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『完結』婚約破棄令嬢 家柄……今は× 資金……今は× スパイ適正……◎ 〜家を追い出された令嬢が敵国のスパイと手を組み、破壊工作で祖国を滅ぼすまで〜  作者: お汁粉パンチ
カルメン領反乱編

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24/50

ハーティアの独白 (後)

 18年間住んだ家を追い出され、衛兵から庇ってもらったあの日から、私……ハーティアは彼の家へと居候させてもらっていた。

 彼の名はキース。

 卓越した幻影操作技術を持っているのにも関わらず、日雇いの肉体労働をしている……変人だ。

 流石に申し訳ないから、直接は言わないけども。

 

 この家に転がり込んだあの日から、彼は毎日の様に私の相手をしてくれた。

 城下町で話題のお菓子を買って来てくれたり、自作の劇と言って今まで見た事無い様な斬新な設定の劇を見せてくれたりして、毎日楽しかった。

 涙を流すことなんて笑い泣きする時だけで、忘れてしまったと思っていた笑顔も自然に溢れる様になる。

 特に劇は凄くて、私から王都立劇団に売り込んでみたら?と言ってしまうほど。

 ただ彼はあまり乗り気じゃない様で、毎回誤魔化されてしまうけども。

 仕事でいない日中は少し……少しだけ、寂しく思うぐらいに。


 そんな風に彼は仕事が忙しい中、私のために時間を使ってくれた。

 炊事も掃除も、洗濯も含めて私を、お世話してくれた。

 

 その結果私は……自堕落で、ワガママな人になってしまったのだ。


 

 だって今までは、貴族の名に恥じない様にその場で足を止める。

 だけども、もうそんな事気にしなくて良いのだから。

 この私にとって都合が良すぎる空間は、あまりにも毒だった。



 そしてその日も傍若無人に振る舞う私が、彼から奪い取った手紙。

 そこに書かれていた内容は、目を疑うほどに衝撃的だった。


 だって私……ハーティアを、


「ルイス王国を崩壊させるためにスパイの一員としてスカウトせよ」

 

 と書いてあるのだから。

 問答の末、彼が生まれる前からスパイとして宿命づけられた存在という事を知った。

 そしてそれは皮肉にも、高精度に幻影を扱う理由とも紐付いてしまう。


 全て知られたと知ると、途端に雰囲気の変わる彼。

 今までの生活では、見た事ない顔だ。


 じゃあ今までのは、私を懐柔させるためだけの仕事だった……の?


 その気付きたくなかった事実に、目の前が真っ暗になりそうだった。

 でもそのあんまりな現実に、自然と培った貴族の仮面が被せられる。

 もう失ったはずだったのに、18年間の教育は簡単には消えてくれない。

 だけど、今だけは頼もしかった。


 どうやら彼は、まだ任務をした事がないらしい。

 だったら、まだ立ち止まらせれる。

 

 そう思った私は、彼の提案を冷静に拒否し続けた。

 それにルイス王国が揺らぐ訳がない。

 ここは大陸一の王国で、戦乱の世を生き残り400年の歴史を誇っているのだ。

 いくら裏工作が上手くとも……ただ、無意に命を落とすだけだ。


 それにスパイは、古今東西見つかったら目も当てられないほど酷い死に方をする。

 彼の本当の姿がそちらでも、私にとっては恩人。

 そんな末路だけは、避けたかったから。


「復讐って、興味ある?」


 でも、彼のある提案に鼓動が跳ねた。

 

 それは私が、心の奥底へ閉じ込めた感情。

 手も足も出ない、そんな結末しか待っていないから。


 けれども、彼の提案にはどうしても心が惹かれてしまう。

 やられっぱなしのまま諦める、それは嫌だと心が主張し始める。

 きっと彼に乗せられてるのも、理解している。

 でも私は、


「最ッッッっ高の提案をありがとうっ、キース!

