秘めた策略
「そしてそこには、私がこっそりと入れた仕掛けがあってだね……通った人間の属性適性、それと強弱も分かるのだよ」
「……バレたら殺されるぞ、それ」
属性適性、それは生まれ持ってして与えられ、火水土風闇光の6つに分けられる。
闇と光は特に少ない……そもそも持たずに産まれる者も多いのだが。
そしてこの魔法の属性は人生を大きく変え、その強弱は……戦局を大きく変える。
だからこそそんな情報は、軍関係の高位貴族に王族ぐらいしか閲覧が許されない。
もしセキュリティ皆無なカミラが持っていると知られたら……ルイス王国が処罰を下すどころか、他国が彼女を狙うだろう。
そんな情報があれば、王城の出入り門に設置された魔力識別門の情報を通し、騎士団の戦力が割れるのだから。
そうしたならば、ルイスがどれだけの攻撃力を有しているか分かり、作戦も立てやすくなるだろう
だからこその忠告だった。
「忠告は素直に受け止めさせてもらおう。
それで、先月モリッジ男爵家から回収した物の中に面白い記録があってだね……」
そう言いながら彼女が取り出すのは、輝きを失った魔鉱石と謎の機械。
そんな機械の皿部分に魔鉱石を乗せると、鳴り響く歯車が噛み合う音。
作動した機械に取り付けられたペンが、本体に差し込まれた紙へと線を走らせていく。
そうして吐き出された紙は、まるで地球の心電図の上半分だけを印刷した様にも見える。
「大きく跳ねるほど、強力な使い手という解釈で良い」
「なるほど」
そんな紙を手にしながら、フィエルメはティーカップを手にする。
カーミラが目を止めた線の反応、その下には感知した属性は光というのが記載されていた。
とはいえ、そもそもフィエルメは見方が分からない。
メモリは振ってあっても、本来数値化まではされていないのだから。
今まではせいぜい、この人間はこの魔法が何回使える……そんなざっくりとした分け方だ。
「それで、他の光属性使いと比べてどうなんだ?」
そのため、彼女は相対的に力を測る事にした。
わざわざ呼ぶぐらいなのだから、それなりに力を持っているのだろう。
そう考えながらフィエルメは口へと紅茶を運び、
「今代の聖女セフィーナ、その1.5倍ぐらい?」
「ぶふッッッッ」
口に含んだはずのそれは、全て噴射された。
「げほっ、げほっ……」
「ちょっと、ちょっと。大丈夫かい?」
「あ…ああ、すまない。ちょっと衝撃的すぎてな……」
噴射された紅茶は、フィエルメの持っていた紙が大半を受け止めてくれたため、何とか大惨事までは至らず。
「カミラにもかかってしまったな」
「大丈夫、大丈夫。拭けば良いのだから」
机や服、顔などをカーミラはタオルで拭いていく。
フィエルメもタオルで拭かれるが彼女にしては珍しく、ショボンとした表情でされるがまま。
だが事が事、すぐにキリッとした表情へと戻る。
「本当にすまなかった。
……それで、セフィーナの1.5倍は本当なのか?」
「もちろん。こっちがセフィーナの記録だから、見比べてくれたまえ」
そしてもう一度印刷したモノと、カーミラが引き出しから取り出したモノがフィエルメへと差し出される。
先ほどまでであれば、教会に喧嘩を売る様な真似をするな、と一喝していただろうがそれも無い。
その光景が、今の彼女の警戒度を表していた。
「ちなみにその日はモリッジ男爵家でパーティー、そしてある1組の様子が、後から考えたら可笑しかったそうだよ。
それで後日本人に確認をとったら、欠席だった……ていうオチ」
「ほう。だが、識別門は幻影も引っかかるだろう?」
「ああ、勿論だとも。
だから正々堂々?変装して入っていった事になるね」
フィエルメも光属性が幻影を扱える事ぐらいは知っている。
だがそれをせずとも変装が成功した、その事実が引っ掛かっていた。
「被害は?」
「別にモノを取られたりもせず、堂々と犯人達は帰っていった様だね。
だからその日は誰も気づかず、パーティーはお開きに……という感じだったそうだ」
