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『完結』婚約破棄令嬢 家柄……今は× 資金……今は× スパイ適正……◎ 〜家を追い出された令嬢が敵国のスパイと手を組み、破壊工作で祖国を滅ぼすまで〜  作者: お汁粉パンチ
カルメン領反乱編

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22/50

終戦

 カルメン領での反乱、あの日からもう一ヶ月が過ぎた。

 俺たちは無事あそこから逃げ出せた、誰にもバレる事なく。

 そうしてのんびりと、二週間ほどかけて王都へ帰ってきたのだった。

 

 ここでも話題になっていた様だけど、最近は鎮火してきた様に思える。

 その原因はやはり、現王の反乱軍に対する沙汰、そのお触れが出たからだろう。

 随分早いのは、どうやらカルメン領主であるブナイフ・ド・ラ・カルメン経由で情報が入ったかららしい。

 (早く対応しないと領民が餓死してしまう、という危機感もあったと思うけど)


 ……そう、彼は生きて目的地である王都へ()()()()()()のだ。

 かなりの追っ手だったとは思うけど『幻影』を使った地図上では、彼が全くの見当違いであるルートを進んでいる様に見せかけたのが効いたかな?


 そして下された沙汰は……領主ブナイフの子爵から男爵への降爵だ。

 それに伴う形で領地は3分割され、東西に接する貴族に3分の2を取られてしまった。

 反乱軍に対しては……お咎めなし。

 むしろ食料支援に加え、今回の戦いで亡くなった遺族へのお詫びの金が支払われる結末となった。


「随分と、お優しいんですねぇ〜」


「まあ、そうだね」


 何とも皮肉めいた話し方。

 だけども王が優しすぎる事で生まれた不満を考えれば、彼女もこんな喋り方にもなってしまうだろう。

 

「平民も貴族もお互いに罰が軽すぎる、だってさ」


「優しさは時に毒ですから〜」


 まず平民視点、今も領主ブナイフが貴族の地位に着いているのが納得いかないらしい。

 反乱を引き起こしている訳だし、貴族の地位の返上……場合によっては処刑まで求める声も。

 

 そして貴族視点、反乱を起こした平民への処罰が無い事が納得いかないらしい。

 確かに彼らも平民に対して可哀想、というかあの領主バカすぎだろ!?と思っているだろう。

 ただ、それとこれは話が別というのが彼らの考え。


 彼ら他貴族が真に恐れるのは……反乱が罰せられなかった、その前例だ。

 

 今回の戦いに関しては口止めもされておらず、もう国中に広まっていっている。

 それもそうだ、統治の行き届いて一応は平和な国の中において、とんでもない大事件なのだから。


 そしてその後の国王による対応についても同様だろう。

 彼らは思うだろう、


「えっ、生活が苦しくて反乱したけどお咎めなし?

何なら、食料と金貰ってるだって!?」


 という感じの事を。

 「死傷者が多数出ているから」「領主側が今回は酷すぎた」なんて事情があっても彼らには関係ない。

 武器を持ったら今より生活が良くなった、そんな強烈な現実があるのだから。

 命の軽いこの世界、そちらの道を選択する者達は少なくないだろう。


 中立は上手くやらないとどちらからも恨まれる、今回はその悪い方が出てしまった。

 後ろの芝生の上で寝転がっている彼女の言う通り、その優しさは毒だった。

 それは直ちに死に至る様な猛毒ではないが、自己治癒で消えるほど弱いものでもない。

 王の知らない内に、徐々に体を蝕んでいくのだ。


「これも作戦だったのでしょうか〜?」


「王の方は、運も結構あった。

本命は……教会の方」


「ああ〜!あちらも大変そうですよね〜」


 王がよく言えば誰にでも優しく、悪く言えばどっちつかずの優柔不断なのは結構知れ渡っている。

 だから今回のオチまでは事前に何となく想像はできた。

 とはいえ、周りに反応次第で容易に変わるとも思っていた。

 

 結果としては、思ったより処罰が優しかったという感想。

 そして今回こちらが狙ったのは、教会の方。

 


 現在、領主のブナイフは教会から強く詰められていた。

 それは彼の指示によって、教会メンバーが味方だったはずの領主軍から斬られて死んでしまった、という事についてだ。

 あの戦いでは、カルメン領に務める計11人の回復魔法の使い手のうち、10人が亡くなっている。

 唯一生き残ったのは留守番を任されて参加していない、まだ幼い女性1人だけだった。


 回復魔法が使える全500名の内10人が、しかも同士討ちによって殺されたのだ。

 そりゃあ、怒るに決まっている。

 ……まあ、俺の幻影の所為なんだけど。


 そしてブナイフも、実際敵の幻影使いのせいだと主張している。

 だが、錆鎌メンバーには幻影使いという事は一切話していない。

 そのため意見が食い違い、ブナイフの頭が可笑しくなったのでは?という流れになっていた。

 ……実際に明らかにおかしな事をやり、反乱を引き起こしたという現実もあるし。


 それにこちらは草。

 証拠はしっかりと隠滅してから去っている。

 地図や作戦を表示していた板も、幻影を解除すればただの鉄板だ。

 調べたとしても、こちらが偽名を使っていた男女2人組という情報しかない。


 唯一あるとすれば、ジャンが漏らした場合だけまずい可能性もあった。

 ただそれは、彼が祖国……サンドラ王国へ帰還したらしいため、もう潰されている。

 どうやら彼もすぐに逃げれる様に準備をしていたらしく、その結果……真実は闇の中へと消えてしまった。


 なので、そんな言い訳を続けるブナイフに全ての矛先が向いているというのもあるだろう。



 とはいえ、そもそも何故教会を狙ったのか。

 

