錆鎌
「ようこそ、カルメン子爵領反乱軍『錆鎌』のアジトへ!」
潜入していた草のジャン、彼に招かれた先にあったのは秘密の部屋。
ここが接触したかった組織、そしてそのアジトだったらしい。
……唐突すぎない!?
勧められた2つの椅子に俺とハーティアは座るけれど、何とも落ち着かない。
『幻影』は空間が広ければ無限の可能性があるけども、密室じゃ正体を隠す程度しか出来ないし。
襲われたら一発でお陀仏だ。
ここは階段で降りた通り地下室。
剥き出しの土壁に、それを支える様にして組まれた木材、まるで鉱山みたいな構造をしている。
そして陽の光が差し込まないここを、天井からぶら下がる幾つものランプが照らしていた。
それは、机を挟んだ向こう側に座るスキンヘッドの男の顔も例外ではない。
「ジャン、コイツらがお前の招待した人間か?
……2人ともヒョロヒョロだし、強そうには見えねぇが」
ギロリとした眼光はこちらへ向けられる。
怖い……けども、怒ったハーティアの方が1000倍怖いから全然耐えれる。
そもそも脅しには屈しない様に、草として教育はされているんだけどね。
まあ、
「私たちが正面から戦ったら、ボコボコにされてしまいますよ、マルゲンさん」
「ああ、だろうな……ん?お前、どこで俺の名を?」
そうそう、絶対に戦ったら勝てない。
でも……情報収集なら負けない自信はある。
例え、この地に長く住む彼らにも。
「もちろん存じ上げてますよ。
今回の件について抗議した結果解雇されてしまった、カルメン領軍元副団長『銀斧』のマルゲンさん。
あちらに立たれているのは、貴方を慕っていた部下の細剣使い……マリナさんでしょうか」
「……ジャン」
低くドスの効いた声が漏れる。
ただ、もちろん情報は聞いていない。
「いや、俺じゃないぜッッ!?
まだ来たばっかりだろ?情報収集早すぎないかっ!?
「もちろんジャンさんとは初対面ですし、2人の情報はラカンに来てから調べたモノです。
彼は疑わないで貰えればと」
今回はジャンにも、草からも情報はもらっていない。
濡れ衣で処罰されるのは、流石にこちらとしても望んでいないので援護する。
「そうか……すまなかったな、ジャン」
「いや、良いんですよリーダー。
だから……マリナはそんなに睨まないでくれるかなッッ!?」
「……ッチ、今日は見逃してあげましょう」
「いやいや、俺一回も裏切ってないけど!?
今回に限っては濡れ衣だしっ!!」
……何だろう、すごい反乱軍とは思えないやり取りだ。
今回の事が起きる前から関係自体はあったんだろうか?
ならジャンは草としては、成功しているんだろう。
「お前たちも疑って悪かったな」
「いえ、気にしておりませんので」
「そうか、ちなみにそっちの女性は助手か何かか?」
「……ええ、ザックさんの情報収集を手伝わさせて頂いております」
ハーティアさん、ちょっと怒ってない?
こっちはちゃんと、対等だって思ってますからね?
チラリと横に座る彼女を見ると、少し頰が引き攣っている気もする。
幻影を上からかけているから、彼らまでは伝わらないけど。
「それで、私達は合格でしょうか」
「……ああ、これ以上はいないだろ」
彼は両サイドにいる、マリナとジャンへ視線を向ける。
彼らも別に異論はない様で、頷き返すだけ。
「この戦いが終わるまでよろしく頼む」
そうして俺とハーティアは、机越しにリーダーのマルゲンとがっちり握手を交わすのだった。
「それで、どうやって反乱を起こすのでしょう?
正面から武力行使、という形でしょうか?」
「ああ……不利なのは分かってる」
これを聞かなければ始まらない。
ハーティアも、同じ事を考えていたのだろう。
そんな訳でバトンタッチし、今まで静かだった彼女から問いかけを投げた訳だけど、リーダーのマルゲンは苦々しい表情を浮かべる。
彼も元は軍所属、規模ぐらい調べなくても知っているだろう。
「正規軍800人から、貴方に付いていって抜けたのが200人。
幾ら領民達を足しても、勝利を収める事は難しいのでは?」
「本当によく知ってるな……」
呆れた様に言葉を溢す彼。
反乱を考えるのであれば、やはり敵戦力の数は大事だ。
なので正規軍の拠点へ忍び込み、保管されていた名簿にて数を調べてきたという感じだった。
ちなみに、その最中に彼らの名前を知ったというのはナイショだ。
「確かに正面から戦ったら勝てないだろうな
あっちには騎馬もあれば、多額の献金で教会も引き入れてるんだからよ」
戦場にて主役となる馬、流石にまともに装備もない反乱軍側が持っているわけもなく。
いても荷馬車を引く様な生活に根ざした馬であり、1匹やられてしまうだけで大損害である。
そうしたら仮に勝利したとしても苦しいままだろうし、持ち主は難色を示すだろう。
そして何より、教会だ。
回復魔法、俺と同じ光属性系統の魔法を操る集団。
この国内にて回復魔法のシェア、およそ99%を占めるという独占禁止法もびっくりの団体。
そこがどちらかに肩入れするだけで戦場は一変する。
5対1
これはお互いが同格の装備を持っている、という条件の上での結果。
回復魔法を受ける兵士は、同時に5人を相手取れるという事だ。
こんな事をされたら勝てる訳がない。
そして考える、
『回復魔法の使い手を先に潰せば良くね?弓とか魔法の遠距離攻撃で』
だけどもそれは行われない。
何故か?
誰も……教会を敵に回したくないからだ。
大陸にて10人に1人が信仰しているというこの宗教。
信者数は1000万を優に超えるだろう。
もし敵に回したならば、いつどこで誰が襲ってくるかも分からない。
なのでそんな恐ろしい行為を誰も行わなかったのだ。
だからこそ、教会はヤバすぎるのだ。
攻撃したらいけないヒーラーとか、最強すぎるだろ……弱体化してくれ!!
ただ運営がいるゲームとは違う無慈悲な現実のため、この声は残念ながら届かない。
それは置いておいて、こういう理由から彼は正面きっての戦いがキツいと考えているんだろう。
こちらも同意見だ。
というか、もし無策で突っ込んでいくなら、今から俺たちは王都に帰ります()。
「少なくとも俺達は、馬鹿正直に戦う必要はない。
…勝利条件がある」
「勝利条件とは?」
「領主のブナイフが、麦を売りつけたアルバス王国からバックを貰ってる証拠を確保すれば良い。
それを持って王都へ訴え出れば、あちらから沙汰が下されるだろう」
「あっちが揉み消す可能性は?」
「したら……良いさ。
この領内で大量の餓死者が出る、そうしたら国中にこの事件が広まるだろう」
もしそれが成功した場合、カルメン子爵は大量の賄賂を送るだろう。
だけども、結果的に揉み消すより沙汰を下した方が結果的に小さく収まる、という感じだろうか。
「うんうん……」
こちらが考えたモノと同じで良かった。
懐から丸まった紙を、彼へ向かって転がして渡す。
「それで、これが必要になる訳ですね」
「……お前は、本当に用意が良いな」
渡したのは、アルバス王国がカルメン子爵へ多額のバックを約束する書類、その写しだった