「そのパーティーは特別なモノか?」
「いや?男爵家の3女、その誕生パーティーだからね。
玉の輿の婚約についても、別に前から情報自体はあったし」
謎は深まるばかりで、静かにフィエルメも顎に手を当てる。
『回復』系統なら教会を通じて表舞台に出てくるだろう。
『幻影』系統であれば識別門でバレるため潜入してこないだろうし、『攻撃』系統ならば奪わず殺さずは不可解だ。
ソイツが何を目的としているのか、彼女は全く掴めない。
「……降参だ」
そうして、話を促すために彼女は両手を上げる。
それを見てカーミラはニヤリと笑い、
「まあ、これだけで分かったら私も椅子から転げ落ちてるさ」
「という事は、もう事件を起こしたのか?」
「カルメン領の反乱は、知っているだろう?」
ガタリと椅子が音を立て、フィエルメの目は大きく見開かれる。
「あそこまで大規模な事を!?」
「まだ状況証拠程度だがね。
男女2人組で行動していて、カルメン領主によれば『幻影』が戦場で使われたそうだ」
その言葉に、苦い顔を浮かべるフィエルメ。
嫌な形で物事が繋がっていく、こういう時は碌なことがないと彼女は経験則で知っていた。
そうして椅子へ座り直した彼女へ、ある物が差し出される。
「これは?」
「なんでも、他国で開発された情報伝達機器らしいよ」
それはキースが情報伝達のため、錆鎌へ渡した代物だった。
勿論とっくに幻影は解除されているため、証拠は残っていない。
だがそんな事をフィエルメは知らない。
まるで爆弾か何かを触っている様に繊細に扱っていく。
表面を白い指でなぞったり、持ち上げて裏面を覗き込んだり…。
その結果、
「ただの鉄の板にしか見えないが……」
「まあ、そうだね。
検査の結果でもう分かっているし」
「……そういうのは、もっと早く言え」
カーミラからかけられた言葉に、彼女はジト目を返しながら机へ鉄板を置く。
それを聞かされては、興味の先は鉄板ではなくどんな手品を使ったのか、そんな種を暴く方へと向けられる。
「それでここからは推論になるのだが……私は、幻影がここに貼り付けられていたのでは?と考えている」
「ほう……」
「幻影の画を、地図や文字にすればそれっぽく見せかけるのも可能だろう。
実際に教会の者にやってもらったら、出来たしね。
ただ本格的に幻影を勉強した人材はいないから、荒くて簡単な数字ぐらいしか出せなかったけどさ」
「それは興味深い結果だな」
フィエルメが興味を持ち考えているのは、別にその下手人を捕まえる方法ではなく、情報伝達の方法。
戦の際に明らかに敵軍との情報格差を作れるだろうし、これには回復魔法を捨ててでも光魔法使いへ覚えさせる価値があると考えていた。
「とはいえ、これ以上暴れられても困るな」
だが、彼女も放置は出来ない。
「まあ潜入はともかくとして、カルメン領の事件は見過ごせないねぇ。
他国のスパイか、それともルイス王国内部の者かな?」
そもそも戦に使えるといっても、後方でぽんぽん反乱が起こされたら、それどころではなくなる。
きっとそちらの対応にも軍が必要となり、前線が手薄になってしまうだろう。
そうして得をするのは……
「ルイス王国内であれば、まず回復魔法を選ばせて聖人輩出という箔をつけにいくだろうな。
だから幻影を選んだのは、他所からの入れ知恵か侵入の可能性が高いのでは、と私は思うが」
ルイス王国以外の他国だけだった。
「ちなみに私も同じ考えだよ、フィエルメ。
流石に贅沢すぎるからねぇ。
……それでだ、次はあちらさんの動機を考えるべきだろう」
その提案にフィエルメも異論はない様で、首肯を返す。
「どうやら反乱の最中、現カルメン男爵は幻影によって騙された結果……教会所属の者を殺してしまったらしい。
その結果カルメン家と教会の仲が急速に悪化したが、それで利するのは?」
「……一応言っておくが、私じゃないぞ」
「流石に疑ってないさ。
そもそもキミが飼い主だったら、前線に連れて行くだろう?