これからよろしくね?」


 その手を取った。

 

 あのパーティーの参加者も、シュタインも、バタイユ家も。

 私という存在を忘れて、のうのうと生きていくのだろう。

 それだけは、どうしても……許せなかった。

 

 この一ヶ月、確かに幸せで楽しかった。

 でも、この生活もいつかは終わる。

 だったら私は、復讐を取りたい。

 

 この先に続く道が、処刑台へと続いていたとしても。

 それにきっと彼の『幻影』があれば、分は悪くないと思っている。

 

 ただ……


「でも……」


「うわッッッ、ッと……」


 私は彼の手を思い切り引っ張る。

 きっと油断していたのだろう、簡単にその体勢は崩せた。

 そんな彼に若干呆れながら、耳元まで口を持っていき、


「無計画は許さないから」


 釘を刺す。

 

 ただ無計画の、自殺の様な作戦には乗らない


 そんな私の思いは、彼に伝わっただろうか?

 ……今愛想笑いを浮かべている彼に、私の命を預けるのは若干不安だけども。

 

 こうして、私たちは手を組んだのだった。




 最初の任務は、モリッジ男爵家で行われる誕生パーティーへの潜入。

 

 草から用意されたメイク道具を振るって、無事潜入を果たした。

 キースの演技が疑われて、あわや大惨事になりそうな瞬間はあったけども。

 メイドに扮した時の私のやらかしは……もう、忘れた。


 信頼を得てからの、本会場への潜入。

 そしてそこが一番盛り上がった瞬間は、きっと…彼女の登場した瞬間だと思う。

 

 フレイナ・ド・ラ・モリッジ


 男爵家の3女という地位からゼイフ伯爵家嫡男を射止めた彼女。

 正妻枠では、近年珍しい玉の輿だ。

 

 近年それが起きなかったのは、政略結婚が是とされているから。

 400年も国が続けば、今まで上手くいっていた慣習を外れる様な行動を無意識に嫌ってしまう。

 だからこそ、ルイス王国は長く続き……第一王子率いる保守派閥が最大派閥となっているのだし。

 それはやはり、現状維持を望むものが多い事の現れだろう。


 その慣習に真っ向から反抗しようとしているのが、第二王子率いる革新派。

 だから今回のゼイフ伯爵家の様に、まずは婚姻から変えていこうとしているそうな。

 ……まあ、顔で選ぶ事の何が革新派?とは思うけど。

 別に保守派も、側室に迎える人間を顔で選ぶことはあるのだし。


 革新派も別に、政略結婚はする。

 けれども今回はフレイナと結婚するためだけに、そんなお題目を引っ張って来たのだろう。

 きっと彼女の美貌に、嫡男が一目惚れしてしまったから。


 流石は……私の弟子だ。


 彼女と親交を深めたのは、学園時代。

 図書室へ行くと、毎回彼女はそこにいた。

 正直それぐらいの印象しかなかったけれど、それが変わったのは彼女からこちらへ話しかけて来た時。

 

 メイクを教えて欲しい、そう私の取り巻きを割って彼女は直談判して来たのだ。

 その時は数人程度でやってるだけで、終了後のお茶会の方がメインぐらいの集まり。

 「そこへ入って本気でやりたい」という彼女の熱意に半ば押され、受け入れたのが始まりだった。


 最初は取り巻き達も良い顔はしなかった。

 フレイナは男爵3女、取り巻きは伯爵家や子爵家という彼女の家より上の爵位であったし。

 だけども彼女の熱意を認めたのか、いつの間にか仲良くなっていた。

 そしてその熱を受けて、メイクの勉強会もより高度なものへとなっていく。


 ある日、フレイナ2人きりで話す機会があった。

 そこで日頃から思っていた、その情熱の源について聞いてみたのだ。


「…笑いませんか?」


「ええ、もちろん」


「…玉の輿に乗りたいんです。

きっと男爵家の3女じゃ、貴族の暮らしを捨てなければいけませんから」


 それは、きっと爵位が低い貴族の女子なら誰もが思う事だと思う。

 彼女は、恥だとでも思っているのかもだけど。

 フレイナが本を読んでいるところを私がよく見かけたのは、玉の輿に乗るために知識を蓄えていたところだったらしい。

 

 そんな彼女が、弛まぬ努力により伯爵嫡男を射止めたのだ。

 これはもう、祝福するしかない。


 キースは、私がフレイナへ恨みを抱いているのでは?とか思ってそうな視線を向けて来ているけども、全くそれはない。


 確かに彼女は、私がパーティー会場から追い出される時拍手はしていた。

 でもそれは、目を瞑った状態でだ。


 私は勉強会の時に、


「すっぴんはあまり見せたくないから、最小限だけ……ね?」


 そう毎回言っていた。

 それをフレイナも、他の参加者も覚えていてくれたのだろう。

 その数人には恨みは持っていない。

 

