

 明らかに演じている様にしか思えないコンボ、


「いっいや、私は気にしていない。

それより、傷はないか?」


「はいぃ、シュタインさまのおかげですぅぅ」


 それはクリーンヒットしていたらしい。

 明らかに動揺し、その視線は大きな谷間に吸い込まれ…鼻の下が若干伸びてしまっている。

 なんとも言えないその顔に、参加者の脳内にあった王子の学園時代の頼もしいリーダー像は、ガラガラと音を立てて崩れていく。


 だが露骨過ぎたのだろう、冷たい表情を浮かべる人が会場に1人。

 ハーティアはズカズカと前に行き、


「おっと」


「あっ……」


 その間を無理やり引き裂いた。

 この瞬間、きっと彼女は会場の視線を独り占めしているだろう。

 ……悪い意味で、だけども。


「……セーラが、シュタイン様のいう()()()()、その相手でしょうか」


 震えながら出てくる言葉。

 それが怒りからなのか、悲しみからかは、彼女のみぞ知る。


「そうだ、ハーティア。

すまないが、別れてくれ」


「ごめんなさい、ハーティアさんっ」


「そんなことっ、急に言われてもッッ……」

 

 今にも感情が決壊しそうな彼女。

 だけども頭を立場上下げることのできない王子と、隣で桃色の髪がはらりと落ちるほど頭を下げているセーラを見てしまっては、これ以上怒れない。

 彼女にも、高位貴族としての立場があった。

 だから長年の教育で培った、理性による仮面がその感情を抑圧する。

 強く握りしめられた両手の拳だけは、隠し通すことは出来なかったけども。


「側室ではっ、ダメなんですか……」


「ああ、私はセーラを愛している。

どれだけ茨の道だとしても、彼女だけを妻として迎え入れる」


「〜〜ッッッ」


 頑なな返答を聞いて、更に強く握りしめられた拳。

 その白く柔らかい手からは、いつ血が流れ始めてもおかしくないだろう。

 そして頭を上げていく彼女へ、視線を向ける。

 斜め後ろにシュタイン、垂れた桃色の前髪で他の参加者達は見えない。

 

 実質的にハーティアしか見えないその表情は、甘えていた時とは違う貴族の令嬢として仮面を被った姿。

 そして彼女は……片方の口角を上げ、赤い舌をチロリと見せた。

 

 その瞬間、ハーティアの頭に血が昇る。

 明らかにこちらをコケにしたその表情。

 今まで侯爵家として尊重されてばかりだった立場の彼女にとって、これほどの屈辱は初めてだった。


 だからつい貴族としての仮面を捨ててしまい……彼女を睨んでしまった


「ひぃっっ」


「ハーティア、なんだその目はッッッ!!

使用人、ヤツを捕えろッッッ!!」

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