そうして堂々と功績をあげて玉座を目指せば良いんだから、わざわざ反乱を起こす必要はないね」
「それのせいでこっちにも、飛び火してるからな」
そう言いながら、フィエルメは苦々しい表情を浮かべた。
カルメン領の小麦が全て輸出された事件、その影響は王国全域に波紋を呼んでいた。
そもそもカルメンは自分達が食べる用を差し引いても余るぐらいで、例年であれば領外でそれは販売されている。
その分がゴッソリと国外へ消え、このままだと餓死してしまいそうなカルメン領民へ王が配るために更に買い占める。
そうなったならば、必然的に王国全域へ値上げの波が訪れてしまう。
彼女が預かっている前線では、大量の食料を必要とするため影響を強く受けていた。
他国から安く買い付けようとしても、ルイス王国の現状は商人の間では広く知れ渡っており、足元を見られてしまう結果に。
そうして予算と睨めっこした結果、兵の1割を削減するハメになったのだ。
フィエルメが前線から離れた王都へ来たのは、カーミラが手紙で呼んできたからという理由だけではなく、父である現王へ予算の増額を直訴しに来たという事情もあった。
「第一王子派閥は火元になってるし、儲けたのは第二王子のアドウィン様だけだろうか?」
「まあ、そうだろうな。
もしアイツが手引きしたなら……大したものだ」
そう言いながらも、心の中では彼が原因だとは全く思っていない。
第二王子アドウィン・ド・ルイス。
今の自分のポストに満足できず、現在政治を牛耳る大貴族への下剋上を目論む改革派閥、その旗頭となっているのが彼だ。
……という聞こえが良いお題目を抱えているものの、実際は貴族家の次男や三男といった溢れ者を集めただけの派閥。
そのため次期当主が決まっていない者も多く、シュタインとフィエルメの派閥とは大きく突き放されていた。
ちなみにそんなアドウィンも、特別な技能は持っていない。
という理由から、フィエルメは選択肢から外していた。
そもそも政局的に劣勢の彼らなら、聖女越えの光属性適正持ちは喉から手が出るほど欲しい人材。
起こす必要のない反乱軍への参加などで、縛り首になるリスクを負う必要もないのだ。
「では、怨恨とかはどうだい?」
そうして新たなアイデアを出すカーミラ。
薄々ただ強力なスパイが潜り込んでいて、その人間が指令を受けて動いている、そんなつまらない真実に気づいてはいた。
だがその場合は2人の手から離れ、王国の諜報部か衛兵達が請け負う事になる。
もし2人が引き受けても地道過ぎる調査には耐えきれず、投げ出す事になるだろう。
それは2人共が理解していた。
「怨恨ねぇ……標的で考えるなら、シュタインへの恨みか?
とはいえ第一王子というだけで、理由もなく恨まれる立場だが」
「もしかして、キミに勝って欲しい人が秘密裏にやってたりしてね」
「……それは、ありがた迷惑という奴だ。本当に」
カーミラの少しだけ可能性がありそうな推論に、フィエルメは本気で嫌そうに顔を顰める;
彼女は戦に出ることから、平民には王族の中では一番顔が知られていると言っても良い。
そしてその英雄譚が国中に広がっているため、途中で村や町に寄った際には良く食べ物などを押し付けられていた。
そのため、全く知らない者が自分のために動いていてもおかしくない、そう思ってしまったのだ。
「流石に該当者が多すぎるねぇ……一旦、女性に絞ってみようかい?
反乱軍の話によれば、男の方があの板だったり作戦を提案してきたそうだ」
「女性関係か、シュタインのそれは聞いたことないが……」
女性関係。
流石に王族で、しかも異性の兄弟同士ではその話題を話す事がなかった。
そもそも、シュタインには婚約者が……。
その瞬間、フィエルメの脳内へ稲妻が落ちた様に閃きが降りて来る。
「ハーティア……ド・ラ・バタイユ?」
「……ああ!確か、シュタイン王子から婚約破棄された子だっけ?
