閑話 未来の話
「そう言えば、貴方……もし任務が成功したらこれからどうするの?」
「なに、急に……?」
任務もなく、ダラダラと過ごす毎日。
今日もハーティアと同じく、リビングのソファで静かに読書をしていた。
そんな最中に突然振られた話に、ページを捲る手も止まってしまう。
「いや、ただの世間話よ」
「いうほど、これ世間話かな?」
「〜っ、細かい事はいいのよっ!」
「あっっ」
読書中だったミステリー小説は彼女の手によって奪われ、パタンと閉じられてしまった。
……しおり、挟んでないんだけどなぁ。
そんな心残りを抱えたまま、思考を切り替える。
「やりたい事か……」
と言われてもって感じだ、正直。
別に地球の時もやりたい事も特別なかった。
強いていうなら、あの新作アクションゲームやりたかったとか、その程度。
将来の夢も別になかった。
今世では、一人前のスパイとなるための訓練の日々。
報われるどころか、活躍の場所が与えられるかすらも分からずに、日々の時間を幻影などの鍛錬へと充てていたのだから。
……なんか、あるか?
この世界にはモンスターなんて今はいないから、冒険者という職業もない。
かつてはいたらしいけど、魔王が勇者によって討ち取られたため全滅したそうだし。
だから強いていうなら、
「田舎で畑でも耕そうかな?」
「えっ」
「だって、こんな事してたら命が幾つあっても足りないじゃん。
ルイスとかサンドラが関係ないぐらい遠い場所にでも家建てようか」
こんなスローライフ案。
……我ながら、悪くない気もする。
この任務を達成したならば、その時の報奨金はかなりのモノになりそうだし。
うん、それにしようか。
そんな自分では納得した案なのだが……彼女はポッカリと口を開けたまま、
「なんて……つまらないの」
「ぐふっっ」
とんでもない毒を吐いてきた。
心のHPが20パーセントほど削れる。
なんて遠慮のない野郎、じゃなくて……お嬢様なんだ。
手加減というモノを知らないのかっ!?
「……じゃあ、そっちはなんなのさ」
逆に、こちらから聞いてみることにする。
人の夢……3秒で思いついたやつだけど、否定してくるぐらいなのだ。
さぞ素晴らしい夢をお持ちなのだろう。
そんな問いを投げかけられたハーティア。
彼女はえっへん、と言わんばかりに胸を張り、
「それはもちろん、贅沢するのよ。
侯爵家と当主となって……ね!」
堂々とそんな将来を話す。
……うん、何となく想像は出来ていた。
それに対しての返答は、
「……つまんなそ〜」
「何ですって!?」
これしかなかった。
「いや、そもそも贅沢って何するのさ?」
「それは……アレよ。
各国の美食を堪能したり。宝飾品を収集するのよっ!
バタイユ家は大きな港を持っているのだから、そんな難しくはないのだしね」
出てくるのは、そんな彼女の……夢?
「でも、適当な酒場の料理でも美味しそうに食べてたくない?」
「……そうね」
「ポテトなんて、俺が作ったのをパクパク食べてたし」
「………」
「あ〜でも、服は貴族の方が買えるか」
「ぁ、そう……そうよっ!!
おしゃれな服……どころか、店ごと買えちゃうのよ!!」
こちらの溢した言葉に、彼女は乗っかってくる様にして話を続けてくる。
まるで……こちらにアピールでもしているかの様に。
「それにもし、私が貴族家に戻ったならばバタイユ家で貴方を雇いましょう!
しっかりと給金も払いますし、悪い話ではないでしょう?」
「いや、それはやらなくていいけどね……。
どう考えても目立って、バレるだろうしさ」
そう答えると、もう彼女は諦めたらしい。
はぁ……と大きな溜息を一つ溢し、
「どうやら、相容れないようね」
「まあ性別どころか、生まれから違うからね」
これからの人生の夢。
それは互いに、正反対でつまらないという一言で切り捨てられた。
確かに贅沢な生活に憧れはなくはない。
でもきっとその欲には際限はないだろう。
蟻地獄の様なモノに足を突っ込み、生活水準を下げれずにそのままズルズルと……っていう未来が見えてしまうし。
……それにそもそも、
「このままだと滅んじゃうでしょ?」
「……それは、そうね」
もし計画がうまくいったら、平定するのは至難の業。
外部から突かれたら、一瞬で瓦解してしまいそうな張り詰めた雰囲気が、今のルイス王国には蔓延していた。
それは勘違いではなく……きっと、俺たちのせいだろう。
「なら、他国で商人でもやりましょうか」
「それはいいんじゃない?
ハーティア監修のメイク道具とか、高く売れそうだし」
そんな叶うかも分からない、夢の話。
だけどももう、その終幕は足音が聞こえるほどに近づいて来ていた。