 それは……彼らが、既得権益側だったからだ。

 

 別に、それが気に食わなくて潰すとかいう感じではない。

 そんな事を真面目に考えているのは、第二王子の改革派閥ぐらいだ。


 そう、ここで王位継承戦が関係してくる。

 現在王位継承戦にて、


・全ての既得権益を追い出し、政治を牛耳る大貴族たちへの下剋上を目論む、第二王子率いる改革派閥


・騎士団長を始めとする軍関係者から圧倒的な支持を持ち、自身でもかなりの武勇を誇る、第一王女率いる国軍派閥


・宰相を始めとする、現状からの変化を好まず、既得権益を握った状態での現状維持を希望する者達が集まった、第一王子率いる保守派閥


 この3派閥が参戦を表明していた。

 ここには貴族だけではなく、大商人なんかも絡んでいるがそれは割愛する。

 

 そしてこの割り振り、教会はどこに位置するだろうか?

 

 改革派閥?

 もしここがとったら、回復魔法使いを引き抜き国営病院を作るかもしれない。

 そうしたら安定収益はもちろん、教会の顔色を伺わなくて済む。


 国軍派閥?

 1番の武力を持つここは、かなり戦争を渇望している。

 もしここが国王になれば、回復魔法の需要は上がるだろう。

 だがここを支持すると、教会自身が厭戦(えんせん)派の民から支持力を失ってしまうというジレンマ。

 実際この考えの信奉者を教会は多く抱えていた。


 そうして残るのが、保守派閥となる訳だ。

 積極的の政治に絡みたいかは分からないが、他派閥になられると困るという消去法での支持。

 別に理由を聞かれても、


「他国は第一王子が王となる、国が多いですよね?

私たちはそれと同様に、ただ第一王子を支持しただけですが何か?」


 と言えば、別にそこまで角は立たなさそうだし。

 他をそのお題目に使うには、ちょっと尖りすぎている。


 ただ、お気づきだろうか?

 カルメン男爵が支持しているのは……第一王子派閥。

 しかも今回の事件が起きたのは、原因を辿ればその王子が金を求め、それに応えるため無理をしたから。

 

 保守派閥の序列としては、上からバタイユ家、カルメン家、教会となる。

 バタイユ家が距離を置いた今、カルメンと教会が喧嘩すれば……3トップが力にならなくなるだろう。

 特にカルメンは領地がグチャグチャで、こんな政争をしてる場合ではないし。


 そうなったならば……もう、第一王子シュタインは勝てない。

 

 だから今、必死に教会側の怒りを鎮めようとしている筈だ。

 それが上手くいくかは分からない。

 教会側もシュタインが負けると困るから、どこかで手打ちにするかもしれないけど。

 ただ、どうしても後には引くだろう。

 

 

 と、こんな理由で作戦を作り、遂行した。

 結果としては……上手くいったかな?


「でも、良かったです〜。

多分紙の報告だと分からなかった部分もあったと思いますから〜」


「それは、良かった」


 ここは王都にある、昼間の公園。

 その木陰に隠れて人通りも少ないこの場所で、俺はベンチへ腰掛けていた。


 お相手は、本部との繋ぎ役を務めている女性……毎回リンゴを絡めて会ってくる人。

 彼女はこちらの背後にある芝生に寝転びながら、今回はリンゴを齧っていた。

 今はちょうど起き上がったとこらしく、パラパラと背中から芝生を落とす。

 そして片手であくびをする口を隠しながら、大きく空に向かって伸びをする。


「では、私はこれを持ち帰りますね〜」


「はい、お願いします」


 そうして立ち上がった彼女は歩き出す。

 だが、彼女はクルリとこちらへターンすると、


「あっ……」


「まだ、何かありましたっけ?」


 何かを思い出した様な声を漏らす。

 頭を動かし、何かなかったかと自分の記憶を探る。

 そんな中、彼女は静かにこちらへリンゴを差し出す様にしてきた。


「これ以上食べれないんですけど〜、要りますっ?」


「……要らないです」


 なんだこの提案は? 

 何かの暗号か?


 でも、そっかぁ〜とか言ってるし、関係ないかもしれない。

 流石に食べかけは要らないかな…。


 そんな彼女は、かじられたリンゴを片手に人通りの多い路地へと歩いていく。

 そして王都の喧騒へと、自然に紛れ込んでいくのだった。


 ……やっぱ、変な人だけどスパイ技術は凄いわ。

2章終了!

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