しかもあの後、バタイユ家から勘当されたとか」
「そうだ、よく知ってるな?」
「研究所に篭りきりの私でもそれぐらい知ってるさ、職員達が噂してたしね。
流石に可哀想すぎると思ったよ、救いがなさすぎる」
「ああ、それは同感だ。
なんであんな馬鹿な真似を、と弟を殴ってやりたいぐらいだった」
ハーティア・ド・ラ・バタイユが、侯爵家令嬢であり王太子の婚約者……その地位を全て失うまで1日もかからなかった。
その事実はあまりにも衝撃的で、貴族の間でも無数の憶測が飛び交っていた。
シュタイン王子は操られていたとか、優秀すぎるハーティアが王妃の座を通して王国支配を目論んでいたから、そんな根拠のないものも多数だ。
その噂話は結構長く続いていたが、今はカルメン領の反乱へ話題を取られてしまったらしく語られることも殆ど無くなった。
「ちなみに、シュタインと相手のセーラには闇属性の痕跡は無いんだな?」
闇属性、それはかつて人間と地上の覇権を争って戦った、魔族と呼ばれる者達の専売特許。
影や人間の精神を操る、というのは御伽話になるほど有名だ。
とはいえ魔族がいなくなったのは、ルイス王国建国よりも前の500年前の事。
人間は使用できないため、今となっては失われている。
「まあ確認はされて無いね、2人とも真っ白さ。
という事で、シュタイン王子はシラフで婚約破棄をやったって事だね。
いや、酒は飲んでたのかな?」
そんなカーミラのジョークで、彼女は笑えなかった。
今はハーティアが絡んでいる可能性の方が気になっていたのだ。
「……バタイユ家は婚約破棄から、シュタインと少し距離を置いている。
そして上から2番手と3番手の、カルメン家と教会は喧嘩状態」
「それに、ハーティアはモリッジ男爵家の令嬢と仲が良かったそうな。
一応潜入先とも繋がるねぇ」
どの世界にもゴシップが好きな人間は大勢いる。
そういう人間は貴族にもおり、その人間がフレイナ・ド・ラ・モリッジへと直接聞いていた。
それも、噂話と一緒に拡散されていたのだ。
「ハーティアは確か、メイクが得意だったはずだ。
だから、魔力識別門を超える作戦を取れた……」
「うんうん、その話は私も聞いたよ」
話がドンドンと繋がっていく、
「あと婚約破棄後、お母様からキツく叱られたシュタインは彼女を衛兵に捜索させたらしい。
だが……見つからなかった」
「幻影使いがいれば、それぐらい簡単だろうねぇ。
流石に貴族のお嬢様が王都から逃げたら衛兵も気づくだろうし、ずっと潜伏してたと」
主犯格がハーティア・ド・ラ・バタイユと仮定した瞬間から。
「……ハーティアの目的は、シュタインの失脚か?」
「今までの動きから考えると可能性は高いだろうね、かなりの恨みを持っているだろうし。
そして潜伏中だった男の幻影使いと手を組んだ、そんな所かな?」
「そうか…」
フィエルメは瞑目し、静かに天井を見上げる。
脳裏を巡るのは、ハーティアとの思い出だった。
互いに高位貴族のため、言葉を交わす機会も多々あった。
それに何度か、茶の席を囲んだ事も。
隙のない立ち振る舞いを見せるが、配下の面倒見は良い。
だからもし王位継承戦で自分に土が付いたとしても、王妃として弟を引っ張ってくれると内心彼女を認めていたのだ。
「まあでも、ハーティアが暴れたらキミが王だろうけど?」
「空から龍の鱗……その様な転がり込んでくる勝ちは望んでいない。
何より数百人が死んだ反乱を引き起こしておいて、無罪だけはあり得ないだろう」
「おや?フィエルメは、王様の政治に不服という事かな?」
「当たり前だ!カルメンにも、反乱軍にも、罰が軽すぎる!」
彼女は、今回の罰が軽すぎるという派閥の筆頭。
確かに今回反乱軍の方が被害者ではある。