 そしてフレイナに対しては、ただ純粋な祝福だけだ。

 ……幸せそうな笑顔を見ていると、少しだけ羨ましくなるけども。

 今日は運も良いのか、草に持っていっても恥ずかしくない情報も手に入れた。


 おめでとう、お幸せに……


 そんなフレイナへの言葉は心の中に閉まっておく。

 私達は、こうして1つ目の任務を完遂したのだ。



 

 訪れる束の間の休息。

 彼の提案で、外に出かける事になった。


 服を選んだり、食事したり、まるで逢引きじゃないの……。

 きっとキースは……気にしてないだろうけど。

 侯爵家令嬢のままだったら、絶対に許されなかった時間を過ごした。


 

 そうして英気を養った私達の次の仕事。

 それは……


『カルメン領にて反乱の兆し』


 そんな、到底信じられないモノの調査。


 でも現地へ行くと、それは真実だった。

 領民の声も、領都ラカンの雰囲気も酷いものだ。


 親を早くに亡くし、継いだというブナイフは同級生で第一王子の取り巻きだったから、多少は人となり知っている。

 少なくとも馬鹿ではない、と思っていた。

 勉強はそつなくこなし、人間関係も広かったと思う。

 そんな彼が、領内の麦の収穫権を全て売り渡すとは……自分の目で見なかったら信じられなかっただろう。


 キースによれば、バタイユ家が距離を置いた事により、陣営の金銭負担はカルメンへ重くのしかかる。

 その結果、今回の愚行に至ったそうな。

 

 

 そうして私は、彼と一緒に領都ラカンを見下ろしている。

 計画は全て聞いた、反乱軍の中核を担う『錆鎌』も知らないモノを。

 

 人間が多く死ぬ計画だ。

 それも大半は武装を持たない無辜の民。

 彼らを私の復讐のためだけに、死地へと向かわせるのだ。


 ……カルメン軍から降伏してくれ、心からそう思った。

 そしたら、血は流れずに済むから。

 ただ無情にも、軍は城壁を抜けて現れた。

 だから計画は始まった……予定通りに。


 幻影で全軍に、カルメン軍の情報が伝達された。

 

 簡易的な罠で足止めし、そこを奇襲した。


 私達が辿り着いたそこは、もう戦場だった。

 街だったら1人死ぬだけで大騒ぎなのに、ここでは息を吸う様に命の灯火が消えていく。

 私はその片棒を担いだのに、直視……出来なかった。


 でも彼は、自然に切り込んでいき……役目を果たした。


「任務完了……帰ろうか」


「貴方……思ったより、鬼畜なのね」


「……今回は否定しない」


 軽口のつもりだった、現実と向き合いたくなかったから。

 これからの道に犠牲はつきもの、という事を知りたくなかった。

 でもスパイ活動というのはこれを受け入れなければいけない、彼はそれを行動で示した。

 キースは強いな、心からそう思う。


 でも……多分違った。

 それなりに長い付き合いになったから分かる。

 貼り付けた幻影で本当の顔が見えなくても、きっと心にダメージを負っている事ぐらい。


 それもそうだ。

 彼も私と同じで、モリッジ男爵家の潜入任務から始まった。

 そこでは、危害を加える様な内容はなかった。

 せいぜい、返送元の夫妻を薬で一時的に眠らせたぐらいだ。

 もちろんその前に人は殺めていないだろう、草として目立ってはいけないのだから。


 彼は意思を持って人を殺したのは初めてだろう。

 

 見てみないフリも出来る。

 でもそうしたら、いずれ彼が帰って来れなくなる気がした。

 だから私は、


「なら、今回の責任も半分こ。 ねっ?」


「……ありがとう、ハーティア」


 その罪を半分背負う事を、彼に宣言した。

 恩着せがましいかもしれない。

 だって、私が彼を焚き付けて始まったのだから。


 だから彼の感謝の言葉は受け取らない。


 キース。

 私の小間使いで、同居人で、相棒で、私の……共犯者。

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