逃れられぬ罠
領主軍一行は急ぐために最短である、森の中を突っ切る視界の悪いルートを進んでいた。
本来はもっと整備されたルートもあるが、そちらは回り道。
それに道中には村や街が多く点在するため目立ってしまうし、普段はそちらを使うため待ち伏せされているかもしれない。
そんな思いから、多少道が悪くとも草木に隠れて目立たないルートを選んだのだ。
「全軍止まれッッッ!!」
先頭を走っていた俺、ブナイフは全軍に号令をかけてその脚を止めさせる。
原因は目の前の道の先へ、水溜まりらしき部分とその手前へロープが張られていたから。
道への細工や破壊行為はどの領地でも重罪、イタズラでは済まされない。
状況的に考えると、これを設置したのは反乱軍しかいない。
何故こんな道へ?
………読まれていた?
「左方の森の中で人影がッッッ」
叫ばれた報告。
それはこの場にいる全員が聞き遂げた。
こちらの軍も……敵である反乱軍も。
ガンッッッ
静かだったはずの森へ、何かがぶつかった様な音が鳴り響く。
これは明らかな……罠だった。
「左右の森から投石ッッッ!!」
投石…それは、人類最古と呼ばれる遠距離攻撃。
その辺に落ちているモノでも全力で大人が投げれば、容易に相手を死へ至らしめるほどの殺傷力を持つ。
鉄の全身鎧なら効かない?
「あぐッッ…」
「ドメイッッッ!」
体の表面には傷がつかないかもしれない。
だがその衝撃は伝播し、体内へ……脳内へと良く響く。
落馬してしまったのは、運悪く頭に当たってしまった者だろう。
「馬を降りて盾を構えよッッ!!」
俺の号令で、騎士達は慌てて馬を降りる。
その混乱は人間に、馬にも伝播していく。
あちらの奇襲は成功してしまった。
「ふぅ……聖職者は回復をッッッ!!」
だが、投石ではそれまでだ。
降り注ぐ光、これは人類の叡智……魔法である。
癒しの効果を持つ回復魔法の光は、脳への強い振動で落馬し負傷した者達の傷を癒していく。
そうして地に背中を預けていた彼らは、ゆっくりと起き上がってくる。
これだけの力……だからこそ、普段からわざわざ高い金を払ってまで引き込んでいるのだ。
今の所、それだけの価値は示してくれていた。
投石は間も無く止み、
ガサガサッッ
「全軍突撃、領主軍を討てッッッ!!」
『うぉぉおおおおおお!!!』
飛び出てきた反乱軍との近接戦闘が始まるのだった。
「互角……いや、回復魔法を有したこちらが有利か」
クワを握りしめて襲いかかってきた老人から盾で身を守りながら、そう呟く。
そうして目の前の老人は、こちらの護衛の剣によって全身を貫かれ……息絶えた。
状況に関しては、最初の奇襲で揺らいだ事はあれど、今は問題ない。
即死しなければ回復魔法で復帰できるのが今の状態なのだから。
そして全身鎧を身につけた兵士を一撃で絶命させるほどの武器はなかった。
だってあちらは反乱軍。
鉄製ではあるがあくまで農機具であり、剣や槍といった武器ではないのだから。
だから反乱軍は決死の覚悟で兵士たちへ飛びかかり、倒れた所へのしかかって倒す。
それは犠牲も多く、失敗も多い。
しかも回復魔法をかけられたら、全てが無に帰すのだ。
そうして彼らの犠牲は、一時的に教会連中の魔力を削る、ただそれだけで終わってしまう。
……どうしてこんな事に。
もう、この地獄絵図は終わらない。
互いに仲間を殺されてしまっているのだから。
もし、こんな事になると事前に知っていたら………やらなかっただろう。
シュタインにも無理だとハッキリ言っていた。
でも今更後悔しても、もう遅すぎたのだ。
そうやって少し冷めた頭で戦場を見ていたからだろうか、
「おいっ、後ろに潜り込んでるぞッッッ!!」
乱戦の中、いつの間にか騎士達の背後へ潜り込んだ存在に気づく。
その男は立派な剣を今にも振り下ろそうとしていたのだ。
そしてビクンとこちらの大声に反応した騎士達。
だが即座に振り返ると、背後の男達へとその手に持った剣で一閃。
武装がマトモじゃない反乱軍よりも、背後から剣で襲いかかってくる方が危険と判断したのだろう。
首が落ちた。
勢いよく血が噴き出た。
明滅する……体。
あまりの光景を見て、目がおかしくなったのだろうか?
目を擦って、もう一度同じ方向へと向ける。
首を斬られたのに、今も立つ存在。
その、化けの皮が剥がれた。
「……ぁ………あああああああ!!」
農民の簡素な服などではなかった。
剣も持っていなかった。
白いローブに、首からぶら下げられた金で縁取りのされた十字架。
それは……味方の、教会から派遣されていた者達だった。
その動揺に、領軍は思考が……手が止まる。
そんな中、無意識にブナイフは馬へと乗り込む。
先には誰もいない。
そうして、
「領主が逃げたぞぉおおおお!!!」
その場から一刻も早く逃げる様に王都を目指した。
「貴方……思ったより、鬼畜なのね」
「……今回は否定しない」