だからといって贔屓してもそれは他領には正しく伝わらない。
ただ伝わるのは生活が苦しくて反乱してもお咎めなし、という歪んでいるが間違いでもない事実のみ。
彼女がいる様な前線の街は、戦費調達のために他領よりも重税だ。
その結果不満を持った領民と兵士、その間の小競り合いで既に数人亡くなっている。
そしてそれが再び不満の種となる、そんな無限ループを引き起こしていた。
「……元はと言えば、シュタインが色恋によって公開処刑の様に婚約破棄したのが始まりだ。
だから、王族の私が蹴りをつける」
「まあ、まだハーティアと決まった訳ではないけどねぇ。
もしかしたら男がやっている様に見せかける、ミスリードかもしれないしね」
「ああ、分かっているさ」
フィエルメは普段冷静ではあるのだが、たまに周囲の静止を振り切って突っ走る事がある。
戦場ではそのお陰で数多く勝利を収めてきたのだが、危険に落ちることもしばしば。
カーミラは内心、シュタイン王子とやはり血は繋がっているんだなと思っているものの口にはしない、烈火の如く怒られるのが目に見えているから。
もしもの時は……私が止める役割を担おう、そう心の中で静かに誓いながら捜索するための作戦へと頭を巡らす。
「ではまず、どうしようか?
ハーティアの顔写真を載せた張り紙でもするかい?」
「いや、多分骨折り損になるだろう。
どうせ見つけられず、不安を煽って終わりだ」
射程が数十キロに及ぶと思われる幻影使いと、貴族の屋敷への潜入を容易に行うメイク術。
その事実だけ並べても容易な敵ではない。
「協力者を募るのも……良くなさそうだねぇ」
「ああ、きっとパニックになってマトモに捜査できない」
カルメンにて大規模な反乱を起こした人間が領内に潜伏している可能性がある、その事実はあまりにも領主側にとって恐怖だ。
きっと血眼になって探すだろうが、無限の貌を持つ2人を見つけ出せはしない。
そうして無実の罪を被せられた領民が処刑され、最悪の場合新たな反乱が起きる可能性もある。
それを防ぐためには、2人だけの秘密に留めるという選択肢が最適だった。
「なら、どうするんだい?
静観して、次の事件現場にでも突入?」
カルラはそう言いながら、分からないというジェスチャーをする。
とはいえ、きっと自分の作戦だともう敵は逃げている、そんな結末が容易に想像出来た。
相手は、衛兵の人海戦術から逃げ切っているのだから。
「罠を……仕掛けようと思う」
「罠をかい?」
「貴族も商人も招待するパーティーをな?
きっと、あちらさんも来てくれるだろうさ」
「やってみる価値は……ありそうだね。
幻影クンもフィエルメを見定めようとしてくるかもね?」
そうして会場をどうするか、現れた場合どう対処するか、議論を深めていく。
時間はあっという間に過ぎていくのだった。
話し合いは終わり、今は研究所の入り口。
これから王城へ向かうフィエルメと、見送りに来たカーミラが相対していた。
「ああ、言い忘れていた」
「ん?」
「風呂と洗濯は忘れない様にな」
「……キミは、私のお母さんか何かかな?
……まあ、忠告は素直に受け入れるさ。
とりあえず白衣をこれから洗おうかね、幸いにも洗濯日和だし」
真剣な眼差しで言う彼女に、カーミラは呆れた様な表情を浮かべる。
それを見て釣られる様に、フィエルメの表情も綻ぶ。
そうしてふと彼女は空を見上げる。
見渡す限りの青空が広がり、ギラギラと照りつける太陽の光が肌を刺す。
今は真夏であり、研究室に篭りっぱなしのカーミラにとっては処刑場にさえ思えるほどの熱気が体を包んでいた。
「今日、外に干すのはやめた方が良いだろうな。
きっと……雨が降るだろうから」
「りょーかい、なら寝室にでも干すとしよう」




